【第33話】アサ村奪還
「鉱都市ファバルから南西に進んだ先にかつて滅んだ小国ルコアの古城が在る。斥候の調べで今回のターゲット首魁ジェネラルキングオークはそこを占領して寝倉にしているのが判明した」
広場の壇上で後ろに張られた巨大な地図の前に立ち、フルクインは棒を使って地図上の位置を示しながら話を進める。
「群れの規模としては一帯すべてのオーク種コロニーが集結し、ゴブリンやコボルトなどの下位モンスターどもも従え連れているらしい。山一つそのものが群体になっていると思ってくれ」
頑張るフルクインの背中を眺めながら補佐役スパクヌは思索に耽た。
(ギリギリよねぇ。わたし生きて帰れるかしら)
ネタバレになるがスパクヌとフルクインの【黄金の千年大樹】メンバーにはある隠し事がある。
この場で目の前の者らに伝えることはできない大きな秘密で。
それを思うと総勢137名の集められた冒険者も、貴族フルクインの機嫌を損ねないため肯定的に答えたが正直心許ない数字であった。
経験少ないボンボンのフルクインには壮観に見えているだろうがスパクヌの内心的にはこの倍の人数は欲しかった。
(裏から手を回して増員したかったけど時間的猶予はないし、どこも人手不足で最善は尽くしたけどこれが限界だったのよね~)
どうにかするには時間が足りなかった。
いつファバルにオーク共が襲撃してきてもおかしくない状況だ。
事前準備に時間をかけている間にスタンピードが発生しファバルに大量のオークが殺到すれば市民が大勢犠牲になる。そうなった後に人材と情報が集っても意味はない。
それを防ぐには最速で人を集め、最速で山を登り、最速でボスオークを討って先手を取る他なかった。
(わたしってホント不運よね。フルクインちゃんは可愛いけど実践不足の貴族様で足手まといだし。頑張ってるから応援しちゃうんだけどさ。まさかジェネラルオークがジェネラルキングオークになってるなんて土壇場で判明なんてね)
昨晩、調査隊の持ち帰ったデータからルコアの古城に住み着くジェネラルオークは上位種のジェネラルキングオークに成っているという結論が出ていた。
ジェネラルキングオーク。豚の軍王。
古城に住み着いたジェネラルオークが変質して成ることのあるボスモンスターだ。
斥候の調べてきたルコア周りのオークの数と状況判断で、スパクヌはそう判断していた。
頭の片隅にはあった、最悪のケースであった。
ジェネラルキングオークは集結させる数も個としての戦闘力もジェネラルオークとは格が違ってくる。
作る群れの強さも小学校と中学校ぐらい差がある。
誰も帰ってこない全滅したと思われていた調査隊が作戦実行の前日に一人だけズタボロの姿で帰ってきて、それが分かってしまうのなんてたまったものではなかった。運がいいのか悪いのか。
もちろんこんなこと出発直前に発表できる内容ではない。
集まってくれた目の前の冒険者たちは相手がジェネラルオークだからここにいる。
相手がジェネラルキングオークだと知っても残ってくれる者は多くいるだろうが、減るのは確かだ。
今は一人でも戦力が欲しい。だからスパクヌはこのことを秘密にすることにした。
もちろん犯罪行為だ。依頼主は協力者に可能な限り情報は明かす義務がある。
特に今回はクロスギルド、バレたら大事である。
冒険者資格の剥奪は間違いない。それも貴族のフルクインはお咎めなし、全てスパクヌの責任となって。
だが、バレなければ問題ない。
生き残って情報を持ち帰った斥候は大怪我がもとで朝を待たず死んだ。
事前情報と実際に差異があるのはよくあることだ。
自分たちも知らなかったことにしてしまえばいい。
フルクインも「何であれ今さらクロスギルド作戦を中止にはできない。やるしかないだろう。大事の前の小事だ」と賛同してくれた。
こんなことよくあることだ。
下の冒険者らは言われたことをやるだけが仕事だが、上は色んな思惑が複雑に絡み込んでいる。
頭では悪い事だと分かっていてもやるしかない。それが中間管理職の仕事。
あそこにいる駆け出し感丸出しの魔術帽子を被った少女、ああいう良い子そうな子から真っ先に死んじゃうんだろうが、それもまたしょうがないこと。やらなければファバルの数千人が死ぬ。
スパクヌはフルクインの両手の花となっている二人を見た。
【閃光姫】アイラ・キャロラインベルと【魔弾の射手】サルサー・イガルマ。
強く美しいSランク冒険者二名は金色に煌びやかな青年フルクインの呼びかけに応え壇上に上がっていた。
二人の紹介はすでに終えている。彼女たちの紹介でびっくりするぐらい士気は上がった。
この二人がいれば多くの犠牲が出てもジェネラルキングオークを討伐できる。
「ルコアの古城までは二班に分かれて向かってもらう。アイラチームとサルサーチームだ。現在オークに奪われた村は四つ。こことこことこことここだ」
フルクインは棒を使い地図で村の位置を四か所示した。
アス村。イオ村。ツイノ村。クス村。
村人が抵抗なくファバルに避難し、簡単にオークに乗っ取られた村々だ。
「アイラ班はファバルからアス村を、サルサー班はイオ村を通り古城手前のツイノ村で合流する。ここの離れた場所にあるクス村は無視だ。少しでも戦力を削るため道中と村ではオークは駆除してくれ」
二チームに分かれ二つのルートでの古城手前のツイノ村まで向かう。
百人以上で移動しても手は余るので、五十五十に分かれて一体でも多くモンスターを倒しておくのだ。
「【ジジジ…、俺がチームの片割れを率いるリーダーになるのか?すまんが俺は臆病で口下手。人をまとめることは苦手である。戦い以外を求めてはくれるな。率いる役は辞退させてもらう。ジジジ…】」
マスケット銃を抱くサルサーは火花発生装置の横車部分を親指でジリジリ回して音を発し言葉にした。
彼女が大事そうに抱えるマスケット銃『ブルベグウィン』は魔法武具、持ち主の代わりに言葉を発せることのできる歩兵銃である。
その声は華奢な少女に似つかわしくないおじさんのそれで、サルサー自身は申し訳なさそうな顔をしながらも言葉遣いは悪かった。俺という一人称も言葉遣いも勝手にそうなるようだ。
「私も…、彼女に同感…、ちょっと、無理…」
アイラもリーダー役になるのは消極的である。
だがこの反応は想定内。
「安心して、指示出し役は私とフルクインちゃんがやるわ。私がアイラちゃん、サルサーちゃんにフルクインちゃんが付いてね。二人には戦いに専念してもらう。悪いんだけど士気を上げるために前には立ってもらうわね」
「そう…、なら、いい…」
「【ジジジ…、了解だ。好きにやってくれ。ジジジ…】」
「あなた達が自由に動き回れるように頑張るわね」
リーダーあくまでフルクインだ。ファバルを救った英雄にフルクインの名を残す。
そのために選んで呼んだ名声欲のない二人だ。過程にその名と実力、大いに利用させてもらう。
「ツイノ村で合流した後はすぐ最短距離で城に攻め入り、首魁オークの首を獲る。その当たりの作戦はルコアの古城周辺の地理が不明なためその場で柔軟に決めていくが、何か質問のある者はいるか?」
一人の帽子を深く被った男が手を挙げた。Bランク冒険者のバロ。
フルクインが当てて質問を聞く。
「あんたの作戦はボスオークが動かない前提だけどよ。俺たちが山登りしている所にちょうどよくオークどもが山下り始めたらどうするんだ?戦力を分散させてちゃ迎撃はできないぞ」
「その場合はその時で我々も指示を出すが隠れてやり過ごすことになる。ファバルにはいま複数ギルドがもしもの場合用に防衛陣を作って備えてくれている」
しかしその防衛陣はファバル全周をカバーできるものではないし襲撃の勢い次第では簡単に突破できるようなものだ。
ジェネラルキングオークならなおさら。
「やり過ごした後はファバルを襲うオーク軍を後ろから刺し挟み撃ちすることになる。戦場がファバルの町になれば市民に犠牲者も出るだろう。だからこそ我々は早急に首魁オークを断たなければならない」
「了解だ。そのパターンはないように祈るしかねぇな」
そうなった時は運が悪かったと割り切るしかない。
人にはどうすることもできないことだ。
「それと登山の件だが、ファバラ市長の計らいで最初の村までは馬車で送ってもらえることになった。パーティーまとまって乗車してくれ。アイラ班かサルサー班かは乗った馬車で決まる」
広場の後ろの方で続々と人を乗せる用の荷台を持った馬車が入ってきていた。
「他に質問のある者はいるか」
フルクインの呼びかけに手は上がらない。
ここにいる者のほとんどはまだ簡単な仕事だとしか知らなかったからだ。
質問するほどでもない。さっさと赴いて終えてしまおう。
みんなそう思っていた。
相手はオーク、自分は大丈夫。そう思っていた。
◆
僕とメアはアイラの乗る馬車を選んだ。同じギルドから派遣された仲間、離れ離れは困る。
そこにはフロウ、シャーロット、ティア、フータローの四人も乗り込んできた。
せっかくの再会ついでに僕らに付いてくるようだ。頼もしいので嬉しい。
現在、荷台に冒険者を乗せた馬車は十三で連なり山道を駆けている。
ファバルからアス村まで続く道で、行きだけ僕らを送ってくれる。
僕らの乗る馬車を運転する御者は若い青年だった。
ジェネラルオークの発生で普段ならモンスターのことなど気にしなくて済むこの山道もいつモンスターが出てきてもおかしくない危険な場所となっている。
馬などは特に狙われやすいだろう。
山道を塞ぐように馬の前にオークが現れたら御者は一巻の終わりだ。
行きは冒険者を乗せているため安全でも帰りは危険。
それでもいつスタンピードが発生するか分からない状況に、少しでも僕らが首魁オークの元へ早く辿り着けれるようにするため手助けがしたいと立候補してくれたのが彼らだ。
顔こそ見えないが背中から必死さは伝わる。
きっとファバルの家族や大事な人を守るために彼はここにいるのだろう。
アス村まで僕らを送った後は家で待ってくれている人たちの元へ無事帰れるといいな。
「後ろの馬車を眺めていたが、アイラチームに来ている主な冒険者はスラッシャー・スパクヌ、遠窓のトロレス、土食らいレランだな」
大きな体で二人分の幅をとるフロウが言った。
ツイノ村までの一時的なチーム分けだが僕も気になっていたことだ。
と言っても今名前の出た人たちのことを僕は知らない。
こっち地方の実力者の知識はゼロだ。
とりあえずスパクヌ、トロレス、レランの名前は憶えておこう。
「よかったですね師匠、魔のクガさんはあっちチームに行ったみたいですよ」
ああうん…、それはよかった。ほんと。
「分からないわよ、あれはソロ冒険者。体も小さいからここから見えないだけで付いてきているかもしれない。もしかしたらこの馬車の底の裏にへばり付いててもおかしくはないわ」
「やめなさいティア。なに怖いこと言っているの」
シャーロットがティアを注意した。ティアは色々あって前のパーティーを抜けたと聞いたがこういう所に問題があるようだ。僕は本気で魔のクガのことを怖がっている。
ホントやめてくれ…。
「大丈夫…、スパクヌに伝えて…、クガは…、あっちに、やった…」
そうなのか。ならツイノ村に着くまでは安心か…。
クガが僕に何を思っているのかアイラに訊いても「知らない方が、いい…」の一点張りだった。
「恐れるなアルト。あれでもクガも冒険者登録しているれっきとした人間だ。おいそれと実際に手は出してこないだろう。同業者に手を出せばすぐ冒険者資格は剝奪され咎人として粛清クエストが立つ。そうなることぐらいあいつも分かっているはずだ」
隣に座るフロウが「俺たちが付いている」と体をグッと引き寄せ励ましてくれた。
モフモフだった。安心する。
「即死じゃなかったら何とかできるからねアルトくん、ウフフ」
「ふん、見た目的に闇属性でしょ?私が簡単に返り討ちにしてあげるわよ」
シャーロットもティアも頼もしいことを言ってくれる。
「私もついてますからね、師匠」
頼もしい仲間に囲まれて僕は幸せ者だ。
「着いた…、みたいだ、よ…」
そして僕らはアス村に辿り着いた。
馬車の旅はここまで、冒険者たちは降り立つ。
「さー、みんな急いで降りて降りて!そこの荷物も下ろしちゃってー!運転手の皆ありがとね!気を付けて帰ってちょうだい!」
アイラとは別の荷台で移動していたスパクヌは降りてすぐ物静かなアイラに代わり指示を出す。
物資と人を下ろした馬車の群れはすぐに転回してバラッサに帰っていく。
彼らが無事に帰れるよう僕は祈った。
「うわうわうわ~…。いっぱいいますよ、オーク」
アス村でまず目に入ったのは我が物顔で村の中をうろつく複数体のオーク。食べかけの半分しかない鶏を手にしていて歩いていた。
こちらに気づいて真っ赤に染まった口と牙で威嚇し始める。
パリィーン!家の二階の窓が割られ、そこからもオークが覗く。
「グォオオオオオオオオオッ!!!」
地を震わす鳴き声。ぞろぞろと家屋の陰からオークが現れた。
「さあ、最初の仕事!アス村奪還!やるわよ~!」
いつも読んでくださりありがとうございます。読んでくださるだけで作者はモチベーション上がっています。これからもよろしくお願いします(*^^*)




