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【第17話】スペシャルトードの胃の中で


バラバロスを捕食した超巨大カエルが口をもぞもぞさせて彼の剣を吐き出した。

ペッと出された剣がくるくる回って地面に突き刺さった。


「バラバロス様ああああ!」


エルドナの悲痛な叫びが夕日に染まる草原に響いた。


「何ですか…、あれ…」


地上30メートルはあるだろうか。

ただでさえ人よりデカいビックトード。いま僕らの前に現れたのはそんな通常ビックトードがまさに普通のアマガエルに見えてしまうほどの規格外な大きさだ。


そんな超巨大ビックトードがベキベキとギャザー大森林の巨木を押し倒し圧し折りながら出てこようとしている。そして、


───跳んだ。


巨体を宙に浮かせて、カエルが空を跳んだ。


「わ、あああああああ!」メアが叫んだ。


ドッ、ズン!!


カエルの着地の衝撃は凄かった。草原がクレーター状にへこんで隆起した。

今まで立っていた大地が砕けて土塊となりちゃぶ台返しのごとくひっくり返った。


僕らも衝撃で宙に投げ出され地面に叩きつけられてしまった。


「あわわわわ…」


尻もちをついて顔面漂白になっていたのはメアだ。

怪我はないようだが尋常じゃないほど怯えている。

ボスクラスの初見じゃ仕方ないリアクションだ。しかし今は驚いている暇も怯えている暇もない。


[あのデカいカエルの名前は何て呼称すればいいと思う?]


落ち着かせるための質問だ。


「ス、スペシャルトード…?」


[よし、そう呼ぼうか]


本能で心がビビってしまった時はくだらないことに頭を回して不安を掻き消してやればいい。

特に頭の回転の速いメアには効果的だろう。


「し、師匠…。どうしたら…。あ、あんなの…」


[逃げよう]


「え、逃げ…」


これは僕らの手に負える案件ではない。

Aランクのバラバロスが何の役にも立たず食われて死んでしまったのだ。

普通のビックトード相手でやっとな僕らには何もできない。


Bランクのエルドナなんてすでに急斜面の土手を駆け上がって逃げてしまっている。

相変わらず状況判断が速く、危機管理能力に優れた子だ。


僕らも見習って早く退散しなければバラバロスの二の舞だ。

だがこの砕けてアスレチックのようになってしまった大地をエルドナ同様にピョンピョン跳んで逃げることはできない。


むしろ岩の後ろに隠れて嵐が過ぎ去るのを待つのが得策か。


「師匠!後ろ!」


え?


にゅるりと僕の身体にピンクの大蛇が巻き付いた。


いやこれはピンクの巨大な舌だ。

大蛇ではなくスペシャルトードの舌だ。


なんてパワーだ、重機のような力で締め付けられる。う、動けない。


「師匠!」


メアが手を伸ばしたが届かない。


ぐあああああああ!


そしてパクリとハエでも食べるかのような手軽さで僕は食された。


  ※


ううう…。


ここは…。


丸飲みにされた僕は気づけば膝当たりまで水で浸かった場所にいた。

真っ暗で何も見えないが酸っぱい下水のような臭気が鼻についた。

この刺激的な臭いを僕は知っている。


考えたくはないが、どうやらここはスペシャルトードの胃の中のようだ。


「誰だ?人か?クソ、剣、見つからねぇ…、どこ行った…」


一寸先すら視認できない漆黒の闇の向こうから声がした。


「【光球(ライト)】」


テニスポール大の光る玉が出現して場を照らしてくれた。

光の玉の下には胃液に半身浴しているバラバロスがいた。

生きていたのか。


「誰かと思えばアルトかよ。テメェも食べられたか!ハハハハハ!ざまあみろ!」


嬉しそうに言うがどの口が言っているのか。食べられたのはお前もだろ。


とりあえず場を確認しよう。

胃の中の広さは部屋一つ分ぐらいはあって縦に長かった。

上の方に僕らが落ちてきたであろう食道へ続く穴が確認できたが到底届きそうはない。

胃壁もヌルヌルしていて伝って登るのは不可能そうだ。


場に満ちているのは黄色い胃液だ。浸かっている部分がちょっぴりピリピリする。

きつかった臭いは意外とすぐ慣れた。


「まあいい。クソアルト、テメェの剣を貸せ。速攻このクソカエルを内から切り裂いて抜け出るぞ」


立ち上がったバラバロスが手を出して要求してきた。

剣か。アレ?気付くと僕の装備していた剣が鞘から消えてなくなっていた。

剣を取ろうとした手がスカッスカッと空ぶった。


「おい…、冗談だろ…」


まさか、スペシャルトードがバラバロスの剣だけをペッと吐き出していたがアレは偶然ではなく意図的にやっていたことなのか?人が焼き魚の骨だけを吐き出すように、危険物として僕の剣も器用に舌で抜いて捨てたというのか…。なんて頭の良さだ。


「役たたねぇな!死ねクソアルト!終わりだ終わり!死んだわこれッ!」


僕が剣を持っていないことに気付くや否や悪態ついてバラバロスは後ろの胃液へバタンキューと倒れていった。


ズンッ…!ズンッ…!と、衝撃が胃の中に響いた。

どうやらスペシャルトードが歩を進めているようだ。


恐らくべルートンの町を襲撃する気なのだろう。

もしこの超巨大カエルが土手を越え町に入れば大惨事は免れない。


僕は胃壁をペタペタ触って、あるポイントを探した。


「何やってんだよ、何やっても意味ねぇよ。俺たちは死ぬんだ!キャハーッ!」


後ろの方でバラバロスが壊れ始めた。いい大人が醜悪にキャーキャー猿叫をあげている。

見苦しい男は無視して気にせず僕はペタペタを続けた。


「どうせ死ぬんだ、最期に告白してやる。俺はよ、初めお前と出会ったときお前のことを女だと勘違いして一目惚れしてしまっていたんだぜ。なんだこの可愛い子は。この世に舞い降りた天使じゃねぇかってよ。ずぎゅんと心を射止められたぜ。クハハハハ!」


ほっといていた後ろのバカがとんでもないことを口にし始めてきた。

最悪だ。聞きたくない内容すぎる。

なんてこと暴露してくるんだこいつ。


「出会いに運命を感じたよ。お前の顔!匂い!手!笑い方!全てが好みだった!!Fランクから抜け出せないクソ雑魚で話せないことすらむしろ愛しく思えた!俺が守ってやりてぇと!仲良くなって一緒に酒飲んで頭の端から足の先まで余すとこなくハスハスしたいともよ!!お前のことがこの上なく大好きだったんだぜぇ!!」


こいつ死ぬ気だ。死ぬ気満々だ。一縷の望みも捨てて万が一助かる可能性すら信じていない。

死ぬからいいやのつもりで口に出している。

後で後悔することになっても知らないぞ。頼むから黙っててくれ。


「そんなお前がギルドの大浴場の男湯に入って来た時はビビった…、どんだけお茶目でドジな子なんだって…。湯に浸かりながら凝視させてもらったよ。…なあ、お前に分かるか?心の底から惚れた相手に自分よりデケェ一物が生えてた時の男の気持ちがッッ!!」


知らないよ。なぜキレてくる、僕どこも何も悪くないじゃないか。

バラバロスは胃液に濡れた手で髪をかき上げた。普通に汚いと思ったが今さらか。


「その日からずっとだ。飯を食ってる時も女を抱いてる時もテメェの顔が浮かぶ。夢の中にも出てくんだよ、お前が。だがな…、夢の中のお前は女なんだ。俺の言うことなら何でも応えてくれる最高の女なんだ。なのに夢から覚めたらそんな女は、どこにもいねぇ…。俺の朝は絶望から始まるんだ」


まさか泣いているのか?お前。

情緒不安定になっていて怖いし気持ち悪い。


「だが俺は天才魔法剣士バラバロス様だ。そんなんじゃいけねぇ、いつまでも存在しない女の尻を追っかけてはいられなかった…。だからテメェを追放した、消えねぇ幻想から脱却するためによ!青い瞳の人魚に相応しくなかったから!?エルドナへのセクハラ!?選挙のためにマスター派を減らしたかった!?違うッ!そんなもの全て二の次だ!!


───ただ、お前の面を二度と拝みたくなかっただけなんだよ」


プツンと頭にきたので後ろを振り返りバラバロスのアゴを蹴り上げてやった。

バラバロスは避けようとも防ごうともせず、ゴッ!と鈍い音をたてて後ろの胃液に沈んだ。


クソやろうが。そんなくだらない理由で僕を追放したのか。

あまりにも人をバカにしているだろ。

勝手に勘違いし勝手に惚れて勝手に失恋して、勝手すぎるぞ。


「痛ぇな…、気は、済んだか…、クソアルト」


済むわけないだろ。まだまだ痛めつけたい。後100発は蹴って殴りたい気分だ。


「どうせ死ぬんだ…!もっと蹴ってこいよ!本気で殴ってこいよ!グハハハハハ!」


本当に気持ちの悪いやつだ、身の毛がよだつ。関わりたくもない。


僕はまた胃壁をペタペタ探る作業に戻った。バカに付き合っている時間はない。

こうしている間にもスペシャルトードは歩を進めている。

べルートン壊滅までのカウントダウンは始まっているのだ。


「まさかよ…、お前くすぐるつもりか?」


気付いたか。ああそうだよ。くすぐるんだ。

くすぐりにいいポイントを探しているんだ。だから邪魔するな。


「ハーッハハハハハ!バカかお前!カエルは笑わねぇ、鳴くもんだ!そもそも胃の中に笑いのツボなんてないだろ!!雑魚で頭まで弱いだなんて救いようがねぇな!」


言ってろ。【くすぐり】に笑いのツボの有無は関係ない。

触れた部分から魔力を触手状に浸透させて魔力経路を直接刺激し相手を笑わすのだ。

表面に感覚がなくとも内部にそれが備わっていれば僕のスキルは通用する。


ただこの巨大なカエルはあまりにもデカすぎて胃壁も分厚いため、すぐ先に魔力経路が通っているポイントが必要なのだ。


なんて説明していると、あった、ここだ。

僕には分かる、この当たりの胃壁の向こうに大きな魔力の流れがあるのが。


「Fランクのゴミがあがくなよ…、どうせ死ぬんだ。消化されてドロドロになるんだよ俺たちは!」


そうかもしれないな。

僕らは多分このまま消化されて死ぬだろう。あがくことは無駄なことなのかもしれない。


でもだからって()()()()()ということだけは()()


Aランクのエリートで決して危険を冒さないお前は知らないだろうが、低ランクでは死にかけるっていうことはしばしばあることだ。いつだって弱い僕らは死の横で戦っている。こんな怖さは慣れっこなものだ。

力も技も経験も全てで劣っていると思っていたが、死地での立ち回り方だけは僕の方が上だったようだな。


ビビるなよバラバロス。

九死で一生を得ることのできる人間はいつだって最後まで諦めなかった者だけだぜ。


「…気に入らねぇ!テメェはいつもそうだ…!いつだって俺の思い通りにならない!俺に希望を抱かせようとするな!!俺たちはここで死ぬんだよ!」


…ゲコッ!


それは、今までとは異質なカエルの鳴き声だった。

僕とバラバロスは揃って無言のまま上を見上げた。


ゲッ、ゲッ、ゲコッ!ゲッ!ゲッ!ゲココッ!ゲッ!ゲコッ!ゲッ、ゲッ、ゲコッ!


「冗談だろ…」


カエルが笑った。


胃の中にもスペシャルトードの笑い声が響いて聞こえた。

そして同時にカエルの歩を進める音と振動が止んだ。


外の様子はまるっきり分からないが足止めはできたようだ。

くすぐりを続けながら僕は一息ついた。


食されたのは正解だったかもしれない。外からでは接近することもできなかっただろう。

捕食されたことで胃の中に侵入でき、こうやって安全(?)に攻撃できている。

怪我の功名というやつだな。


「だが足止めしてどうするんだ!!誰がこのバカデカいカエルを倒せると言うんだ!べルートンにいる冒険者なんて駆け出しのゴミしかいねぇだろ!エルドナだって無理だ!これはSSランク案件だ!!誰がいるんだよ!!」


メアがいる。


  ※


大惨事になった草原に取り残された少女の姿があった。

メアだ。


メアは隆起し起き立った土塊の影に身を潜めてガタガタ震えていた。


二人死んだ。一瞬で食べられて死んだ。

一人は強そうな人が、もう一人は大切な人が、目の前で。


少女が人の死に立ち会うのはこれが初めてのことだった。

誰しもが劇的な死を迎えて世界の中心で死ねるなんては思っていなかった。だがこれは余りにも呆気なさすぎる死だ。誰が今日カエルに食べられて死ぬなんて思う。こんなこと全く頭になかった。


どこかで自分は「大丈夫」だと思っていた。

自分だけは死から遠い場所にいると高を括っていた。


その証拠に少女は未だ死を現実のものだと感じることができていなかった。

悲しいはずなのに、耐えがたき苦しみのはずなのに、アルトの死に実感がない。

胸中にあるのは恐怖だけだった。


「う、ううう…」


かちかち歯を鳴らしてぽろぽろ涙を流す。

二度と、もう二度と会えないのに不思議とまた会えるような気がしてならないのだ。


「師匠…」


スペシャルトードは隠れたメアにそう固執するわけでもなくべルートンの町へと前進する。

動きはノロいが一歩のスケールが大きく、すでに草原の中央当たりにまで達している。

草原と町の間には大きな土手があるがあんなもの一跳びで越えられてしまうだろう。


のっそりとした巨大な一歩が地面を揺らすたびにメアは恐怖に慄く。

足畳んで胸に抱き、小さく小さく体を縮こめて震える。


アルトは言っていた、もしもの場合は自分の命を最優先にするんだと。

その言葉を免罪符にメアはこのまま隠れていることにした。


それに町には多くの冒険者がいる。自分はその中でも最底辺の魔法使いだ。どうせ役には立てないのだから出しゃばらない方がきっといいはずだ。


そうだ。実際何ができる。

魔法の射程に入って複合魔法を使うにしても長い詠唱中は無防備、魔力を練っている間にすぐ気取られてパクッと一飲みにされて食べられちゃうだけだ。


べルートンの町が蹂躙され大勢が犠牲になろうとも、駆け出し冒険者に責はないのだ。


「ご、ごめんなさい…、ごめんなさい…、ごめんなさい…」


土手の上には大勢のべルートンの住民たちが集まっていた。

彼らはスペシャルトードの跳躍による大地の揺れで異変を知りやってきていた。


「ウソだろ…」


草原の光景を見た全員が絶句した。

大地がぐちゃぐちゃになった草原に怪獣のような超ド級ビックトード。

見慣れた光景は消え失せ、夢か幻か疑ってしまうような場景が広がっていたのだからだ。


「…何だよ!あのデカすぎるカエルは!!」


「だ、誰か!すぐ【仙蛙】から冒険者呼んで来い…!全員だ!全員来てもらえ!!」


「いや、避難だよ!あんなもん無理だ!町のみんなを逃がした方がいい!」


「間に合わねぇよ!爺さん婆さん子供らは呑気に夕飯食ってんだぞ!」


「それでも逃げるしかねぇだろ…!」


対応への意見は出るがみんな頭では分かっていた。

これはもう手遅れだ。


避難も迎撃も今からでは到底間に合わない。


あまりにもこの襲来は唐突すぎた。

なぜあんな大森林の巨木すら超える巨大なカエルの接近に誰も気付かなかったのかなんて今さら話し合っても意義のない話だ。


「もうダメだ、見てることしかできない…」


「ふざけるな!せめて逃げれる人間は逃がすぞ…!」


数人がパニックになりながらも町に有事を伝えるために駆けて行った。


「カエルで栄えた町がカエルに潰されて終わるか…」


残った者らはただ傍観していた。

どうすることもできないと諦観して、眺め続けることしかできなかった。


「あれは大地の怒りじゃ…、人の増長を咎める神罰なのじゃ…」


「最長老様…」


遅れて土手に現れたのは幼子二人に寄り添われた黒衣に身を包む老婆だった。

ぎょろりとした目をギラつかせてその場にいる者らを睨みつけた。


「ババ様~、私たち食べられちゃうの~?」


「や~だ~よ~」


幼いながらに事の大きさを理解しているようで可愛らしい二人の子が老婆の服を引いた。


「恐れることはないよ子供たち…、還るだけじゃ…」


老婆はそんな幼子らをギュッと優しく抱きしめた。


「怒りの化身が大地を踏みしめ顕るる時…、異翼の風まといし勇者が金色の獣携え現れ得る…。べルートンの古より残る言い伝えを、信ずなさい…」


ゲコッ…!


突然、超ド級カエルが動きを止めた。


「ん…?なんだ…」


様子がおかしい。身体を小刻みに震えて口を痙攣させている。

まさか攻撃魔法を使うんじゃないのか!?と誰かが叫んだが違うらしい。


ゲッ、ゲッ、ゲコッ!ゲッ!ゲッ!ゲココッ!ゲッ!ゲコッ!ゲッ、ゲッ、ゲコッ!


カエルが笑った。


巨大なカエルが大きな口を更に大きく開いてだ。

上を向いて噴き出したマグマのようなに笑い始めたのだ。


その顔はとても気持ちよさそうであった。


「気持ちわりぃ…、カエルが笑うのなんて聞いたことねぇぞ…」


「普通のカエルとは違うんだ…。バケモンだ…」


気持ちよさそうな顔をするスペシャルトードと相対して、笑うはずのないカエルの高笑いに眺めていた者らはえも言えぬ不気味さを感じた。


それは捕食されたアルトによって引き起こされた現象だったが、そのことを知る由もないべルートンの人々の目にはその光景がどう見えただろうか。


「怒りじゃ…、怒っておられるのじゃ…。これより科す凄惨たる神罰に笑っておられるのじゃ…」


「楽しんでいるのか…?あのカエル…」


「べルートンは終わりだ…」


その頃、草原に取り残された少女が恐るおそる土塊の陰から顔を出していた。

怖くてたまらなかったが止んだ振動と音にカエルの笑い声となれば気にならない訳がない。


ひょっこりと顔を出した先で夕日色に染まるスペシャルトードが全力で笑っていた。


その光景にべルートンの人々はみな恐怖した。


悪魔のような残酷な笑いは目にした者らに恐れを抱かせ希望を奪った。

アリの巣を前にした童子のように笑う様は無邪気な狂気を漂わせ、耳にした者らに己が捕食される側だということを分からせた。


だが、その少女は違った。

なぜか不思議とそれが怖くなかった。


二度と会うことのできない大事な人の顔を思い出しながら、少女は呟いた。


「師匠…?」


  ※


「ぎゃあああああああああ!」


スペシャルトードのすっぱく臭い胃の中でバラバロスが跳び上がった。

なに遊んでるんだと思ったアルトも次の瞬間同じく跳び上がった。


あちちちちちち!


くすぐっていた手を放してしまった。


二人はバチャバチャ右足上げて左足上げてとダンスのような滑稽な動きを繰り返した。


「あッ!熱いッ!?痛いッ!?痛いッ!痛いッ!痛いッ!!」


胃に満ちていた胃液がとつじょ強酸化したのだ。

量も地味に増えているようで少しずつ水嵩も上がってきている。


「バカアルト!テメェが余計なことをするからクソカエルのヤツ俺らを消化するつもりだぞ!」


異変を感じたスペシャルトードが本気で消化に取り掛かったようだ。

人肌ほどでぬる温かった胃液が骨まで溶かす地獄の熱湯風呂に変貌した。


バラバロスが胃壁を登って逃れようとしたが、ヌルヌルして登れない。


「チクショーッ!登れねぇッ!!」


無様に背中から胃液に落ちて暴れて飛び跳ねていた。


まずい。アルトはそう思った。

【くすぐり】には集中力がいる。この激痛の中では集中してくすぐりを続けることはできない。


笑いによるスペシャルトードの楔が解けてしまえば終わりだ。

動きを止めたカエルを誰かに倒してもらえば自分らも助かる。そういう希望を胸に秘めていたのにこのままではその計画が瓦解してしまう。

今すぐにでも【くすぐり】を再開させなければいけない。だが胃液に浸かる下半身が熱くて痛くてそれどころではない。


この激しい消化力、五分も保たずに骨になるぞ。


アルトは下半身が骨だけになった自分を想像してゾッとした。

いや、この消化力では骨も残らないか。


「アルトーッ!!」


バラバロスが叫んだ。

怨恨怒り嫉妬その他いろいろな感情の入り混ざった彼の最期に言い残す魂の言葉だった。


「やること成すこと全てが上手くいっていた順風満帆な俺の人生!テメェと出会って歯車が狂った!こうなったのも全部お前のせいだぞ!クソーッ!!」


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