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【第21話】武器を買いに


べルートンを救ったメアは一躍有名人になった。

しかしそのせいで弱小ギルド【翠緑の若葉】には多くの問い合わせが殺到し、電話や訪問者に対応しきれなくなったマスター・イリスは二人をオルーナから遠いバラッサという町のとあるギルドに期間限定で出向させることにした。

全ての問い合わせに「メアリー・ギルバレットはウチにはいません」と一言で済ませれるように。


武器屋【テルラ・ポルト】。

アルトとメアの二人はバラッサに向かう前に新しい武器を買いに来ていた。


アルトの剣はスペシャルトードの舌に奪われペッと吐き出されたあと行方不明になっており、メアの二本の魔術杖は本来の威力の複合魔法の負荷に耐えられずバキバキに砕けてしまっていた。


二本の杖はお世話になった方からの贈り物だそうでメアは残念そうにしていた。

冒険者になったお祝いの品だったらしく、どうにかしたいと思った少女は自分の手で破片を組み合わし鉄の留め具で無理やり固定して修復していた。

フランケンシュタインのような杖になってしまったがメアは喜んでそれを握っている。


もちろんそんな杖では魔法は使えない。

武器がなければ危険なモンスターとは戦えない。だから今日はここへ来たのだ。


「うわぁ、めちゃくちゃお高そうなお店…。入れるんですかね?私たち入店できますかね…?」


メアは店の前で放つ高級店オーラに気圧されていた。無理もない。

テルラ・ポルトは二階建てのオシャレ外観店舗で、実際売られている品々はびっくりするぐらい高い。

本来Fランク冒険者が立ち寄るレベルの店ではなかった。


しかしアルトはテルラ・ポルトがまだまだ小さな武器屋であった頃からの常連であった。

百花氷乱剣に砕かれた剣もカエルにペッとされた剣もここで買った物である。

だから無下に入店を断れるということはないはずだ。


実は今いるこの町にはブルーメードのギルドが在る。そこの角を曲がったすぐ先に在る。

小さな武器屋テルラ・ポルトはブルーメードの隆盛に乗っかっり急成長した店だった。


[大丈夫だよ。ここの人とは仲良くさせてもらっているから]


購入資金だって今回はちゃんとある。スペシャルトード討伐報奨金100万GPだ。

これだけあればいい物が買える。

武器は重要な物なので奮発して50万GPぐらいなら出していいと今日は考えていた。


そしてメアの買う魔術杖だが、戦士職のアルトは杖に関してはよく知らない。だから仲の良いここの店主に相談して少女に見合った物を見繕ってもらおうと考えていた。


「じゃあ師匠。は、入りましょうか」


ドキドキしながらメアは店のドアを開けて入店した。


店の中の左右の壁にはズラリと売り物の剣と杖が並んで飾られていた。

一階は剣と杖、二階にはそれ以外の武器が売られている案内板があった。


「いらっしゃいませ。おや、アルト様お久しぶりでございます」


カウンターにいたのは白いヒゲを短く整えて腰の真っすぐなお爺さん店主だった。

名をアリスさん。アルトのようなFランク冒険者の顔までちゃんと覚えていてくれているいい人だ。

ペコリと頭を下げて挨拶する。アルトが喋れないことをもちろん店主は知っている。


「どうも初めまして」メアも挨拶した。


「初めまして。この度は当店をご利用してくださりありがとうございます」


店主も柔和な笑顔で答えた。

冒険者相手に商売する人であるためべルートンを救ったメアのことは知っていたが、素性を探られることを気にするお客様もいるので触れはしなかった。あくまで客のおひとりとして扱う。


アルトは筆記用のメモ帳を使って[剣と杖を買いに来ました]と伝える。


「分かりました」


メアは勝手に品物の杖を見て回っているので、アルトは店主に50万GP当たりでおススメの剣を紹介してもらうことにした。


「こちらバルダークツの鋭剣、こちらはキルシアの剣。どちらもアルト様におススメできる50万GP前後の剣でございます」


バルダークツの鋭剣は切れ味がよく、キルシアの剣は丈夫で折れにくいと紹介されながらアルトは両剣を試しに握っていく。


これまでは剣に関しては技スキルもないので斬れれば何でもいいという感じだったが、いざ高い剣を買うとなると悩む。

ただ、大金なんて滅多に目にしない彼からすると少しでも長持ちする剣の方がありがたいので丈夫なキルシアの剣を買うことにした。


「師匠!師匠!」


購入の意を伝え、手続きの準備に店主が入った所でメアがグイグイ服を引っ張って来た。

焦った様子で動転しているので、もしかして売り物に触れて壊してしまったのかなとアルトは心配した。


顔を寄せて少女は耳元で囁く。


「めちゃくちゃ高いんですけど…!」


少女は杖の値段に驚いていたようだった。


「イメージでは10万GPぐらいで買えると思ってました…」


[それだと訓練用の杖ぐらいだね、買えるのは]


「そんな…」


戦士職の剣に比べ、複雑な術式で超常の現象を引き起こす魔法使いの杖はとても高い。

剣の最低価格は4万GPぐらいだが杖は最低でも20万GPする。

この店に並んでいる杖の値段はたいがい50万GP以上の物ばかりだ。

中には数百万、ショーケースに入った数千万の杖も売っている。


ツギハギだらけの杖を握ってメアは体をフルフルさせる。

元々持っていた杖は先ほど貰い物だと言っていたし、杖を買いに来たのはこれが初めてのことだったのかもしれない。


そういえばメアは二本の杖を扱う複合魔術師だ。

二本も買わなければならなかった。大変である。


[でもまあ、特別報奨金があるし]


「う…、師匠…。実はあの…、ほとんど寄付しちゃったんです…。そのお金…」


少女は申し訳なさそうに話した。


「90万GP…、寄付しちゃって。今日は25万GPしか持ってきてないです…」


[90万GPも!?なんでまた!?]


「わたし実は小学校と中学校に行ってないんです…」


突然の予想外の告白にアルトは停止した。

明るい子のそういう話は詳しく聞かずとも胸に来るものがある。


「だからずっと近所の古代魔法研究所っていう場所で本を読んでいました。そこで務める色んな方にそこで色々お世話になったので…、つい寄付しちゃったんです。私が冒険者になって稼いで機材を買い替えて上げますよって約束も、してたから…」


[…そうだったのか]


よくは分からないが恩を返したかったのだろうとアルトは思った。

もしかしたら悪い人らに騙されている可能性もあるので後で事細かに聞くことにはしたが、ここはとりあえず納得しておく。今は武器購入を考える事の方が優先だ。


困った。バラッサに移るのは明日だ。

今日武器を買っておかないと色々マズいことになる。

さすがに不格好な杖を持たせてイリスの紹介してくれたギルドに顔を出すことはできない。


「メア様、こちらレシャナラールの界杖という出力に優れた杖でございます。どうでしょうか」


カウンターで処理を済ませた店主は二度手間にならぬようそのままメアのために見繕った杖を持ってきた。

この道30年のベテランのプロの目にかかれば、詳細を聞き出さずとも適した逸品を見つけてくることなど容易である。


実際、レシャナラールの界杖は複合魔術師にピッタリの適した武器だった。


メアが複合魔術師であることは存じてなかったが店主は言う、武器の方から光って見えるのだと。


[値段は?]


「60万GPでございます」


二本揃える必要があるので合わせて120万GPだ。メアの所持金は25万GPだ。


「師匠…」


メアは怯えてしまってアルトに引っ付いた。


こうなっては最終手段だ。


[アリスさん…、ちょっといいですか]


「何でしょうか?」


アルトは諸々の事情を説明した。


「なるほど…」


[なので、キルシアの剣はキャンセルしてレシャナラールの界杖を二本ください]


アルトの所持金は百数万GPだ。メアと二人のお金を合わせれば揃えて買うことができる。


「それじゃあ師匠が…!」


[いいんだよ、メア。君の魔法は僕らの切り札だ。そこにお金を出すということは僕にとってもメリットがある事なんだよ]


スペシャルトードの件で分かったことだが、メアの複合魔法はピンチを覆せる力がある。

剣の性能を活かすことのできないアルトがいい剣を買うより、メアがいい杖を買った方がパーティーとしての正しい選択だろう。


彼らはFランク、まとまったお金が入るのなんてこの先もう無いかもしれないのだ。

メアの武器はできるだけ上等な物を買っておきたい。


そもそ彼にキルシアの剣は猫に小判、豚に真珠の過ぎた品物。


アルトは店の端っこにある中古品の剣が何本も入った傘立てを見た。

この店では新たな剣を購入して用済みとなった冒険者の剣を買い取り、安くまた売っている。

これまでのお金のないアルトはそこの剣を買っていた。


中古品だが店主がちゃんと手入れしているので質はとてもいい。

残った数万GPでもいい物が買える。


そちらに向かおうとした時、店主がアルトの肩に手を置いた。


「アルト様。キルシアの剣、レシャナラールの界杖二本合わせて120万GPで構いませんよ」


[アリスさん…、嬉しい提案ですがそれは申し訳ない]


さすがに実質約50万GPの値下げは申し訳なさ過ぎた。

顔は覚えてもらっているが昔からFランクのアルトはこの店で売り上げ貢献できていない。

毎度毎度安い物しか買ってないのだからだ。


それでもちゃんと接客してくれるからアルトは店主が大好きだった。


「この店、今月で閉めるんです」


「閉める…、閉店するんですか?」


「はい、残念ですが。閉店です。こうやってアルト様に来ていただけるのもこれが最後なのです。なので老い先短い老人からの餞別として、今回はお安く提供させてください」


引退するのだろうか。業績が悪かったのだろうか。

意思を伝えるには文を書かないとならないアルトはどれだけ気持ちが昂ろうが常にワンテンポ遅れる。

長らく接客業を嗜んでいた店主は彼の表情で察し、彼の聞きたいことを質問より先に答えた。


「上質な武器を店で取り扱うには付近にランク4以上の大きなギルドある必要があります。ウチではブルーメードがそうです。しかし今月の査定でブルーメードは大きくランクを落としました」


武器屋と防具屋には希少で高級な武器や防具が揃っている。

それを悪党に狙われてしまえば多大な損害となるため、防犯も兼ねて扱える武器の質は付近のギルドの強さに比例する決まりがあった。


「品質を落とせばここで商売を続けるのも可能なのですが、私もこの歳なので身を引くにはいい機会だと思いましてね」


[そうだったんですか…。寂しくなります]


メアは初めてしょんぼりするアルトの顔を見た。

なんだがドキドキしたがジャマになるのは野暮なので黙っておいた。


「別の遠い町でですが、孫が新しく武器屋を始めると言っているので今後はそちらでのんびり武器屋には携わるつもりです。ご縁があればまた会えますよ」


[そうですか。もしまた会えればその時はまたよろしくお願いします]


「もちろんでございます。ならばこそまた会う日まで大司たメアは一躍有名人になった。

しかしそのせいで弱小ギルド【翠緑の若葉】には多くの問い合わせが殺到し、電話や訪問者に対応しきれなくなったマスター・イリスは二人をオルーナから遠いバラッサという町のとあるギルドに期間限定で出向させることにした。

全ての問い合わせに「メアリー・ギルバレットはウチにはいません」と一言で済ませれるように。


武器屋【テルラ・ポルト】。

アルトとメアの二人はバラッサに向かう前に新しい武器を買いに来ていた。


アルトの剣はスペシャルトードの舌に奪われペッと吐き出されたあと行方不明になっており、メアの二本の魔術杖は本来の威力の複合魔法の負荷に耐えられずバキバキに砕けてしまっていた。


二本の杖はお世話になった方からの贈り物だそうでメアは残念そうにしていた。

冒険者になったお祝いの品だったらしく、どうにかしたいと思った少女は自分の手で破片を組み合わし鉄の留め具で無理やり固定して修復していた。

フランケンシュタインのような杖になってしまったがメアは喜んでそれを握っている。


もちろんそんな杖では魔法は使えない。

武器がなければ危険なモンスターとは戦えない。だから今日はここへ来たのだ。


「うわぁ、めちゃくちゃお高そうなお店…。入れるんですかね?私たち入店できますかね…?」


メアは店の前で放つ高級店オーラに気圧されていた。無理もない。

テルラ・ポルトは二階建てのオシャレ外観店舗で、実際売られている品々はびっくりするぐらい高い。

本来Fランク冒険者が立ち寄るレベルの店ではなかった。


しかしアルトはテルラ・ポルトがまだまだ小さな武器屋であった頃からの常連であった。

百花氷乱剣に砕かれた剣もカエルにペッとされた剣もここで買った物である。

だから無下に入店を断れるということはないはずだ。


実は今いるこの町にはブルーメードのギルドが在る。そこの角を曲がったすぐ先に在る。

小さな武器屋テルラ・ポルトはブルーメードの隆盛に乗っかっり急成長した店だった。


[大丈夫だよ。ここの人とは仲良くさせてもらっているから]


購入資金だって今回はちゃんとある。スペシャルトード討伐報奨金100万GPだ。

これだけあればいい物が買える。

武器は重要な物なので奮発して50万GPぐらいなら出していいと今日は考えていた。


そしてメアの買う魔術杖だが、戦士職のアルトは杖に関してはよく知らない。だから仲の良いここの店主に相談して少女に見合った物を見繕ってもらおうと考えていた。


「じゃあ師匠。は、入りましょうか」


ドキドキしながらメアは店のドアを開けて入店する。


店の中の左右の壁にはズラリと売り物の剣と杖が並んで飾られていた。

一階は剣と杖、二階にはそれ以外の武器が売られている案内板があった。


「いらっしゃいませ。おや、アルト様お久しぶりでございます」


カウンターにいたのは白いヒゲを短く整えて腰の真っすぐなお爺さん店主だった。

名をアリスさん。アルトのようなFランク冒険者の顔までちゃんと覚えていてくれているいい人だ。

ペコリと頭を下げて挨拶する。アルトが喋れないことをもちろん店主は知っている。


「どうも初めまして」メアも挨拶した。


「初めまして。この度は当店をご利用してくださりありがとうございます」


店主も柔和な笑顔で答えた。

冒険者相手に商売する人であるためべルートンを救ったメアのことは知っていたが、素性を探られることを気にするお客様もいるので触れはしなかった。あくまで客のおひとりとして扱う。


アルトは筆記用のメモ帳を使って[剣と杖を買いに来ました]と伝える。


「分かりました」


メアは勝手に品物の杖を見て回っているので、アルトは店主に50万GP当たりでおススメの剣を紹介してもらうことにした。


「こちらバルダークツの鋭剣、こちらはキルシアの剣。どちらもアルト様におススメできる50万GP前後の剣でございます」


バルダークツの鋭剣は切れ味がよく、キルシアの剣は丈夫で折れにくいと紹介されながらアルトは両剣を試しに握っていく。


これまでは剣に関しては技スキルもないので斬れれば何でもいいという感じだったが、いざ高い剣を買うとなると悩む。

ただ、大金なんて滅多に目にしない彼からすると少しでも長持ちする剣の方がありがたいので丈夫なキルシアの剣を買うことにした。


「師匠!師匠!」


購入の意を伝え、手続きの準備に店主が入った所でメアがグイグイ服を引っ張って来た。

焦った様子で動転しているので、もしかして売り物に触れて壊してしまったのかなとアルトは心配した。


顔を寄せて少女は耳元で囁く。


「めちゃくちゃ高いんですけど…!」


少女は杖の値段に驚いていたようだった。


「イメージでは10万GPぐらいで買えると思ってました…」


[それだと訓練用の杖ぐらいだね、買えるのは]


「そんな…」


戦士職の剣に比べ、複雑な術式で超常の現象を引き起こす魔法使いの杖はとても高い。

剣の最低価格は4万GPぐらいだが杖は最低でも20万GPする。

この店に並んでいる杖の値段はたいがい50万GP以上の物ばかりだ。

中には数百万、ショーケースに入った数千万の杖も売っている。


ツギハギだらけの杖を握ってメアは体をフルフルさせる。

元々持っていた杖は先ほど貰い物だと言っていたし、杖を買いに来たのはこれが初めてのことだったのかもしれない。


そういえばメアは二本の杖を扱う複合魔術師だ。

二本も買わなければならなかった。大変である。


[でもまあ、特別報奨金があるし]


「う…、師匠…。実はあの…、ほとんど寄付しちゃったんです…。そのお金…」


少女は申し訳なさそうに話した。


「90万GP…、寄付しちゃって。今日は25万GPしか持ってきてないです…」


[90万GPも!?なんでまた!?]


「わたし実は小学校と中学校に行ってないんです…」


突然の予想外の告白にアルトは停止した。

明るい子のそういう話は詳しく聞かずとも胸に来るものがある。


「だからずっと近所の古代魔法研究所っていう場所で本を読んでいました。そこで務める色んな方にそこで色々お世話になったので…、つい寄付しちゃったんです。私が冒険者になって稼いで機材を買い替えて上げますよって約束も、してたから…」


[…そうだったのか]


よくは分からないが恩を返したかったのだろうとアルトは思った。

もしかしたら悪い人らに騙されている可能性もあるので後で事細かに聞くことにはしたが、ここはとりあえず納得しておく。今は武器購入を考える事の方が優先だ。


困った。バラッサに移るのは明日だ。

今日武器を買っておかないと色々マズいことになる。

さすがに不格好な杖を持たせてイリスの紹介してくれたギルドに顔を出すことはできない。


「メア様、こちらレシャナラールの界杖という出力に優れた杖でございます。どうでしょうか」


カウンターで処理を済ませた店主は二度手間にならぬようそのままメアのために見繕った杖を持ってきた。

この道30年のベテランのプロの目にかかれば、詳細を聞き出さずとも適した逸品を見つけてくることなど容易である。


実際、レシャナラールの界杖は複合魔術師にピッタリの適した武器だった。


メアが複合魔術師であることは存じてなかったが店主は言う、武器の方から光って見えるのだと。


[値段は?]


「60万GPでございます」


二本揃える必要があるので合わせて120万GPだ。メアの所持金は25万GPだ。


「師匠…」


メアは怯えてしまってアルトに引っ付いた。


こうなっては最終手段だ。


[アリスさん…、ちょっといいですか]


「何でしょうか?」


アルトは諸々の事情を説明した。


「なるほど…」


[なので、キルシアの剣はキャンセルしてレシャナラールの界杖を二本ください]


アルトの所持金は百数万GPだ。メアと二人のお金を合わせれば揃えて買うことができる。


「それじゃあ師匠が…!」


[いいんだよ、メア。君の魔法は僕らの切り札だ。そこにお金を出すということは僕にとってもメリットがある事なんだよ]


スペシャルトードの件で分かったことだが、メアの複合魔法はピンチを覆せる力がある。

剣の性能を活かすことのできないアルトがいい剣を買うより、メアがいい杖を買った方がパーティーとしての正しい選択だろう。


彼らはFランク、まとまったお金が入るのなんてこの先もう無いかもしれないのだ。

メアの武器はできるだけ上等な物を買っておきたい。


そもそ彼にキルシアの剣は猫に小判、豚に真珠の過ぎた品物。


アルトは店の端っこにある中古品の剣が何本も入った傘立てを見た。

この店では新たな剣を購入して用済みとなった冒険者の剣を買い取り、安くまた売っている。

これまでのお金のないアルトはそこの剣を買っていた。


中古品だが店主がちゃんと手入れしているので質はとてもいい。

残った数万GPでもいい物が買える。


そちらに向かおうとした時、店主がアルトの肩に手を置いた。


「アルト様。キルシアの剣、レシャナラールの界杖二本合わせて120万GPで構いませんよ」


[アリスさん…、嬉しい提案ですがそれは申し訳ない]


さすがに実質約50万GPの値下げは申し訳なさ過ぎた。

顔は覚えてもらっているが昔からFランクのアルトはこの店で売り上げ貢献できていない。

毎度毎度安い物しか買ってないのだからだ。


それでもちゃんと接客してくれるからアルトは店主が大好きだった。


「この店、今月で閉めるんです」


「閉める…、閉店するんですか?」メアが言った。


「はい、残念ですが。閉店です。こうやってアルト様に来ていただけるのもこれが最後なのです。なので老い先短い老人からの餞別として、今回はお安く提供させてください」


引退するのだろうか。業績が悪かったのだろうか。

意思を伝えるには文を書かないとならないアルトはどれだけ気持ちが昂ろうが常にワンテンポ遅れる。

長らく接客業を嗜んでいた店主は彼の表情で察し、彼の聞きたいことを質問より先に答えた。


「上質な武器を店で取り扱うには付近に大きなギルドがある必要があります。ウチではブルーメードがそうです。しかし今月の査定でブルーメードは大きく評価を落としました」


武器屋と防具屋には希少で高級な武器や防具が揃っている。

それを悪党に狙われてしまえば多大な損害となるため、防犯も兼ねて扱える武器の質は付近のギルドの強さに比例する決まりがあった。


「品質を落とせばここで商売を続けるのも可能なのですが、私もこの歳なので身を引くにはいい機会だと思いましてね」


[そうだったんですか…。寂しくなります]


メアは初めてしょんぼりするアルトの顔を見た。

なんだがドキドキしたがジャマになるのは野暮なので黙っておいた。


「まだまだ場所も決めてない準備段階ですが、孫が新しく武器屋を始めると言っているので今後はそちらでのんびり武器屋には携わるつもりです。ご縁があればまた会えますよ」


[そうですか。また会えればその時はよろしくお願いします]


「もちろんでございます。なればこそまた会う日まで壮健であられますよう、ここでぜひキルシアの剣を買っていってください」


べルートンの市長もそうだが、そこそこ年を重ねた者たちは若き冒険者の大半が薄命であることを知っている。愛しい孫とそう年の変わらぬ子らが自分たちの日常を守るために最前線に立ってくれていることを。

だからついこうやって甘やかしてしまうのだ。


[ありがとうございます…。アリスさんもこの恩を返すまでは長生きしてくださいね]


「恩なら、いつの日かアルト様が高ランク冒険者になられたとき、孫の店を利用して売り上げ貢献してくださればそれが私にとって一番でございますよ」


ここにある武器の全ては今月中に武器工房へと返品される。

どうせ返品になるのなら、多少損してもこれまでずっと店を愛してくれたお客様に買っていただけた方が本望だ。

そんなことを思いながら、店主はカウンターで書類を準備して会計を始めた。

レシャナラールの界杖二本120万GPとキリシアの剣54万GP、合わせてオマケして120万GPだ。


それぞれ金貨と銀貨を取り出して払う。


「ところでアルト様。ギガルテ様と会って行かれませんか?」


支払われた額の確認をしながら店主は言った。


[マスター・ギガルテと…?]


ギガルテとはブルーメードのマスターのことである。

アルトを追放したのは副マスター・バラバロスの独断ではあったが、それを知らないアルトとしては会うには気まずい相手だ。ギルドが大きくなってからは一切話してもいない。相手にしてもらえなかった。


「余計なお世話かもしれませんが、人の別れとは大決算です。私はこの店がなくなる前にアルト様がいらっしゃってくれたことに感謝しております。こうやって会えて別れを告げることはできたから思い残すことなく新天地に向かえます」


多くの別れを体験してきた老人だからこそ断言できるアドバイスはある。


「アルト様とギガルテ様は別々の異なる道を歩み始めることになりました。でしたら一度はちゃんと会って話しておくべきだと、私は思いますがどうでしょうか?」


店主はアルトがブルーメードより追放されたことを聞いていた。

誰から聞いたかというと、ギガルテ直々にだ。


アルトも王子リクリーシュに一度剣を砕かれたすぐ後この店を訪れていたが、その時は情けなさもあり追放については伝えていなかった。


ブルーメードの長として、店主がアルトによくしてくれているのを知っていたギガルテは一応伝えに来ていた。聞いた内容はギガルテが不在の間にバラバロスが勝手にアルトを追放したということだけだったが。


(アルト様がこの町で用があり来るとしたらウチですもんね。不器用な人です)


何を考えてかフフフと店主はほほ笑んだ。


[分かりました。一応、顔を出してきます]


あまり気は進まないが54万GPもオマケしてもらったのだ、無下にすることはできない。


「店主さんありがとうございます!」


支払いが済み二本のレシャナラールの界杖を受け取ってメアは喜ぶ。


「メア様。ご希望でしたらそちらの杖をこちらで引き取りますがどう致しますか?」


店主が言うのはツギハギの杖のことだった。どう見ても用済みになった杖。

再利用不可の引き取られた武器は、剣は溶かされ、杖は教会で聖火に燃やされる。

鉄に戻って、世界に戻る。


「これは大事に持って帰ります」


「そうですか」


けれども杖を三本も持って帰るのは大変なので、店主の提案でツギハギの杖は宅配便を利用して自宅に送ってもらうことにした。

アルトもキリシアの剣を腰に装備する。ぴったりだ、様になる。


買い物は済ませた。


これがずっとお世話になって来たテルラ・ポルトでの最後の買い物である。

名残惜しい気がした。ブルーメードを去るとき以上の寂しさだ。比べ物にもならない。


まだ何か買っていこうかなとも思ったがお金はもうない。

あるっちゃあるがこれは生活費だ。


「アルト様、これまでずっとありがとうございました」


店主はにこやかにそう言って頭を下げた。


店はなくなるがいつかはまた会えるのだ。

残念がることはない。別れこそ、いい顔を見せよう。


[こちらこそありがとうございます、アリスさん]


それから一言二言の言葉を交わしてアルトとメアの二人は店を出た。


「残念ですね、こんないいお店なのになくなるだなんて」


[残るよ。僕は覚えているから、この先、ずっと心にね]


「へへ、ですね。私も忘れません」




このちょうど一年後、年寄りの店主はぽっくり世を去る。

アルトと再会することはなかったが、新聞に小さく写る彼の姿を見つけてはいつも胸を躍らせ、応援していた。


 ※


アルトは深くフードを被って顔を隠す。

まるで探偵のように物陰に隠れて【青い瞳の人魚】の様子を探る。


【テルラ・ポルト】の店主のアドバイス通り、店を出てすぐブルーメードのマスター・ギガルテに会おうとしていた。


だが何分もここで足を止めていた。

どうギガルテの元にまで辿り着こうかと悩みながら。


ギルドに踏み込みマスターに用があると受付に伝えるのが手っ取り早いが、一度は追放された身だ、なるべくブルーメードの人間とは会いたくなかった。


それにバラバロスがいるかもしれない。

べルートン以来なんの音沙汰もないが、極力避けるべきイヤな相手である。


「師匠ってホントにブルーメードの人だったんですね…」


ここに来て少女は改めてアルトを尊敬していた。


「やっぱり師匠は凄い方だったんですね…」


後ろの方でポケーと眺めている少女のことは一旦スルーする。

【青い瞳の人魚】のギルドには人が結構出入りしていた。

が、出たり入ったりしているのは到底冒険者には見えない主婦や子連れのファミリーの方ばかりだ。

アルトがまだ属していた頃では考えられない光景である。少なくとも子供を連れてくるような場所ではなかった。


「師匠!あれ見てください!」


何かを見つけて少女がアルトを呼んだ。

指を向けた先には【青い瞳の人魚!特製海鮮パスタ始めました!】というポスターが壁に貼ってあった。


困惑する。


なぜ?フィルニア国トップギルドのブルーメードが、海鮮パスタ、を?


「お前、アルトか?」


聞き覚えのある声にバッと振り返った。


しゃがれた低い声。ドンとした頼もしい声。

新人時代お世話になった、アルトがこの世で一番尊敬していた人の声だった。


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