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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
32/42

32 演出と構成

「――別邸でこのレベルかぁ……母屋はいったいどんだけなんだよ………………」

「優、窓の外を見てみろよ! でっけぇ池があるぜ!」

「おぉ……鯉も泳いでるし……いかにもお金持ちな感じだなぁ………………」

 この別邸は洋風建築なのに対して、池の鯉や庭園のつくりは和風そのもので、何ともアンバランスな雰囲気を醸し出していた。

「どこか適当なところに荷物を置いて、くつろいでくださいまし」

「――!? 円花宮先輩!? ここで勉強するんですか!?」

「……? そうですが? なにか? ……もしかしてこの人数では狭すぎましたか?」

「逆ですってばッ! この人数では広すぎるくらいです! こんなところで勉強だなんて……なんだか俺、落ち着かないですよ……」

「そうですの……? でも、この別邸は他と比べてかなり狭い方ですから……」

「マジですか………………」

「それに、伊野平くんには将来的にこのくらいの広さには慣れていただかないと……」

「……は?」

「いえ、なんでも……環境に慣れていただく事もトレーニングのひとつとお考えくださいまし」

「いや……、まぁ……もちろん何も文句を言える立場ではないですから……了解しました! 集中して勉強がんばります!!」

「はい、よくできました。一緒にがんばりましょうね」

 雰囲気にのまれ、俺は完全に萎縮してしまい、円花宮先輩の掌の上で踊らされている状態だった。この状況下で平然としていられるのは小倉先輩のような強靭な精神力の持ち主か、もしくは、この環境を日常の範囲内だと感じとる事ができるハイクラスの人間だけだろう――。


「――ところで円花宮先輩、近所にコンビニってあります?」

「コンビニ?」

「はい、さすがにお腹が空いちゃって……お弁当か何か買ってきますので、もしあれば近くのコンビニを教えてください」

「あら? そんな事でしたら、すぐにお食事のご用意を致しますわ」

「へ!? い、いえ!? そ、そういう訳には……」

「ご心配なく、それも含めて勉強会ですわ……、まず同好会の皆で軽く食事にしてから勉強に入りましょう」

「マジっすか!? さすが円花宮先輩ッス! 御馳走様です!!」

「おい、鉢助……ちょっとは遠慮しろよ………………」

「そんな……伊野平くん、遠慮なんてなさらないでくださいな」

「すまないね、円花宮くん……でも本当にいいのかい?」

「小倉代表までそんな……別にたいしたものはございませんので、みなさん遠慮なくどうぞ」

「じゃあまぁ……そういうことなら、遠慮なくみんなでいただくとしようかね」

「はい、ではすぐに用意させますのでしばらくお待ちくださいね」

「うむ、ありがたい、感謝する! 諸君ッ!! 円花宮くんにここまでしてもらったのだから、無様な結果は出せないぞ!」

 小倉先輩はそういって俺たちに軽くプレッシャーを与えてくる――でもたしかにその通りで、ここまでしてもらったのに何の結果も出せなかったら、それこそ円花宮先輩にあわせる顔がない。なんだかこの円花宮邸に着いてからは色々な意味で少しずつ少しずつ逃げ道を塞がれているような……少しずつ少しずつ追い詰められているような……そんな感覚が否めない。


 ――俺の余計な心配ごとをよそに、早速、簡単な夕食が運ばれてくる。軽い食事とはいえ、さすがにお金持ちの家だけあって簡素とは言いつつも食材にはこだわった贅沢な夕食だった。とにかく品数が多く体の事や健康の事を考えてつくられた食事で、トータルでものを考えるとサプリメントや薬に頼らず、食事だけで栄養バランスを整えようとすれば膨大な手間と莫大なコストがかかるのだが、それをサラッとやってのけているこの夕食は円花宮家の本質や財力を如実に物語っているように感じられる。真のお金持ちとはおそらく、薄っぺらい表面上の豪華さや高級感にはこだわらず、物事の本質を決して見失わないのかも知れない。

 こんなにも食事がありがたいと感じたことは久しぶりだった……空腹だったからってわけではなく、物事の本質に触れる事が出来たような、そんな気がしたから………………。

 夕食にがっつく鉢助を尻目に、ほんとうは俺も鉢助と同じ気持ちなのだが、なんだかみっともない事はしたくないな……などとガラにもないことを考えてしまい、少しカッコつけて俺は、何事もなかったかのようにシレっとした顔で夕食をすませた――――――。


「――ふぅ、ごちそうさまでした!!」

「いいえ、お粗末様でした」

「お粗末だなんてとんでもないですよ、こういう事こそが真に贅沢な事なんだと思います! 本当にごちそうさまでした!!」

「あら? さすが伊野平くんね、この夕食の価値が解かるなんて……頭のいい男性はやっぱり素敵ね」

「へ? 俺、勉強の方はあんまりなんですが………………」

「勉強が出来る出来ないのお話しではないですわよ」

「……? よ、よくわかりませんが、勉強がんばります!」

「うふふ、一緒にがんばりましょう」

 笑顔でそういいながら円花宮先輩はテキパキとお手伝いさん達に指示を出し、あっという間にテーブルの上は片付けられ、一気に勉強の為の布陣を敷かれてしまった。はぁ……ついに来たか………………いよいよこれから憂鬱なお勉強タイムである――。


「それではそろそろ試験勉強をはじめましょうか……」

 円花宮先輩がごそごそと資料やプリント、過去問などを鞄から取り出している最中だった。みんなも臨戦態勢をととのえ、スイッチを切り替えたばかりなのにもかかわらず、相変わらず空気を読まない紗綾河が一冊のノートを小倉先輩に手渡した。

「小倉先輩! これ!!」

「ん? 紗綾河くん、なんだいこれは?」

「とにかくこのノートを見てください! あたしなりに考えた演出と構成です!!」

「ほぉ……紗綾河くんがねぇ、どれどれ………………」

 小倉先輩はおもむろにノートを開き、パラパラと目を通す――。

「……ふむ、なかなかにおもしろいね! 素人さんが考えた演出と構成とは思えん!」

「ですよね!? これでどうですか!? 先輩!!」

「んー、まぁまぁだけどね……これをこのまま使う事は難しいかなぁ」

「例えばどの辺がですか!?」

「例えばだね………………」

 小倉先輩と紗綾河が試験勉強そっちのけで選考会のパフォーマンスについて、なんだか熱い議論をはじめてしまった――。まぁ、あのふたりは頭もいいし、成績に何の問題もなさそうだから試験なんて眼中にないのかも知れないが……しかし、俺にとっては大問題である。せめてもう少し静かにしてもらいたところだ――――――。

「――だからね、紗綾河くん……何度も言っているように、そこは非常に難易度が高いんだよ」

「練習します!」

「だから、紗綾河くんひとりの問題ではなくて、全員の問題なんだから……君のワガママで勝手に構成は変えられないよ!」

「じゃ、じゃあ演出をもっと凝らしてみてはどうでしょうか?」

「簡単にいうけどね……、具体的な案でもあるのかい………………? ただ文句を言うだけなら誰でもできるぞ」

「あります!」

「ほう……なかなかいうねぇ、ぜひ聞かせてもらいたいところだね」

「はい! 例えばですね………………」

 白熱したふたりの議論はまだ続いている――。もともと勉強があんまり好きではない俺にとって、ふたりのこの討論は正直キツイ……どうしたって選考会の演出や構成のことが気になって集中力を乱されてしまう。こんな状態で参考書の文言なんかが頭に入ってくるわけがない。そこは鉢助も同じ状態で、あろうことか円花宮先輩までも勉強に集中しているふりをして小倉先輩と紗綾河の話に聞き耳を立てている……もはやこの空間で勉強をしろという方が無理な話である――――――。

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