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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
34/42

34 結婚と就職先

「――紗綾河、大人げないぞ! もういい加減にしろよ」

「優ちゃん、ひどいよ!? どうしてあたしが怒られるの!?」

「そりゃあそうだろ……、円花宮先輩を扇風機扱いしたあげくに、出番を減らそうなんて……ちょっと度が過ぎるぞ」

「でもそれは、演出に必要な事だから……」

「とにかく、紗綾河ひとりの独断で演出や構成を決めるんじゃねえよ! まったく……」

「ほら御覧なさいな、伊野平くんのおっしゃる通りですわ!」

「円花宮先輩もです!」

「えっ!? わたくしも!?」

「子供じゃないんですから、同じ土俵にわざわざ降りていって喧嘩なんかしないでくださいよ」

「あ、あれは……」

「と、に、か、く!! 子供みたいなことはやめにして、試験勉強教えてください!!」

「そ、そうよね……ごめんなさい、伊野平くん」

「ひとつしか違わないですけど、円花宮先輩はお姉さんなんですから……頼りにしてますよ」

「あら? そこまで言われてしまっては全力で個人教授させていただくしかありませんわね!」

「はい! あらためて、よろしくおねがいします! ……紗綾河も、一応ちゃんと勉強しろよ」

「だって、あたしは今更あせって試験勉強なんて必要ないもの……」

「だからといって勉強の邪魔になることはするなよ……ガキじゃあるまいし………………」

「ガキじゃありません! ちゃんと大人です!!」

「どこがだよ……まるっきり子供じゃねえか!」

「ちゃんと出るとこ出てます!」

「そういう事をいってるんじゃねえって! 精神面の話だっつうの……少なくとも紗綾河には、落ち着いた大人の女性らしさは微塵もねぇよ! いくらなんでも、もう少し大人になってくれよな……ったく………………」

「そのくちぶりですと……、伊野平くんは落ち着いた大人の女性がお好みでいらして!?」

「――? 円花宮先輩? 唐突に何の話です?」

「ですから、もし結婚するなら年上? それとも年下? どちらがお好みですの?」

「…………? ――は? 結婚まではさすがに一度も考えたこともないですから………………ちょっとわかりません」

「優ちゃんが年上好みなんてあるわけないじゃないですか!」

「あら、紗綾河さん? どうしてそう言い切れるのかしら?」

「優ちゃんはあたたかくて優しくて、癒し系の女の娘が好みなんです!! 円花宮先輩のキャラとは真逆ですよね!?」

「伊野平くん!? そんな事ないですわよねッ!?」

「はぃ??????」

「そんなことあります!!」

「紗綾河さんは黙っててくださいまし!」

「いいえ、黙りません! ねぇ、優ちゃん? どちらかといえば年上と年下、どっちがいい?」

「別にどっちでも……数字にこだわりはないけど………………」

「そんなのダメ! どっちかにしてッ!!」

「えぇ……、なんでだよ………………じゃあまぁ、どちらかといえば年下の癒し系かなぁ」

「ほら!? 円花宮さん!? 聞きました!? ね、いったとおりでしょ!! つまりあたしみたいなのがタイプなんですよ!!」

「紗綾河さん、あなた別に年下でもなんでもないじゃない!? バカな事をおっしゃらないで!!」

 愚にもつかない言争いがまた始まった……もう本当にいい加減にしてほしい。今は別に年上とか年下とか、そんな話はどうでもいい事じゃないか………………。

「い、伊野平さん!? そ、それって……つまり、そういう意味なんですね!? だから紗綾河さんや円花宮さんに一切なびかなかったんですね!?」

 ――愚にもつかない言争いに予想外にも外郭から、まさかの参戦だった。あろうことか舞衣ちゃんまでもがこのくだらないイザコザに首を突っ込んでくる。

「へ!? 舞衣ちゃん……きみもいったい何を言ってるの!?」

「そうですかぁ……、そういうことだったんですねぇ……舞衣、まだまだ伊野平さんには釣り合わないかもしれませんが、これから頑張りますね!!」

「――は? 舞衣ちゃん? いや、だから……なに言ってるの?」

「うむ、そういう事なら伊野平くん! 妹のことをよろしく頼むぞ!! 超次元脳量子応用技術の使い手は世界中どこへいっても仕事には困らないし、君ほどの法術の使い手ならば将来的にも就職には困らないだろう! まぁ、我々、超次元脳量子応用技術の使い手は一般人よりもそこそこ高い収入は保障されたも同然であるからね……最悪の場合でも、どこかの超次元脳量子応用技術研究施設の被検体にでもなれば生活に困ることもないだろう! いやぁめでたい!! 末永くよろしく頼む!!」

「ちょっと! 小倉先輩まで何言ってるんですか!? しかもどこかの超次元脳量子応用技術研究施設の被検体って……縁起でもないこと言わないでください!!」

「そうですわ、小倉代表! どこかの超次元脳量子応用技術研究施設の被検体だなんて……、それでしたら、円花宮グループの研究施設の被検体になっていただきますわ!」

「――へッ!? そこッ!? いやいやいやいや、違うでしょ! 円花宮先輩!!」

「あら? 円花宮グループの被検体ではご不満かしら?」

「いやいやいや、だからそこじゃないでしょ!? 被検体からいったん離れてくださいよ! 俺はモルモットになるつもりはありません!!」

「優ちゃん、円花宮グループのモルモットになっちゃうの!? そんなの絶対にダメだよッ!!」

「紗綾河……なんでそうなる……ならねぇよ………………」

「まぁ、伊野平くんでしたら円花宮グループで特別に超高待遇でお迎えいたしますわ!」

「そんなのダメですッ!! 優ちゃん、円花宮グループになんか入ったらこの人に何されるかわからないよ? ね? バカなこと考えるのはやめよぅ?」

「紗綾河……だから、なんでそうなる……おまえ頭いいのか悪いのかよくわかんねぇな……」

「伊野平さんッ! 超次元脳量子応用技術関係の事ならうちの父に相談すればどうにかなると思います! 小倉家は超次元脳量子応用技術関係の事業を展開していますから、伊野平さんなら父に頼めば仕事には困らないはずです!! ね? お兄ちゃん!!」

「まぁ本来、自分の道は自分で切り開くべきだがね……かわいい妹のたっての頼みとあらば、考えてやらなくもない」

「小倉先輩まで……なにいってるんすか………………」

「――? 伊野平くんの就職先の事をいっているのだが?」

「だから、どうしてそうなるんですか!? 話が飛び過ぎです!! まだ結婚も就職先も考えてはいませんッ!!」

「なんだとッ!? そんなことで妹を幸せに出来るとでも思っているのかッ!!」

「で、す、か、らッ!! 話が飛躍し過ぎなんですってばッ!! いい加減にしてくださいよッ!!」

「伊野平くん? 就職先をお探しでしたの? それなら円花宮グループに……」

「探してませんッ!!」

「じゃあ将来はあたしが食べさせてあげるしか……」

「紗綾河に食わせてもらうつもりもねぇよ!! なんかしらの仕事はするに決まってんだろ!! 俺を勝手にニートにするなッ!!」

「なるほどね、そういうことか……では僕と一緒にプロのマジカルダンサーを目指すかい?」

「目指しませんッ!! 小倉先輩は、そんな不安定なわけの分からない仕事をしている奴に大切な妹さんを託せるんですかッ!?」

「……き、厳しい事をいうね、伊野平くん」

「じゃあ伊野平さんには安定したお仕事に就いていただいて、趣味で兄と一緒にパフォーマーとして活動するのはどうでしょうか? それなら兄も父も安心だと思います!」

「舞衣ちゃん……、きみまで……なにを言っているんだ………………、唯一まともなキャラだと思っていたのに………………」

「……んーまぁ、じゃあ仕方がないね、不本意だが、そんな感じで頼むよ、伊野平くん!」

「どんな感じですかッ!? もう本当にいい加減にしてくださいッ!!!!!! 今の俺には、こんなしょうもない事に時間を費やす余裕はないんですーーーーッ!! もうそっちはそっちで勝手にやってくださいよッ!!」

 ――半ギレ状態で俺は叫ぶ! 優秀なみんなにとってはたかが中間考査かもしれないけど、俺にとっては死活問題だ。勉強を教えてもらえると思ってこの勉強会に参加したのに、もはやそんな状況ではなくなってしまった。テストに出るポイントだけを効率的に教えてもらい、あわよくば高得点をとろうなんて……そんな射幸心を煽られた俺が馬鹿だった――――――。

 とはいえ、ひとりで勉強するよりかはいくらかマシなことも事実だ。鉢助とふたりで円花宮先輩の用意した過去問とプリントだけでもなんとかこなせば、何もしないよりかは遥かにマシだろう……とりあえず、こっちはこっちで出来る事をやるしかない――。

 ――――――今日という日はなかった事としてキッパリ諦め、明日の勉強会から本腰を入れて試験勉強に取り組もうと俺は決意した……が、そう決意したまでは良かったのだが、次の日も、その次の日も、そしてまたその次の日も、みんなまともに試験勉強なんかに取り組むつもりは微塵もなく、結局は初日と変わらず、演出がどうだの構成がどうだの……果てはダンスとは? パフォーマンスとは? などという形而上学的な、およそ明確な答えなど見当たらなさそうな難解な議論にさえ発展させている始末だった。

 意志の弱い俺たちが、そんな状況下で集中して試験勉強など出来るはずもなく、結局は俺も鉢助も初日とほとんど変わらず、なかなか勉強が進まない惨状が続いてしまった。ひどい時などはフォーメーションの確認だの、演出の見せ方の確認だので参考書を閉じ、ペンを置き、しばらく選考会のミーティングにつき合わされることも一度や二度ではすまなかった。

 早朝は選考会の演出の練習、放課後は構成の確認からルーティーンの繰り返し、そしてひたすら同好会メンバーとのシンクロ率を上げる練習、そして夜は勉強会と称した一日の反省会とミーティング、さらには後々の練習課題や翌日の練習メニュー等の話で二十二時を過ぎる事も日常茶飯事で、早朝から二十二時までずっとダンス漬けの毎日だった。おかげさまで選考会の方は随分と自信がついたが、中間試験の方はというと………………考えるだけで憂鬱だ。しかし、時の流れというものは残酷なもので、泣こうが喚こうが容赦なくその日はやってきた――。

 実質、試験勉強は前日の追い込みだけで、それ以外はほとんど何もやっていない……まぁ、いわゆる一夜漬けである。さすがにテスト前日は円花宮先輩もテストの要所を詳しく教えてくれたし、紗綾河も大人しかったが、所詮は付け焼刃だ。はたしてどこまで通用するのか……、俺には結局、最悪のケースも視野に入れ、覚悟を決めて中間試験を乗り切る以外に選択肢は無かった――――――。

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