25 イベント
「一応、フィジカルアートパフォーマンス部には口止めをしておいたし、大した問題にはならないとは思うが……1つ妙案があるのだよ」
「妙案?」
「妙案というと大げさかもしれんが、念の為に先手をうっておこうかと思っているのさ!」
「先手!? なにかあるんですか!?」
「いや何、そんなに大仰なことではないんだがね、夏の地域交流イベントで僕らダンス同好会で点数稼ぎをしておこうかと思ってね」
「……地域交流イベント?」
「一年生のみんなは知らないかもしれないが、うちの学園は毎年八月に学園の施設を開放して地域の方々と交流を深める習わしがあるのだよ」
「オレっち、それ知ってたッス! めずらしいイベントなんで、結構有名ッスよ」
「さすが河鹿くん! それなら話は早い! この催しは普通の学園祭とは違って生徒が主体のイベントではなく、地域の企業や商店が主体となるイベントなのだよ! 要するに地元の企業に学園の広大な土地を開放して販売促進や企業アピールに使っていただくという催しなのだ!」
「はぁ……でも、それが先輩の妙案と一体どんな関係があるんです?」
「そう! 大切なのはそこなのだよ、伊野平くん!!」
そういうと小倉先輩は急に瞳を輝かせ、ズズイッ! と前に身を乗り出し、こう続けた――。
「つまりはだね! そこで僕らがイベントを盛り上げ、学園に貢献していますアピールが成功すれば………………」
「成功すれば……?」
「ダンス同好会の活躍で地元企業からの寄付金が集まり、学園もウハウハ! 僕らダンス同好会も安泰というわけさ! しかも内申にも効果絶大だ!!」
「おお!! そんな裏ワザがあったんですか!? こうなってしまったのは俺の責任でもありますし、そのイベント、俺でますよ!」
「優ちゃんが出るならあたしも出ます!」
「じゃあオレっちもでるッス!」
「うんうん、みんな頼もしいじゃないか! 全員で一丸となってイベントを盛り上げようではないか!!」
「よっしゃ! みんなやろうぜ!! えいえいおー!!」
――急激に高まる士気の中で円花宮さんだけが一人、冷静な面持ちで足を組んだまま、まるで高まった士気に水を差すようにポツリとつぶやく。
「はたしてそんなにうまくいくかしらね……」
「どういうことだい? 円花宮くん?」
「小倉さん、ご存じなかったのかしら? 八月の学園施設開放行事のイベントは希望すればだれでも出られるわけじゃありませんですわよ?」
「え!? そうだったのかい!? 去年、僕はフィジカルアートパフォーマンス部として出演したんだが……」
「イベントの前に学園のお偉方や担当の先生、それに生徒会長も含めて、選考会っていうのがあったはずですわよ」
「……おぉ! そういえばオーディション的な事はやったかもしれないね! すっかり忘れていたよ!」
「すっかり忘れていたじゃすまされませんわ! 学園施設開放行事のイベントの出演には多数のクラブから参加希望が殺到するんですのよ!? それがどういうことかお解かりになっていらっしゃらないの!?」
「………………?」
「小倉代表! 代表者ならもっとしっかりしてくださいませッ! つまりこのイベントは他のクラブにとってもチャンスなんです! 競争率も高い上にそれ相応のレベルも要求されます、まずはこのオーディションに通らなければ御上の点数稼ぎなんて夢のまた夢ですわ!!」
「去年、僕もオーディションを受けたがね、そんな狭き門のようには感じなかったのだが……」
「小倉代表はご自身のおチカラにお気づきでないようですわね……、小倉代表なら学内のオーディションどころか、外部のプロパフォーマーのオーディションでさえも合格するレベルでしょう………………」
「いやぁ、はっはっは! それほどでも……あるね! 僕なら!」
「……大事なことは小倉代表のレベルの問題ではなく、今、伊野平くん達のパフォーマンスがそれ相応のレベルに達しているかが問題なんですのよ!」
「ん~、見込みはあると思うのだがね……」
「見込みがあっても、実力がなければお話になりませんですわ!」
「あ、あの……今の俺らじゃ全然だめですか?」
おそるおそる、俺は円花宮さんにたずねる――――――。
「………………残念だけど」
「そ、そんなに俺たちって駄目ですか!? 八月なら、まだあと三週間くらいは猶予があるはずです! それまでに何とかなりませんか!?」
「……普通にやっていたのでは全然だめでしょうね」
「じゃあ、どうすれば……?」
「伊野平くん、この学園の最大の特色ってなんだと思われます?」
「最大の特色……? なんだろう……敷地が広いとかですか?」
「確かに敷地面積は広いけど、そこではないですわね……よく聞いて、この能美坂学園の最大の特色は超次元脳量子応用技術の能力開発よ!! 今でこそ魔法科の新設はめずらしくもないですけど、超次元脳量子応用技術の能力開発においては、うちの学園はパイオニアを自負しておりましてよ!!」
「つまり、それは……」
「そう! 超次元脳量子応用技術の部分をアピールできるパフォーマンスをすれば、自ずと良い結果がでるんじゃないかしら」
「俺が超次元脳量子応用技術の能力開発によって法術を使いこなせるようになりましたよ……っていうアピールですか?」
「至極簡単にいうと、そういうことですわね」
「でもそれって、どうなんでしょうかね……俺、この学園に入る前から魔法使えましたし………………誇大広告というか、なんだか誤解を招くような気もするんですが」
「まぁそうね……一部、誤解を招く行為かも知れないわね………………でも、今はそんなことは言ってられないですわよ!」
いつにもまして、険しい表情を見せる円花宮さんは自分が思っていた以上にリアリストのようだった――。やるからには勝つ、そして勝つためには手段を択ばない……そんな円花宮さんの厳しい一面を垣間見た気がする。
「なるほど、円花宮くんの言う事ももっともだね……確かにちょっとずるいかもしれないが、手段を選んでいる状況ではないからね」
「小倉先輩、じゃあ俺たちが魔法を全力で駆使すれば勝てますか!?」
「ん~、それもどうだろう……伊野平くんは何か勘違いしているようだね」
「俺が……勘違い?」
「そう! 勘違い、なにも魔法が使えるのは君だけじゃないのだよ……、むしろこの学園内に限って言うならば、超次元脳量子応用技術を使える人間の比率は一般の学校や一般の組織よりもはるかに多い、8月の選考会では当然、フィジカルアートパフォーマンス部の連中も魔法での演出を取り入れてくる……、あの佐々祇くんもね………………」
「佐々祇さんも!? 佐々祇さんって法術での演出が嫌いなんじゃ……」
「なにを誤解しているのかね、伊野平くん……佐々祇くんは基礎もできていない、実力のない奴が法術に頼っていい恰好する事が嫌いなだけで、実力があるのならば法術でもなんでも駆使して最高のパフォーマンスをするべきだと考えているタイプだよ、むしろ法術の使用を肯定しているくらいだぞ!」
「そ、そうだったんですか!? じゃあ、次の選考会では佐々祇さんも、法術の演出も兼ねて、全力で来るということですね……」
「ま、そういう事になるだろうね」
「そんな……じゃあ、ほとんど勝ち目ないじゃないですか!」
「そんな事はない! 諦めるのはまだ早いぞ、伊野平くん! やれることはまだまだある! 人事を尽くして天命を待とうではないか!!」
「そんな事いわれたって、俺と佐々祇さんとじゃ全然キャリアも実力も違いすぎますよ!」
「確かに伊野平くんと佐々祇くんとではキャリアも実力も違うね」
「だったら、やる前から……、結果はもう……」
「しッかぁーーーーーーし!! 諦めるのはまだ早いぞ、伊野平くん! やれることはまだまだある! 人事を尽くして天命を待とうではないか!!」
「小倉先輩、それさっきもいいましたってば、何をすべきか、もっと具体的にお願いしますよ!!」
「具体的にねぇ……さぁ、何をするべきか………………」
この人はホントに………………、しっかりしてるんだか、適当な人なんだか、やはりつかみどころがない人だ――。
高い指揮能力とクラブの公認取得と、その手腕を発揮してきた人とはとても思えない。あれだけ胸を張ってやれることはまだまだあると言ったそばから具体的には何も考えていないとは………………いい意味でも悪い意味でも、さすが小倉先輩である。




