41 選考会Ⅴ
「伊野平くん!? 大丈夫かい!?」
「――ッはい! 問題ありません!!」
小倉先輩に俺は虚勢を張ってそう答えたが、本音を言えばかなりキツイ……ほんの三分にも満たない俺たちのショーだが、全力で動きながら精神的にも体力的にもかなりの労力を有する法術を駆使し、さらに集中力も途切れさせる事が出来ない。基本のランニングマンやポップコーン、トゥループ、パドブレ、フットワーク単体ならこんなに疲労感はないのだが、コンビネーションで休みなく動き続ける上に、玄人好みの小倉先輩が後半に不規則なハウスのステップワークを構成に織り込んでいる。スッテプワークは切り替えるタイミングが素人にはなかなか難しく、息切れした状態での後半の高速ステップワークは小倉先輩には申し訳ないとは思うが、ハッキリいって構成ミスだと今は感じざるをえない――。
「――ッやば!?」
「鉢助ッ!?」
どういうわけか、嫌な予感というものはよく当たる。想像通り、息を切らせた鉢助が後半のステップワークについていけず、もつれた足でどうにか体勢を立て直そうとしていた。
「鉢助!? なんとか誤魔化せ!!」
「う、ういッス!」
落ち着いてリズムをとり、どうにか周囲にシンクロさせる鉢助だったが、時すでに遅し……フィナーレはもう目前だった――――――。
「――小倉先輩!! もう行きますよッ!!」
「フィナーレだ! 盛大に頼むぞ、伊野平くん!!」
いわれなくても解かっている。しかし、ヘロヘロの状態で今日2発目のフレイムバスターだ……出力不足は避けられない。
「つッ!! やはりキツイか……」
想像通り、そこそこの出力の炎しか発する事ができない……しかも2回目の演出、新鮮味も半減だ――。
「伊野平くん! そのまま堪えていたまえ!!」
――!? 小倉先輩がいつの間にか俺の背後に立っていた。そして、俺の背後からお得意のほとばしる電撃を上空に向かって解き放つ!!
「ちょッ!? あぶなッ!? 小倉先輩!?」
俺の放ったフレイムバスターに小倉先輩は高電圧の電流をぶつける!! 先輩なりにアドリブを効かせた演出だった――。
「おおおおおおおおおおぉぉぉ!!」
おもいのほか電流と炎の相性は良いらしい……、色鮮やかな電撃と炎のコラボレーションにオーディエンスも歓声をあげる。
「さて、フィナーレだ。最後だけは全員きっちり合わせたまえよ!!」
そう……もう間もなくパフォーマンスは終わる。トラブルはあったものの演出もすべてやり遂げ、納得のいく完成度ではなかったが全力は出し切った……俺の初めての演技は曲の終了と同時に全員で繰り出すポージングよって今、幕を閉じた――――――。
「――はい、ではダンス同好会のみなさま方、ありがとうございました。これで最後の演目も終了しましたので解散してください。審査結果は後日、代表者に通知いたします。皆様、お疲れ様でした」
またも感動の余韻に浸る間もなく、なんとも素っ気ない、淡々とした無機質な口調とジェスチャーで選考会管理委員が俺たちに舞台から降りるように促す。そして、俺たちはただ黙ってゆっくりと舞台を降りていった。
「………………本当にごめんなさい、わたくしの所為ですわね」
普段は高飛車で強気一辺倒の円花宮先輩にしてはめずらしく、弱気で自虐的な台詞だった。
「そんな事ありませんよ、誰にだって調子の悪い時はありますし……円花宮先輩はミスらしいミスはしていませんって! 俺だって後半はスタミナ切れで出力が上がりませんでしたし……」
「伊野平くんには色々フォローさせてしまって……」
「気にしないでください。俺も最後は小倉先輩に面倒をかけてしまいましたから……」
「うむ! 気に病むことはないぞ! 君たちは何もミスはしていないッ! ステップワークも完璧だったぞ!!」
そう言って小倉先輩は俺の肩をポンッ! ポンッ! と軽く叩いた。
「ていうか、そんな事いわれたら大きなミスをしたのはオレっちだけってことに………………」
「河鹿くんは明らかに練習不足だ! 法術の演出に加わるわけでもないのに君がミスをしていては話にならんぞ!!」
「小倉先輩、オレっちには厳しいっすね……」
シュン……、っとして肩を落とす鉢助を尻目に、舞台袖で待っていた舞衣ちゃんが俺たちに称賛の声をきかせてくれる。
「お疲れ様でした! 皆さん、すごく素敵でしたよ!!」
「おぉう!? 舞衣ちゃん、ありがとう! でもオレっち、後半は大失敗しちゃって……」
「え? そうでしたっけ?」
「スッテプワークもバラバラで、みんなとうまく合わせられなかったッスわ……」
「すみません、河鹿さんのことはまったく観ていませんでしたので………………」
舞衣ちゃんはいつもの事かもしれないが、今日は何故か小倉兄妹は二人そろって鉢助の扱いが酷い――――――。




