08 非公認のダンス同好会
「――!? あれ!? 小倉先輩、妹さん中等部の制服着てますけど……」
「おお! 良いところに気が付いたね! さすが伊野平くん! 妹はまだ中学三年生だ!」
「えっ!? ってことは……高等部のダンス部には入れないんじゃ………………」
「まぁまぁ、細かいことは気にするな!」
「いやいやいやいや!! 細かい事じゃないでしょ!?」
「まぁ、確かに学園公認で活動することは出来ないが気にするな!」
「いやいや、気にしますって! 公認で活動ができないんだったら妹さん、大会とかに出られないじゃないですか!?」
「その点は心配ないぞッ! なにせ僕らは学園公認のクラブ団体ではないからな! どのみち大会にはみんな出られん!!」
「「「………………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」」」
「はっはっはっはッ! 皆の衆、何をそんなに驚いているのかね! これから学園公認団体になればよいではないか!!」
「ちょっと待ってください! 今、初めて聞きましたよ! 学園公認クラブじゃないって……じゃあ、僕らはダンス同好会ってことですか?」
「はっはっはッ! 僕らはまだ同好会ですらないッ!!」
「なに胸張って偉そうに言ってるんですか!! ちゃんとしたダンス部だと思ってましたよ!!」
「僕らの学園にダンス部などない! あるのはフィジカルアートパフォーマンス部だけだ! だからダンス部をつくるのだ!!」
「フィジカルアートパフォーマンス部って……!?」
「さすが伊野平くんだ! そこに食いつくかね………………まぁ、簡単にいうとストリート系のダンス部だ!」
「ダンス部あるじゃないですかッ!?」
「いいや、違うねッ! フィジカルアートパフォーマンス部だ! 決してストリートダンス部などではないぞ!!」
「そんなの一緒ですよ! だったらみんなでフィジカルアートパフォーマンス部に入れば済む話じゃないですか!?」
「そんなことはないぞッ! 僕たちはダンスを愛する者たちだけで真のストリートダンス部をつくるのだ!!」
「ちょっと先輩、なに対抗意識を燃やしてるんですか!? こっちは一年ばかりだし、学園公認じゃなければ何もできませんって! 勘弁してくださいよ!!」
「大丈夫! 案ずることはないッ! 僕についてきたまえ!!」
出会った当初から、この人はなんかおかしいとは思っていたが……まさかここまでとは……ありえない、考えられない。普通、まだ部にもなってないのにダンス部に入部を勧めるか……!? これから作るから大丈夫って……この人、破天荒すぎる! なんだか甘言に惑わされて奇麗なお姉さんについていったら、すごく安っぽい絵画をみせられたような……もしくは、必ず値上がりするから大丈夫といわれて買った株が下がり続ける様な……もちろん実際にそんな経験はないが……、なんか腑に落ちない気分だ――――――。
「あ、あの……兄が説明不足だったようで……すみません……みなさん、本当にすみません! 兄も悪気があってやったわけではないんです!」
下から覗き込むような視線で、申し訳なさそうにオドオドしながら小倉先輩の妹さんはそう言って頭を下げた。
「い、いや、妹さんが謝ることじゃ……」
「そうだとも、舞衣! 君が謝ることじゃない!」
お、ま、え、が言うなッ! と突っ込みたくなる気持ちでいっぱいだったが、こんな人でも一応は先輩だ……ここはお落ち着いて冷静な対応を俺は試みる――――――。
「――妹さんは何も悪くないですよ、謝らないでください」
「そうよ、あたしたちは別に些細なことは気にしてないから、安心していいわよ」
「オレっちも何も気にしてないから大丈夫! そんなことよりも一緒にダンス頑張ろうね! あっ!? オレっちは河鹿鉢助っていいます! よろしくね!」
「みなさん、お気を遣っていただいて本当に申し訳ありません……ありがとうございます……」
「気なんか使ってないっすよ! オレっちマジでダンスを愛してますから! ダンスさえできるんなら形になんかこだわりませんよ、それが男ってもんでしょ!! これからもよろしくね、舞衣ちゃん!!」
「えっ!? あ、はい……よろしくお願い致します………………」
「鉢助……おまえ本当になれなれしいぞ……彼女、少し怖がってるじゃないか」
「……あ、そんなことないです……大丈夫です、みなさんも気軽に舞衣って呼んでください」
「そう……ならいいんだけどさ……、俺は伊野平優、魔法科の一年だ。んでもって、こっちの彼女が紗綾河絵海さん、同じく魔法科の一年生。あらためてよろしくね」
「はい! こちらこそよろしくお願い致します!!」
力強くそうこたえる彼女は、本当に本当に不思議な魅力を持った少女だった――。あの兄にどうしてこんなできた妹がいるのだろうか……はっきりいってまったく共通点が見当たらない……兄弟です、といわれても疑ってかかってしまうくらいに似ていないのだ。外見はもとより、内面まで正反対のように思える。
なんというか……この娘には、一切けがす事が出来ないような透明感というか……、神聖な雰囲気というか……、かといって存在感がないわけではなく、凛とした空気を纏っていて……ただそこにいてくれるだけで勇気をもらえるような、そんな存在感を持ち合わせた少女だった。
小動物系の守ってあげたくなるような愛らしさを持ち合わせていると同時に、誇り高き精神みたいなものも、この娘は感じさせてくれる……どこかの国の高貴なお姫様のような、うまく説明は出来ないけど、なんか……、そんな感じの……とにかく、不思議な魅力をこの時の俺は彼女から感じていた――――――。