【第31話】占い師の寝言(追記あります)
【30話】ケットシーの夜、原因は不明ですが前半大部分がなぜか消えていました。すみません。
ちょっとした部分を書き直そうとして知らない内にミスって消してしまっていたかもしれません。新しくその部分は書きます。
それと22話登場のブルーメードのライバルギルド【王の金剣〈バルトロス〉】の名前を【百獣王の牙〈リオンファング〉】に変更しました。理由はバルトロスという名前がバラバロスに似ていて、作中に金剣のファスフィリア家が登場しまぎらわしかったからです
最近登場したギルド【黄金の大樹】も【黄金の千年大樹】に名前変更しました
鉱都市ファバルに害獣大騒動の予兆が確認され、急遽総動員が組まれることになった。
人材の要請にマスター・ザザバラがギルドから選んだのは三名。
ギルドのエースである【閃光姫】アイラとおまけの僕とメア。
Sランク一名とFランク二名という何ともバランスの悪い選出だ。
「アイラや、もしもの場合はまずメアを守るんじゃぞ。第一優先はメア、その次に自分、そして他の者らじゃ。よいな」
「分かった…。最優先に守るのはメア…、うん」
「イリスから預かった子をどちらも死なせてしまっては合わせる顔もないからの。せめてメアだけは確実に守ってあげるんじゃぞ。アルトの方は、まあ自力で何とかするじゃろ。の?」
僕の扱いが軽い気もするが、全然それで構わない。
これでも対オーク、森でのクエスト経験は何度となくある。自分の身だけなら自分で守れる。
Sランク冒険者がメアを守ってくれるのなら安心だ。
僕とメアは選ばれたので前に出てザザバラとアイラの座るテーブルに着いている。
メンバーに選ばれたのは突然のことで驚いたが、喜んで任務を受けることにした。
ザザバラの全体への話は終わり酒場はいつも通りの騒がしさに戻っている。
「でも、いいの…?怖くない…?」
「少し怖い、ですね…、へへ」
先ほどオークを甘く見ていたメアを脅かしたのは失敗だったな。
少女は乗る気ではなかった。目に見えてビビっている。
経験が貧しい少女にスタンピードを阻止する任務は荷が重いが、報酬的においしいクロスギルドの仕事を断る手はなかった。
僕らFランク冒険者がクリアできるような難易度のクエストは当たり前だが報酬が少ない。
ビックトード討伐戦は高級宿に泊まれるという嬉しい還元があったが、ああいうのは特例だ。
基本的にFランククエストの報酬は悪い。
だからそんな薄給なクエストを受けるより、数多くのギルドから選出された冒険者が集まって玉石混交になるクロスギルドの任務に携わってBランククエスト相当の報酬を貰うのが超絶お得なのである。
「怯えるでない、お主が強くなるためには避けれぬ壁じゃ。乗り越えてきなさい」
「は、はい…!アイラさんと師匠もいますから大丈夫ですよね」
複合魔術師メア。
ここになって彼女には新たな問題が浮上していた。
僕と出会った当初、彼女のレベルは3だった。
あれからビックトード、スペシャルトード、小さなロックビースト等々を打倒してきた今、レベルは10にまで育っている。
レベル10。
平凡な駆け出し冒険者の平均的レベルだ。
上がってはいるが、スペシャルトードというボスクラスを実質一人で倒して膨大な経験値を手に入れたはずなのにレベル10はどう考えてもおかしかった。
通常、レベル20まではとんとん拍子に上がる。
あの怪物を倒してレベル10は低すぎだ。
以前からビックトードをいくら倒しても彼女のレベルに変動はなかったので変だなとは二人で話していたが確信に変わった。どうやら生まれた時から上級職だったメアはレベルアップに必要となる経験値量も上級職サイズで要求されているようだった。
もちろん数日参加したロックビースト討伐戦でレベルは変動していない。
まったく複合魔術師とは…、いやこの場合生まれた時からそうだったメアの都合か。
強力すぎる反面、欠点弱点が多い。どこまでも難儀な子である。
このことはザザバラにも伝えている。
だからそれも考慮して今回のクロスギルドにメアを選んだのだと言う。
「相手はオークの大勢、必ず群れと対峙する機会があるはず。そこにお主の複合魔法を撃ちこんで尽く殲滅するんじゃ。それでレベルも少しは上がるはずじゃろ」
僕もその意見に賛成だ。
もはやメアは低ランククエストでレベルを上げることはできない。
こういった難しいクエストに参加して人より多くの強敵を倒さなければ強くなれないのだ。
「分かりました…!強くなるため頑張ってきます!」
「その意気じゃ。恐ろしい森のクエストはキャンプと思えばよい。多くの冒険者が同行するんじゃ。心細さもないじゃろう、楽しんでおいで」
「はい!」
「よしよし、じゃあさっそく支度を済ませてすぐファバルに向かいなさい」
冒険者業はいつだって突然。イレギュラー。
楽しみにしていたハーレウフェスティバルはお預けになったのは残念だがこれも仕事だ。
◆
「メアちゃん、アルトさん、気を付けてくださいね」
「これ、どうぞ…」
バラッサ中心部飛行船乗り場の搭乗口前でお見送りに来てくれたルエとラキからおにぎりの入った包みを受け取った。
昼食にしてくださいとのことだった。
幼い彼女らもFランク冒険者の懐具合を知っている。今は潤っているがありがたい餞別だった。
「急だったから何も用意できなくて…」
「ごめんなさい。おにぎりだけで…」
文句のない贈り物だったが、申し訳なさそうに双子はしている。
「嬉しいですよ。美味しく食べさせて頂きます!」
「うん…。メアちゃん、絶対に帰って来てね…」
「大丈夫ですよ、アイラさんと師匠いますし。心配ご無用です」
「…でも、心配だよ…」
「…ううう」
今生の別れのようにメアら三人は別れを惜しんでいた。
いい友達ができてよかったな。
「アルト手を出してにゃ、はい」
感動の別れの背後で、ルエとラキの保護者として付いてきたニャルシーからひっそりと銀貨を一枚貰った。
銀貨は一万GP分の価値がある。(金貨は価値十万GP)
ニャルシーは顔を近づいてコソコソ話してきた。
「お小遣いにゃ。三人で何か食べてにゃ」
おにぎりを握ってくれた双子の手前、気を使ってこっそりと渡してきたようだ。
僕には一切気を遣わないくせに、こういう所には気の利く奴だ。
[いいのか…?]
これから僕らは飛行船に乗って湖の向こうの土地へ渡り、そこから寝台列車に乗って一日かけて鉱都市ファバルに向かうことになる。けっこうな距離だ。
移動費こそギルドが出してはくれるが食事代は出してもらえないのでこの銀貨はありがたい。
しかしいいのかこんなに貰って…。いやダメだろう。
ニャルシーは年下だ。ランクが上であろうが僕の方が年上。こんなことしてもらってはいけない。
銀貨は返そう。
「遠慮しないでほしいにゃ、にゃーとアルトの仲にゃ」
そうだな。相手はニャルシーだ。
考えてみれば彼女に遠慮することないな。
「にゃはは、これがアルトと会うのも最期かもしれにゃいしね。いい思い出に今なら優しくハグしてあげてもいいにゃーよ」
冗談を。本当に抱き着こうとしてきたニャルシーを片手で押し返して僕は設置時計を確認する。
そろそろ時間だ。
およそ一時間おきに飛ぶ飛行船の次の便はすぐだ。
メアの肩をとんとん叩いてそのことを知らせる。
「はい、行きますか。ルエちゃんラキちゃんニャルシーさんお見送りありがとうございました」
「頑張ってねメアちゃん」
「無理しないでね」
「にゃはは、必ず三人で元気に帰ってくるにゃ」
ニャルシーはグッと指を立てて鼓舞してくれた。
「ア、アルトさん…。これを…」
飛行船の乗り込もうとすると引き止められた。幼い猫耳少女がミサンガをくれた。
キレイな水色と白が丁寧に編み込まれた見事な一品。屋台で買った物だろうか。
こういうおまじないの類を身に着ける趣味はないが嬉しい。
筆記する時間がないので笑顔と手話で[ありがとう]を伝えた。
手話は通じていないが感謝の気持ちは伝わったようだ。
その子がルエとラキどちらなのか聞きたかったが時間はギリギリだった。
急いで飛行船に乗り込む。
「じゃ、アイラとメアチを守ってやれにゃよ」
「頑張って来てねー!」
「無事を祈ってるからねー!」
手を振る三人に明るく送られ僕らはバラッサを出る。
またここへは戻ってこよう。必ず、生きて。
◆
アルトたちを見送ったルエとラキ、ニャルシーの三人は屋台で色々買い歩きながらギルドへ帰る。
空を見上げるとアルトたちが乗る飛行船が高い所を飛んでいる。
「にゃはは~、ルエチも大胆にゃ。猫尾人のミサンガをアルトに送るだにゃんて」
歩きながらたこ焼きにつま楊枝を刺して愉快そうにニャルシーは言った。
「ぬぅ…」
幼い双子の片割れが顔を真っ赤にする。
アルトにミサンガを渡したのはルエだった。
「ほっといてあげてよニャルシー」
ラキがルエを庇った。
「同性に贈るのは友好の証、異性に贈るのはとってもロマンチックな意味を持つ猫尾人の贈り物。メアチとアルトとルエチの三角関係にゃ。にゃはははは~」
双子がニャルシーを睨んだ。
ルエは本気でメアとアルトを心配していた。
いくら強くて頼れるアイラが付いていようと危険な事なんてたくさんある。
オークやゴブリンは女性を誘拐する。可愛いメアはもちろん女性のような顔をするアルトだって酷い目に遭うかもしれない。もしもを想像すれば想像ほど不安になった。
だから勇気を出しミサンガを渡して無事に帰ってくることを願った。
猫尾人の自身の毛を編み込んだ物を異性に贈る意味とは[親愛と再会]である。
なのにニャルシーはそれをバカにしてきた。ルエの心はひどく傷ついていた。
「ごめんごめん調子に乗りすぎちゃったにゃ~!ホントにごめんにゃ~!」
本気で怒っているのを感じてニャルシーは二人を抱いて謝罪した。
それでも双子は胸の中でムスッとしたままだった。
でもニャルシーはアルト本人の前では黙っていた。あの場では何も言わず我慢した。
そこだけは評価してほしい。
「あっ、ほらほらほら!ザザ爺がいる!心配なら占ってもらお~にゃ!」
ニャルシーが指さした先にはしわくちゃの老人が占い屋をやっていた。
老人はザザバラの弟でザザシバといい、関係者からザザ爺と呼ばれ親しまれている占い師だ。
普段は全国の祭りを渡り歩いる根無し草だが今日はハーレウフェスティバルなのでバラッサにいた。
よぼよぼでミイラの様な占い師だ。
ニャルシーは双子の二人を抱きかかえたまま近づいた。
「ザザ爺!アルトとメアチ!ついでにルーちゃんが無事に帰れるか占ってほしいにゃ!!」
勢いのまま注文する。
アルトらの安否が心配ならいっそのこと占いで結果を知ってしまえばいい。
アイラがいる十中八九無事に帰ってこれる仕事、悪い予知なんて見える訳がないのだからルエを安心させるために占ってもらおうとしたのだ。
しかし。
「…グぅ」
老人占い師は寝息を立てていた。
道端で店を開けながらこっくりこっくり舟を漕ぐ老人。起きる様子はない。
「寝てるね…」ルエが残念そうに言った。
「お店やってても十回に一度しか起きてないって言うしね…」ラキ。
「にゃは~…。この爺さんホント…」
未来を見通す優れた力を有た老人は今を寝て過ごすことが多かった。
「もういいよニャルシー。ギルドの皆に内緒にしてくれれば」
「にゃ~…、ごめんねルエチ」
「そうだよ。ルエがアルトさん好きってことは他の誰にも話しちゃダメだからね」
「ハイにゃ。お約束しますにゃ」
「す、好きってほどでも…、ただ…、う~…」
「いいじゃんルエ、お姉ちゃんは応援してるよ」
「ラキ…」
「でもアルトにはメアチがいるにゃ。そこが問題、三角関係泥沼不可避にゃ」
「恋人になるとか…、そういうのなくていいの。憧れてるだけだよ…」
ニャルシーは(これは少女特有の身近なお兄さんに恋しちゃった感じか)と思った。
思えばメアは事ある毎に双子にアルトのことを自慢をしていた。それもあるのだろう。
これぐらいの歳の子にはよくあることだ。
「まあまあ、三人が無事に帰ってくること祈って今日のお昼はにゃ~が高いお店に連れて行ってあげるにゃ」
「ホント!?」
「やった!」
ニャルシーはザザバラから銀貨を一枚預かっていた。
アルトらに渡すように言われた旅の食事代。彼女はそれをさも自分からの物だと言うように渡した。
タダで一万GP分の恩を作った。実質一万GP得した。
得をしたら周りの仲間に奢る。それがニャルシーの生き方の本質だった。
そもそも「私から」って銀貨を渡すとき一言も言っていないしね。
勝手に勘違いしたアルトが悪い。
「ニャルシー!わたし星中華に行きたい!」
「えー!せっかくならトツゼントードステーキ屋さんに行ってみたいよ!新規オープンしたやつ!」
「悩めにゃ悩め、奢りにゃんだから、にゃはは~」
双子は怒っていたのも忘れてテンションを上げていた。
可愛い子らめと双子の頭を撫でる。
子供の機嫌を直したいなら飯で釣るのが一番だにゃ~!と思いながらニャルシーは双子を連れて行った。
その遠い背後で老人が呟く。
「死ぬ…」
ポツリと呟かれた聞く相手のいない不吉な言葉だった。
そのしゃがれた占い師の声を聴いていた者は誰もいない。
「別れ…、…」
ザザシバは深く眠っている。それはただの寝言だった。
老人自身起きた時そんなことを言った覚えなど一切記憶に残ってはいないだろう。
無意識に口から洩れ出た言葉だった。
老人はまたスヤスヤ安らかに寝息を立てる。
ほとんど眠っているせいで決して評価されることのなかった───
これからも眠ったまま掘り起こされないであろう今世紀最高の占い師の予言は、ハーレウフェスティバルの喧騒に掻き消され誰の耳にも届くことはなかった。
死と別れ。それが何を意味するかは今現在誰も知る由のないことだ。




