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【第3話】偉い人らの娘たち

「助かりました!お腹が空いて空いて!」


行き倒れてた女の子と僕は町から離れた人気のない巨橋の縁に並んで座っていた。

空腹で倒れていた少女は僕の差し出した非常時用の携帯食とおにぎりをバクバク食べている。

端正な顔に似合わず豪快に食べる食べる。まあ食欲があるのは元気の証か。


[ケガや病で倒れていたわけじゃなくてよかった]


話せない僕は紙にメッセージを書いて見せた。

食べながらそれを見て「ん?」という顔をする女の子。

急いで口の中のものを飲み込んで話す。


「ん~?もしかしてお姉さん喋れないとか?」


察しのいい子でよかった。頷いて肯定する。

しかし僕の性別の方は勘違いしているみたいだ。

ひと段落着いたら伸ばした髪でも切って男らしい頭にするかな。


[僕は男だよ]


「え?そうだったんですか!すみません!」


とりあえず訂正はしておく。

エルドナのように男だったと思ってたーなんて非難されるのはもうこりごりだ。


[名前はアルト]


「ア、アルトさんですね!この度は助かりました!本当にありがとうございました!」


改めて深く頭を下げて感謝される、助ける選択をしてよかったと思った。


彼女はマントで身を包んでいるが、その下に騎士の装備のような防具を付けているのが見えた。


今気付いたがマントの隙間から覗く服には至る所に貴族特有の黄金の刺繡がなされている。

よく見ればマント自体も生地からして高級そうだ。おしゃれだし。


僕がそれらに気づいて眺めているのに彼女も気付いたようで───


「私の名前はエリーゼ・シクラフォン。ソル聖騎士団団長の娘です」


と、おにぎり片手に彼女は名乗った。

エリーゼ・シクラフォン、ソル聖騎士団の団長の娘だと。


ソル聖騎士団といえば上級貴族の男子のみで構成された国王直属の兵団だ。

上級貴族の者だけが入団できるというだけに地位は国軍部内でも最高の場所にあるという。

その騎士団の団長となれば影響力があってとっても偉い人だ。


ウソをついてるようには見えないが、正直信じがたい話だった。


先手を取るようにエリーゼさんは懐からバッチを取り出して見せてきた。

細かな装飾のなされた中央に宝石の乗る黄金のバッチであった。


「これはシクラフォン家の証です」


ぶっちゃけそんな物を見せられても本物かどうかなんて僕には判断なんて付かないのだけれども。まあ本物だろう。


彼女は腰に剣も携えていた。ロングソードだ。

その柄と鞘にもこれまた過剰なほどの豪華な装飾がなされていたので、実は出会った始めからどこぞの貴族の子であろうなとは思っていた。

それがソル聖騎士団の団長の娘であるとまでは全く思ってもいなかったことだけど。


しかしなんでそんなお嬢様がこんな国の端っこの片田舎なんかに?

しかもひとり空腹で生き倒れているなんて。


「実は私、追われているんです」


  ※


「私はシアン女学院に通っています」


シアン女学院とは貴族のお嬢様しか入れないというこの国トップクラスの名門校だ。

王子たちも通うというお嬢様学校だというが、エリーゼさんはそこの生徒だったのか。


そう言われると何だか気品をまとっているように見えてきた。

先ほどまでのガツガツ食べていた姿もなんか気品に満ちていたなと思えてくる。


「本当はすぐ父の騎士団に入り父と共に騎士となりたかったのですが、父に学校で学ぶことは多いと入学されられたのです。そこであいつとは出会いました」


エリーゼさんは遠い目をする。

あいつ、それが今彼女を追ってきているという奴のことなのだろうか。


「そいつは事あるごとに私に突っかかってきました。時間も場所もお構いなしに」


[何があったんです?]


「教室では水筒のお茶を被せられ、教室の外ではひじで地味な攻撃をしてきてきました。修学旅行でも王族特権で勝手に自分の班に私を入れたりと他にも色々。足を舐めろと言ってきたり舐めさせろとも。私が嫌がると思ったことは何でもやってくるんです」


なんて奴だ。いじめじゃないか。

けれどもソル聖騎士団の団長の娘をそんな露骨にいじめることができることができる奴ってどんな───


って、今しれっと王族特権と言った…?

まさかそのあいつっていうのは…。


「第11王子リクリーシュ・オーべヴァンス。それが私の最大の敵の名です」


うわ、王子の名前が出てしまった。

───ソル聖騎士団の団長の娘をいじめていたのはこの国の王子だった。


まあ…、そうだろうな。

そんなことをして許されるのなんて王子ぐらいのものだろう。

薄々そうではないかとは予想はついてたけども。


「でもですねアルトさん。やられた分は私もやり返してはいましたよ!さすがに相手は王子ですから痣の残る殴ったりはできませんでしたが関節技でですね!」


首を絞めるようなジェスチャーをするエリーゼさん。

聖騎士の娘だけにたくましい。しかし王子にそんなことをしていただなんて。

まさか王子にケガさせて逃げてきたんじゃないのか?この人。


不穏な空気になってきた。

いやいや、そう決まったわけではないが…。


「アルトさん?別に王子にケガさせたから逃げてきたわけじゃないですからね!?」


僕の表情からいろいろ察したようで汗を流してエリーゼはそう弁明した。


「後一年で私は学校を卒業し父のいる聖騎士団に入る予定でした。しかしリクリーシュが裏で手をまわし騎士団から私を自分の侍女に配属するように父に命令してきたんです。すべては私への嫌がらせで」


僕もバラバロスにむりやりギルドを追い出されたが、似たようなことがあったのか。

ついつい同情してしまう。


「父は…、実は私が騎士になるのは反対だったようで。受け入れろって…」


それがイヤだったから学校から逃げてきたのか。


「まあ…、その時みんなの前でリクリーシュに馬乗りになって…」


僕はそれを聞いて逃げようとした。

やばいやばい。爆弾だこの子。

一緒にいて一緒に捕まって一緒に反逆罪に問われてしまうのだけは勘弁だ。


「待って!待って!アルトさん多分大丈夫だから!みんなの前で私があの子に反撃するのはいつものことだから!王様にもリクリーシュとはそういう関係でいてくれと言われてるからぁ!」


僕の服を掴んで逃がさないエリーゼ。細い腕なのになんて力だ。引き離せない。

さすがは聖騎士団に入るつもりだっただけのことはある。


その時だった。

人気のない橋の向こうから豪華絢爛な白銀の装飾のなされた馬車が向かってきた。

ガラガラな橋の上にガラガラと車輪を回して。


「リクリーシュ…!」


エリーゼの呟きに僕はビビる。

このタイミングできてしまうのか!?


エリーゼの手が僕の服を放したが、ピタリと僕の前に馬車が止まったせいで逃げられない。


馬車のドアが開かれ、メイド服を着た美女が順に降りてきた。

一人は髪がキチっと整えられた長身のメガネの美女。美人だが性格はきつそうだ。

一人は眼帯をしていた。白い剣と黒い剣の二振りの剣を携えている。

一人と一人は双子なのか同じ顔をしていた。服装も同様で見分けがつかない。

最後の一人は色んな意味でデカかった。デカいけど可愛い。


ズラリと馬車の前に並ぶ五人のメイド。


「全員平伏せい!!」


メガネのメイドが大きな声を出し、他の四人のメイドが言葉通りその場にふれ伏した。

つい僕も身を伏せてしまいそうになるが迫力に気圧されてしまい身体が動かなかった。


「この世で最も可憐で美しく!慈悲に満ちたプラチナの女神の化身こと第11王子リクリーシュ・オーべヴァンス様のお出ましであ~る!」


「ほ~ほほほほ!やっと見つけたわよエリー!私の奴隷!」


大迫力の紹介と共に最後に現れたのは癖っ毛の白銀の髪をした少し背の低い美少女だった。


竜と剣の黄金の刺繍のなされたマントを雑に捨てながら馬車から降りてくるお姫様。

白を基調とした純白のドレスのような洋服はシンプルながらも高貴な雰囲気に包まれている。


王族の顔なんて見たこともなかった僕だったが一目で間違いなく彼女が王子であることが本能でわかった。

醸し出す空気がもう違うのだ。


「何お前」


ふれ伏すこともできずに立ったままだった僕はまるでエリーゼとリクリーシュ様の間に割って入っているような感じでいた。

すぐに動いて邪魔にならぬよう端に寄りたいところだが、後ろのメイドさんたちの目が動くなと訴えてきている。少しでも下手に動けば殺すと目が言っていた。


「下民ね。んーでも、どうやらエリーがお世話になったようね。主人としてお礼を言うわ」


ジィーと僕を見るリクリーシュ様。まるで品定めしているような眼差しだ。

こうして間近で見ると本当に人形のように美しい。

目はぱっちりしていて、まつ毛は長い。


「いいわ!合格点!あなた私の靴下管理係にしてあげるわ!嬉しいでしょ!」


合格?

何にどう合格したかは不明だがとりあえずいい意味らしい。助かった?


「リクリーシュ様!そいつ男ですよ!女の顔をした男です!」


双子であろうメイドの片割れがそう言った。片目の前に魔法陣が出現している。

何かの魔法を使って僕の性別を看破したようだ。別に騙そうとしたわけではないが…。


「男…?」信じられないという顔をするリクリーシュ様。

そしてゴミを見るかのような目になる。


「撤回するわ。やっぱりあなた0点、死刑ね」


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