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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
37/42

37 選考会Ⅰ

「――おはよう諸君! いつも集まってもらってすまない! 皆、準備は出来ているかね? 今日は言うまでもなく、選考会であるッ!!」

「そういう小倉代表は準備万端なんですの?」

「ふっ……円花宮くん、愚問だね! 当たり前ではないか!! 伊野平くんはどうかね? この選考会はきみの演出にかかっているのだぞ!!」

「俺はまったく問題ないですが、鉢助が……」

「だ、大丈夫ッスよ……ちょっと寝不足なだけッス………………」

 青っ白い顔して鉢助はそうこたえる。

「まぁ、本番までに回復することを願うよ……さて、ここからが本題であるが、選考会が始まるのが午前十一時からで抽選会が午前十時からである」

「抽選会?」

「うむ、選考会に出る団体は僕らだけじゃないからね! くじ引きで公平にパフォーマンスをする順番を決めるのさ」

「あぁ、なるほど」

「くじは代表者の僕が引くから安心したまえ! 僕のくじ運は相当だぞ!!」

「では、なるべくいい順番を期待しています!」

「うむ! 任せておきたまえ! というわけで、僕はくじを引きに行くついでに細々とした仕事があるから、きみたちはこのまま部室で待機していてくれたまえ!」

「了解しました! 期待してますよ、小倉先輩!!」

「うむ! では行ってくるッ!!」

 そういうと小倉先輩は意気揚々と部室を出ていった。本番当日だというのに小倉先輩からは緊張感がほとんど感じられない……精神力の強さなのか、場慣れしているからなのかはわからないが、あの人のそういうところは本当に見習いたい。

 時間が進むにつれて、さすがに俺も緊張を抑えきれなくなってくる……緊張で眠れなくなる鉢助ほどひどくはないが、実は俺も気が小さくて臆病なのかもしれない――。

「――ねぇ優ちゃん、優ちゃんはパフォーマンスをやるとしたら最初と最後どっちがいい?」

「んー、どっちだろ? 最初の方が気楽かなぁ……紗綾河は?」

「ん、あたしも早い段階で済ませたいかも………………」

「じゃあ、くじ運の強い小倉先輩に最初の出番を引き当ててもらうのを期待だな」

「そうね、そこは神のみぞ知るってとこでしょうけど……まぁ、気楽に待ちましょう…………」

 他愛のない話をしながら俺たちは、刻一刻と迫る選考会への緊張感を誤魔化していた……、今日ばかりはこの待ち時間がやけに長く感じられる。

おそらくまだ一時間も経っていないであろう……にもかかわらず、俺は感覚的にその倍以上は待たされている気がしてならなかった――――――。


「――みんなすまない! 待たせたね!! 急ぐ必要はないが、一応、学園大広場まで移動してくれ!! 後学の為にいろんなパフォーマンスを観ておきたまえ!!」

 突如、ノックも無しに部室のドアが開いたと思ったら、小倉先輩が紙切れ一枚を握りしめ、部室から出るように俺たちを促す。

「小倉先輩、くじの結果はどうでした?」

「ふ、愚問だね! 誰にモノを言ってるんだい? 最高の結果に決まっているじゃないか!!」

「という事は……一番最初とかですか?」

「惜しい! その逆であるッ! いちばん最後さ! 喜びたまえ、トリを飾るのは僕らダンス同好会だぞ!! どうだい!? すごいだろう!!」

「――!? な、なんて事をしてくれるんですか、先輩………………」

「ん? どうした、伊野平くん? 嬉しくないのかい?」

「小倉先輩はベテランですからいいかもしれませんが、俺らはまだまだ初心者なんですよ!? よりにもよって、トリって……」

「デビュー戦でトリなんて最高じゃないか!? 君たちは本当についてるよ、はっはっはっ!! 僕らのパフォ―マンスをみんなにみせつけてやろうじゃないかッ!! さぁ、いくぞッ!!」

 小倉先輩に物事を任せるとやはりただではすまない……最高の裏返しは最低、果たして俺たちにとって小倉先輩のくじ運は最高なのか、それとも最悪なのか……この時の俺たちにはまだ、先のことを知る由もない――。


「うわぁ! こんなに出演者がいるんですか!?」

 学園大広場には俺の想像を遥かに超える団体、人数の出演者たちが待機していた。しかもさすが能美坂学園だ……今日の選考会の為に特設された舞台もなかなかに本格的だ。

「うむ! この選考会は僕らだけではなく誰にとってもビッグチャンスだからね!」

「……にしたって、多すぎませんか」

「いや、例年通りだぞ! 団体での出演が多いから大人数に感じるが、実際のチームの数ではグッと減るから心配するな!」

「はぁ……やっぱりこの学園はナメてかかれないことばかりだな………………」


 ――――――広場の雰囲気に圧倒され、茫然としていると選考会運営委員からの場内アナウンスが流れだす。

「……えぇ~、本日はお集まりいただきありがとうございます! では、早速ですが選考会をはじめたいと思いますので、番号札一番のチームから舞台に上ってください!」

「えっ!? もう!? いきなり始まるんですか!?」

「うむ! これだけの大人数である、サクサク進めないと時間がおしてしまうからね」

「そうはいっても……素っ気なくいきなりスタートか………………」

 そうこう話をしているうちに番号札一番の三人組チームが一段高く設営された舞台へと上ってくる。あれだけ熱気を帯び、ざわめきたっていた会場を演目の曲が始まるまでの間、刹那的ではあるが、まるで肌に冷気を感じさせるほどの静けさが周囲をつつみこむ――。

「始まる………………」

 舞台に上がった演者さん達の緊張感が尋常じゃないことは一目でみてとれた。別に俺が舞台に上がったわけではないのだが、緊張というものは伝染するのだろう……ただ舞台を見ているだけの俺も異様な緊張を感じていた。初っ端からのスタートでひょっとしたら気負ってしまい緊張感が増すのかもしれない……。そう考えると、一番最初じゃなくてよかったとも思えるが、一番最後よりかはマシな気もする………………。他人を気にしている余裕なんてほんとうはないのだが、そんなことを考えながら舞台の上を眺めていると以外にもあっさりと番号札一番のチームのパフォーマンスは終了していた――――――。

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