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【第2話】追放そして出会い

青い瞳の人魚(ブルーメード)】期待のルーキー、エルドナ・マテリアル。

ファンクラブまで存在する双剣士の美少女は僕をセクハラで訴えると言う。


「お前クビになって、セクハラでも訴えられるなんて踏んだり蹴ったりだな」


笑ってバラバロスは言うが冗談じゃない。

Aランクにクビを言い渡されBランクにセクハラで訴えると言われたFランクなんてドラゴンに挑まれたカエルのようなものだ。


「エルドナの教育係はアルト、お前だっただろ?」


焼き鳥の皿を僕の前からスゥーと自分の前に移動させ、エルドナと二人でシェアし始めたバラバロス。

教育係というか、ギルドに馴染めず独りだったエルドナとボッチ同士パーティーを組んでいただけだったのだが。


あの頃のエルドナは素直でいい子だった。

頭もよく冒険者のイロハをすぐ習得し、キラキラした目で夢を語るような子だった。


それが今では腐った目でビールを飲んでいる。


「こいつぅ喋らないし女みたいな顔をしてるじゃないですかぁ。だから私ずぅっと女だと思ってたんです。男みたいな名前した人だなってぇ」


アルトさんアルトさんと呼んで後ろ付いてきていた彼女はもういない。

こいつ呼ばわりはわりとショックだった。


「しょうがねぇよ正直俺も最初はアルトを女だと勘違いしていた。髪も伸ばしておさげにしてるし年がら年中喉を服で隠しているからな」


たしかに僕は結構かわいい顔をしている。

話せないこともあって昔から女性に間違われることは多かった。しかしエルドナには会ったその日に男だということは伝えていたはずだ。


「それでこいつぅ、俺のスキルでステータスを伸ばしてやるよって毎日身体にベタベタ触ってきてたんですよぉ…」


「マジか、それ…」


「二人っきりになったらとりあえず脱げって言われて…、揉むからって…」


「ウソだろ…、そんな卑劣なことが俺のギルドで陰ながらに行われていただなんて…!」


目の位置に手をやって泣くフリをするエルドナとそれに大げさに反応するバラバロス。

僕の横で三文芝居をやりだす二人。

予めそんな話はし合っていただろうに白々しい。

こういうとき話せないというのは不便だ。勝手に話を進められるのを強引に止めに行けない。


ただ一緒に組んでいた頃に僕のスキル【くすぐり】を応用してマッサージをしてあげていたのは事実だ。


ほとんどの人間の体内の魔力経路は大なり小なり歪んでいる。

歪みは魔力の流れを阻害し、扱う魔法にも大きな影響を出す。

歪みが少なければ少ないほどスムーズに魔力は操れて出力も増える。

この世界では優秀な冒険者とそうでない冒険者の差はここにあると言われている。


僕はそれをくすぐりで正しく改善させることができるのだ。

マッサージという形で。


エルドナも毎日丹念にマッサージしてあげたおかげで魔力の循環の歪みも解消され、たった一年で飛び級してBランクにまでなれた。つまり今の彼女の活躍は実は半分ぐらい僕のおかげでもある。


ちなみにマッサージで触れたのは首とか肩、手足に腰、背中ぐらいだ。それも服の上から。

エルドナが脱がされたと言っているのは防具のことだ。

それにマッサージの心地よさに二度目からは彼女の方から求めてきていた。

はっきり言いきれる!僕に下心はなかった。


気持ちがよくて強くもなれるマッサージ、それをタダでやってあげていたのに今さらセクハラだったといわれるのは納得がいかない。


「そんな怖い顔をするなよ。エルドナは訴えると言ってるが俺はお前次第では穏便に済ませていいと思ってるんだ」


「そーですよ。アルトさんが大人しくクビを受け入れるなら許してやってくれと優しいバラバロス様が言うからぁ、私ももうそれでいいかなぁって」


「セクハラがあっただなんてエルドナのイメージもギルドの評判も悪くなってしまうからな。副マスターとしては大事にはしたくないんだ」


イヤらしい奴らだ。

僕に選択肢があるように見えてまったくない。

暗にクビを拒んだら裁判起こすぞと脅してきているのだ。


裁判になってしまえばFランク冒険者が社会的地位も高いBランクAランクの二人に勝てはしない。セクハラ疑惑で裁判で負けてしまえば冒険者資格だって剥奪される。


どちらにしろこのギルドから追放されてしまうのなら───


「傷が少なくて済む方がいいだろ?」


まるで僕の想いを見透かしたかのようにバラバロスは言う。


「どうせクビなんだ、意地を張るだけ損するだけだぞ」


そうだな、その通りだ。


考えてみれば今の【青い瞳の人魚】にそう固執する理由もないしな。

最近の実力主義の空気は正直居心地が悪いし、仲のいい友達もいないし、むしろSSランクの人らとちょっと仲がいいからか他のみんなには嫌われる節あるし。


ギルドなんて他にもたくさんあるんだ、これを機会にFランクでも歓迎してくれる所を探して転職するのもいいかもしれない。


セクハラを認めるみたいで癪だったが僕は頷いた。


それにバラバロスはニッコリ笑顔になっていた。


「おーおーおー!よかったよ、お前が賢い奴で!」


「ぶっちゃけ裁判なんてめんどいだけですしねぇ、よかったー!」


ビールで乾杯する二人。いえーい。


なんてイヤな人たちなんだろうか。

人を貶めて喜べる彼らの気持ちが僕には分からなかった。


「二度と俺らの前に現れるなよ」


「バイバイ、アルトさん」


  ※

 

こうして僕はギルド【青い瞳の人魚】を追放されることになった。


諸々の脱退手続きはバラバロスの方でやってくれるらしい。

僕は最底辺の所属員だから一枚書類を書くだけで済むと言われた。


いつも通り少し騒がしいギルドの中、最後とは唐突にあっけなく来るもんなんだなぁなんて思いながら僕は何も言わずそこをあとにした。


  ※


ひとり孤独にギルドから出ていくアルトを眺めながらバラバロスとエルドナは話す。


「なんでぇバラバロス様はアルトさんを目の敵にするんです?」


「気になるか?」


「まぁはい。なんでアルトさんみたいな万年Fランクに固執するのかなぁって。無視しとけばいいじゃないですか」


ちょっぴり去っていくアルトの背中に同情してしまったエルドナだった。

それにバラバロスは手に握った焼き鳥のクシをへし折った。


「俺はな、いずれこのギルトのマスターになるつもりだ。それにはギルド内の選挙で勝つ必要がある!アルトは現マスター派、俺派じゃねぇ奴を排除したまでだ…!」


「それに…」と言葉を繋げた所でバラバロスはビールを飲んで口を噤んでしまった。

どうやらアルトを追放した理由は他にもあったらしい。

しかしそれがここで明かされることはなかった。


  ※


これからどうしよう。

途方に暮れて歩く僕はとりあえずギルドの寮に向かっていた。

ギルドから追放されたから寮も出て行かなけばならない。


どうせ引っ越すならいっそ町を出ようかな。それもうーんと遠い場所に。

新しい町で一新した気持ちでやり直そう!

いい出会いだってあるかもしれない!

追放されたのだって前に向きに考えればいいことだったかもしれない!


そう考えて僕は無理やり明るい気持ちに持って行った。


悔しかったからだ。バラバロスの奴に。エルドナの態度に。

好き勝手やられて好き放題言われたことが。

いいようにやられて何もできなかった自分が特に情けなくて。


頬に涙が流れていた。


強くなろう───、そう思った。


ん?


そこで僕は道端に倒れている人影に気付いた。

どうやら女性のようだ。

助けて関わるか?否か。


どうせ今は失うものは何もない無職だ。僕は駆け寄った。


この出会いが大きく僕の人生を大きく変えていくことにまだ知らず。


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