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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
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05 強制入部

「――――――何の騒ぎかと思って来てみれば……見つけたぞ、小倉!!」

「ゲッ!? 藤咲ッ――!?」


 ――以前にどこかで見たことがある顔だと思い過去の記憶をたどってみると、たしか新入生勧誘合戦の時に後方のテント下でノートパソコンをいじっていた茶道部の先輩だった。不敵な笑みを浮かべながら藤咲先輩は、腕組みをして斜に構えている――。

 顔は笑っているが目が一切笑っていない……、茶道部の人間の独特の雰囲気なのだろうか、その気品のある落ち着いた佇まいがより一層、恐ろしさを引き立てていた――――――。


「――お前の壊したノートパソコンの代金……今日こそは返してもらうぞ」

「ま、待て! 違うんだって! 壊したのは僕じゃない!!」

「おまえ以外にはいねえんだよッ! なにも全額弁償しろとは言わねえから……、せめて半額くらいはだせや!!」

「だから違うんだってば、ほらッ、ここにいるかわいい後輩たちが僕のパフォーマンスをどうしても観たいっていうからさ……仕方なくちょっと本気を出しちゃっただけでさ……なんていうの? 不可抗力? ……ってやつ?」

「なッ!? ちょっと!? 先輩、俺たちのせいにしないでくださいよ!! それに俺たちは一言も先輩のダンスが観たいなんて絶っっっっっっ対に言ってませんから!!」

「この際、もう理由はどうでもいいんだよ! 弁償できねえんだったらこの後輩三人を茶道部にもらうぞ!!」

「なにぃぃぃぃぃぃぃ!! それだけは絶対にダメだ!! せっかく確保した新入部員を三人もむざむざお前らなんかに渡すわけにはいかん!!」

「ホントにッ!! まじでッ!! 先輩方、つっこむところが多すぎですよッ!! まず最初に、うちらはダンス部の新入部員ではないですし、どうして関係のない自分達が壊れたパソコンの補償代わりに茶道部に入らなきゃならないんですか!? こんなのおかしすぎますよ!!」

「優ちゃん、今度は茶道部に入るの?」

「何でそうなる……入らねえよ、紗綾河……おまえ今までの話の流れわかってる?」

「ほんとにもうッ! 一体どこの部に入るのよ!? ちゃんと決めてくれないとあたし困る!!」

「なんで紗綾河が困るんだよ! おまえ関係ないだろ!」

「関係あるっ! どうしてわかってくれないかな!?」

「はいぃ!? なんなんだよ……さっぱり意味わかんねえよ、それに紗綾河ってやりたいことがあるって、さっき……」

「よしよしッ! わかったわかった、喧嘩はそのくらいにしたまえッ! 些細なことで喧嘩をしているかわいい後輩を見ているのはしのびない、ここは僕に任せたまえ!」

「……は? そもそも事の元凶は小倉先輩でしょうが!」

「だからこの僕がすべて、解決してやろうではないか! 藤咲ッ! ノートパソコンの代金を全額すぐに弁済しようじゃないか、感謝したまえ!!」

「――!? 小倉……いったいどういう風の吹き回しだ、突然」

「なぁに簡単なことさ! ここは先輩としてかわいい後輩たちのために負債を全額、肩代わりしてやろうというだけさ!」

「ちょっと! 肩代わりって何ですか!? 肩代わりも何も、そもそも俺たちに責任は……」

「オッケーオッケー!! 何も言わなくていいッ! 気にするなッ! かわいい新入部員たちのためだ、これくらいは当然さ!!」

「なんて男気のある先輩なんでしょう! 小倉先輩、優ちゃんの負債の肩代わり、ありがとうございます! 魔法科一年の紗綾河絵海といいます。よろしくお願い致します!」

「紗綾河さん、ダンス部入るんスか!? オ、オレっちも魔法科一年の河鹿鉢助っていいます。よろしくお願いします!」

「――!? なに!? どういうこと!? おまえ達、なに考えてるんだよ!?」

「観念しろよ、優……小倉先輩がこうまで仰ってくださっているんだぜ、この気持ちを無碍にする奴なんてマジでクズだぞ」

「そうよ、優ちゃん……こんなにいい先輩、ほかにいないわよ」

「じゃあ前ら二人で勝手にやればいいだろうが!」

「おやおや、さみしいね……じゃあ仕方がない、パソコン代は君と僕の二人で払うしかないな……男のメンツをまさかここまで踏みにじられるとはね……本当に残念だ………………」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや………………小倉先輩……なに言ってんですか……そういうんじゃないですってば……」

 なんだ、この空気は……絶対に俺はなにも間違ったことはいっていないはずだ……、なのになぜにこうも俺がなにもかも悪い雰囲気になっているんだ……まったく訳がわからない――。

 このままでは本当にマジカルダンサーなんていう恥ずかしいものを目指さなくてはならなくなるかも知れない。兎にも角にもこの空気……どうにかしなければ――。


「――いったん落ち着きましょうよ、小倉先輩……冷静になって考えてください」

「いや、もういいんだ……君のことは、諦めたよ………………」

「優、クラブは違っちゃうけどさ、これからもよろしくな……」

「優ちゃん……こんなにも小倉先輩がよくしてくださっているのに………………」

 待て待て待て待て! どうしてこうなった!? 絶対俺は悪くないのに! 利害の一致ってやつか……紗綾河が入部するってことは……、鉢助の奴は紗綾河と同じクラブなら何でもいいから入るって感じだし、茶道部の先輩はパソコン代さえ払ってくれるなら、なんでもよしって感じだし、小倉先輩も新入部員確保のためには手段を選ばない――。

 俺以外はみんな、WINWINってわけか。しかも、この空気………………最悪だ、さっきよりも悪化している気が……こころなしか、ヒソヒソと俺のことを非難している声まで聞こえてきそうだ。もう打つ手なしか……貧しさに負けたわけではない、世間に負けたわけでもない……この空気……耐えられん………………。ただこの場をやり過ごしたい一心で、結局俺は、世論という名の空気に負けた――――――。


「うぅ、わかりましたよ……いったん入部しますよ………………」

「本当かいッ!?」

「いったんです! いったん入部するだけですよッ!! それと、ダンス以外にもきちんと基礎法術も教えてくださいよ!!」

「オッケイオッケイ! 仮入部でもなんでもオッケイさ! 法術も電撃系ならなんでも教えてあげるから心配なしさ!!」

「きゃー、優ちゃん! 一緒のクラブだね!! すごい偶然、これって運命だよね!!」

「何が運命だよ……微塵もそんなもん感じてねえっての!」

「優、別にお前まで入部しなくても……」

「鉢助……、てめえ……こんな事になったのも、少しはお前にも責任あるだろうがッ!」

「いやー、めでたいめでたい! 新入部員が一気に三人も来るとは、それもこれも日頃の僕の行いがきっといいからだよね! いやー、めでたい!!」


 ――小倉先輩にハメられた感が拭い去れない……。衝動的な殺人事件って多分こういう瞬間に起こるんだろうなと、今、身を持って知る事が出来た気がする……理性的な人間に生まれてきて本当によかったと両親には感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだ。まぁ、小倉先輩には悪意が感じられないことがせめてもの救いだった。信じられないほどにポジティブで純粋に真っ直ぐな人なのだろう。純粋すぎるが故に、周りが見えなくなってしまって空回りしてしまうような……きっとそんなタイプの人なのだろう。

 腑に落ちないが、なにはともあれダンス部に入部する事になったのは事実だ。もう子供じゃない、最低限の責任だけは全うしよう――。

 この時、先々に起こる事をなにも知らなかった俺は、特に深く物事を考えもせずに、そんな程度の事をただなんとなく思っていただけだった――――――。

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