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【第28話】マズいポーション


戦斧の化け猫(バトルケットシー)】と【銀鷹の俯瞰図(フェルピーメッツ)】が合同で挑むロックビースト討伐戦。

一週間ほどの間、常に山稜龍の背中から降り注ぐロックビーストを倒しつつ都市バラッサの町を守るこのクエストは一日の十六時間を銀鷹が、残りの八時間を化け猫が担当して前線に立つ。


そう、八時間。一日八時間、決して楽とは言えない戦闘を行う。


冒険者だって人より優れた戦闘能力を有していようと基本は人間だ。

八時間バトルは無謀な話、スタミナがもたない。


そこで役に立つのがこのオレンジ色と青色のプルプルした飲み物、ポーション。

オレンジ色のが体力を回復させて青色のがマジックポイントを回復させてくれるアイテムだ。

戦場には約百名の冒険者、十名ずつ十分間与えられる休憩タイムでこれを摂取しながら戦うのだ。


「うぉえ…!うっ!うっ…!」


「ダメにゃ!メアチ吐いたら!」


ニャルシーがポーション初体験のメアを後ろから羽交い絞めて口を押さえた。

吐き出そうとするのを無理やり上を向かせて阻止する。


「うぇ…!うぇ!うっ!うっ!うっ!…うっ!」


「頑張れにゃ!気合で我慢にゃ!」


メアのリアクション通りこのポーションという物は凄くマズい飲み物だ。

高濃度の魔素とスライムエキスが混ぜられ作られており、味は最悪、舌触りも最悪、濃度の高い魔素は人の身体が無意識に摂取を拒んでしまうのもあって飲むのが一苦労な物なのである。

未だに僕も慣れないほどだ。


休憩に訪れた仮拠点は戦場から後方位置に設けられた高い屋根しかないテントだった。

そこには医療班が数人待機していて先ほど暴れる人型ロックビーストに踏み潰され運ばれていた戦闘員の応急処置が行われていた。

患者の彼はバトルケットシーのメンバーではなく外部ギルドの人で、骨がバキバキで意識もないが命には別状ないらしい。回復魔法を受け大人しく寝てれば二週間後には治っているから心配しなくていいと言われた。


ちなみテントにはサシャイもいた。

彼女はフェルピーメッツの助っ人に付いて、その後のバトルケットシー戦にも後方支援だが続投で参加しているらしく、昨日の晩ニャルシーが言っていたように自身にヒールかけながら働いているようだった。


「よしよし、メアチ頑張ったにゃ…、うん」


「み、水ください…。水…」


「はいにゃ」


ニャルシーのおかげでメアはマズいオレンジ色のポーションを吐かずに飲み干すことができていた。

羽交い絞めから解放されて渡された水をごくごく飲んでいる。ポーションは後味も最悪だ。子供舌の少女ならなおさらそう感じていることだろう。


「ひどい目にあいました…、ううう」


水を飲み切ったメアは一安心している様子だがもう一本残っている。

青色のポーション、マジックポイント回復のやつだ。そちらも飲んでもらう。


「えっ!あ?の、飲めって言うんですか…!?」


ふるふる、メアは首を振った。


複合魔術師メアの魔法の威力は凄まじい。詠唱を二つ必要とする複合魔法は二種の魔法を足し算ではなく掛け算で威力を増し放たれる。彼女の魔法は時には大地に大穴を開け、時にはド級サイズのモンスターを吹き飛ばしてきた。

そんな彼女であるからマスター・ザザバラからは今回魔法を使うことを禁止されている。

台地のふちの地形を壊されてしまうのは困るし、魔法があらぬ方向へと飛んでしまったら味方を殺してしまう可能性もあったからだ。そして何より万が一にでも超威力の複合魔法が山稜龍にヒットするなんてことが起きないようにだった。


だから今メアはマジックポイントを一切減らしていない状態で、青色ポーションまで飲む必要はないのだが。


[訓練だからね]


「そーにゃ。特に魔法使いはポーション飲む技術必須にゃ」


「えええ!何ですかそれ!無理です無理です!」


マズかろうがポーションの効果は絶大だ。

値段の都合上Fランクでは利用できる機会は少ないが、いつか必ずどこかで必要となり飲むことになる物なので一人で飲めるようになっておいた方がいい。

ポーションをスッと飲めるかどうかでクエスト生還率も大きく変わってくる。


「味わっちゃいけないにゃ。こう上を向いて喉を開けて一気に胃に流し込むんだにゃ」


ニャルシーが木箱の中からポーションを取り出して手本にまた飲んで見せてくれた。

ここにあるのはすべてはバラッサ市から提供された物だ。なので一本七千GPするポーションもいくら消費してもタダである。練習するにはもってこいの機会だ。


スムーズにむせることなく飲み終えようとしたニャルシーは最後の最後に「うえっ!」と女の子がしちゃいけないしかめた顔をしてしまった。ポーションは飲み慣れた者でも苦戦する。


「げほっ!げほっ!にゃ!気管入ったにゃ…!げほっ…!」


「師匠ぅ~…、何でもしますからもう許してください」


可愛そうだがこれも愛の鞭だ。

窮地でポーションを飲めず果ててしまう駆け出し冒険者の話はよく聞く。メアにはそうなってほしくない。

しかしもうそろそろ休憩時間の十分を超過する。


「にゃーたちが飲まなかった分サシャイに預かってもらっとくにゃ、青いの三本。おうち持ち帰って飲む練習するにゃ」


「また勝手なことを言う…、まあ別にいいけどさ。終わった後に取りに来てくれれば。ついでに練習するなら追加で五本ぐらいあげるよ。どうせポーションは余っても日持ちしないし」


「にゃはは~、助かるにゃ」


メアの夜のポーション特訓が決定した。


「や~で~す~!!もう飲みたくない~」


[やだやだ言ってもダメだよ。複合魔法の消費マジックポイントが大きい欠点を補うには青色ポーションが必要になってくるんだから、メアも平気で飲めるようにならなきゃ]


「それは、うう~…、はい…」


休憩タイムだってまだあと三回も残っている。その度にオレンジ色の方は必ず摂取しないとならない。

どれだけ嫌がろうとまだまだ飲むことになるのだから諦めて覚悟を決めた方がいい。

無心だ。何も考えず無の心でポーションを受け入れるんだ。


「じゃあそろそろ現場に戻って三人とも。次に休憩入る奴らが来るよ」


「にゃーたちはツルハシ組なんだにゃ。あと三十分ぐらい居させてにゃ~」


「ダメ。稼いでこい」


そっけなくサシャイに追い出されて僕らは戦場へと戻る。

休憩所と戦場は徒歩五分の距離だ。


「サシャイはケチな奴にゃ」


「人の陰口言っちゃだめですよ。切り替えてたくさん働いて稼ぎましょう!」


「ニャハハ~、さっきまでグロッキーだったのが元気にゃ」


「何だか体に力が溢れてきてるんです。今なら私も二十四時間働けそうです!」


少女は腕を曲げるポーズをとって漲るパワーを誇示した。

それがオレンジ色ポーションの効果だ。


「じゃあメアチにもっと頑張ってもらうことにするにゃ」


「またまた~、ニャルシーさんにもちゃ~んと頑張ってもらいますよ。ね、師匠」


[ああ。みんなで頑張ろう]


行く先には多くの危険なロックビーストが暴れている。

岩石でできた剛腕が暴威を振るい、頑強な身体が剣と魔法を弾く。

倒しても倒しても山から転げ落ちてきて出現するそんな強力なモンスターを町へ行かせないため戦う冒険者たちに無傷な者は誰一人いない。


ツルハシを振るう。

バラッサの空には銀色に輝く鷹が一羽飛んでいる。


   ◆ 


僕らにとって初日となる今日のロックビースト討伐戦が無事終わりを迎えたのは日暮れ頃だった。


「バトルケットシー!今日の仕事は終わりよー!気を付けて帰ってねー」


ポニーテールのお姉さんが拡声器片手に終了を告げている。

今日は全力で働いた。いったいどれだけの小型ロックビーストを割ってどれだけ魔石を回収しただろうか。無我夢中だったので覚えてもいない。それだけ頑張った。手もマメだらけだ。


遠く向こうの方では戦闘音が聞こえる。既に山稜龍が移動した先でフェルピーメッツが入ってロックビーストと戦っているからだ。外部からも大勢の応援を呼び、大人数で交代しながら彼らはこれから十六時間戦い続けてくれる。


「お疲れにゃ~…」


「はい、お疲れ様でした…」


ニャルシーもメアもへとへとになって夕日を眺めている。

僕らは台地のふちにいる。小型のロックビーストの生き残りを追っていたらここまで前に出ていた。

ふちの足場は土で崩れる恐れもあったが、訊くと土魔導士が補強しており岩より頑丈らしい。


山稜龍が移動して行ってしまい、危険なロックビーストも駆逐された今、安全で遮蔽物のなくなったここから見える景色は格別な物だった。

前方には夕暮れを反射する湖が広がっている。キラキラした水面は宝石のようで絶景だ。

労働後のこれは心に沁みる。


「感激しますね…」


[ああ。キレイだ]


「…、えへへ」


「え?え?アルトいま何言ったんだにゃ!ズルいにゃ!手話ズルいにゃ!」


ニャルシーが突っかかってきた。疲れているはずのに妙に元気なやつだ。

ただの景色に対しての感想にメアが恥ずかしがっただけだよ。


「へへ、知りたかったらニャルシーさんも手話覚えてください」


「隣でイチャイチャやめろにゃ~。って、あ、珍しい。二人ともあそこ見るにゃ。神獣がいるにゃ」


ニャルシーの視線の先を見ると湖の水面上に立派な角を持つ鹿がいた。

いくつもの波紋を作り出しながらその鹿は水の上を闊歩している。

その佇まいは獣とはまったく違う雰囲気を醸し出している。


神獣だ。


「え、神獣…、あの鹿さんほんとに神獣さんなんですか…?」


「まじにゃマジマジ。初めて見るにゃ?指差したりとか無礼なことしちゃダメにゃよ」


「もちろんです。神獣にまつわる怖い昔話は母からよく聞かされてきましたから」


神獣は千年大樹や大きな湖、信仰を集める巨岩などに宿り姿を見せる大自然の化身だ。

化身というだけに刺激して怒らせると敵意ある超自然的パワーが身に降りかかると謂われており、それによって滅んだ村や小国の話は伝承や伝説として多く残され語られている。


まあ無礼さえ働かなければ何もしてこないのでそこまで恐れる必要はない。

今も湖の神獣は覗く僕らに無関心でいる。眺める分には問題ない。


「ずっと気になってたんですが、朝から空を飛んでいるあの銀色の鷹も神獣さんなんですか?」


メアは空を見上げた。大空には大きな鷹が円を描いて旋回している。

見た感じはアレも神獣のようだが、アレは違う。


「アレはフェルピーメッツのギルド神器にゃ」


「イリスさんの見せてくれた【翠緑の若葉】とは全然違いますね。生きてるギルド神機ってのもありなんですか?」


「生きてないにゃ、あれ機械にゃ。カメラ付いてる偵察機で、ずっと空から包囲網をロックビーストが抜け出てないか見張ってくれているんだにゃ」


「へー。じゃあ温泉とか、覗けますね」


「そんなことに神器利用したら国から制裁されるにゃ…」


ギルド神器はギルドマスターが持つことのできるオンリーワンで特別で強力な武器のことだ。

ギルドは気軽に自由に設立することはできない。Aランク以上の優秀な冒険者が首都キサにある聖央教会本部に赴き、女神の像を前に実力と素質を認められギルド神器を授けられて貰うことが許可の条件となる。

認められるのは狭き門で、若くして自分のギルドを作ったイリスは実は物凄い人なのだ。


「ちなみにウチのギルド神器は何か分かるかにゃ?意外な物で知ったら二人ともビックリする物にゃ」


「っん、問題ですね。う~ん、ビックリする物ですか」


「ヒントはメアチもアルトも今日一日中見てたはずの物にゃ」


「え~…、あ、あっ、もしかしてニャルシーさんが…?」


「なんでそうにゃるにゃ~」ニャルシーが笑った。


[マスター・ザザバラの持っていた杖とか?]


せっかくなので僕も予想を立ててみた。

小柄のマスター・ザザバラは身の丈に合わない大きな杖を持っていた。

ザザバラの体躯だと杖のベストサイズはあの半分の長さのはず。なのにアレを持っているということはそういうことだろう。自信がある答えだ。


「ん~、意外な物ですかね?あの杖がギルド神器だとしてもそんなにびっくりしないと思います。それに私たち今日そんなにマスター・ザザバラを見てませんよ?師匠」


メアにめちゃくちゃダメだしされた。


「アルトは何と答えたんだにゃ~?」


手話を分からないニャルシーが訊く。


「師匠は答えはマスター・ザザバラの杖だと」


「ニャハハ~!ゼロ点のつまんにゃい答えにゃ。そんなのが答えならわざわざ問題にしないにゃ~」


つんつん肘で小突いてバカにした顔を見せてきた。うっとおしいので肩を押して追いやる。


「答えは何なんです?ニャルシーさん」


「ニャフフ、ハーレウマウルエスにゃ」


山稜龍ハーレウマウルエス。

確かに今日一日僕らの視覚に常に入っていたし意外でびっくりする答えだが、冗談だろ。

さすがにそんな訳ない。あれがギルド神器の訳がない。


「さすがに…、信じられないんですが」


「昔々にゃ。初代バトルケットシーマスターは神器の斧で冬を越すための木こりに山に登ったというにゃ。でも仕事の途中に手が滑って斧は湖に。すると斧は山に命を与え、そこから生まれたのが歩く山脈ハーレウマウルエスなんだそうにゃ」


ギルドに伝わる伝説だろう。にわかには信じがたい話だ。


「アルト、お前その顔は信じてないにゃ~?実際バトルケットシーには神器がないにゃ。だからきっとホントのことなんだにゃ」


「私は信じますよ。ロマンを感じます」


「にゃ~!メアチはいい子にゃ~」


ニャルシーはニコニコでメアの頭を撫でた。

しかし山稜龍がたった一体でこんな場所を同じルートで回り続けるというのも変な話だ。

不可思議すぎる生態。こんな巨大な湖を作ってしまうほどこの土地を気に入っているのだろうか。

そもそもあの龍はどこからやって来たのだろう。


もしかしたら、本当に()()()こともあるのかもしれないな。


「それじゃあそろそろ帰るにゃ!今日はいっぱい稼いだにゃ!盛大に飲んで食べるにゃ!」


「いいですね!楽しみですね師匠!」


ニャルシーの提案にメアは歓んだ。そうだな僕も空腹だ。ポーションは腹の足しにもならない。

この後の食事は美味しさ数倍増しで楽しめれるだろう。

だがメア、大事なことを忘れているぞ。


「おいおい、メアチは帰ったらご飯より先に青色ポーションを飲む練習にゃ」


「ええー!!うわっ!うわ!頑張った今日ぐらい見逃してください!」


大事なことだ。諦めてくれ。


ん?ふと見ると湖の神獣がこちらに顔を向けていた。


初めて見た神獣の正面顔は人に近い造形をしていた。背筋が凍るとはこのことだ。

青い目がすべてを見通しているかのようにジッとこちらを見ている。

何か気に障ることをやってしまったか?


言い争っているメアとニャルシーは事態に気づいていない。

神獣の表情は無だ。そこから僕らに対しどんな感情を抱いているかは判断できない。

とりあえずと僕が次の行動に出ようとする前に、神獣は青い目を細めニッと笑うと水に溶けるように湖に還ってしまった。


「あれ?神獣さんいなくなってますね」


「ご利益があるにゃ。ザザ婆に自慢してやるにゃ。ニャハハ~」


何だったんだろうか。

湖は波紋一つなくどこまでも平らに静かに夕日を照らし返している。


神獣の考えていることは分からない。

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