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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
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03 紗綾河絵海

 ――――――奇妙な先輩との出会いから数日後……まだ慣れない新しいクラスではあるが、俺は一応の平穏を取り戻していた。

「伊野平くん? ……伊野平くん!?」

「えッ!? あッ、はい!?」

「どうしたの? ぼーっとしちゃって……」

「い、いえ……すみません」

 午前の授業も終わり、これからお昼にしようとしていたところに突如、俺に声をかけてきたのはクラスメイトになったばかりの紗綾河絵海だった――。

 黒髪のロングヘアーに透き通るようなブラウンの瞳、おまけに澄んだ声をしている典型的な美少女だ。容姿端麗、眉目秀麗、成績優秀でしかも魔法科……、話題性には事欠かない彼女は入学早々から当然のように能美坂学園内で話題になっていた。

 そんな彼女と偶然にも同じ魔法科で、しかも、同じクラスなのである。そのおかげで鉢助からはいわれのないやっかみを受けていて、紗綾河には何の罪もないのだが、俺の中では若干、彼女が疎ましい存在でもあった――。


「ぼーっと広場の方ばっかり見て、なにか面白いものでもあるのかしら?」

「いえ、ちょっと、先日のレクリエーションのことを思い出していて……」

「レクリエーション? あぁ、新入生勧誘合戦のときのことね……確かに凄かったわよね! ひとつひとつ断るのが大変だったわ」

「紗綾河さんでしたら引く手数多でしょうから、確かに大変そうですね」

「ホントに大変だったわよ……やりたいことがあるからって、ひとつひとつ丁寧に同じことを繰り返し、繰り返し……数メートル毎に声かけられたら、たまったものじゃなかったわ」

「紗綾河さん、目立ちますからね……それはそれで大変なんでしょうね」

「さすがにもう慣れちゃったけどね」

「そうなんですか、余裕の発言ですね………………ところで、やりたいことってなんなんです? もう入るクラブって決まったんですか?」

「うふふ、内緒よ」

 女ってなんでこうなんだろう……少しでも話題を広げて会話を弾ませようとしているのだが、内緒といわれてしまうと俺のトークスキルではお手上げだ。しかもさっきからずっと、クラスの男子から突き刺さるような視線を感じ続けているのだが………………、なんだかちょっと胃が痛くなってきた気がする――――――。


「伊野平くんは何かクラブとかは決めたの?」

「具体的なものはまだ何も……なんとなく何か魔法系の文化部に入ろうかと」

「魔法系っていっても、ウチにはいろいろあるわよ」

「ん~、何か基礎法術から教えてもらえるようなクラブにしようかと思います」

「そう、まぁそれならどこのクラブでも教えてもらえるとは思うけど……ねぇ、これから一緒にクラブの偵察に行かない?」

「これからですか!?」

「そう、これから!」

「い、いえ……でも、お昼もまだ食べてないですし………………」

「そんなのは購買で何か買ってさ、食べながらでいいじゃないのよ! でしょ? 善は急げよ、早速いきましょ!!」

 そういうと紗綾河は強引に俺の腕を引っ張り、教室の外へと連れ出そうとする――ますます男子からの視線が痛い。

「ちょッ! ちょっとッ! わかった、わかりましたから引っ張んないでください!!」

 人は見かけによらないとはよくいったものだ。一見すると大人しそうで可憐な少女なのだが、性格は意外と強引で雑なようだ――。


「――じゃあ、まずは……クラブの掲示板からチェックしていくのはどうかしら?」

 俺の腕を掴んだまま、まわりの視線も気にせずに紗綾河は無邪気に廊下を歩きはじめる。

「あ、あの……紗綾河さん?」

「ん? なにかしら?」

「そ、そろそろ腕を離してもらえませんかね……ただでさえ紗綾河さんは視線を集める人なんですから、こんな事をしているとあらぬ誤解を……」

 俺がまだ紗綾河に説明をしている途中だった。あろうことか一番めんどくさい奴……購買部からパンを仕入れてきた鉢助と出くわしてしまった!

「優、お前………………………………」

「ち、違う! 鉢助! 誤解だ!!」

「オレっちはまだクラスにも馴染めず、1人寂しく購買部のパンを買ってきているというのに………………それなのに……優、おまえは……おまえはぁッ!!」

「だから違うといっているだろ! いったん落ち着け!」

「これが落ち着いていられるかぁぁぁぁぁぁ!!」

 こ、こいつ……マジか……嫉妬というものがこうも人間を狂わせるものなのだということを今日、俺は初めて目の当たりにした気がする――。

「あら、伊野平くんのお友達?」

「え、えぇ……ガキの頃からの腐れ縁で、河鹿鉢助って奴です。クラスは違っちゃったけど、同じ魔法科の生徒ですよ」

「あらそう、よろしくね! 鉢助くん」

 そういうと紗綾河は掴んでいた俺の腕をやっと離し、鉢助に右手を差し出した。

「へ? あッ、はい! よろしくお願いします!!」

 大量のパンを抱えたまま鉢助は、強く紗綾河の手を握り返した――。客観的にみると、少し興奮気味なのがよくわかる……こいつ、ちょっと本当に気持ち悪い奴だ。


「――それじゃ鉢助くん、ごきげんよう。さっ、優ちゃん、いきましょ」

「ちょ、おまえッ!? はいぃぃッ!? 優ちゃんって……!?」

「呼び方なんてどうでもいいじゃない……細かいことは気にしないの、さっさといくわよ!」

 どういう意図があるのか知らないが、本当に彼女は強引だった。しかも、とんでもなくなれなれしい……女子に対してほとんど免疫のない俺は、すでに彼女に振り回されていた――。

「じゃ、じゃあな……鉢助、また後で」

「………………まてや、オレっちも連れていってくれ……ていうか、連れていけ!」

「は? なんでだよ、ちょっとクラブの掲示板を見にいくだけだぞ」

「いいからつれてけえぇぇぇぇぇぇ!!」

「お、落ち着け! わかったよ! じゃあ鉢助もパン食いながら一緒に来いよ、もう……」

「よっしゃ! ということで紗綾河さん、よろしくね」

 鉢助の言葉に気のない返事をした後、なぜか紗綾河はあきらかにぶすっとした不機嫌そうな顔をしている………………。

 とにもかくにも俺たちは、三人でクラブ勧誘用の掲示板へと向かった――――――。

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