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【第15話】翠緑の若葉


僕らがここベルートンの町で生活を始めて早一週間の時が経った。

魔法飛び交い剣が振るわれカエルの鳴く草原の戦場は相変わらずの様子だ。


僕らも相変わらずカエルの周りをグルグル回りながら戦っていた。


「やー!」


パコリ!メアの魔術杖での殴打で微量なダメージがビックトードのお尻に入る。

ゲコォー!!とちょうどその一撃がトドメとなってカエルは絶命した。


「やりましたー!」


少女はその場でぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを表現した。

時計を確認するとカエル一体倒すのにかかる時間は一時間半までに短くなっていた。

二時間から三十分の短縮だ。この差は大きい。

そしてこれは僕らの成長の証でもある。


特にこの一週間でメアは成長した。

最初の頃は三十分も戦えばバテバテだったのに今では最後まで付いてこれるようになった。

物理攻撃力はそう変わってないので出せるダメージこそ少ないが、体力は段違いに増えている。


メアが囮になってくれるだけでも僕の攻撃チャンス数が増えて大助かりだ。


「そりゃまあ食べられちゃいますからね!死ぬ気で動き続けてたらイヤでもスタミナは付きます!」


この一週間でメアは三回ビックトードに捕食された。

めちゃくちゃ臭いカエルの胃の中を二度と体験したくないという気持ちも彼女の成長に繋がったのかもしれない。


「午前中のうちにもう一体ぐらい倒します?」


[いやいったん休憩に入ろう。昼食を食べに行こうか]


「はい!」


最近僕らは昼は決まって【デ・パーロ】という草原近くの大きなカフェを利用するようになっていた。

ここはメアが【酒水神の天鉾】のシャーロットさんからおススメされた店で、カップル割というもので超リーズナブルな値段で定食とデザートを食べることができる店なのだ。


入店すると昼前だというのに多くのカップルがいた。

中には装備に身を包んだ冒険者らしきカップルもいた。


別に僕とメアは恋人同士ではないが手を繋いで入店するだけで一食分安く済ませれるのならやらない手はない。旅館に戻れば無料で昼食を取ることはできるが、やはりこういうのはロマンを求めてこそだろう。


見てくれこのバカでかいパンケーキが300GPなのだ、凄すぎるぞデ・パーロ。

僕はもうこの店(デ・パーロ)の虜だ。


「師匠がそうやって可愛い物を食べているとほんと女性にしか見えませんね、へへ」


なんとでも言ってくれ。僕はこういう甘いデザートが好きなんだ。

食べても食べても減らないパンケーキは夢のよう。ほんとデカいなぁ。


「私はこの半分でお腹いっぱいになるので師匠に半分プレゼントします」


メアは半分に割ったパンケーキの片割れを僕の皿に移してきた。

ふふふ、さすがに1.5倍になると…。

いや食べれる。甘い物はいくらでもお腹に入るものだ。


二本角のフォークでパンケーキを切り分け口に運ぶ。

疲れた体にふわふわな甘みが染みる。んー、最高だ。


そんな僕を尻目にメアは苦めのコーヒーを飲みながら一通の手紙を取り出して読みだした。


メアは旅館で夜な夜な手紙を書いている。

手紙というか報告書というか、手紙で今日何があったとか何食べたとか僕が怪しい動きをしてないかとかの報告をしているらしい。


相手は両親と所属する【翠緑の若葉】のギルドマスター・イリスとだそうだ。


毎日は大変だなと言うと、それが両親と交わした冒険者になる条件で、マスター・イリスとの僕とパーティーを組むために交わした条件だったらしい。


基本的にメアが一方的に手紙を送るだけだが今日は珍しくイリスさんの方から手紙が届いていた。


「師匠、マスターが師匠も連れて一度ギルドに戻ってきてだそうです」


[僕も?]


「はい。できれば今日の内にって」


うーん、イヤな予感がする。

メアだけならまだしもギルド員ではない僕までわざわざ呼ばれているのだから要件はきっと僕に関することだよな…。


[僕らがいま一緒の部屋で生活しているのはもう伝えてるんだよね?]


「はい!でも師匠が一切エッチなことはしてこようとしないのもちゃんと伝えてますよ?」


んー、逆に僕がそうメアに報告させているとか勘ぐられてしまったのかもしれない。

イリスには面接で僕が男だということは知られているし、マズいな。


[足つぼマッサージのことは?]


「あっ、しました…」


同部屋で男女で足つぼマッサージがアウト判定されたか…?


「もしかして…、パーティー解消させられるとか、ありますかね…?」


[最悪あるかもしれないな。いやその可能性は大だ]


「そんな…」


メアも立派なひとりの冒険者だ。

誰とパーティーを組もうと本人の自由だが、まだ十代半ばの少女でもある。

モラルを盾に二度とメアに接近するなとギルドのマスターに言われればFランク冒険者の僕は大人しくそれに従うしかない。


「すみません師匠。冒険する毎日が楽しくてつい全部手紙に書いちゃったんです…。今日はこんなことしたよ、心配しなくて大丈夫ですよって…」


[気に病むことはない、メアは何も悪くないよ]


報告書でウソをつけとは言えないしな。

楽しくやっていたら両親やマスターにそれを伝えたくなる気持ちもわかる。


「マスターには私から話します。もしそれで説得できなかった場合は、私は…」


少女はギルドに残るか、僕を取って共に去るかで悩む。

拾ってくれたマスター・イリスか、パーティーを組んでくれた僕、どちらに義理を通すかに挟まれて。

だが───


[もしもの時はメアはギルドに残ってほしい。冒険者はギルドにいてこそだよ]


ただでさえバラバロスに悪評をばらまかれどこのギルドにも入れてもらえない僕だ。

メアというハズレ職の少女までオマケでついてきたらギルド入団はますます絶望的になる。


別にメアをディするつもりはない。ただせっかくギルドに所属しているのならそれをむざむざ捨てるのはもったいないと言っているのだ。


「でも師匠がいなかったら、私…」


[まあまだパーティーを解消しろと言われると決まったわけじゃない。とりあえずオルーナに戻ってイリスさんと話そう]


「…ですね、グスッ…」


メアは青ざめてもう泣きそうだ。

段ボールに入れられ捨てられようとしている子犬のようだ。

仕方ない…。


[分かった。メア、もしもの時は一緒に来い。これから先も仲間として僕の横にいてくれ]


僕はそう言った。メアは顔をパァーとさせた。

メアのような自分に自信のない子にはきっぱりとした断言は救いになるだろう。


「はい…!でも絶対マスターを説得してみせます!師匠はいい人だって!これからも一緒に冒険できるように頼み込みます!」


頼んだよ。


そして僕らは三時間列車に揺られギルド【翠緑の若葉】のあるオルーナに戻ってきた。

列車の中でもどう説得するか二人で相談し合っていたがメアは秘策があります!と意気込んでいた。


ギルドの扉を開ける。少ないが冒険者が募集中のクエストを確認したり食事をとっていた。


ギルドマスター兼受付嬢のマスター・イリスが受付テーブルにいると思ったが違う女の子がそこには座っていた。別の子が受付をやっていた。


「新しく受付の人を雇ったんですかね?」


その時僕らの背後の扉が開かれ「あら?メアと師匠くん?」とイリスが現れた。

これで会うのは二度目になる二十代後半、淡いヒスイ色の長髪を後ろに束ねたスレンダーな美女だ。


振り向くと同時にメアが有無を言わさずフロアにひれ伏して土下座した。

小柄な身をさらに縮こませて少女は頭を下げていた。

背徳感ある光景だ。あまりの尊厳なき光景に僕の汗は滝のように流れた。

もしかしてこれが秘策か。


「マスター!どうか師匠と私を引き離さないでください!お願いします!まだまだ師匠とはいろんな所に行って冒険を続けたいんです!」


ギルドの中で少女の悲痛な訴えが響いた。


  ※


「誤解よ~。メアからアルトくんを遠ざける気なんてさらさらないわ」


ギルド中心のテーブルでイリスがほほ笑んだ。

その対面に僕らは座っている。


「ほ、ほんとですか…?」


「安心して。むしろ私は二人の活動を応援しているんだから、フフフ」


どうやら全部僕らの早とちりだったようだ。

またクエストを受けれない状況に陥って野宿生活に身を落とす心配はしなくて済むようだ。

野宿と【仙蛙】生活は天と地ほどの差があるからな。今の生活が継続できることに感謝する。


「よかったです…、一緒のお部屋で寝泊まりしてるからそれを理由に引き離されると…」


「びっくりしたわよ~、師匠くんが女の子みたいだからって組んで早々一緒の部屋だなんて。すぐべルートンまで飛んで行って説教しなきゃかなと思ったけどメアの方がべた惚れだったから様子見することにしたの。師匠くん凄いのよ?メアの手紙ってずっと師匠くんのことばっかりなんだから、貴方のこと褒めちぎりよ」


「あ゛ー!!!なんで言うんですか!!」


「ごめんごめん、フフフ」


珍しくメアが怒った。顔を真っ赤にして。

まあメアが僕に好意を持っているのはバレバレだったから今さら驚きもしない。


「ホントはね、最初メアが師匠くんと組むのは反対だったわ」


イリスは先ほどまでの朗らかだった雰囲気を一転させて真剣な顔を見せた。


「そうだったんですか?」


「噂があったの。この国一番のギルド【青い瞳の人魚】でアルトって女顔のFランクがギルドで飼っているペットにヘコヘコ腰を振っていたのが見つかって追放されたって。うちに師匠くんが来たとき、あっこの子が噂のアルトくんだってことはすぐ気付いたわ」


ふざけるなよバラバロス、なんて噂を流すんだ。


「でもね、一応私もギルドマスターだから人を見る目はあるの。面接で一目で貴方がそんな人じゃないことはわかったわ。バラバロス君でしょ?そんなくだらない人を貶めるウソの噂を流すのは」


バラバロスを知っているのか。

頭を縦に振ってYESと答えた。


「やっぱりね。青い瞳の人魚で副ギルドマスターになったっては聞いてたけど性根変わってないな~。バラバロス君とは同じ人に弟子入りした先輩後輩の関係だったの。昔から気に食わない相手にはあらゆる手を使って蹴落とすタイプだったわ」


イリスは感慨にふけて一口お茶を飲む。


「マスター、悪い人でないと思ったのなら、なぜ師匠のギルド入団を拒否したんです?」


「それはね。残酷なことを言うけれど師匠くんが弱いからよ」


「弱かったから、ですか…?でも強くない人の冒険者なんてたくさんいますよ?」


「そうね。でも冒険者を五年やっていてFランクなんて人は他にいないわ。別の道に進んだ方が本人のためなの。だから私はアルトくんをギルドに入れなかった」


本人を前にぐっさりくるな。

まあ言われ慣れたことだ。もはや何と言われようと挫けない。


「そしてメア、貴方もそうなるはずだった」


「…私は師匠より何倍も弱いですからね」


「新人なんだから弱くて当たり前よ。成長に期待してギルドは新人を受け入れるのよ。弱さ強さは関係ない。師匠くんは成長しきってFランクだったから…、ね?」


何が「ね?」だ。可愛く言ってもダメだ。

流れ矢に心が挫けそうだ。


「でもメアは違う。貴方は根本的から冒険者には向いていなかった。一昨日【ひまわりの光輪】のシルバがやってきたわ」


「シルバさんが…?」


「ええ。要件は「なぜメアをギルドに入れた?」だったわ」


「あ、すみません…、べルートンで会ってお話ししたんです」


「なぜ行く先々のギルドが貴方をギルドに入れなかったか分かるかしら?」


「そ、それは…、ハズレの複合魔術師で…、魔法もちゃんと扱えないから…」


「確かに魔法使いなのに魔法は苦手ね。でも非常に高い賢さがある。魔法に対しての高い理解もある。貴方は冒険者よりも魔法の研究者になるべきだったのよ。冒険者以外の道なら貴方は無限の可能性に秘めた逸材になれるの」


「私に冒険者を諦めさせるために皆さんはギルドに入れてくれなかったというんですか…?」


「そうよ。他のギルドマスターたちはそう判断したんだと思う。道でばったり出会って貴方のことを何も知らずノリでギルドに入れてしまった愚かな私以外のね。きっと私と出会わなければ人より秀でた頭の良さを評価され、いい魔法研究者になれていたはずよ」


私との出会いが貴方の可能性を潰してしまった、ごめんなさいメア。とイリスは言った。

若いメアなら今からでも研究者を目指すことはできるだろうが、一度入れてしまったギルドからワクワクドキドキしているメアを追い出すなんて残酷なことはイリスにはできなかったのだろう。


「謝らないでください。私はマスターと出会えてよかったですよ。だってそのおかげで師匠と出会え冒険にも行けたんですから。それにマスターのこと大好きですし。だから、出会わなければとか言わないで、ほしいです…」


「メア…」


生まれた瞬間から上級職だった複合魔術師メア。頭脳に関するステータス値は非凡にある。

きっと彼女は研究者の類を目指した方が大成できるだろう。

百人中百人が命の危機もある冒険者より才能を生かせる研究者になれと進めることだろう。僕だってそう思う。

だがそれは周りの大人の価値観だ。


「実はね、何度か二人を見にべルートンまで行ったのよ?土手の上からね」


「えっ、気づきませんでした。来ていたんですか?」


「うん。ついでにギルドを留守にするから新しく受付の子も雇ったの。ナーラよ」


ナーラと紹介された受付の子を見るとヒラヒラこちらに手を振ってくれた。

地味目だがいい子そうな子だ。


「驚いたわ、魔法使いなのに杖振り回して戦ってるんだもん。一緒懸命に、活き活きしてたね」


「へへへ。無我夢中なんですけどねいつも。何度か食べられちゃったし」


「フフフ、そんなメアを見てて、よかったと思ったの。私の選択は多分間違っていた。でも、それでも貴方は今…」


「はい。私はいま幸せです。全部マスターに出会えたおかげなんです」


にっこりメアは笑ってみせた。

選んだ道が間違っているかどうかは本人が決めることだ。

イリスの選択の答えを少女は笑顔で示してあげたのだ。


「ずっと後悔していたわ。貴方に希望を抱かせてしまったこと。ずっと我慢させて悔しい思いをさせてしまっていたこと…。貴方が断られているのが目に入る度に私は貴方に謝りたかった…」


テーブルのメアの小さな右手を両手で覆ってイリスは美しい顔を曇らせた。

「はい…」とだけメアは優しく相槌してイリスの両手の上に左手を添えた。


「ありがとう師匠くん…、メアを冒険に連れて行ってくれて」


にっこりと頭を下げて感謝を告げられた。


「イヤなことを言っちゃったわね」


まったくだ。たぶん僕を下げる必要はなかったよな。

「師匠は器が大きい方ですから全然気にしてませんよ」とメアが言った。

「ね?」と可愛らしく確認してきたので頷いてやった。

ここで傷つきました許しませんと言っても僕の格が下がるだけだしな。水に流そう。


「心が通じ合ってるのね」


「えへへへ…、弟子ですから当然ですよ」


「よかったら、ギルドに入ってもらえないかな?」


それは思ってもいなかった言葉で不意を突かれた。

え?それは僕?メアにじゃないよな?


「そっ、それは師匠にですか!?」


「ええ。フフ、そもそもそれを伝えたいがため今日は師匠くんにもきてもらったのよ?」


そうだったのか。メアが土下座なんてしちゃうから変な話に逸れてしまったんだな。でもそのおかげでイリスさんもメアに伝えたかったことが伝えられたし結果オーライか。


【翠緑の若葉】への入団、小さなギルドだがそれは願ってもいない話だ。

断る理由はない。元々入りたかったし、僕もクエストを受けれるようになれば選択肢になるクエストも幅広くなる。


「またイヤなことを言っちゃうけどこれから先いろんな苦労があると思う。乗り越えられる壁できない壁が二人の前には何度も立ち塞いでくるわ、人より多くね。でも、やりたいんだよね?」


「はい…!師匠も同様の考えです」


「なら私ももう迷わないわ。全力でサポートしたいと思っている。師匠くんどうかしら?」


僕は頷いた。イリスは微笑んだ。


「師匠!よかったですね!これでギルド公認のパーティーですよ!」


メアが僕の手を取ってぶんぶん振ってきた。めちゃくちゃ喜んでいる。

無所属のFランクがやっとギルドに属せただけなんだが喜んでくれている。

早くこの子が胸を張って誇れる冒険者にならなきゃな。


言葉が出せない代わりに僕は手を出す。


「これからよろしくね、アルトくん」


その手に応えたイリスと握手を交わした。暖かい手だった。

ああ、こちらこそよろしくだマスター・イリス。


「じゃあナーラがうちにやってきたお祝いも兼ねて美味しい物を食べに行きましょうか」


「おー!いいですね!」


それはいいな。

最近は毎日休みの日もなくカエルと戦っていたからいい気分転換になる。


「おいしーお店知ってるのよ~」


「もちろんマスターのおごりですよね?」


「そこは私の初報酬で奢りますよとか言っちゃう所じゃないのかしら?」


「そのイベントは師匠と既に済ませましたよ、へへ」


「はいはい。食事は夜になるし私もまだ仕事残っているからお買い物でも行ってらっしゃい」


「は~い」


「師匠くん、これからもメアのことよろしくね」


まあパーティーとして仲間としては全力で支え守るつもりだ。


「でも思ったんですけど、バラバロスって人ももしかして師匠のために冒険者とは違う道に行かせようとして追放したり悪評広めたりしたって可能性はありませんかね?」


「[いいや、それはない」] 


  ※


その夜はイリスおススメの店で美味しい食事を楽しみ二次会でイリスのウチで朝まで飲み明かした。

僕はお酒耐性ゼロで一口飲んだら酔って更に飲んで飲んで記憶を飛ばしちゃうタイプだ。


目を覚ますと隣でメアが添い寝していてナーラがベッドでスヤスヤしており、イリスがよくわからない位置でパンツ丸見えで倒れていた。


美人の無様な姿はなんか興奮する。

あまりパンツを見たら悪いなと思って目をそらした。


ガンガン頭が痛い中、自分が上の服を着ていないことに気付いた。

なんで上半身裸なんだ僕。

記憶が飛んでいて何があったかわからない、飲んで騒いで楽しかったのだけしか覚えていない。


カーテンの隙間から光差し込む部屋の空気はお酒と吐しゃ物の臭いでムワッとしていた。

喉が渇いていたので水を探すが、テーブルの上にはたくさんの木製ビールジョッキが所狭しと転がっていた。たくさん飲んだな。

頭痛も凄い、完全に二日酔いだ。


水の入ったコップがあった。誰の飲みかけは知らないがこの際気にしない。


ふう、ホントに楽しかったな。イリスもナーラもいい人だ。

こういうのは【青い瞳の人魚】ではなかったことだ。


メアは僕と出会えてよかったと言ってくれるが、僕の方こそメアと出会えてよかった。


ありがとう。

僕と出会ってくれて。


  ※


夕暮れでオレンジ一色に染められたべルートンの草原は昼間と違って静かだ。

日が暮れ始めるとビックトードたちはギャザー大森林に帰り、多くの冒険者たちも引き上げていく。


うるさかった戦場は人がいなくなると途端に静まり返って回収を待つカエルの死体が墓標のように点在するだけになるのだ。


そんな中、一匹残ったビックトードとそのカエルの口から飛び出た人の両足を掴んで叫ぶ少女の姿があった。


「イヤーッ!!!!師匠!諦めないでーッ!!」


人のいない戦場で風が草原をなぞる。

少女の助けに応える者は誰もいない。


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