09 メンバー不足
「――さてと、とりあえずは自己紹介も済んだようだし……、そろそろミーティングをはじめようではないか!」
少し間をおいて小倉先輩が話しはじめる――そうだった、俺たちはミーティングの為にこの南校庭に呼ばれていたのだ。
「ミーティングっていわれても、俺たちどうしていいか……何にもわからないですけど……」
「大丈夫ッ! 皆の者、案ずることはないぞッ! とりあえず今日は僕の話しを聞いてくれるだけで問題ない! 今日は簡単な説明をするだけだ、安心したまえ!」
「……簡単な説明って?」
「うむ、まず我々がダンス部を創設するにあたってやるべきことは………………」
「やるべきことは……?」
「あと一人だけでいい、もう一人だけ新入部員を獲得することだッ!」
「は? なんであと一人だけなんですか?」
「さッすが伊野平くんだ! いいところに気が付いたね! やはり僕が見込んだ男だけのことはある!」
「いやいやいやいやいや、もう、ホントに……そういうのもういいですから……一体どうしてなんですか?」
「つれないね、伊野平くん……、僕はさみしいよ……じゃあまぁ、あえて単刀直入に言おう! あと一人、新入部員が入ってくれれば、僕を合わせて部員が全員で五人になる! この能美坂学園の規定で部を創るには十人以上、同好会を作るには五人以上が必要という非常に恨めしい規定があるのだよ!!」
「つまり、あと一人だけでも新入部員がいれば……」
「そうッ! イエスッ! さッすが伊野平くんだね! あと一人だけでも新入部員がいれば、とりあえずはダンス同好会を創設することが学園の規定上は可能なのだッ! さッ! すッ! がッ! 伊野平くんだ! やはり僕が見込んだ男だッ!!」
「だからもう、そういうのいらないですってばッ!!」
「でも、そのあと一人が大変なんじゃないかしら?」
いままで、小倉先輩と俺の話の顛末を静観していた紗綾河がぽつりと手厳しい一言を不意に漏らす――。
「だってそうでしょう? あたしたちは乗りかかった船だから途中で降りたりはしませんけど……でも、これから新入部員を勧誘しようっていっても、学園公式団体でもなければ、部室も、まともな練習施設もない、そのうえフィジカルアートパフォーマンス部っていう公認のダンス部があるのなら、非公認のダンス同好会になんて……なおさら誰も入りたがらないんじゃないかしら………………」
「さ、さすが、紗綾河くんだね……ぼ、僕が見込んだだけのことはある………………」
「小倉先輩? 声が震えてますけど……」
「ちょいちょいちょいちょい! みんな何いってるんスか!? あとたったの一人でしょう? そんなの簡単じゃないっスか! 絶対そんなの余裕っスよ!!」
こういう時の鉢助は、俺にとって本当に救いの神のように思える――。
もともと辛気臭い雰囲気が得意ではない鉢助は、誰かが落ち込んだような空気を察すると、いつも必ずおどけてみせてくれる。こいつは意外と不器用な奴で、他人からよく誤解もされるけれども、心の奥底には実はあたたかい魂を秘かに内包していることを俺は知っていた――。
「――余裕って……鉢助、お前なにか具体的にアテがあるのかよ?」
「………………………………ない!!」
「ノープランかよ!!」
「いや、でもさ、オレっち達5人がここの南校庭でちゃんと活動を続けていけばさ、そのうち誰か一人くらいは興味持ってくれるんじゃないかな?」
「ん~、そんなもんかなぁ……」
「素晴らしいッ! さッ! すッ! がッ! 河鹿くん! 僕が見込んだだけのことはある! その通りだ! 努力はいつか必ず報われるのだ!!」
「ですよね! さすが小倉先輩! オレっちもまったく同感です!!」
「はぁ………………鉢助、おまえ小倉先輩と相性良さそうだな」
「ん? どういう意味だよ、優?」
「いや……なんでもない………………」
――――――結局、新メンバーの具体的な獲得策は何も決まらないまま、小倉先輩と鉢助の『とにかくがんばる!』というとても活動方針とはいえないような、よく言えばポジティブシンキングなのだろうが、悪く言えば単にノリだけで決まってしまった方針に乗っ取って俺たちはダンス同好会の活動をする事になってしまった。とはいえ、今のところは他に代案もないし、よくよく考えてみれば、この南校庭の前は意外に人通りも多そうだし、ひょっとしたら鉢助の案は妙案なのかもしれない。しかし、いやはや何とも………………先が思いやられる。
「――では、具体的な新入部員獲得作戦は今は置いといてだね、僕らのこれからの練習テーマや練習スケジュールを決めようではないか!」
「練習テーマや練習スケジュールっていわれましても……俺たちダンスに関してはまったくの素人ですし………………」
「とりあえずスケジュールは週末以外は毎日練習でどうだいッ?」
「ちょッ!? 小倉先輩! いきなり無茶を言わないでくださいよ!! せめて週三日くらいにしてください!!」
「おや、そうかい? では、月曜日、水曜日、金曜日の放課後の週三日くらいではどうだい?」
「どうだい……? って聞かれても……俺は大丈夫ですけど……」
「オレっちもそのくらいなら何とかなります!」
「あたしも、毎回参加できるかどうかはわかりませんが、そのくらいなら……なんとか……」
「それでは、練習スケジュールは一旦これで決定としようではないか! 僕と妹の舞衣もこのスケジュールでまったく問題はない! ドンと来いだ! はっはっは!」
「じゃあ、まぁ、俺たちみんな大丈夫そうなので、練習スケジュールは一旦これでいいとして……あと、練習テーマはどうなるんですか?」
「うむ! こちらはもう、実はすでに考えてある! 最初は兎にも角にも基礎練習からだ! そして同時にダンスを楽しんでもらうことから始めてもらう、そこそこきついから、皆の者、覚悟していたまえ!」
「……意外とまともですね、先輩」
「おやおや、伊野平くん、君はいったい僕をなんだと思っているんだい?」
「あ、いえ……失礼いたしました!」
根は真面目な先輩なのは解かっているつもりだったのだが、強烈なキャラクターの所為か、普段の小倉先輩からは考えられないような至極まっとうな発言を聞いて、ついつい俺は余計な一言をいってしまったようだ――――――。