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【第25話】「山稜龍は二匹いた」


戦斧の化け猫(バトルケットシ―)】の団員は全員で出かけてしまった。

ギルドマスター・ザザバラも【閃光姫(フラッシュ・ルー)】アイラに連れていかれた。

受付嬢も裏手の料理人も今日はギルドに来ていない様子で、取り残されたのはアルトとメアと───


「一気に静かになっちゃったにゃー」


猫耳の可愛い猫尾人(マーテル)ニャルシーの三人だけである。


「私は今回お留守番なのにゃ」


「皆さんどこへ出かけたんです?」


メアが訊ねた。

二十数人が一気にいなくなった。どこに行ったのかはアルトも気になっていた。


岩石獣(ロックビースト)退治にゃ。メアは飛行船の中から山稜龍は見たかにゃ?」


「はい見ました」


「その山稜龍が動いて身体を動かすとポロポロ岩石獣が降ってくるんだにゃ」


巨大な岩石の生命体である山稜龍の身体にも新陳代謝はある。

人で言う所の皮膚の垢。溢れんばかりの生命エネルギーを蓄えている山稜龍の場合、垢は岩石であって、そのそれぞれに命が宿っていた。

岩石猿、岩石トカゲ、岩石人、岩石鬼、岩石王などなど山の龍の垢からは様々なロックモンスターが生み出される。


「だいたいは湖に落ちちゃうんだけど、バラッサの台地に接するサイドにはいっぱい危険な岩石獣が降って湧くから、ギルド総出でやっつけに行くんだにゃ」


「へー。それをバトルケットシーの方々だけでやるんです?」


「バラッサにはギルドがあと一つ【銀鷹の俯瞰図(フェルピーメッツ)】という大きなとこがあるからそこと合同に八時間交代でやるんだにゃ」


そう言ってニャルシーはギルドのドアのカギを閉めた。

そして「休店日」と書かれた糸で吊ってある小さめの木の看板を内からガラスの部分にかけた。


「という訳で今日は店じまいにゃ。人いにゃいし。申し訳ないけど仕事は明日から探してほしいにゃ」


「大丈夫ですよ。ね?師匠」


少女の言葉にアルトは頷いた。そもそも今日は顔合わせのつもりだったから問題はない。

時間を確認する。午後二時。とりあえず宿を探しに行こうか。なるべく安い宿を。


「二人とも泊まる所決めてないならここの二階の空き部屋使っていいにゃよ。部屋はキレイにしてるしご飯も裏のキッチンで自分で作っていいにゃ」


「え?いいんですか…?」


それは嬉しい提案だった。

アルトとメアは内心喜んだ。

二人は武器の新調とここまでの旅路で所持金のほとんどを使い切ってしまっていた。


後はメアの貯金を切り崩して細々と暮らす予定だったのでギルドの設備を自由に使っていいというのはありがたい話であった。


「問題なしにゃ。イリス姉さんの可愛い団員ならケットシーの誰の文句は言わないにゃ」


「じゃあお言葉に甘えて、エヘヘ」


「でもお前はダメにゃ」


ニャルシーはアルトに人差し指を向けた。


「さっきからずっと黙りこきやがって、何だその態度は。舐めてんのか?いつ喋り出すか待ってたけどもう限界にゃ。決闘にゃ。のして翠緑の若葉に送り返してやるにゃ」


どうやら彼女はアルトが何も話さずいたことに対して怒っているようだ。

腰の小型ナイフに手はやらないが、やる気満々の顔で拳を握る。


「ニャルシーさん、師匠は話せないんです…」


「え?にゃ?」


メアが事情を説明した。


「ニャハハハハー!申し訳ないにゃ、事情を知らずとはいえごめんごめんにゃ!」


すぐ誤解は解けた。ニャルシーはアルトに肩を組んで謝罪する。

谷間の出ている露出箇所の多い格好をしている彼女は距離感が近かった。


[こうやってすぐ筆記で事情を伝えていなかった僕も悪かったです。すみません]


筆記用メモに字を書いてニャルシーに見せる。


「しょうがないにゃ、初めて訪れる場所でそうなるのはしょうがないことにゃー」


[マスター・ザザバラも誤解してるかもしれませんね]


「ザザ婆はたぶん知ってたと思うにゃー、抜け目のない意地悪な婆だし。伝えておけって事いつも事前に教えてくれないんだにゃ。でも一応私の方から伝えておくから安心してにゃ」


[ありがとう]


「ニャルシーさん少し距離近いですよ」


メアがグイグイ二人の間に割って入って引き離そうとした。


「ニャハハ!嫉妬してるにゃ」


ニャルシーがアルトからメアに引っ付くターゲットを切り替えた。

女の子であるメアには容赦なく顔を擦り付けて身体をまさぐる。

「ぐわぁー、やめてくだい」とメアは嫌がったが過剰なスキンシップから逃れられることはできなかった。

何かに気付いたようでニャルシーはメアをクンクンした。


「メアチ少し汗臭いにゃん」


「ハァー!?何言ってるんですか!臭くないですよ!ねえ?師匠!?」


アルトは答えなかった。

メアが臭いとは思っていないが、ずっと一緒にいると臭いは気づけなくなるものである。

ニャルシーが少し汗臭いと言えばそうなのだろう。特に猫尾人などの亜人は鼻が獣並みに利く。


アルトが否定しないことにメアは傷つき涙目になった。

思春期の少女にとってこれは大きなショックだった。


「だ、だってしょうがないじゃないですか!長旅でしたもん…」


「よしよし。可哀そうに。一緒にお風呂に入ろうにゃ。旅の疲れも落とすにゃ。今なら誰もいないから貸し切りにゃーよ」


「はい…」


力なく悲しみで脱力した少女はニャルシーに連れていかれる。


「男子の脱衣所はそっちにゃー」


ニャルシーがドアの一つを指し示した。

せっかくなのでアルトも風呂に入ることにした。

知り合いもいない土地で相方が風呂から上がるのをただ椅子に座って待つのも退屈なものだ。


脱衣所でパッと裸になって浴場へのドアを開けた。先には真っ白な世界が広がっている。

男の団員が極端に少ないギルドの男湯。小さいものと思っていたがびっくりするぐらい広い。

ブルーメードの風呂場より大きな浴場だった。


真っ白な湯気が濃いのでアルトはタオルを肩にかけて堂々と歩くことにした。

誰も人がいないので視線を気にする必要はない。


「ギャ!」


すると背後からこの場にいないはずのメアの声がした。

ここは間違いなく男湯のはず、メアはニャルシーと別のドアに入っていったはずだ。

とっさにアルトは振り向いてしまう。


前を隠すのも忘れて。


「わぁ――――――!!」


少女の絶叫。真っ赤な顔をしてタオルで前身を隠した少女の姿がそこにあった。

その横にアルト以上に堂々とした態度で何も纏わず突っ立つ猫耳尻尾付きの褐色女の姿もあった。

女たちの視線は下方向へ注がれている。


「…山稜龍は二体いた、にゃ」



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