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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
35/42

35 中間試験後

 ――キーンキコーンー、カーンカコーン――。

 ――キーンキコーンー、カーンカコーン――。


 今日も能美坂学園独特のチャイムが鳴り響く……。さすがに、この日ばかりはこの鐘の音は、全ての事からまるで魂を解放してくれるような……自由を象徴しているような……そんな格別な音色に聞こえた――――――。

「――終わった……終わったんだ……、やっと………………」

「さぁ、優ちゃん、部室に急ぐわよ!」

「ひとが余韻に浸っている最中だというのに……相変わらず空気読まねぇな………………」

「余韻?」

「そうだよ! やっと中間試験が終わったんだぜ、しばらく勉強しなくて済むだろうがッ!! この解放感がわかんねぇのかよッ!!」

「あたし、普段からそんなに勉強なんかした事ないし……ていうか別にいつも通りなんだけど」

「うわ!? 腹立つわーッ!! ホント世の中ってのは不公平だよな……、この世界の不条理さ、どうにかなんねぇかな………………」

「なにグチグチいってるのよ、いいからさっさと支度しなさい!」

「……ったく、わかったよ!」

「試験も終わったんだから、頭切り替えてちゃんとやってよね」

「それもわかってるよ! 紗綾河はホントにいっつも一言多い! っとに……」

 ――中間試験が終わったかと思ったら、次はすぐに選考会がまっている。俺にとっては中間試験も選考会も大事な大事なイベントでどちらもないがしろにする事はできなかった。紗綾河や円花宮先輩たちにとっては学校の試験程度はとっくに超越してしまっているようで、ただの復習問題を解くぐらいの感覚らしい……幼少の頃から塾や家庭教師の先生に物事の本質を学んできた人たちはやっぱり何かが違う。彼女たちはひょっとすると、俺には想像もつかないような世界の住人たちなのかもしれない。でも、そんな彼女たちと偶然にも今は同じ学び舎で勉強をし、汗を流し、苦楽を共にしている。世界の不条理さを呪った事もあったが、でも今は逆に、この世界の奇跡に感謝もしている。もし彼女たちと出会わなければ、こんな気持ちにはきっとなれなかったであろうから………………。

 なにはともあれ、残すは選考会のみ!! 今の俺がやるべきことは、煩わしい事はすべて忘れ、全力で選考会を突破することだけだ――――――!!


「おはようございます! 試験お疲れ様でした!!」

「うむ! 試験ごくろうである! で? 手ごたえはどうだい?」

「小倉先輩……それ聞いちゃ駄目ですよ」

「おや? どうしてだい?」

「わかってるくせに……俺にそれ聞きます? マナー違反ですよ!?」

「ははは、まぁ仲間もいるからクヨクヨするな!」

「仲間?」

「オッス、優! ナカーマ!!」

「助鉢……おまえ……、仲間ねぇ………………」

「オレッちと優だけだぜ! 凹んでるの!! ヒャッホーッ!!」

「とても凹んでいるようには見えないけどな、おまえ………………」

「そんなに壊滅的でいらしたの?」

 ――小動物でも見るような、よく言えば慈しむような表情なのだが、悪く言えば俺をあわれむような面持ちで円花宮先輩が俺の顔を覗き込む。

「あ、いえ……円花宮先輩が教えてくれたヤマのところは大丈夫だと思います、たぶん……」

「それでしたらきっと問題ないですわよ」

「はぁ……」

「さぁ、気持ちを切り替えて前向きにいきましょう!!」

「そ、そうですね……少し元気でました、円花宮先輩、いつもありがとうございます!!」

「うふふ、お気になさらなくて結構ですわよ」

 そうだ、もう試験は終わったんだ……いい加減、気持ちを切り替えてがんばろう――。


「――さて、諸君! 試験も終わったことだし、わかっているとは思うが、次は選考会に全力で臨んでもらいたい!!」

「当然ですわね!!」

「試験じゃなければオレッち、もう何でもいいッス!」

「うむ! 早速にも週末には選考会である、が……」

「である、が……まさか、今から猛特訓とかですか?」

「いや、その逆である! 週末の選考会までは練習は休みにしようと思う!! 感謝したまえ!!」

「――!? 休み!? いいんですか!?」

「うむ、選考会はもうすでに目の前だ、僕らは精一杯やることはやってきたから、いまさら焦って特訓などして怪我でもされてはナンセンスである! しっかり心と身体を休めて選考会に臨んでもらいたい!!」

「でも、それじゃあ……なんだか………………」

「不安になる気持ちもよくわかる! ただ勘違いしないで欲しいのは、適当に遊んで過ごせといっているのではないということだ! ちゃんと休息をとってきちんとイメージトレーニングもして選考会に臨んで欲しいのである!」

「………………………………………………」

 ――小倉先輩の意外な指示に同好会メンバー全員が口を噤んでしまった。

「この休みの期間中に各々が責任を持って完璧なパフォーマンスができるように態勢を整えてくることッ! いいねッ!? ひとりでも未完成の奴がいたら全員に迷惑がかかるからね……そのつもりでいるように!!」

「休みというよりも……自分の課題をきちんと消化するための期間か………………」

「まぁ、どう捉えてくれても結構だがね」

「了解しました! 精神面も含めて、いい準備してきますッ!!」

「うむ! 晴れ晴れとしたいい顔だね、伊野平くん!! よろしく頼むぞ!!」

「はいッ――!!」

「うむ! みんなわざわざご足労ありがとう! 僕は今日、これから大切な用事があるから悪いけどこれで失礼させてもらうよ! では、これにて解散!!」

 試験が終わったその日の放課後からいきなり練習かと覚悟を決めていたのだが、意外にもあっさり今日は解散の運びとなってしまった。まぁ、これも小倉先輩の温情なのだろう……あの人らしいといえばあの人らしい。でも正直、少しホッとしている。本音をいえばここ数日は、精神的にかなりきつかったから、このお休みは嬉しい限りだ。今日という日くらいは思いっきり羽を伸ばして開放感を味わおうと思う――――――。

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