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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
20/42

20 サークル練習Ⅱ

「始まった――!!」

「やべえよ、優……オレっち、この曲聞いたことない………………」

「俺だって聞いたことねえよ! とりあえず様子をみるんだ………………」

「お、おう……」

 初っ端から聞いたことのない曲だった……、そもそも俺は音楽に詳しくはない――というよりも、無知といってもいいくらいだ……。巷にあふれる大衆芸能にもまったく興味がないし、ダンスミュージックやクラブミュージック的なものもまったく知らない。ブレイクビーツだのハウスだのヒップホップだのと言われても、いまいちピンとこないのが現状だった――――。


「……一曲終わったわね」

「あぁ、フィジカルアートパフォーマンス部のやつが無難にまとめたって感じだな……」


「あたしたち、いつ中央に出ればいいのかしら……?」

「自分のタイミングで出ればいいさ、紗綾河の得意そうな曲が流れたら迷わず中央に行け……」

「……やってみるわ!」

 高鳴る鼓動を抑えながら、俺は2曲目、3曲目と音楽がシャッフルで流れていくのを漫然と過ごしてしまった……よく考えるとついさっきの曲調は割と俺の好きなテンポと曲調だったかもしれない。人生においてもきっとそうだろう……チャンスを逃すという事がこんなにも後悔の念を生み出すものかとあらためて認識させられたような気がした――。


「――!? この曲って……!?」

「優ちゃん!? あたし、いくわッ!!」

「お、おう!? 全力でいけ!!」

 偶然にもダンス同好会でも練習で使われていた曲が流れ始める! しかも、この曲はみんなで持ち寄った曲の中で、紗綾河が持って来た楽曲だ! ジャズヒップホップ? もしくはスタイルヒップホップとでもいうのだろうか……少しだけジャズっぽい雰囲気も入っていて、いかにも女性らしい艶めいた曲調で紗綾河にはぴったりハマっている曲のような気がする。

 紗綾河も直感したのだろう、今をおいて中央に出る機会はないと――――――。


「――おぉ!!」

 第三小体育室からまたも大きな歓声が湧き起こる! ダンス歴は俺とそんなに変わらないはずなのに……クラシックバレエでもやってたのであろうか、とても素人とは思えないパフォーマンスだった。愛らしい顔立ちに反比例して、艶っぽくてセクシーで、曲調にピッタリ合った妖艶さを紗綾河は見事に醸し出していた――。


「――ようし三十秒、交代だ!!」

 いつの間にか三十秒が経過していたようだ、紗綾河のパフォーマンス中は三十秒がとても短く感じられた――。


「ふぅ……なんとかやりきったわ!」

「おつかれさん! どうだった?」

「夢中だったからよくわからないけど……でも、あっという間だったわよ! それと、みんなの視線が意外にも心地良かったわ!!」

 額に汗をにじませ、息を切らせながら彼女はそういった。元来、女の子は自己顕示欲が強い所為もあるのだろう……紗綾河から、俺にも甚だしく充実感が伝わってくる――。


「優、オレっちもなんだか気力が湧いてきた!」

「あぁ、紗綾河のおかげかな……チャンスがあったら、俺も行く!!」

「ピンッ! とくる曲があったら迷わずいくといいわ! あとは勢いよ!!」

「了解――!!」

 仲間内でそれなりの結果を出してくれた事がこんなにも士気にかかわるとは思ってもみなかった。俺は、カラオケで他人が作った曲を我が物顔で自分に酔いしれながら歌っているヤツや、鍛え上げた肉体を自慢げに披露する奴等の気持ちがよくわからなかったが、今の俺にはその気持ちが少しは解かる。もし自分に自信があって、絶対的に称賛されるであろうパフォーマンスを体得していたならば、ひょっとしたら自分に酔って披露したくもなるかもしれない。

 残念ながら、今の俺には、そんな圧倒的なパフォーマンスを披露する能力はない。でも今は、初心者ながらも今迄がんばってきた自分を見せつけてやりたいと、そう思えるような……とても練習とは思えない、なにか大会の本番前のような緊張感と昂揚をひしひしと感じていた――。


「優……」

「なんだよ鉢助」

「オレっち、どのタイミングで中央に飛び出せばいいのか……なんか、もう全然わからないから、次の曲で出るッスわ!」

「だから落ち着けって! 選曲はある程度ちゃんとした方がいいって!!」

「いんや! もう決めたッスわ! 絶対に次で行くッスわ!!」

「ったく……どうなってもしらねえぞ!」

「大丈夫! 今のオレっちならやれる気がする!!」

 その根拠のない自信はいったいどこから来るのだろうか……狼狽しまくった挙句、落ち込んだかと思えば、今度は急にハイテンションだし……躁鬱病のケがあるのか? まったく、こいつは――。まぁでも、本人が充実した気力をもってしてベストを尽くそうとしているのなら、俺はただ鉢助の幸運を祈るだけだ。


「………………そろそろ曲が終わるぞ」

「わかってる……もうこの曲が終わった瞬間、オレっち中央に飛び出るッスわ!」

「鉢助がそういうなら、もう止めないけど……」

「おう! なにかオレっちの得意な曲が流れればいいなぁ………………」

「流れるさ……きっと……」

「ありがとう、優……」


 そう最後に言い残し、鉢助はかなり食い気味でサークルの中央に吶喊していった……案の定、まだ次の曲は流れてこない。曲が流れだす前に円陣のセンターに飛び出してきた鉢助を見て、みんな動揺の色を隠せないようだった――音楽を聴く前に堂々と中央に飛び出してきた鉢助を見て、フィジカルアートパフォーマンス部の連中はかなりの誤解をしているようにみえる……、曲も選ばずに威風堂々と中央にせり出てきた鉢助をみて『こいつはかなりできるヤツなのでは……?』という無駄にハードルを高く上げてしまったようにも見える……。願わくば、紗綾河のように大成功とまではいかなくとも、無難にパフォーマンスを終わらせてくれさえすれば、後はもうそれでいい……そんな心境だった――――――。

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