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【第1話】追放されたFランク冒険者

 

アルト・ゼナパートは口を利けない。

幼少期に魔獣によって喉を傷つけられたからだ。


  ※


「よお、アルト。最近調子はどうだ?」


ギルドの酒場で食事をしていた僕にそう声をかけてきたのはこのギルドの副マスター・バラバロス。

片側だけ伸ばした髪が印象的な痩せ型長身のAランク冒険者で、彼がFランク冒険者の僕に声をかけてきたのはこれが初めてのことだった。


「ああそうだったな。お前、口が利けなかったんだっけ」


バラバロスはそう言うと断りもなく僕の隣の席に座った。


「Aランクの俺様が話しかけても無視するから人違いかと焦ったぜ。お前がFランクのアルトで間違いないよな?」


イヤな人でも上司。イヤな人でも自分より力のある人だ。

その嫌味のような言い方に少し不快感はあったが僕は大人しく頷いた。

僕は筆談用に用意していた紙とペンを懐から取ろうとする。


「いい、いい。それは要らない」


と、バラバロスの手にそれは防がれた。


「別に俺は仲良くお前とお喋りするために話しかけたんじゃない。ただな、決まったことを伝えに来ただけなんだ。だからお前の意志も意見もここでは要らない」



「───お前さ、このギルド辞めろ。クビだ」

 

  ※


クビ。


え?クビ?

あまりにも急で言葉の意味が一瞬理解できなかった。

この場合のクビとは解雇という意味だよな。


僕は背後でいつも通り少し騒がしいギルドの仲間たちの笑い声や歌声が聞こえる中、唐突に解雇を宣告されたのだ。

傍から見れば酒場で後輩Fランクからの相談事を先輩Aランクが聞いてやってるかのような雰囲気でだ。


もちろん納得できない。何かの間違いのはず。

まだバラバロスなりの軽い初対面ジョークだという可能性もある。

抗議のため咄嗟に懐の紙とペンを取り出そうとした僕をまたも手のひらで静止してバラバロスは続けた。


「お前も知ってるだろうが、ここ【青い瞳の人魚(ブルーメード)】は新興ながらもSSランク冒険者を三人も抱える大陸トップクラスのギルドだ。昨年の大陸ギルドランキングではあのトップギルド【星光の獅子(スターレギオン)】に次ぐ二位。お前みたいなクズでゴミで向上心のないカスが所属していていい場所じゃもうないんだよ」


ここまで酷い言われようだとジョークの線はなさそうだ。

目もほんきでクズでゴミで向上心のないカスを見ている目をしている。


ほぼ初対面の相手にここまで見下された言われ方をされる以上に心に刺さることはない。だが地味に心を痛めつけられたものの突き付けられた言葉には妙に納得はしていた。


大体の冒険者は僕と同じFランク冒険者からスタートし、一年程度でランク昇格試験なるものを受けて次のランクへと昇格していく。

僕と同時期に冒険者になった奴らも今じゃみんな立派なDやCランクだ。

このギルドで五年も冒険者をやっていてFランクのままでいるのなんて僕ぐらいのものだ。


そう考えると確かに向上心のないクズにも見えてもしかたないのかもしれない。


しかし僕の冒険者ランクが上がらないのには理由があった。


「お前が試験に落ちる度にギルドに提出してる報告書には毎回昇格試験の内容が自分に不向きだったと書いてあったが、戦士職のFランクの昇格試験ってアレだろ?魔石に攻撃スキルぶつけて破壊するだけだろ?そんな単純なことに不向きもクソもあるのか?そんなゴミはギルドに要らないんだよ」


真っ当な言い分だった。

この世界に動きもしない試験用魔石すら破壊できない戦士職の人間は僕以外に多分いない。

初めて試験に落ちた時、受付のお姉さんに「初めてFランクの試験落ちている人見たわ」と驚かれたぐらいだ。


「そもそも魔石も壊せない戦士がこの世に存在することが信じられなかったから少しお前のステータスを調べさせてもらったが、スキルが【くすぐり】しかないって何なんだ!」


そうだ、それだ。それが僕の問題点。

僕は【くすぐり】という別にスキルがなくてもできるスキルを持っている。

というかそれしかスキルを持っていない。


くすぐる能力だ。


だから試験で魔石にスキルを発動しろと言われても、ただ石をくすぐることしかできないのだ。

もちろん効果はなし。破壊なんてむろん不可能。

毎度試験管にふざけているのか?と半分キレられて帰らされるのがパターンだ。

だからランクが上がらないのだ。


「初めて見たぞ!そんなゴミみたいなスキルも、五年冒険者やっててスキルが一つしかない奴も!」


そんな責めるように言われても困る。

僕だって色々と試した。本を読んだり、モンスター相手に剣で戦って熟練度を上げたり、お医者さんに診てもらったりと色々やった結果やっぱり他のスキルが発現しなかったのだ。

頑張っても出なかったものはしょうがない。


「よくこのギルドに入れたな、お前」


僕が入った頃の【青い瞳の人魚】はまだまだちっぽけな弱小ギルドで能力関係なく雇ってもらえたからな。今のような厳しい書類審査や面接もなかった。


「今だったら100パーセント落ちてるぞ」


僕もそう思う。


バラバロスは横を通りかかったウエイトレスを呼び止めてビールを注文した。

もしかして長丁場になるのか?この対談(?)は。

僕は今すぐにでもここから逃げ出したいのに。


「お前は汚点だ。このギルドのな」


と、言った所で先ほど注文したビールがもう届けられた。早いな。

さすが副ギルドマスターにもなると注文も最優先で持ってきてもらえるらしい。

飲み物だけでは肴は頼まないのかな?と僕が思った矢先、バラバロスは僕の焼き鳥を当たり前のように取って食べだした。


「美味いな」


は?


明らかな嫌がらせだった。

どうもこの男、先ほどから僕を煽っているようだ。


でも怒る気にもならなかった。今はそれどころではない。

どうせ食欲もない。美味いと言ってくれる人に食べてもらった方が食材となった鳥さんも喜ぶことだろうしね。


焼き鳥を奪ったことに対して僕が何もする気がないのを見てバラバロスは話を再開させた。


「苦情もあった、Fランクのお前がファランポネアさんらと共に同じクエストに出ているのが納得できないとな」


それは僕がちょくちょくSSランク冒険者に連れられてSSランクエストに参加していることについてだった。

しかしそれはSSランク冒険者に個人的な依頼をされて帯同していることだ。

何も悪いことはしていない。


「まあ…、これは妬みだな。SSランク冒険者は全冒険者の憧れだから、お前みたいなゴミが一緒にいることが許せない奴もいっぱいいるんだろう。気持ちはわかる。教えてくれよ、なんで奴らはクズスキルしか持ってないお前を危険なクエストに連れていく?」


ここにきて初めて真剣な顔を見せたバラバロスに思わず僕は気圧される。


すごいプレッシャーだ。でも…。

それは…、答えられない。

ギルドを介さない個人的な依頼なのだから内容について第三者に漏らすことはできない。

ギルドマスターにすら教えていないことだ。


「まあいいや、どうせいなくなる奴のことだ。あんまり藪を突いてSSランクの奴らを敵に回すのもおもしろくないからな」


思ったより簡単に引いてくれて安心した。

その時だった。


「お久しぶりですね、アルトさん」


そう言って現れたのは、飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍に次ぐ活躍で「次に来る新人冒険者ランキング一位」を獲ったエルドナ・マテリアルだった。

エルドナは僕とは反対側のバラバロスの隣に座り、すぐにビールを注文した。


赤黒い髪のツインテールにごつい双剣を背負った美少女である。

しかし美少女なのにその顔には品がない。座り方にも品がない。女版バラバロスという感じだ。少なくとも一年前まであったキラキラとしたものは一切なくなっていた。


冒険者なり立てだった頃の彼女の面倒を見てたのが僕だった。

一緒にFランク昇格試験を受け、彼女だけ合格してそれっきりだった。

まあギルドの中では何度もすれ違ったりはしたのだけども。


僕とは違ってたったこの一年でBランク冒険者まで上り詰めた天才少女。


「エルドナはな、セクハラでお前を訴えると言っている」


え?


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