【第10話】ビックトード討伐
ベルートンの町と土手で隔たれてた草原はギャザー大森林という深い樹海と隣接している。
そのギャザー大森林の巨大な木々の間からビックトードと呼ばれるカエルはぴょんぴょん跳んできて草原に出現するのだ。
ビックトードは好戦的ではなく夜には森に帰っていくので土手さえあればほうって置いてもいいのだがたまに土手を越えて町に侵入してくることもあるらしく、家畜の牛や豚が食べられ人が襲われることもあるので繁殖期になると町で討伐クエストを出しているらしい。
肉は美味しく皮も使い道様々、骨もいい出汁が取れるそうで、冒険者によって討伐されたビックトードは町に回収され骨ひとつ残らず加工されて売られるという。
僕らが駅で食べたカエルの唐揚げも元はここで倒されたビックトードとのことだ。
「師匠、よさそうな子がいますよ!」
メアが指を向けた先には程よくちょうどいいスペースで孤立しているビックトードがいた。
この草原には様々なギルドの冒険者がいる。
そのためトラブル防止のために既に誰かが戦っているビックトードは攻撃してはいけないというルールがある。
そして後から来た者は先に来ていた者のジャマにならない位置で戦えという暗黙のルールもあるので、ちょうどいいよさそうな獲物を探していたがすぐ見つけることができた。
この辺りなら他で戦っている冒険者の魔法も飛んでこなさそうだし、他のビックトードが割って入ってくることもなさそうだ。
[メア、実践だ。落ち着いてる?]
「ドキドキしてます!でも頭は冴えています!」
そうは言うがちょっとばかり気負い過ぎているようだ。
これがモンスターとの人生初バトルになるらしいからな。
[カエルは触れる?]
「田舎育ちなので慣れています。ちょっと気持ち悪いぐらい平気です」
[唐揚げも美味しそうに食べてたしね]
「へへへ、美味しかったですね」
[カエル版チキン南蛮も絶品らしいから、終わったら食べに行こうか]
「行きます行きます!ぜひ行きましょう!」
適当な会話でいつも通りを取り戻してもらった。
変に気張っていたらいつも通りの動きはできないからな。
「ありがとうございますね、気遣ってもらって」
メアはにっこりと笑った。
[それじゃあ行くよ]
「はい!」
剣を抜いて戦闘を開始する合図を出す。
予め立てていた作戦通り僕らは分かれて斜め左右に走り出し、カエルを挟むように位置を取っていく。
ビックトードは巨大なカエルだ。成人男性の二倍ほどのデカさがある。
大きさだけでも脅威だがそれ以上に特筆して注意しなければならないのは彼らの舌である。
彼らの強靭な舌は一瞬で巻き付き重機が如くの力で引っ張ってくる。
そして引っ張られたが最後、人ぐらいの大きさでは一飲みにされてしまうのだ。
しかしそんな舌も正面にさえ立たなければ飛んでは来ない。
わーわーきゃーきゃー喚いてメアがカエルの気を引く。いい陽動だ。
メアの方へ顔を向いたカエルの後ろに近付いて最初の一撃を食らわせた。
厚い皮と脂肪、ぬるぬるしているのもあって斬れはしなかったが微妙なダメージは与えられた。
カエルはドン臭い動きでこちらに振り返ろうとする。
「やあああああ!」
その隙を付いてメアが近づいて魔術杖でぽかりと殴った。
おめでとう、初攻撃成功だ。
「やりました!見ましたか、師匠!攻撃できましたよ!」
見た見た。嬉しいのは分かるが油断するな。
二発攻撃ができたが入ったダメージは微々たるもの。先はまだ長い。
「大丈夫ですよ!ちゃんと集中します!」
カエルは振り返るのをやめてメアの方を向こうと動く。
メアはその動きに合わせ正面に立たないようにぐるりと移動していく。
早歩きぐらいの速度でも十分カエルの動く速さを上回れる。
翻弄されるカエルに僕はまた後ろから攻撃を入れた。
グエっ!グエっ!
カエルの怒りの矛先になった僕は先ほどのメア同様、カエルの動きに合わせて正面に立たないよう移動しつつ注意を引く。
ノーマークになったメアがまた魔術杖でポカリと叩いた。
僕に気が向いたらメアが攻撃し、メアに気が向いたら僕が攻撃する。
それが今回用意してきた作戦だ。
作戦は見事ハマりいい感じでダメージを与えれる。
これなら一方的に殴ることができる。
「やあああああ!」
ぱこりっ、自信満々にメアも張り切って攻撃する。
ここまで接近してた戦えばカエルもジャンプようとはしない。
予測のできないイレギュラーな行動もないはず。
危険な舌さえ気を付けて決して正面にさえ立たなければ討伐できそうだ。
「師匠!いけますね!」
メアが活き活きした声を聴かせた。
しかしそこからが長かった。
※
二時間。
ビックトードとの戦闘を開始して二時間が経過した。
ぐるぐるカエルの周りを早歩きで移動しながら武器で殴り続けて二時間だ。
あれだけ元気いっぱいだったメアも黙り込んでしまい、疲れ果てて攻撃することを放棄していた。
大事な二本の魔術杖も地面に落としてしまっているほど疲れ切っている。
しょうがないので僕は攻撃してカエルの気を引き、移動しては攻撃するを繰り返して一人でダメージを入れ続けた。
コツを掴んだタイミングゲームのような感じで、ぐるぐる歩いては斬ってを延々とだ。
もはや攻撃もしないのでカエルはメアのことを一切無視していたがそのことに気付かず少女はずっと一緒にグルグル回っていた。
食べられたくない死にたくないとの一心で必死に歩き続けていた。
可哀想なことをしたと思う。
喋れないので「離れた位置で休憩していいよ」という指示が出せなかったのだ。
まさか二時間もかかるなんて予想していなかった。
恐るべき僕とメアの攻撃力のなさである。
ビックトードには火属性魔法と物理攻撃への耐性があるのだがそれでもである。
せめて攻撃系スキルがあれば違っただろうが、僕らは【くすぐり】しかない戦士と初級魔法が使えない魔術師だ。地道にダメージを与えるしかない。
ゲコォー!
何だかんだようやくビックトードの足が崩れた。
後一撃入れれば倒せる感じだ。
僕は落ちていた魔術杖を拾い上げメアに渡す。
最後の一撃は君が決めるべきだ。
これを機に命を奪うことを覚えてほしい。
命を奪う感触を知ってもらいたい。
「師匠…」
僕が何を言いたいのか理解し、メアは魔術杖を受け取って乱れた息を整えた。
残った力を全部振り絞る。少女は命を奪うことを学びながら杖を振り下ろした。
トドメの一撃を、ぱこりッ。
グエェー!
断末魔の鳴き声を上げてビックトードは事切れた。
それと同時にメアは後ろに倒れこもうとしたので腕を伸ばして抱き止める。
「師匠…、やりました…。モンスター倒せたんですね…」
少女は僕に嬉しそうな顔を見せてくれた。
そうだ、倒したんだ。メアの初討伐だ。
「でも途中からただ歩いてただけで…」
そんなこと関係ない。メアは立派に戦った。
最後まで負けずに立っていたんだ、文句の言いようのない勝利だ。
「いいんですか…?私お母さんたちに、手紙に書いていいですかね…?大人の二倍ぐらい大きなモンスター私も倒せたよって、手紙に書いて…いいんですか…?」
いい。いいに決まっている!
泣くなメア!いくらでも報告して安心させてあげればいい!
「ううう…、師匠大好きです…」
そこでグぅーとメアのお腹が鳴った。
二時間も動いたんだ、お腹も減って当然だ。
[カエル肉のチキン南蛮食べに行こうか]
「…はい!」
※
無事一体のビックトードを討伐できた。
時間は昼過ぎ当たりだろうか。
昼食休憩を取るにはちょうどいいぐらいか。
しかしその前に一つやっておくことがある。
僕は受付小屋で預かった信号拳銃を取り出して空に向かって撃った。
青い色の煙の線が空高く昇った。
「師匠、それは?」
[回収班への信号だよ。倒したビックトードを運んでもらうんだ]
「なるほど」
それから五分ぐらいして向こうから馬に乗った一人の男がやってきた。
「どうも回収班のイガリです」
イガリは名乗るとさっさと馬を降りてビックトードに駆け寄った。
「死亡確認よし。ギルドカード見せてもらえます?」
「あっ、私のでもいいですか?」
「構いませんよ」
僕は今ギルドに入ってないのでクエストを受けた本人のメアにギルドカードを出してもらった。
ギルドカードを渡すとイガリはバーコードスキャナーのような機械でピッとそれを読み込んだ。
そして違うバーコードスキャナーに似た機械を取り出すと、手慣れた手つきでカエルの額辺りに押し付けてバスンッと何かを打ち込んだ。
〈10:5:12:54:翠緑の若葉:メアリー・ギルバレット〉
日付と時間と名前がカエルの額に焼き印で刻まれていた。
「これで後の回収作業はこっちでやっとくのでもう大丈夫ですよ。それとこれどうぞ」
メアはギルドカードを返してもらうのと共に一枚のカードを貰った。
一個だけカエルのスタンプが押してあるスタンプラリーカードだった。
「ビックトード十体倒すごとに記念品が貰えます。ぜひ挑戦してみてください」
すみませんが他も回らなくてはいけないのでもう行きますねと続けて、イガリは馬に乗って青い煙の線が昇る先へと行ってしまった。
とりあえずこれでいいみたいだ。
「何が貰えるんでしょうか?」
[カエルの可愛いタオルやぬいぐるみが貰えるらしいよ]
「おー、それはやる気出ますね!」
メアはやる気が出たみたいだ。
しかし十体ごとか…。後九体、先は長いな。




