【第20話】二人は次へと
ギルド【翠緑の若葉】の一席でアルトは通帳を見てはニヤニヤしていた。
視線の先には100万GPという大金の入金が記載されている。
それはスペシャルトードを撃破したことでべルートン市長より贈られた特別手当金だった。
※
「ありがとう。君のおかげでべルートンに犠牲者はなかった。感謝するよ…、本当にありがとう」
ダンディーな白ヒゲを生やしたベンダック市長はメアが昏睡から覚めたと聞くや否やすぐに彼女のいる病院に駆けつけ、深々と頭を下げて感謝を伝えた。
そしてスペシャルトード討伐報酬として200万GPを振り込む約束をしてくれたのだ。
相場としてあのボスクラスモンスターを退治して200万GPはどう考えても安すぎなのだが、カエル肉産業の要となる草原はカエルにぐちゃぐちゃにされ、土手もメアの爆撃魔法の衝撃で半壊し、挙句の果てにべルートンの町全体にカエルの血肉が雨となって降り注いだことで、びっくりするような修繕費&清掃消毒代をべルートンが負担がすることになるのを考えると気の毒で文句は言えなかった。
「額が少なくて申し訳ない」
察したようで更にまた市長は頭を下げた。
「いえいえ!十分です!全然少なくありませんよ!」
相場を知らないメアは十分満足していた。
「勿論ですがいずれ事が落ち着き次第お二人には別の形でもお礼をするつもりです。まずはこちらの方を」
ベンダック市長は秘書から箱を受け取り、その中から指輪箱を取り出した。
パカリと開けるとそこには美しいエメラルドの宝石指輪が座していた。
「わぁ~、綺麗ですね」
「巨大ビックトード、いえスペシャルトードでしたか。これはそのスペシャルトードより作られたエンチャント魔法具です」
エンチャント魔法具とは第11王子リクリーシュが持っていた百花氷乱剣と同じ、装備した者にスキルや魔法を携えてくれる道具のことだ。
特別なモンスターの魔力核がなければ作ることのできない希少なアイテムで、市場に出ることはまずないたいへんお高い物である。
「運よくこの一つだけ作れました。ぜひ受け取ってください、これは貴女が持つに相応しい」
そう言って市長は箱ごと指輪を優しくメアに渡した。
コレクターの貴族なら数千万GPでも惜しまず払うであろう指輪をだ。
これはべルートンの相談役である最長老の老婆の一存でもあった。
「金がないのならせめてそれを渡してでもあの子の起こした奇跡に報いなさい」と。
老婆の言葉がなくともベンダック市長は渡す気でいたのだが、背中を押された気がして迷いなく渡すことができた。
「いいんですか…?私がこれを貰っても」
「もちろんです。それだけのことを貴女はしてくださったのです」
「あ、う…」
メアは言葉に詰まった。
さすがに一目で価値が分かったようで、本当に受け取っていい物なのか困った顔をアルトに向けた。
病室の窓際に立って話を聞いていたアルトも市長がエンチャント魔法具をくれると言ったのにはびっくりしたが手話でアドバイスを送る。
[ここで気持ちよく受け取るのが、ロマンなんじゃない?]
いい大人が少女を相手にちゃんと顔を見て受け取ってほしいと言っているのだ、遠慮なくありがとうございますと受け取ればいい。それが一番だ。
コクンとメアは頷いた。
「ありがとうございます。遠慮なくいただきますね」
市長はにっこりした。
※
そんなこともありメアに振り込まれた200万GP。
メアはパーティーとして山分けしましょうと半分の100万GPをアルトの口座に振り込んでいた。
額が額なだけに気は引けたが、逆の立場でも同じことはしていただろうし報酬は山分けと決めていたことなのでありがたく頂くことにした。
ちなみにアルトとバラバロスの功績は記録に残らなかった。
二人の足掻きがあってこそ今回スペシャルトードを倒すことはできたのだが、後処理が面倒になったバラバロスの手によって胃の中での出来事はなかったことにされていた。
すべてはメアの手柄となっていた。
それにアルトらが気付いたのはメアが大手週刊雑誌の表紙を【単独でボスクラスを撃破した小さな天才美少女魔法使い】という大々的な見出しと共に飾っているのを発見した少し後のことだった。
「あの色々インタビューしてきた女の人、週刊テサラの記者の人だったんですねぇ」
メアはアルトの対面の席で自身が表紙を飾る週刊誌を読み込んでいる。
本人としては嬉しいようで写真も可愛く映っていると喜んでいた。
「初クエストでジャイアントキリング果たして全国区デビューなんて、さっそく名前売ったわね。はい日替わり定食よ」
二人が注文していた料理を運んできてくれたのはギルドマスター・イリスだった。
新しく受付嬢を雇っても人手不足は解消されずマスター直々に雑務もこなしていた。
「少し恥ずかしいですけどね。個人指名の大仕事とか来ちゃったらどうしましょう、へへへ」
「来てるわよメア指名の依頼、いっぱい。全部断ってるけど」
「え!来てるんですか?断ってるんですか!?」
「当り前でしょ。みんなメアの実力を勘違いして仕事を頼もうとしてるんだから。わざわざ指名してくる依頼なんて難しいものばかりよ」
「へへへ、そうですね。あれ?これってもしかして」
メアは日替わり定食に箸を付け始めた所で何かに気付いた。
至って一般的なよくあるチキン南蛮定食だったが。
「これトード肉ですよね?」
「あら。そうよ、一口食べる前によく気付いたわね」
「いっぱい食べましたからね。違いが分かるようになったんです」
出されたこのチキン南蛮の肉、メアの言う通り鳥の肉ではなく正体はカエルの肉であった。
「ベンダック市長さんからお礼にたくさん頂いたのよ。量も多かったから昨日からギルドのメニューに期間限定で出しているの、お味はどうかしら?」
「美味しいですよ。チキン南蛮より厚い感じで食べ応えもあります」
アルトも食べながら指で丸の形を作って味がいいことを伝えた。
カラッとした衣に甘辛いタレは肉と合い絶品だった。
「うふふ、よかったわ。アルト君も気に入ってくれたみたいね」
二人のいい食べっぷりにイリスは嬉しそうな顔をした。
「トード肉と言えばべルートンさん大変そうですね。スペシャルトードの大きな肉片の処分費用がまた圧し掛かるって、テサラに載ってました」
「そうね、でも国から補助金も出るし大丈夫よ。ベンダック市長もやり手だし、草原の修復に土魔導士を、町の消毒に浄化スキル持ちの僧侶をクエストで呼んで早速復興作業始めているみたいよ」
「へ~、早く全部元通りになるといいですね。私も肉の火葬とかなら手伝えそうですけど」
「でも大量の巨大な肉塊、処分なんてもったいないわよね~。せっかくなら切り分けて出荷すればいいのに。それなら処分コストは削減できてお金も入るし一石二鳥じゃない」
「あ~、それいいですね。ちょっぴりですがスペシャルトードのお肉の味も気になりますし、売り出したら新しい名物になりそうですね」
「うふふ、もしかしたら今食べてるお肉が実はスペシャルトードの肉だって可能性もあるわよ?」
話を聞いていた飯を頬張るアルトは静かに複雑な気分になった。
助かったとはいえ一時はそのスペシャルトードの胃の中で消化されかけていたからだ。
少なくともバラバロスの下半身の服と毛は消化されていた。
溶かされた成分がすぐに肉の一部になるわけではないが、そこは気分の問題だった。
「じょ、冗談よ!イヤねぇ~、その可能性はゼロよ、ゼロ!魔王の断片を取り込んだモンスターの肉なんて食べたら何があるか分からないんだからべルートンも出荷しないわよ、国も許さないわ」
アルトが露骨に箸を止めたのに気付いてイリスは慌てて取り繕った。
「魔王の?断片?」
聞き慣れない単語に反応したのはメアだった。
「ん?知らない?そっか公にはされていない事だもんね」
二年前、フォルニア王国は勇者を遣わせ魔王を討伐した。
そのことは国を挙げて大々的に祝った事なのでメアも知っていることだったが、実は魔王は死ぬ直前に「末代までフォルニアを呪ってやるぞー!」と断末魔をあげ、数百の破片に砕けてフォルニア国領全体の地に散っていた。
降り注いだ魔王の断片はその場の手ごろな小動物や木の実に憑り付き、大型モンスターに捕食されることをトリガーに尋常ならざるをパワー与えていた。
そのせいで近年フォルニア国では通常有りえないような個体の発見が相次いでいた。
樹木でありながら這って移動するトレントや土中を泳ぐタコと鮫の合体したシャークトパスなどなど、そのどれもが多大な被害を出していた。
「超巨大カエルも魔王の断片の力で巨大化してしまったモンスターなのよ。検査の結果で魔王パワーが検出されたらしいから確かよ」
「そんなこと知りませんでした。飛び散った欠片すぐ回収するとかできなかったんですか?」
「判明したのが結構後になってからだったからね。まさかあの日見たキレイな流星群が魔王の破片だったなんて…、誰も思わなかったのよ」
国も大々的に魔王討伐を宣言した手前、魔王の脅威がまだ残っていたなどと公表することができなかった。
この事実が雑誌や新聞などのメディアには規制がかけられ最前線で戦う冒険者業界の者たちには知らされていたのは国民間にパニックを起こさせたくない国の、ゆっくり口頭で伝わっていけば自然と周知の事実となっててくれることを期待した戦略であった。
「最近じゃ断片を集めて悪用しようとしている秘密結社もいるみたいだから二人も関わらないように気を付けてね、危ないから」
「秘密結社…、何だかカッコいいですね、へへ」
「ただの暇人の集まりよ。憧れちゃダメ」
真面目な顔をしてイリスがメアの隣に座る。
「メア、約束して。私は貴女を信じて送り出している。だから必ず危険な目に逢ったら逃げて頂戴。危険なものには近寄らず逃げること。新人は生きて帰ることが一番の仕事なのよ。スペシャルトードの話を聞いた時は凄く心配したんだから」
「マスター、心配かけてすみません…」
「もう無茶しちゃダメよ?私たちはメアの将来に期待してるんだから」
そう言ってイリスはメアを引き寄せて頭を撫でてポンポンした。
「えへへ」とメアは嬉しそうに照れたが、イリスは少しだけ悲しそうな目をしていたのにアルトは気づいた。
しかしスルーし食事を再開させてトード南蛮を味わう。わざわざ指摘することでもなかった。
「それで次のクエストは決めたの?」
「それがまだ何です。師匠が譲ってくれなくて」
草原は壊滅状態なので当たり前だがビックトード討伐クエストは中止となっている。
その代わりとなる良さそうなクエストをアルトとメアは探しにギルドに来ていた。
実力的に最低難易度のFランクエストから依頼を選ぶことになるのだが、その中の薬草採取と怒り兎狩り、どっちを選んでやるかで悩んでいるところだった。
アルト的には薬草採取を、メア的にはクルーピー退治を、互いに譲らず話は長くなっていた。
「討論できるのは仲がいい証拠ね。好きなだけ話し合いなさい。それじゃあ私は雑用に戻るけどアルト君、今日の夜マッサージお願いできるかしら?肩が凝っててさ」
そう言って彼女は自分の肩を揉んで凝っているのをアピールした。
アルトは頷いて返事し、イリスは「ありがと、よろしくね」と言って仕事に戻っていった。
アルトは最近たまにお金を貰って簡単なマッサージを提供していた。
肩を揉むぐらいの簡素なものだったが、メアはそれを快く思ってはいなかった。
妬みである。
とりあえず決して二人っきりにしないように毎回同伴しているが焦燥があった。
師匠に限ってそんな不貞なことなどしないと信じているが、この前一緒に飲んだ時に酔っぱらったイリスが吐いた「アルト君全然アリアリ~!」という発言に少女は危機を感じていた。
イリスは一級品の美女だ。ウカウカしていたら取られてしまう。
「…じゃあ師匠!もう薬草採取でいいです。ウサギ諦めます。だから代わりに今度動物園一緒に行きましょう!」
少女は大胆に誘った。この勢いなら言えると一世一代の勇気を出した瞬間である。
アルトはいったん箸を置いて手話で応じる。
[…デートじゃないか]
デリカシーゼロの返しだった。
「デートじゃないですよ!やっぱり今の発言ナシで!ぜ、絶対クルーピー退治譲りませんから!」
怒った少女は大きな魔術帽子を深く被り顔を隠してしまった。
でもそれだとアルトの手話が見れないので片目だけ出す。
アルトはメアからの好意に気づいてはいた。しかしそれは冒険者として頼る気持ちを恋愛感情と勘違いしてのことだとアルトは考えている。
そこを利用するのは男として卑怯な気がしていた。
だから仲間としての一線はちゃんと引くことにしていた。
もちろん動物園だって一緒には行かない。動物園はデートだ。
[でもクルーピー退治は可愛いウサギをポコポコするクエストだけど、できる?]
「う~…、できない、です…」
クルーピーはマスコット化やグッズ化もされている人気のウサギモンスターだ。
群生地が狭い割に知名度があって特に女性からの人気が著しく高い。
冒険者になった女の子はとりあえず低難易度のこのクエストに手を出すが、そのほとんどが可愛い見た目で超絶気性の荒いクルーピーに夢を破壊され、狩って解体する作業で泣くはめになる。
そういう意味では命を奪う残酷さを学ぶには持って来いのクエストだが、トラウマを抱く子もいるのでアルト的にはメアを連れて行きたくないクエストだった。
[薬草採取はタダで薬草を貰えて薬草の種類も学べる、勉強になる良いクエストだよ]
「薬草のことは学びたいですよ。でもクルーピーも捨てがたいんです…!」
「拙者はどちらでも構わないでござるよ!ウサギ狩りでも薬草採取でも!」
「え?」
びっくりした。
知らない女の人が突然会話に入ってきたのだ。
「初めましてメア殿!拙者サイガ・タヌ!【救いの鹿角】から参ったCランク冒険者でござる!突然ではござるがぜひ拙者と組んでは貰えないだろうか!」
元気よく話しかけてきたのは高身長の鉢巻きを付けたショートボブの女性だった。
掌に布をグルグル巻いて武器を持っていない所を見るに武闘家職の人のようだ。
要件はメアと組みたいそうだった。
雑誌テサラに載って以来、彼らの前にはこの手の来訪者が続々と現れていた。
【翠緑の若葉】ギルドのメンバーはメアが複合魔術師であることを知っているので今さら組みたがろうとする者はいなかったが、事情を知らない別ギルドの人たちがわざわざ足を運び訪れて来ていた。
「いやいやサイガさん、その前にメア様にはわたくしから【絆の黄金剣】に移籍する話をさせてもらいたいのですよ。個人間の組む組まない話はその後にして、どうぞ」
そう言ってサイガの前に身体を割り込ませ出現したのは高そうなスーツを着たメガネの男だった。
ギルドとしてメアを引き抜きたいというスカウトの人たちも後を絶たず来ていた。
「絆の黄金剣さん、ギルド員を勧誘する際は先にギルドマスターに話を通しておくのが筋ですよ?」
横からズバリ言ったのはマスター・イリスであった。
スカウトマンの行動にあまりいい顔をしていなかった。
「あっ…、へへへ、すみません。なにぶんメア様は今業界で最注目されている期待の星なもので先走りしてしまいましたねへへへ。アポなしで失礼ですが奥で少しメア様についてのお話をさせて貰ってもよろしいですか?マスター・イリス様」
「はあ、まあいいですけど。ではこちらに」
ペコペコお辞儀しながらスカウトマンの方はイリスに奥の部屋へと連れて行かれた。
多くのSSランク冒険者が同時に業界から消え、SSランクエストを任せられる人材の価値が高騰し続ける現状、ボスクラスモンスターを単独撃破したという弱小ギルド所属のFランク冒険者はどこのギルドのスカウトマンから見ても涎が出るほどの極上の獲物だった。
「で、答えはどうでござるメア殿!」
邪魔者がいなくなったのをいいことに元気いっぱいな女性は顔を近づけ言う。
目は純粋無垢にキラキラしていて敬慕の輝きを浮かべていた。
「拙者も駆け出しだった頃はべルートンのカエル狩りで修行してたでござる!あそこのカエル肉ステーキは拙者の人生一番の好物なのでござるよ!拙者にとってあの町は第二の故郷と言っても過言なく!そのべルートンを救った英雄メア殿とぜひパーティーを組みたいのでござる!」
ビックリするぐらいのハイテンションだ。
まるで有名人を前にしたファンだが、意外とメアの方はニコニコしながらも少し冷めていた。
「サイガさんありがとうございます。でも返事の前に少し説明させてください」
期待を裏切ることになるのだが、一から十までメアは事情をサイガに説明し始めた。
自分が複合魔術師で、スペシャルトードを撃破できたのは奇跡が起きて実力以上の魔法を撃てたからだということ、今ならくすぐることしかできない戦士が一人おまけに付いてくることも、少女は包み隠さず全部話した。
底辺冒険者コンビからしたらCランク冒険者と組めるのはむしろありがたい良い話なのだが、ここで誤解させたまま組んでも後々トラブルになるのは目に見えていることだ。
だから正直にすべて話すことにしていた。
もしそれでもいいと言ってくれれば、よろこんで組ませてもらおうと決めていた。
だが話し終わるとサイガは困惑した表情をしていた。
「…あっ、え?今の話はすべて誠でござるか…?」
半信半疑の戸惑い模様を見せているので、アルトとメアは同時に頷いて見せた。
ダメ押しにメアが自身のギルドカードを提示して自身が複合魔術師であることを証明した。
複合魔術師である事実は絶大だ。週刊テサラですらメアを想って伏せていてくれたことだ。
「あ~…」
毎回この瞬間がたまらなく気まずかった。
この断る理由を必死に探している顔、何度見ても気まずい。胸がキュッとなる。
「あっ、もうこんな時間ですね!すみませんサイガさん、今日のところはここまでと言うことでお願いできますか?今度のクエストの計画を今日中に立てなくてはならないのです。また後日改めて連絡してもらえると嬉しいのですが」
悲しいことにいつしかメアは小芝居をするようになっていた。
今度のクエストなんてまだ決めてないし、今日中に立てなければいけない計画もない。
「あっ…、そうでござるか。すみませんでござる、そんなお忙しい中来ちゃってホント。都合が合ったら連絡させてもらうでござります」
助け船を出してもらったサイガはぺこりと頭を下げてギルドを出て行った。
たぶん二度と連絡はしてはこないだろう。ホントこの瞬間は何度体験しても慣れない。
「ぐあああああ!!」
悲鳴と共にギルドの奥のドアをぶち破って【黄金剣の絆】のスカウトマンがゴロゴロ転がって出てきた。
高級そうなスーツは半分に引き裂かれボロボロになっていた。
まるで大型の肉食動物に襲われた後のようだ。
「待てー!」
後を追ってイリスも飛び出してきた。その片手には室内用の短い魔術杖が握られていた。
スカウトマンは「ひぃいー!」と情けない声を上げ、ギルドのドアに体当たりし強引に外へと飛び出す。
「な、なんてギルドだ!わたしは由緒正しき【黄金剣の絆】のスカウトだぞ!こ、こんなちっぽけなギルドなんて簡単に潰せるんだぞ!覚えておけー!」
「やってみろー!顔は覚えたからなー!顔を洗って出直してこいー!」
捨て台詞を吐きながらスカウトマンは一心不乱に逃げて行った。
どうやら交渉は最悪の形で決裂したようだ。
「マスター荒れてるな…」
酒を飲んでいた【翠緑の若葉】の一人が引きながら呟いた。
「たくっ!最悪よ。メアを渡さなきゃ暗に潰すって脅しかけてきたのよあの男」
メアがべルートンを救って有名になって以来、ギルドへは問い合わせの電話が鳴り続け、よく分からない書類がばんばん届いていた。
新たに受付嬢イーラを雇っているとはいえイリスの仕事量は以前より10倍ぐらい増えていた。
電話はもう荒業で電話線を抜き解決したが、スカウトマンやメアへの取材目的にやってくるメディア記者への対応は心身ともに彼女を追い詰めつつあった。
「あの」
そのとき声がした。
イヤな予感がしたがイリスは振り返る。
そこにいたは高級そうなスーツを着た両手で名刺を差し出すメガネの男だった。
似たような格好だが、先ほどの【黄金剣の絆】のスカウトとは別個体のスカウトマンだ。
「どうも初めまして、わたくし【獅子王の尻尾】の者なのですが、今日はメア様についてのお話がしたくて参りました。お少しだけお話よろしいですか?」
プッツンと頭の中で何かが弾けた音がしてイリスはある決心をした。
※
「アルト君、メアちゃん、ほとぼりが冷めるまでの間、私の紹介するギルドに行ってみない?」
二人の出向が決まった。




