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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
31/42

31 勉強会

「――さぁ、みなさま到着いたしましたよ、円花宮邸へようこそ!」

 慣れない高級車におおよそ三十分ほど揺られたであろうか……大きな庭園を通過し、ほどなくして円花宮邸へ到着する――運転手さんは車を停車し、俺たちよりも先に降りて、まるで女性をエスコートするかのように俺たちの為に車のドアを開けてくれた。

 ある程度想像はしていたが、やはり豪勢なつくりのいかにも超お金持ちそうなお屋敷だった。ハッキリいって住む世界が違いすぎることを痛感させられる。基本、俺のような一般庶民はなかなか能美坂学園には入学できない。たまたま俺は、高いレベルの超次元脳量子応用技術を使えたから、その枠で入学できただけで、その枠を取っ払ってしまえば本当にそんじょそこらにいるただの高校生にすぎないのだ。浮世離れした円花宮邸を見た瞬間、なんだかそんな現実を突付けられているような錯覚に陥ってしまい、あまりいい気分ではなかった――。


「――みなさん、円花宮邸へようこそ! これから別邸へご案内いたしますわ」

「別邸!?」

「はい、円花宮の屋敷には別邸がありますので、お勉強はそちらで……別邸でやりますって、以前にも申し上げましたわよね?」

「そういえば、別邸の許可をなんたらかんたら言っていたような……」

「ええ、ですからひとつだけ別邸の使用許可をとっておきました」

「ひとつだけって……、あのでっかいお屋敷は?」

「あれも別邸のひとつですわ、母屋以外にこの庭園には別邸が幾つかありますので、そのうちのひとつを使って勉強しましょう」

「なぁ鉢助、円花宮さんの言っていることの意味がよくわからないんだけど……」

「心配するな、オレっちもまったくピンと来ないッスわ! 感覚がすでに異次元だ!!」

「なんか俺、もぅ円花宮先輩とは気軽にくちをきいてはいけない気がしてきた……」

「なにをおっしゃいますの……伊野平くん、そんな寂しいことを言わないでくださいまし……」

「はぁ………………」

 世界の違い……いや、もはや次元の違いさえ感じさせられ、茫然自失の状態だった俺たちに、やや野太い声の円花宮先輩の父親が話しかけてきた――――――。


「――やぁやぁ! 我が円花宮邸へようこそ! 皆で集まって勉強会だって? 感心感心!! 何もないところだがゆっくりしていきなさい」

 超高級そうなピシッとした洋服を着て葉巻をくゆらせ、そのうえ髭をたくわえた貫録のある風貌……円花宮さんのお父様は、なんともわかりやすい教科書通りのお金持ちの旦那様という感じの風体だった。

「お父様、今日からしばらく離れの別邸をお借りしますわね」

「可愛い娘の為だ、もちろん自由に使いなさい」

「ありがとうございます……それと、こちらの彼が以前お話し申し上げた伊野平優くんですわ」

 そういうと円花宮先輩はどういうわけか俺個人を父親に紹介してくれた。

「おぉ! きみが伊野平くんか!! 娘からいろいろと聞いているよ!! とにかく凄い法力の持ち主なんだってね!?」

「い、いえ……、そんな事は………………」

「うん! なかなかの面持ちの好青年だ、これなら我が円花宮家の娘をたくすこともやぶさかではないな!! はっはっはっ!!」

「ちょっと! お父様!! 伊野平くんに失礼ですわよ!!」

「なにをいうか、元素系の超次元脳量子応用技術の使い手なんてなかなかのものだぞ! 多少強引でも奪い獲るつもりでいかなければならんぞ!!」

「今、そういうお話をなされても困ります!」

「チャンスがあったら迷わず行く! 大事なことだぞ、まったく……、いやいや伊野平くん、うちの娘はご覧の通りでやや消極的でね、どうか男らしく引っ張っていってやって欲しい! よろしく頼むぞ!!」

「はぃ? あの、円花宮さん……なにをおっしゃっているのかよくわからないのですが……?」

「円花宮さんだなんて、なにをそんなに他人行儀な……お義父さんって呼んでくれたまえよ!」

「は!? あの、ほんとに……なにをおっしゃっているのか……」

「まぁまぁまぁまぁ、そうかたくならないで……娘をよろしく頼むよ!」

「いえ!? ですから、なにをおっしゃっているのか……」

「こう見えてもうちの娘はなかなかの器量良しだよ! それに伊野平くんと同じく、元素系の超次元脳量子応用技術の使い手だ! そんな選ばれた二人の間に子供が出来たら、さぞ立派な魔法使いが生まれることだろうねぇ……いやぁ、将来が楽しみだ!! はっはっはっ!!」

 ダメだ……この人も小倉先輩と同じタイプっぽい……人の話を本当に聞かないタイプだ――。


「――ちょっと! お父様ってばッ! 本当にいい加減にしてくださいまし!! 彼が困ってらっしゃるでしょう!?」

「おや、そうかい? じゃあ、まぁこの辺にしておこうかね……では伊野平くん、くれぐれも娘を頼んだよ!!」

 そういうと円花宮さんのお父さんは笑いながら葉巻をくゆらせ、秘書らしき人を連れて屋敷の方へと消えていった――――――。


「伊野平くん、ほんとうにごめんさい……なんだかお父様が調子に乗ってしまって……」

「い、いえ、そんな……別に気にしてませんよ」

「そう……?」

「はい、お気遣いなく」

「ありがとう、伊野平くん……でも、少しはお父様のお話を心に留めておいてね」

「はぃ? それってどういう……」

 不敵な笑みをうかべる円花宮先輩を尻目に、別の意味での怖い不敵な笑みを浮かべる紗綾河が俺の腕を強く引っ張りながら、これからお世話になる人に対してありえない失礼な事を言い放つ――。

「円花宮先輩! 先輩のお家の話なんてどうでもいいんです! あたしたちには無駄話なんてしている時間はないんですけど! 早く勉強をはじめましょうよ!!」

「おい、紗綾河ッ! いくらなんでも失礼だぞ!!」

「いいんですのよ、伊野平くん……わたくしは、その程度で怒ったりしませんわ、誰かさんと違ってわたくしの沸点はそんなに低くはありませんから………………」

「……誰かさんって? どこの誰の事でしょうか!?」

「さぁ……、少なくとも伊野平くんには相応しくない方でしょうね……将来、妻となる自覚があるならば、もっと貞淑な方がふさわしいと思いますので………………」

「「………………………………」」

 また始まった……もういいかげん慣れてはきたが、めんどくさいことに変わりはない。こんな事につき合わされるくらいなら勉強をしていた方がまだマシな気がする。

「と、とにかく円花宮先輩、その別邸にそろそろ連れて行ってもらってもいいですか」

「そうですわね、こんな事で伊野平くんの大切な勉強時間を無駄にしては失礼ですものね……すぐそこですから、こちらへどうぞ」

 そういうと円花宮先輩はスタスタと歩きはじめ、大きなお屋敷の脇にある別邸へと案内してくれた――――――。

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