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【第12話】狼人と聖職者


ドーン!わー!わー!ゲコッ!


巨大なカエルと冒険者が命を懸けて戦い合い、魔法飛び交う草原に僕らは舞い戻ってきた。

現在時刻14時06分。他の冒険者らが狩りを切り上げるの夕方ぐらいになるので、また倒すのに二時間かかっても置いてけぼりになる恐れはない。


いい感じにジャマが入らなさそうな場所で孤立しているカエルを探す。

今回はメアがもし倒れて気を失っても大丈夫そうな場所であることも条件に入れて探した。


「報酬を貰った後だとお金が跳んでるように見えますね!」


二度目の戦場にメアもへへへと冗談めかす余裕が生まれていた。


[慣れるのはいいけど、それは油断に繋がるものだから気を付けてね]


「もちろんです!調子には乗りません!私自分が弱くて役に立ってない自覚ちゃんとありますから!」


それはあまりメアの口から聞きたくない言葉だった。彼女は自分を必要以上に卑下に見ている所がある。

確かにあまり戦力にはなってないが…、それでもそんな自分自身のことを悪く言わないでもらいたい。

それを聞くと僕の方が悲しくなってしまうからだ。自信を持ってくれ…。


よし、複合魔術を使ったら褒めまくってあげよう。

あんまり効果がなくとも「凄い流石メア最高!」と褒めちぎろう。


「いい感じのカエル見当たりませんね~。ん?」


ピィー!という笛の音が聞こえた。


「師匠!」


ああ。これは救援求めフルートだ。


笛の音が聞こえた方法を向くとビックトードの横で両手をぶんぶん振って笛を吹き続ける頭部が狼の冒険者が見えた。大剣を背負う狼人(ウォルフ)と呼ばれる獣人種だ。

すでに周囲から十数人ほどの冒険者らが彼の元へ駆け出していた。


「私たちも向かいますか!?」


もちろんだ。


救援求めフルートとは受付小屋で信号拳銃と共に貰った笛のことだ。

僕とメアも首にかけているこの笛は吹けば「仲間がビックトードに捕食された」ことを周りの冒険者たちに知らせてくれる合図になる。


そしてこの草原では笛の音を聞いたなら別ギルドの冒険者であっても一団となってそれを救出しなければならないというルールもあるのだ。つまり互助のルールだ。


「このルールができてからこのクエストの死亡率がガクッと下がったんですよね!」


そうだ。この草原の戦場ではギルドの垣根を越えた助け合いがあることで今や死亡率が0.5パーセント程度にまで落ちている。

そのため新人や腕に自信のない冒険者が挑戦するのにぴったりで、様々なギルドから大勢の駆け出し冒険者たちが集まって来ているのだ。


「全力で叩けェええ!」


「オー!!!!!!」


僕ら含め集まった人間でカエルの周りをぐるりと囲んで武器で叩きまくった。


人間サイズの獲物を捕食したビックトードは消化のため少しの間その場から動かなくなる。

その間は二人目を食べようともしないので舌を気にせず攻撃ができる。

ただ中にいる人が巻き込まれないように魔法や攻撃スキルが使えないため単純な殴打しかできないが、人数は武器だ。十数人で滅多打ちにして数分後、ゲコォー!とビックトードは絶命した。


カエルの口から力が抜けきった女性がげろりと吐き出された。

見た感じ身分の高そうな上位聖職者職っぽい身なりをした女性だった。

狼頭の冒険者が駆け寄って無事を確認する。


「大丈夫か!シャーロット!」


「ううう…、臭いしぬるぬるします…」


胃液と唾液でぬっるぬるになっていたがどうにか生きてはいるようだ。よかった。


「集まってくれたみんなありがとう!助かった!」


狼頭の冒険者が集まってくれたその場の全員にお礼を伝えた。


「俺たちがやべぇ時は頼むぜ!」


「もちろんだ」


「間に合ってよかったな」


「ああ、助かったよ」


彼は駆けつけてくれた冒険者一人ずつと固い握手を交わして見送っていく。


「本来はライバル同士である人たちで助け合うのっていいですね…、熱いですね…」


その光景にメアは感銘を受けたようだ。

どうやらこういうのに憧れを抱いていたらしい。


[メアだって今その一員だよ]


「いえいえ…、私なんて全然まだまだです」


たぶんここにいる全員がFかEランクの駆け出し冒険者たちばかりだろうがそれは黙っておくか。

最後まで残っていたのは後ろにいて前に出れなかった僕らだった。


「君たちもありがとう」


彼の声はイケボだった。落ち着いたいい声をしていた。

手を伸ばしてきたので握手に応える。

さすが獣人種、ワイルドに手は筋肉でごつごつしている。だが爪はきれいに短く切られていた。


「すみません、師匠は話せないので私の方から「どういたしまして」と代弁させてください」


「そうか、それは分かった。しかし君は不思議な香りがする。女性なのに男性の匂いだ」


「師匠は男の人ですよ?」


「そ、そうなのか…?申し訳ない。人類国家に来てまだ日が浅く、間違ってしまった…。そういう匂いの人間が人にはいるのだなと思ってだな…。気を悪くさせてしまったらすまない」


顔はすごく怖いが、悪い人(?)ではなさそうだ。


「気にしないでください。師匠は怒っていません」


賢いメアは空気を読んでいい感じのことを代わりに言ってくれる。便利だ…。


「そう言ってくれると助かる。俺の名は黒狼のフロウ、【酒水神の天鉾(バッカスアルパーナ)】のEランク冒険者だ。そしてこの二人は俺の仲間のシャーロットとフータローだ」


フロウはヌメヌメになった少女とそれを介抱する地味な顔をした青年の名前を教えてくれた。

彼らは三人パーティーか。


「私はメア、【翠緑の若葉】所属のFランクです。こちらはアルトさんといって私のお師匠様です!」


「そうかメアとアルトか。君たちもありがとう、助かった」


大きな手が伸ばされ、メアは両手で応じて握手を交わした。


「困ったときはお互い様ですよ」


小柄なメアと2メートルほど身長のあるフロウが並ぶと大型動物と小動物だ。

ちょっとハラハラするな。


「獣人を見るのは初めてか?」


「地方育ちなもので。分かります?匂いで分かったりするんですか!?」


「すまん…、匂いでは分からん。キラキラした目をしているからそう思っただけなんだ…。期待を裏切ったな」


フロウは耳をぺたりと垂らした。感情表情は人のより分かりやすいようだ。

しょんぼりしている彼は何だか可愛く見えた。


「えへへ二度目の気にしないでくださいですね」


「ふっふっふ、そうだな」


二人は打ち解けてフロウの方は尻尾が小さく振れていた。心情が分かりやすすぎる。


「尻尾触れてみてもいいですか?」


「構わないぞ」


言うとフロウは後ろに振り向きヌルヌルのシャーロットの方へと顔を向けてしゃがんだ。

その間にメアがさわさわ尻尾を触り始めた。手入れはしているのか綺麗な毛並みだった。


「実家のジョンとモップ(犬の名前)を思い出してしまいます。よしよし」


「よかったですね…、フロウは子供好きですものね。でもお顔が怖いから中々ね、話す機会がありませんでしたもんね。ふふふ今嬉しいでしょ?」


「ふん。余計なことは言わなくていい。さあいったん宿に戻るぞ」


大剣を背負うフロウはヌメヌメのシャーロットをお姫様抱っこで抱きかかえた。


「いけません…。貴方は鼻が利くでしょう…」


少し乾き始めたカエルの胃液と唾液はもの凄い臭いを発していた。

僕の鼻でも分かる刺激臭だ。すっぱい下水の匂いがする。

フロウに狼と同程度の優れた嗅覚があるのならきっと耐えがたき臭さのはずだ。


「構わんさ。お前に怖い思いをさせてしまった償いだ」


「フロウ…」


それ以上は何も言わず、シャーロットはギュッと彼の大きな身体に掴まった。

「お~」と、なぜかそれを見ていた方のメアが頬を染めて照れていた。


いい感じの雰囲気を醸し出しているが聖職者と獣人種の組み合わせは色々問題になるだろうな。


「フータロー、回収の手続きを頼めるか?」


「…んん。いいよ…」


倒したビックトードの後始末は地味顔の人に任された。暗い雰囲気の人だ。

まあ三人パーティーで巨乳の美人聖職者と屈強な狼人戦士がいい感じになっていたら目は死ぬはな。


ちなみに救援求めフルートで人を集めて討伐したビックトードの権利は呼んだパーティーの物になることが決まっている。この決まりは絶対で、トラブル回避のためのものだ。


「じゃあわざとカエルに食べられてみんなに助けてもらえば簡単にガッポガポですね」


[助けてもらう回数が多いとすぐ噂が回って誰も助けに来てくれなくなるよ。救援はルールだけど別に罰則があるわけじゃないからね。それが事故だろうが故意だろうが善意にも限りはあるんだ。だからメアも笛があるからって簡単に食べられちゃいけないよ]


「なるほど~。勉強になります」


[それにEランクエストでズルしてお金を稼ぐようじゃ上は目指せないからね]


「そうですね。私たちは正々堂々戦ってもっともっと強くなりましょうね!」


「…もしかして君たちは手を使って会話をしているのか?」


フロウは初めて見る手話での会話に驚いていた。

手話を知らない者からしたら手の動きだけでの意思疎通は驚くことだろう。


「手話というんですよ。これが「狼さんこんにちは」です」


メアが指をぴょこぴょこして簡単な手話を見せてあげた。


「しゅ、手話と言うのか?凄いな。ふ、ははははッ!小さいのに君たちには驚かされてばかりだな!」


大きな口を大きく開けてフロウは笑った。豪快な笑いだった。


「いい出会いをした。ではメアとアルト、また会おう」


「それじゃあ二人も気を付けてね…。私のように食べられないようにね…」


「気を付けます!また会いましょう!」


僕も頭を下げた。

別れを済ませフロウとシャーロットの二人は行ってしまった。


「では師匠、私たちもちょうどいい感じのカエルを探しに行きましょうか!」


そうだな。後一体討伐頑張ろうか。


「じゃあフータローさんもまたどこかで」


「…あ。うん。じゃあ」


フータローを残し、僕らもその場から離れた。

少し経って後ろを振り向くと一直線の青い煙の線が空へと昇っていた。


「あっ、見てください!ちょうどよさそうな場所にいるちょうどいいカエルがいますよ!」


人助けで善行を積んだおかげか、狩る相手がすぐ見つかった。


のそのそ歩いているビックトードは向こうを向いていてまだ僕らの存在に気付いていない。

これなら後ろから近付けばメアの陽動無しでも接近できそうだ。


[メア。失敗してもいい、自信を持って自分を信じるんだよ]


「私は師匠を信じていますよ」


ふっ。

僕らは互いの手の甲の腹をこつんとぶつけ合った。

小説本の中でよく見る男同士が仕事の前にやる仕草だ。


フロウとの握手に中てられたのか気持ちが昂って、ついカッコつけてしまった。

やった後に僕は少し恥ずかしくなったがメアは満足げな顔をしていた。


「へへへ冒険ですね」


ああそうだな、これも冒険だ。


戦闘開始のジェスチャーを指で示して僕はビックトードに向けて走り出した。

さあ見せてくれ、君の複合魔術の力を。


「はい!」


アルトの背中を目に入れながらメアは二本の魔術杖を構えた───。



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