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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
38/42

38 選考会Ⅱ

「………………終了か……、思っていたより本当に意外とあっけなかったですね」

「どうだい? 伊野平くん、あのチームは?」

「どうだいって言われましても……」

「伊野平くんが感じたことをそのまま言ってくれればいいよ」

「……普通にうまいと思います」

「なるほど、普通にうまい……ね」

 確かに俺は嘘を言ってはいない。彼等のチームは本当に普通にうまいと思う……でも、何故かあまり心を動かされる感じはしなかった。むしろ彼等のパフォーマンスを観て小倉先輩や佐々祇さんがどれだけレベルが高いのかを思い知らされた気がする。俺はそんなハイレベルな小倉先輩や佐々祇さん達との練習で随分とダンサーを見る目が肥えて来てしまったようだ。この後に続く二番手、三番手のパフォーマーさん達もやはり普通にうまいとは思えるのだが……単純に上手いだけで、舞台をそつなくこなしただけの様な感じがして………………特になにか強い衝動に駆られるようなことは、少なくとも俺にはなかった。

「………………どうしちゃったんだろう、俺」

「どうかしたのかい?」

「あ、いえ……みなさん非常に上手いとは思うんですが……なんというか………………」

「まぁ、伊野平くんの気持ちもわからなくはない……確かにみんなレベルは高いんだけどねぇ」

 小倉先輩も俺と同じような感覚を抱いているのだろうか……、なんだか妙な同調を俺に感じさせてくれる。

 ――そういえば、随分前に誰かが言っていたが『ただ上手いだけの奴ならいくらでもいる』という台詞を痛いくらいに今日は実感できたように思える。確かにみんな上手いのだ。上手いのだが、感動や衝撃、もちろん良い意味でのインパルスを与えてくれるようなパフォーマーはやっぱりそうはいないものなのだ――――――。


「――あの、小倉先輩……出演者さんのパフォーマンスを観るのもいいですが、俺らも周囲のみんなのように振りや構成の確認をしなくても大丈夫ですかね?」

「ん? ひょっとして、まだ完全に覚えていないのかい!?」

「まさか!? 覚えてるに決まってるじゃないですか!! ただ、ここでぼーっとしているよりもみんなで最後に確認だけでもやっておいた方がいいかなぁと……」

「そうかい? まぁ、出番までまだ時間もあるしね……じゃあ、みんなで校舎裏にでも行って振りの確認だけでもしておこうか?」

「はい!」

 実のところは振りも構成も完璧に頭に入っている。いまさら確認するまでもなく、それなりに自信もある。ただ、出番が少しづつ近づいてくるにつれて、不安と緊張が増してきて、何もしないでいるよりも、身体を動かしていたいというのが本音だった――――――。


「――!? 佐々祇さん!?」

 俺たちは校舎裏へと向かう途中で、今までに見たこともないような絶世の美女を目の当たりにした!! ただ美しいだけの人なら見惚れるだけで特になんの問題もないのだが、あろうことか、その絶世の美女は間違いなく佐々祇さんだったのだ。初めて会った時からとても男性とは思えない妖艶さを感じてはいたが、メイクをして艶やかな衣装を着こなす佐々祇さんは、そんじょそこらの女性たちがモブキャラにも満たないくらいに霞んでしまうような、そんな別次元の美貌を誇っていた――。


「やぁ、伊野平くん! ついに選考会だね、お互いにベストを尽くそう!!」

「……え!? ……あ、はい………………す、すみません……が、がんばります」

「ははは、どうしてあやまるのかな? 緊張しているのかい? リラックスしていこう!!」

「あ……は、はい! よ、よろしくお願いします――――――!!」


 つい佐々祇さんの美貌にみとれてしまって我を忘れていた……これほどまでに美しい人を前にして、緊張しない方がおかしい。選考会の緊張感よりも、佐々祇さんに対する緊張感の方が今は遥かに勝っていた。緊張の上にさらに別の緊張を重ねられては何がなんだか……もうどうしていいかよくわからなくなってしまった――。

「そ、それにしても佐々祇さん……すごいですね!」

「ん、なにが?」

「いえ、その……ドレスみたいな衣装といい、メイクといい、美しすぎますよッ! 男性とはとても思えません!!」

「ありがとう、でもこうなれたのは伊野平くんのおかげかも………………」

「――? はぃ? そうなんですか? 俺は何もしてませんけど……」

「以前に伊野平くんが言ってくれた台詞のおかげさ……、すべてを曝け出して、そして本当の自分らしくパフォーマンスをしようってね……自分も素直になっただけだよ」 

「??? そ、そうなんですか……よくわかりませんが、でもそれでいいと思います!」

「ありがとう。伊野平くん………………」

 お礼を言うその地声こそ男の声だが、しかし、妖艶にして清廉なその佇まいから発せられる言葉は、たとえどのような声色であってもあらゆる人間を魅了してやまないだろう。


「……女の敵! 女の敵ですよッ! こんなの反則ですッ!!」

「おい!? 紗綾河!? なにいってるんだよ! 失礼だろ!!」

「だって男性なのに、こんなのずるいじゃない!? インチキインチキッ!! 優ちゃん、あっちの世界に絶対いっちゃだめよ!! BL反対!!」

「あっちの世界ってなんだよ!? バカな事いってんじゃねえよ! 本当にあんまり失礼な事を言ってんじゃねえ!!」

「BL反対といわれても……自分は別にどっちでもいいんだよねぇ………………」

「ちょッ!! 佐々祇さん!! なに言ってるんですかッ!? サラッと衝撃的なカミングアウトしないでくださいよッ!!」

「ははは、冗談冗談! ジョークだよ、伊野平くん」

「それならいいですけど…………もうちょっとわかりやすく、冗談っぽくいってくださいよ! その容姿でいわれると本気か冗談か判別しづらいですから!!」

「なるほど、確かにそうかもね。ごめんごめん……ところで話は変わるけど、伊野平くんたちの順番は何番目かな?」

「順番ですか? 幸か不幸か、順番は最後の最後です……」

「最後の最後!? ということは君たちがトリを飾るのかい!? いやぁ、なかなかにおもしろい偶然が重なるものだねぇ」

「おもしろい偶然?」

「いやなに、実をいうと自分たちは最後から二番目、つまり伊野平くんたちの直前なのさ」

「えええぇ!? そ、そんな……佐々祇さんたちの直後なんて、やりづらいにも程がありますよ」

「あらら、なんだか冷たい言い方だねぇ」

「だって、こっちはまだまだ素人なんですよ? 佐々祇さんたちの後なんて……比較されるに決まってるじゃないですか!?」

「そんなことはないさ、小倉先輩もいるしね……、仮に比較されても自分らに負けないようなパフォーマンスをすればいいだけじゃないか」

「まぁ、確かにそうなんですけど………………」

 人の苦労も知らないで、佐々祇さんは随分と簡単にいってくれる……少なくとも俺は、この日の為に色々なものを犠牲にして練習をしてきた。絶対にみんなの足を引っ張りたくはないし、本当にいいパフォーマンスをやってのけたい一心でがんばって来た、それを『自分らに負けないようなパフォーマンスをすればいいだけ』とは………………佐々祇さんのように才能も実力もある人には俺のような人間の気持ちなんて解からないのかもしれない――――――。

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