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【第26話】ニャルシーとサシャイ


ざっぱー!

風呂の湯が人三人分浴槽から溢れこぼれていった。

自宅の風呂だともったいなく感じる光景もこういった場所では醍醐味に思えてしまう。


僕はいま茶髪の少女と褐色肌の猫耳女子と同じ風呂に入っている。

大小数ある浴槽のちょっと熱めの湯エリアに、頭にタオルを載せて。

線で結べばきれいな正三角形のできそうな位置取りで座って湯に浸かっている。


思いがけず裸の状態で再開した僕らは何だかんだこうなった。

顔を真っ赤にしたメアが一度逃げてしまってニャルシーと二人っきりになってしまったり、その後すぐ戻ってきたメアが目の前で滑って転んでしまったりとも色々あったが、何だかんだ身体を洗って湯に浸かり今に至る。


茶髪の少女は体育座りを頬まで湯に浸かり、猫尾人は浴槽の出入りのための一段ある段差に腰をかけて半身浴、僕は肩まで浸かって湯を堪能している。

長旅で疲れた体がほぐされ、身体の芯から温められて気持ちがよい。

湯治の効能もあるようで肩こり腰痛冷え性腹痛失恋にも効くと小さな看板にあった。


「実はここ混浴なのにゃ」


前を隠さずリラックスした姿を見せながらニャルシーが言った。

グラビアアイドル顔負けの褐色ナイスバディは白い湯気に呷られ色っぽく艶めいている。

両手を上に伸びをした。水面からは絶え間なく湯気が立っているため大事な所は隠されているがそれも万能ではない。普通にいろいろ見えている。


「混浴…、先にそれ言ってくださいよ…」湯から口を出しメアが苦言を申した。


「アルトを性自認が男の女の人だと思ってたんだにゃ」


「そうだったらそうだったらで、配慮が足りてませんよ…」


「めちゃくちゃ配慮してるにゃー。ハートが女の子なら一緒にお風呂仲良くなれるし、男の子ハートならこの状況はハッピーにゃ。今もずっとお乳を見てきてるのがその証拠。アルトバレバレにゃ」


指摘され、()()は両手で包まれ隠されてしまった。


「師匠…」メアに睨まれた。


「まーまー、アルトにエッチな目で見られてもにゃーは気にしてないにゃ。同じ湯に浸かり親交を深めるにゃ。それにしても…」


すぅーと水面を渡ってニャルシーが接近してきた。


「身体すっごい鍛えられててびっくりにゃ。着痩せするタイプなんだね、にゃ」


ごく自然に平然と二の腕に触れてきた。

相手は裸の女性、これにはドキドキしてしまう。


[戦士として技スキルがないから、剣を自力で振ってきたおかげだよ]


「にゃー?」


手話で話してみたが何だそれはという顔をされた。

鼻まで湯に浸かるメアは助けてはくれない。


「この筋肉と合わせてなら美形男子って感じだにゃ。普段からあんな厚着せず上半身裸でいれば女に間違われることもなくなるんじゃないかにゃ?」


「師匠は今の服装が一番似合っていますよ…」


「にゃっふ~ん。メアチ的には困るにゃんもんね。アルトがモテモテにゃったら」


「別に…」


「じゃあお風呂から上がったら一緒にお洋服買いに行こうにゃ。ん?ギルドのお留守番?いーにゃいーにゃ、どうせ誰も来ないにゃ」


軽く言っているがそれはいけないだろう。もしもの場合がある。

もしもがあるからお留守番という役割があるのだ。任されたのなら無責任に放棄してはいけない。

僕は今夜ここのギルドに泊まる気でいる。少なくともクエストでお金を作るまではお世話になるつもりでいるのでギルドの主マスター・ザザバラを無闇に怒らせるようなことはしたくなかった。

そもそも服を買いに行っても買うお金がないしね。


「んにゃ~、その顔は断るという顔にゃー」


察しがいい子は好きだ。

デートはクエストで稼げた後にまた誘ってほしい。


「ん?にゃにゃ…?メアチ大丈夫かにゃ!?茹だってにゃいか!?」


ニャルシーが驚いた。

気遣ってメアの方は顔を向けないようにしていたが、見ると彼女は頭をフラフラさせて意識を朦朧とさせていた。完全にのぼせている。


「……大丈夫ですよ」


メアが立ち上がった。

全身真っ赤だ。茹だっていた…。

もう限界の先に来ているようで少女は自分が裸なのも気にしていない。


だから言ったんだ。

メアは隣のさほど熱くない湯に入った方がいいと。手話で。


一歩、ふらふら湯船から出ようとしたメアはグラリとバランスを崩し倒れかける。

その体を立ち上がった僕が受け止め支えた。少女に意識はない。

足のひざの後ろに手をやって持ち上げる。華奢で軽い身体は簡単に持ち上がった。


「変な気を起こしちゃだめにゃよ、ニャハハハハハ」


当たり前だ。

少女の身体の上にタオルをかけて浴場の外へと連れて行く。


「メアチの危機にゃ。今回は特別、女子脱衣所に入ることを許してあげるにゃ」


   ◆


「ん~。あれ…」


ニ時間ほど経ってメアが目を覚ました。

ここはギルド【戦斧の化け猫】二階の団員の仮眠室。

畳の上に布団を敷いてメアを寝かせていた。


目覚めた少女は頭の上の冷やしたタオルを取って起き上がる。


「大丈夫かにゃ?」


まず猫耳女子が心配そうに声をかけた。

風呂上がり薄着のキャミソール姿でニャルシーはいた。


「ニャルシーさん…、わたし記憶が飛んでて…」


「お風呂でのぼせて倒れたんだにゃ、頭は痛くにゃいかにゃ?まだ寝てた方がいいにゃよ」


「少し痛みますがもう平気です。すみません迷惑かけて」


「気にしないでにゃ。メアチ何も覚えてないにゃ?」


「はい。お風呂に入ったまでは覚えてるんですが、途中から…、ん~…」


「(よかったにゃ~ね。メアチ裸見られたこと忘れるみたいで)」


顔を急接近させてニャルシーが言ってきた。

ニヤニヤ不敵に笑って楽しんでいるので肩を押してあっちにやった。


「何コソコソ話してるんですか」


「にゃんでもにゃいにゃ~」


怪訝そうな顔をしてメアはまた布団に横になった。


「師匠、それ何してるんです?と、あ、初めまして」


ここでメアは新たに増えた人物の存在に気付いた。

僕の向かい側に座る片目を黒髪で隠したニャルシーと同じぐらいの年の女の子。

目の下にくまがあるのが印象的で、なぜか装備の上に手術着を着ている。


「トランプというゲームだよ。私はサシャイ。Bランク。よろしく、ね」


サシャイの手から三枚のカードが放たれた。

スペードの1とハートの1とダイヤの1のカードに「にゃがッ!」とニャルシーが鳴く。


これは今巷で流行るショーギと同じく最近発明されてブームになっているトランプという物だ。

四種のシンボルに1から13までの数字が付属する計52枚のカードとジョーカーというハズレカードで多種多様なゲームを行うことのできるアイテムである。

二人で遊べるショーギよりも大人数で楽しめ、ルールも覚え易いものが多いのが特徴だ。


メアが寝ている間に僕らがやっていたのは「大富豪」というトランプゲームだった。

配られた手札から場にあるカードより強い数字のカードを順繰りに出していくルールで、今サシャイの出した1のカード三枚の強さは上から数えた方が早い。

僕もニャルシーも手を出せずパスして順番がまたサシャイに回る。


「はい上がり」


一枚のスペードの5を場に出して彼女の手札はゼロになった。

大富豪ルールでは手札を使い切った者の勝利なので今回はサシャイの勝ちだ。


「にゃ~ん」ニャルシーが転がった。


僕がスペードの5の上にスペードの9を出した。これで僕の手札もなくなった。

二位は僕である。


「ニャハハ~ん!」手札を五枚も残してニャルシーが負けた。


「これでナルシー大富豪連続三回負け。弱すぎ」


「大富豪やニャー!ババ抜きやるにゃ」


「ババ抜きでもすぐ顔に出るから弱いじゃん…。てかあの子が目を覚ましたなら私はもう行くよ。あんたと違って私は仕事終わりなんだから」


サシャイが立ち上がる。

彼女は回復術士(ヒーラー)らしい。ギルドに帰って来た所をニャルシーが連れてきた。

風呂でのぼせたのなら寝ていたら治ると言って代わりに長旅の疲労を回復する魔法をかけてくれた優しい人だ。

そのおかげでメアの肌はプルプルしている。


「もしかして私のために…?」


「メアチ気にしなくていいにゃ。サシャイは女の子の身体を触るのが大好きな変態だからウィンウィンなんだにゃ」


「え?」


「語弊のある言い方をやめろ。医学的にだよ。隣の部屋で寝てるから騒がないでね。少し仮眠したらすぐまた【銀鷹の俯瞰図(フェルピーメッツ)】の助っ人に出るんだから。じゃ、おやすみ」


サシャイは部屋を出て行った。


「忙しそうな方ですね」


「フェルピーメッツは所属団員うちより断然多いけど弱々なんだにゃ。だからサシャイみたいなのが何人か助っ人に行ってるんだけど、弱々が多いとヒーラーは大変そうだにゃ」


「凄い申し訳ないです…。私のために貴重な休憩時間を割いてもらったみたいで…」


「大丈夫にゃ。最悪自分に疲労魔法かけて24時間働けるような奴なんだから。むしろメアチの可愛い四肢を撫でまわしてメンタル回復できたことに感謝してるはずにゃ」


「わ、私の意識がない間に…」


「にゃはは。医学的に、医学的ににゃ。それにちゃんとアルトに立ち会ってもらっていたから変なことはしてないにゃ」


「師匠も見てたんですか…!?」


余計なことを言う猫だ。

メアは自分が裸の状態で看護してもらっている所を僕に見られたのだと思っただろう。


[回復魔法をかけたときメアは服を着てたよ]


「洋服は誰が着せてくれたんです…?」


意識のないメアを脱衣所まで運んだのは僕だがそこから先はニャルシーに任せた。

メアの身体を拭いて服を着せたのはニャルシーだ。


「さ~?誰だろにゃあ~」


[着せたのはニャルシーだよ。メア、夕ご飯を食べに行こうか]


話がややこしくなる前に猫耳のある愉快犯をスルーして僕はメアを連れ出す準備を始めた。

夕食はギルドのキッチンを借りて自炊しようかと考えていたが遅い時間となってしまたので外食で済ませることにした。初めて訪れた土地ではあるが近場のおススメ飯屋をサシャイから聞いている。


「行こうにゃ。お腹ペコペコにゃ」


お腹を減らしていたニャルシーは大いに賛同してくれた。


「ししょ~、何かごまかそうとしてませんか」


「まーまー小さなことは忘れて美味しい物食べに行こうにゃ」


まだまだ疑うメアを連れて僕らは観光客でにぎわう夜のバラッサに出た。

遠回しに裸を見たかどうかの追及は続いたが、ニャルシーが僕の股間のことを話題に出すと少女は風呂での話をしなくなった。


  ◆


深夜。目が覚めてしまった。起き上がる。

女子二人は布団に転がってそれぞれ寝ている。ニャルシーの方が寝相が悪く布団を蹴飛ばしていたので風邪をひかないようかけなおしてあげた。


喉が渇いていたので部屋の端のテーブルの上にあるコップの水を飲む。

ふと窓から外を眺めると遠くの空がピカピカ照らされていた。


「あそこでロックビーストと戦ってるんですかね」


いつの間にかメアが起きて僕の隣に立っていた。

僕の顔を見て少女はにんまりと笑う。


[だろうね。魔法の光だ]


「師匠。明日からのクエスト、私たちもロックビースト討伐に参加するとかってどうです?」


これは飯屋でニャルシーから聞いた話だがロックビースト討伐はバラッサ市から降りたクエストだそうで参加報酬はウマウマらしい。僕らもマスター・ザザバラに頼めば参加できそうだが…


[ロックビーストは強いからなぁ]


試験に用いられる力試し用の魔石も砕けない僕に岩石そのもののロックビーストを倒すすべはない。

メアの複合魔法は威力こそ破格的だが一発放てば気絶してしまう。

これまで倒してきたビックトードとは段違いで討伐難易度は高いのだ。


剣と杖でポコポコ叩いて倒せるモンスターではない。

僕らにロックビースト討伐クエストはまだ早いだろう。


色々考えているとメアが身を寄せてきた。


少女は何も言葉を発さず寄り添う。僕は話せないのでこの距離まで近づかれたら何もできない。

少しだけ二人無言のまま、時たま瞬く遠い夜空を眺める時間が流れた。


「わわわわわわ…、デキてるにゃぁ~…」


バッと僕らは同時に振り向いた。

M字開脚で驚き震えるニャルシーがそこにはいた。


「で、デキてませんよ!ま、だ…」


「よかったにゃー!念のために一緒に寝てて!大切な仮眠室が淫らな行為で汚される所だったにゃー!!」


「み、み、淫らッ!?」


「みんなが使う部屋なんだにゃー!盛っちゃダメにゃ。エッチな雰囲気になっちゃダメにゃ~」


「なってません!」


「うるさいぞ!!!」ドン!


隣から壁ドンされた。サシャイだ。

びっくりして途端静かになる。


「サシャイを怒らせたら怖いにゃ。寝るにゃ」


「そうですね。師匠、ニャルシーさん、おやすみなさい」


メアはいそいそと布団の中に潜っていった。ニャルシーも「おやすみにゃ」と目を閉じた。

色んな意味で助かった。僕も寝ることにしよう。おやすみ。


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