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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
28/42

28 臨戦態勢

「おはようございます!」

「やあやあ! おはよう伊野平くん! 今日から選考会までがんばろうではないか!!」

「はい! よろしくお願いします!!」

「うむ、では早速だが軽くアップして柔軟からはじめよう! それが終わったら演出と法術の訓練だ!!」

「――!? 基礎練習からじゃないんですか!?」

「それをしたいのはヤマヤマなんだがね、それは放課後にとっておくことにしよう」

「……はぁ」

「というわけで各自、さっさとアップと柔軟を済ませてくれたまえ!」

「了解しました!」

 小倉先輩の口からは意外にも基礎練習を後回しにした、法術と演出の2単語が飛び出した。先輩らしいといえばらしいのかもしれないが……基礎練習を後回しにするなんて自分でもますます不安になるくらいに意外だった――。

「――これで一応みんなアップと柔軟おわりましたわ」

 季節の所為もあり、だいぶ暖かい陽気のおかげで柔軟とアップだけで全身から汗をにじませていた円花宮さんが小倉先輩に報告する。

「うむ、では早速はじめよう! まずは法術の確認からだが……」

 そういうと小倉先輩は俺に視線を投げ、一歩前へ出るように促した。

「では伊野平くん、早速だが君の得意なフレイムバスターを上空へ放ってはくれまいか」

「え!? ここでですか!?」

「そう、今ここで! というより、室外の校庭でないと法術の訓練はできないからね」

「あ!? なるほど、だから校庭が使える早朝に法術の演出をやるんですね」

「そのとおりである! 放課後の第三小体育室では法術は一切使えん! 次も同じことをやったらそれこそ間違いなく廃部である!!」

「なるほど、了解しました! それでは軽く……」

 朝っぱらから魔法を駆使するのは少し酷だが、しかし、そんなことは覚悟の上だ。ある程度出力を抑えて、俺は炎の竜巻を上空へと解き放つ――!!

「おぉ!! いつみてもすごいねぇ!!」

「いえ……それほどでも」

「よしッ! ではこのフレイムバスターは鉄板ネタということで……、後の演出をどうすべきかねぇ………………」

「小倉先輩の電撃ネタはどうです?」

「うむ、一応それも考えてはいるが……使いどころと、どう演出に組み込むかを思案中なのだがね……はて………………」

「それでしたらわたくしの風も演出に組み込んでいただきたく思いますわ」

「そういえば円花宮くんも元素系の魔法使いだったね……炎に風か、相性はよさそうだが……こちらも使いどころに迷うねぇ」

「こんなのはどうかしら? 伊野平くん、ちょっと小さな炎をポンッポンッと放ってくださるかしら?」

「ええ、いいですよ……ほいっとな」

 俺はいくつかの小さな炎を円花宮先輩の前面へと軽く放る――するとどういう原理か知らないが、円花宮さんが何かしらの法術をつかうと俺の放った炎が一瞬だけ激しく輝き、そしてはかなくも消えていった。

「酸素を強く吹きつけただけですが……このような演出はいかがでしょうか? 小倉代表」

「うむ、まだまだ見せ方や工夫の余地はあるが……なかなかよさそうだぞ!」

「では、これも演出のネタに加えてくださいまし」

「うむ、考えておこう! あとは……」

「あの……あたしの魔法も何かに使えますか」

「ん? 紗綾河くんは水とか氷系統だったね?」

「はい! そうです!」

「ん~どうしたものかねぇ……炎と風は相性よさそうだが、氷かぁ………………」

「うふふ、氷と炎では相性最悪ですわね、まるで将来を暗示しているようですわ」

「そんなことないです! 円花宮さんはちょっと黙っててください!! 小倉先輩に何とかしてもらいます!!」

「いくら小倉代表でも無理なものは無理ですわよ……。紗綾河さん、あなた伊野平くんと相性悪いのよ」

「ですから、そんなことないですッ! あたしが氷系で優ちゃんが炎なんて、お互いに苦手な部分を補えあえる最高の相性じゃないですか!? わかったようなこといわないでください!!」

「ま、ものはいいようですわよね……」

「キーーーーーーーーーーーー!!」

「相変わらず二人は仲睦まじいね、ほんとに………………」

「小倉先輩! 何か演出を考えてくださいよ!! なんだったらダイヤモンドダストくらいはやってみせますからッ!!」

「ダイヤモンドダストねぇ……でもあれって風がいるのではないかい?」

「そこは、円花宮先輩がいるじゃないですか!!」

「……だそうだよ、円花宮くん」

「は? 何でわたくしが紗綾河さんの為に風を……? わたくしは伊野平くん専用ですが?」

「専用ってなんですか!? あたしだっておなじ同好会のメンバーでしょ!?」

「同好会のメンバーではありますが、おなじではないですわ」

「キーーーーーーーーーーー!! ちょっと小倉先輩! なんとか言ってやってくださいよ!!」

「……二人とも、そろそろ本当に仲良くしてくまいか?」

「ほら、円花宮さん! 小倉先輩がそういってるのよ!? 協力してくださいよ!!」

「いつも通り仲良くさせていただいておりますが?」

「だったらあたしにも風ください!!」

「それとこれとは別問題!」

「キーーーーーーーーーーーー!!」

 最近ではすっかり見慣れた光景だが、今回ばかりは傍観するわけにもいかなそうだ。選考会まではとにかく時間がない、今の自分達に出来る事を精一杯やる為にはチームワークは絶対的に必須だろう……そのためにも二人には、今回だけでも仲良くしてもらうしかない――。

「――あの、円花宮さん?」

「あら、なにかしら伊野平くん」

「俺からもお願いです……、円花宮先輩の法術を今回は紗綾河に為に……いや、チームの為に使ってはいただけませんか?」

「伊野平くんがそうおっしゃられるのでしたら……わかりましたわ、いいですわよ」

「ありがとうございます!」

「そのかわり……貸しひとつよ、伊野平くん」

「わかりました、選考会が終わったら何でも言ってください」

「優ちゃん!? こんな人に借りなんかつくらなくっていい!!」

「紗綾河もくだらないことで意地はってないで、選考会が終わるまでは喧嘩はしないでベストを尽くすこと! いいね!!」

「でも……」

「でもじゃなくて……選考会が終わったら、紗綾河のいうこともなんでもひとつきくから」

「本当!?」

「俺はいい加減な事を言ったりやったりもするけれど、嘘はつかねえよ!」

「じゃあ二人で協力して頑張る!」

「というわけで、円花宮先輩……紗綾河をよろしくお願いします」

「仕方がありませんわね……」

「うむ! なかなかの手腕ではないか、伊野平くん! そういうことならチーム一丸となって選考会に挑もうではないか!!」

「もとより俺は、そのつもりです!」

「うむ! では、あらためてダンス同好会5人でフィジカルアートパフォーマンス部に目にものみせてやろう!!」

「――五人?」

「うむ、五人である! 今回、舞衣は選考会には出場しないぞ」

「舞衣ちゃん中等部ですしね……少しさみしいけど仕方がないか………………」

「伊野平さん、舞衣は選考会には出られませんけど頑張って応援しますね! 手伝えることがあったら何でも言ってください!!」

「ありがとう、舞衣ちゃん……じゃあしばらくはマネージャーさん的な存在だね」

「はい! マネージャーがんばります!!」

「うん、どうもありがとう!」

 こうして選考会出場の五人のメンバーとマネージャーの臨戦態勢は一応の体裁を調える――結局、初日の早朝練習は法術の演出と構成等をどうするかでもめてしまい練習といえる練習はまったく出来ずにタイムリミットに達してしまった。初日だから仕方がないと思えなくもないのだが、やはりまだまだ先行きは不透明で不安である……。俺たちはそんな不安を抱えたまま、始業のベルが鳴る前にシャワーを浴び、制服に着替え、パフォーマンスの構成と演出のことが頭から離れないままの状態で一時限目を向かえる事になる――――――。

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