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【第14話】ドキドキお泊り回

 

老舗旅館【仙蛙】の客室は評判通り豪華だった。

旅館の外見に沿った静かで雰囲気あるいい部屋だ。大きな窓からはべルートンの町が一望できる。

オシャレ空間、さすがは一泊で10万GPもする宿だ。


「すっごい寝心地いいですよー!!師匠ー!」


僕が高級品で完成された部屋を詮索している間にメアは防具を脱ぎ去りベッドにダイブしていた。


「ギルド寮のはぺちゃんこお布団だからこんなお布団で眠れるの夢のようです!」


切実なことを言う。よかったなメア。

お金のなかった僕も最近はずっと野宿生活していたからこれは嬉しい。

新聞紙にくるまって寝ていたからな。秋の夜の下は寒かった。


「しかし師匠、なんでこんなお高い部屋が一人たった2000GPで借りれるんですか?」


ベッドの上で手足を伸ばし全身で手触りの良さを体感しながらメアは聞いてきた。

彼女の言う通り本来一泊10万GPもするこの部屋を僕らは今日たったの2000GPで借りた。

しかも朝食昼食夕食付きである。少女が疑問に思って当たり前だ。


二つありメアの乗ってない方のベッドに僕は腰を掛けた。


[ビックトード一体討伐の報酬8000GPをメアはどう思う?]


「え?んー、初報酬だったので嬉しかったんですが今考えるとちょっと少ないかなぁって。互助のルールがあるとはいえ命懸けですし大変ですし」


[そうだね]


僕も8000GPは安いと思ってる。

一括で大きな額を貰える達成型クエストとは違いビックトード討伐は歩合制だから仲間の数だけ報酬は山分けになる。僕らは二人組で4000GPずつになるが四人パーティーだったら山分けして2000GPだ。

Eランククエストとはいえ、これはすごく安い。


ビックトードは肉を食用に、脂肪を燃料に、皮や骨も使い道色々で全身余す所なく活用できる。

一体のビックトードの全身を活用したら300万GPぐらいになるとして、討伐したビックトードを回収し利用できるべルートンの町は経済面で見れば討伐報酬8000GP支払っても380倍ぐらいは得していることになる。


牛や鶏などの家畜と違って飼育する必要もなく、繁殖期のシーズンが来れば勝手に向こうから丸々太ってやってくるのだから元手もゼロだ。


つまりべルートンはめちゃくちゃ儲かっているのだ。

まあモンスター絡みの物事はすべて国の管理下に置かれるから税もそれなりに持ってはいかれるだろうが、それでもこの町はビックトード特需で潤いまくっているだろう。


[だからこの宿が安く借りれるんだ、報酬が安い代わりにね。狩れば狩るほど町は儲かるから町も冒険者に集まるために色々な冒険者割を用意してるんだよ]


「えー、じゃあ最初から報酬を高くした方が話早くないですか?」


[一匹当たりの報酬を高くしたら上位ランク冒険者に独り占めにされて低ランクの出る幕がなくなっちゃうからね]


ビックトードは体力が高いだけで強いモンスターではない。

そこそこ強い冒険者だったらバンバン楽に倒せてしまうぐらいの強さだ。

もし一体討伐当たりの報酬が10万GPだったりもしたらすぐカエルは乱獲されてしまう。


報酬が安いのは低ランク冒険者の仕事を守るためでもあるのだ。

安いとはいえ報酬以外で十分に還元してくれているし、この町にいる間は食事も出るこの旅館を利用すれば一日2000GPで生活できるからな。お金は十分貯められる。 


「くぅー…、くぅー…」


気付くとメアは眠りに落ちていた。

疲労が溜まっていたのだろう。


僕はメアの体をごろんと転がし仰向けにして布団をかけてあげた。


とりあえず風呂に入って汗を流すか。


  ※


次の日の朝、目を覚ますとメアは先に起きていたようでベッドに少女の姿はなかった。

水の音が聞こえるにお風呂に入っているようだ。


【仙蛙】の風呂場は凄かった。

保温性があり美肌効果がとても高いという美蛙油の液体入浴剤が湯に混じっていてお湯自体がぬるぬるするのだ。まるでスライムに全身が包まれたような感触だった。思い返しただけでも心地よくなる。

しかも風呂は大理石のような滑らかな素材が用いられておりゆったりと身体も伸ばせて最高だった。

おかげで目覚めはばっちりだ。


「あっ師匠!おはようございます!」


湯気を立てながらメアが浴室から出てきた。

ほっかほかになっていた。朝風呂はさぞや気持ちよかったことだろう。


[おはよう]


「師匠はもうお風呂入りましたか!?凄かったですね!ぷるぷるしてて!」


メアもあの風呂を体験してきたようだ。


「って!師匠つやっつやですね!」


美蛙湯の効能だろうか自分でも分かるぐらい僕の肌はつやっつやになっていた。


「わー、私も昨日ちゃんとお風呂に入って寝るんだったぁー!」


そう落ち込まなくていいよ。まだまだビックトード繁殖期シーズンは一か月あるんだ。

入浴する機会なんていくらでもある。


メアがベッドにばたんと倒れた。


「実は身体ガタガタです…」


筋肉痛だろう、昨日あれだけ頑張ったんだ。頑張った証だよ。


スキル【くすぐり】の応用のマッサージで筋肉痛は取り除くことはできるがその提案を僕はしなかった。

楽な道は彼女にとって為にはならないからだ。

筋肉痛に苦しむのだって冒険の一部だ。その苦痛も苦労も後々酒の肴になる。


[その筋肉痛で今日もまた頑張れば動ける身体になるよ]


「えへへ、冒険って大変なんですね」


[体力は資本だよ。長旅はもちろん戦闘も最後に物を言うのは体力。魔法使いだってスタミナは必要なんだ。だから僕はメアとの初クエストにビックトード討伐を選んだんだよ]


そうカエル退治はスタミナを強化するにはうってつけのクエストだった。


「そんなことを言われると今日は休ませてくださいねなんて言えませんね」


でもそれでカエルに食べられて死んでしまっては元も子もない。

せめて足は動くようにしていた方がいい。


時間は6時を少し過ぎた当たりか、朝食が運ばれてくるのにはまだ一時間以上ある。


[足つぼマッサージを教えるよ。見本を見せるから自分で押してごらん]


足の裏には数多くのツボがある。

スキル【くすぐり】のない素人でもとにかくツボを押しとけば効果はある。


[ここが筋肉痛を安らぐツボ、ここが疲れの取れるツボの位置だよ]


僕は自分の足の裏の指の付け根をぐいぐい揉んで見せた。

もしいつかメアが独り立ちした時もこの知識はどこで役に立つはずだ。


「し、師匠…。お金、お金払うのでやってくれませんか…?」


メアがとんでもない提案をしてきた。


僕は警戒していた。

かつて弟子として一緒に活動しせがまれマッサージし続けた結果、セクハラで訴えてこようとしたエルドナというトラウマがあったからだ。

エルドナもかつてはこうだった。今のメアのように目を輝かせていたんだ。


数秒の沈黙があった。

気まずくなった空気を察してメアの方が「やっぱり忘れてください」と言った。


言ったことを後悔しているという表情を浮かべていた。

しょうがない。もしメアがエルドナ化してもその時はその時だ。


[お金はいいよ]


メアの足を取る。グイっと引っ張るとメアの上半身が後ろに倒れた。


「ちゃっ!ちゃんと洗いましたから!」


別に汚れていても気にはしないよ。


スキル【くすぐり】は使用しない。ただの足つぼマッサージを始める。

とりあえずメアの足の五指の間に折り曲げた指を挟み圧迫する。


「…ふぅう」


メアの方から息を吐きだす音が聞こえた。圧迫感は人を安心させる。

数度圧迫と解放を繰り返して五指の間から指を取り出す。

足裏を全体的に雑に揉んで下準備はできた。


細い足首にタオルを巻きその上からしっかりと掴んで、ツボの一つに握りこんだ中指の先を押し付ける。

痛くはしない、リラックスできる程度の刺激を与える。

まあところどころ耐えれるレベルでの痛みは提供するけれど。


「足つぼマッサージって痛い痛いってよく聞きますが意外とそーではないんですね」


フフフとメアが余裕ですねという感じで言ってきた。

それは振りか?やめてやめての振りなのか?

試しにゴリっと力を入れてみた。


「ギギャッ!」


踏まれた猫のような顔でメアから聞いたこともないような声が出た。

腰を浮かせて反射的に足を引こうとするが足首をしっかり掴んでいるから逃がさない。

面白いように反応するな。ぐりぐりツボを指す。


「ア゛ー!ア゛ー!痛い痛い痛いッッ!」


やりすぎたようでメアは泣いてしまった。

これでもまだ全然手加減ありの足つぼマッサージだったんだがな。

痛みを知らない少女には刺激が強すぎたな。


「ウー…、ウー…」


唸って布団を抱きしめる少女に僕はラストスパートをかける。

最後は足裏全体に優しく按摩だ。くにくに揉んで、はい終了だ。


ふう、片足だけで10分かかった。


さっき強めにやって泣かせてしまったのでメアは顔も見せてくれない。

嫌われちゃったかな?


抱いた布団から顔も出さないまま逆の足が伸ばされ無言でつんつん突いてきた。

どうやらこっちの足もやってもらいたいらしい。


ほんとは自分で覚えてやってもらいたいが、まあいいか。

グイっと伸ばされた細い足を掴んで今度は足首の裏の筋の方から揉んでやることにした。


  ※


午前7時23分、ドアがノックされ応答すると仲居さんが朝食を運び入れてくれた。

今日の【仙蛙】の朝食は豪華な刺身定食だった。


メアはまだ涙目で少しむすっとしていたが「いただきます」と厚い刺身を一口食べると顔を明るめた。


「師匠、べルートンはビックトードのお肉が特産品なのにここの食事にはカエルの肉は使わないんですね。師匠だけが食べた夕食も鯛や菜の天ぷらだったんですよね」


ああ、昨日の夕食だった天ぷらは絶品だった。

メアにも食べさせたかったが揺すっても起きなかったからしょうがなかったんだ。


[カエルの肉は旅館の外でイヤというほど食べれるからな。むしろカエルの肉の食事にならないための配慮だ。ビックトード討伐クエストは二か月ぐらい滞在する冒険者が多いからな]


「たしかに美味しくっても三食それだと飽きちゃいますからね」


ニコニコで少女は刺身をほおばる。どうやら機嫌はおいしい食事で直ったみたいだ。


食事を終わらせ歯磨きし僕らはさっそく仕事への準備に取り掛かる。

今日もビックトード討伐のため草原に出るのだ。


「師匠の痛い足つぼマッサージのおかげで体の痛みはちょっぴり取れましたよ」


それは含みのある言い方だったが、少女の屈託のない笑顔でプラマイゼロになる。


[それはよかった。頑張れそうかい?]


「もちろんですよ!」


こうして僕らは今日もまた()()に出る。

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