27 円花宮家別邸
「オッケーオッケー!! 仲睦まじくてなによりだ! では、こうしようではないか!? もしできるのならば円花宮くんの家でみんなで勉強させてもらえまいか?」
「え!? みんなで……ですか!?」
「そう、同好会メンバーのみんなでだ! 円花宮くんのお屋敷はとにかく広いそうだし、どうにかならないもんかね?」
「いえ、しかし……みんなでというのは………………」
「ん? なにか不都合があるのかい? だったら仕方がないね、伊野平くんは僕の家で面倒をみよう! そうすれば妹もとても喜ぶ!! 舞衣もべつに構わないよな?」
「はい! 伊野平さんが家にきて下さるなら舞衣も勉強頑張ります!!」
「なんか悪いですね……いいんですか? 小倉先輩」
「なぁに、伊野平くん、案ずることはない! ぜひとも我が家に来たまえ!!」
「伊野平さん、舞衣、こう見えてもお菓子作りが得意なんです。何か美味しいもの作りますね!!」
「ありがとう舞衣ちゃん、いかにも舞衣ちゃんらしい特技だね、じゃあ、お言葉に甘えて……よろしくお願いします」
「うむ、まかせてくれたまえ!! ――ということで、伊野平くんは家で面倒をみるとしよう! なぁに案ずることはない、こう見えても僕の成績はなかなかのものだぞ! 一年生の中間試験くらいおちゃのこさいさいである!!」
「いえ、しかし……こんな事で小倉代表にご迷惑をおかけする訳にはまいりませんわ!」
「いやなに、気にする事はない! 分担作業で協力しようではないか! という訳で、円花宮くんは河鹿くんの面倒をみてあげてくれたまえ!」
「そ、それは困ります!?」
「ん? どうしてだい?」
「そ、それはですね………………」
どういうわけか円花宮さんはそのまま黙り込んでしまった。
俺の代わりに鉢助の勉強をみてあげるだけだから、手間はそんなに変わらないはずなのだが………………。
「………………わかりました、仕方がありませんわね」
「ん? なにが仕方がないんだい?」
「小倉代表のお申し出通り、同好会のみんなで円花宮の別邸で勉強しましょう!」
「いいのかい!? 円花宮くん!?」
「そろそろ、どうしても伊野平くんを円花宮家へ連れて行かなければならないですので……、背に腹はかえられません」
「は? 俺? どういうことです……?」
「なんでもありませんわ、お気になさらずに……」
「?????????」
腑に落ちない感がどうも否めないが、小倉先輩のおかげで一応は最高の形に収まったのではないだろうか。これで俺も鉢助も勉強をみてもらえるし、みんなで集まって勉強が出来る事は俺にとっては大助かりだった。正直、円花宮さんにしても紗綾河にしても2人っきりというのはどうしても気が引けてしまうから――――――。
「――うむ! それでは早速、明日の練習後から円花宮くんの家で合宿というのはどうかね?」
「俺たちは別に構わないですけど、円花宮先輩次第じゃないですか?」
「という事で……円花宮くん! 明日からどうだい?」
「かしこまりました、今日の夜にでも早速、別邸の使用を手配しておきますわ」
「うむ! たすかる! では、明日から練習後は円花宮くんの家で勉強会だ! 選考会、学業共に最高の結果を期待しているぞ!!」
「了解です――!!」
兎にも角にも俺たちは、優秀な成績をきちんと修めつつ、選考会の結果も出さなければならなくなってしまった。こうなってしまった事に少し責任も感じるし、やるからには全力で最高の結果を出したいのはみんなも一緒だろう。しかし、不安は当然、拭い去ることは出来ない。なにしろ相手は絶対的な格上、佐々祇さん達なのだから……。
残り約三週間ほどで俺たちは選考委員会の人たちを納得させられるレベルのパフォーマンスを習得しなければならず、その上、成績も最低でも上の下くらいは修めなければならない。
早朝もダンス同好会のメンバーは学園に集まり朝練、その後は授業を受けてからの下校時間ギリギリまでの練習、そして夜は円花宮さんの別邸での勉強会、そしてまた早朝からの練習と空いた時間があれば、各々が与えられた課題、弱点克服のための自主練習とおそろしくハードなスケジュールをこなす事になる。普通の高校生のように遊ぶ時間なんて全くない。良くいえば有意義な学園生活なのだが、悪くいえば、余裕など微塵もない苛酷な三週間を俺たちは迎えようとしていた――――――。
「――おはよう優ちゃん! これから約三週間よろしくね!」
「……おはよう、紗綾河は朝から元気だな」
「もちろん! 一緒に朝練がんばりましょ!」
「俺、朝弱いのかな……なんか朝はしんどいわ………………」
「なにいってるの、今日から毎日続くのよ! ちゃんとがんばって!!」
「わかってるよ……」
「それに今日から夜は円花宮さんの家で勉強会よ、気合入れなおさないと!」
「それもわかってるっての……」
「もぅ! 覇気がないわね! どうしちゃったの!?」
「別にどうもしねえっての、俺だっていろいろあるんだよ……」
「とにかく、試験にしたって選考会にしたってハードルは高いんだからしっかりしてよね!」
「だからわかってるってのッ!!」
――早朝から小姑のお小言のように紗綾河からわかりきったことをきかされる。
過酷なスケジュールに関しては不満はないし、むしろどんな練習でも耐えられるほど気力も充実している……でもたった三週間でどこまで出来るのだろうか、という不安と、付け焼刃で相対するのは佐々祇さんにもなんか失礼な気がして余計なことばかりを考えていた。
結局のところ基礎では何年もダンスを続けている佐々祇さんには敵うわけがないし、そうすると最終的には佐々祇さんの嫌う、いいカッコしいの法術に頼った演習で勝負することにならざるをえない……、それがどうしても悔しかった――――――。




