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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
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02 マジカルダンサー

「――すげえな! 優! ほんと、この能美坂学園は異次元だな!!」

「あぁ、どうやらそのようだ……」

 様々なクラブから勧誘を受け続け、クラブ活動などに特別興味はなかった俺だが、これだけ熱をおびた活発な勧誘を受けると雰囲気にあてられたのか、何かやってみようかな……などと思えてくるから不思議だ――そんな心変わりをし始めた瞬間だった。俺の理解を超える存在が視界の中に飛び込んできた!!

「うひょひょひょひょひょひょおおおおおおぉぉお!! ほあッ! はいッ!!」

 奇妙な叫び声と共に軽快な音楽のリズムに合わせ、身体を激しく動かす細身で長身の男が、ダンスと呼べるのかどうかも良くわからない独特な動きで踊っていた――。


「………………なんだ、あれ?」

「優、あんまり係らない方がいいぜ……」

 鉢助の言葉にまったく同感の俺は、見て見ぬふりをし、その場を立ち去ろうとした時だった。

「待ていッ! そこの君! 一緒に踊らないかッ!!」

 ――なんと!! ほんの一瞬、ちょっと目が合っただけなのに……、男はその機会を逃さず、間髪入れずに即座に話しかけてきた!!

「い、いえ……踊りなんてやったことありませんから!」

「初心者ウェルカムさ! 一緒に踊ろう!」

「いや、ですから……踊ったことなんてないですから!!」

「大丈夫! 一緒に踊れば友達さ!!」

 だめだ……、この人……なんか日本語が通じていない気がする。

「僕は小倉孝弟! みてのとおりダンサーだ! しかも魔法も使えるスーパーダンサーさ!!」

「魔法!? 魔法が使えるんですか!?」

「おっ! 食いついたね、君ッ! 名前は?」

「あっ、はい……、魔法科一年の伊野平優っていいます」

「魔法科だって!? じゃあ、どストライクで後輩じゃないか! 僕も魔法科の生徒だよ!!」

「えっ!? 魔法科の生徒さんなんですかッ!? あそこには適正の高い特殊な人間じゃないと入れないはずじゃ……」

「どういう意味だい? ……僕がそんなに馬鹿そうにみえるのかい?」

「い、いえッ!! 決してそういう意味では………………」

 ――みえる。ハッキリ言って馬鹿にしかみえなかったが、口が裂けてもそんなことは言えるはずもない。

 本来、魔法科は魔法適性の高い、一般的には優秀な人材……もっといってしまえば選ばれた人間のみが魔法科に入ることを許される。それなりに狭き門なのだ――――――。


「――まぁ、君たちが僕のことを誤解するのもわかるよ……僕のパフォーマンスは一般人にはなかなか理解してもらえないからね……よく変人扱いされたなぁ………………」

 そういいながら小倉先輩は随分と遠い目をしていた――。というよりも、時間の経過と共に泣きそうな顔をしているようにしか見えなくなっていた。

「……あの、先輩? 大丈夫ですか?」

「おぉっと、失礼! 過去を偲んでいてしまったようだ」

「はぁ……」

「と、いうわけで一緒に踊ろう!!」

「ちょッ! どういうわけですか!? 踊れないと何度も言ってるじゃないですか!!」

「心配ご無用!! 僕の魔法とダンスの融合した超芸術的パフォーマンスを観れば、君もきっと踊りだしたくなるはずだ! でわ、ゆくぞ!!」

 この人には本当に日本語がまったく通じていない気がする………………。こちらの意思などまるでお構いなしである。もはや、この人を止めることはできなさそうだ……なにせノリノリな上に凄まじい勢いで勝手に踊りだしてしまったのだから――。


「――よし! まずは電撃フレズノだ! よく観ていたまえ!!」

 なんということだ……信じられない! こんなしょうもなさそうな小倉先輩の体から電撃がほとばしっている。しかも、リズムに合わせて躍動する上腕二頭筋と大腿筋の力強さは素人目にもハッキリと、長年かけて磨き抜かれたものなのだということが見て取れた。

「右ッ、右ッ! 左ッ、左ッ!」

 リズムに合わせながら左右にウェイトをシフトし、筋肉を弾くように腕を交互に前へと振り上げる。そして同時に美しい電撃をほとばしらせている……まるで生きたイルミネーションのようだった……もしもこれが夜の街中なら、より一層その美しさは際立っていただろう。

「どうだい? 凄いだろう!? もっともっと激しくいくよ!!」

 今度は、右にウェイトシフトをした時には、右腕にブルーとパープルの合わさった半透明の電撃が、そして左にウェイトシフトをした時には左腕にブルーとパープルの合わさった半透明の電撃がほとばしる!

「す、すごい……あんなに出力の強い電撃が使えるなんて……」

「鉢助、真に凄いのは電撃の出力じゃないぜ……いいか、電気を体内で生成するにはそれなりに複雑なプロセスが必要なんだ……それをいとも簡単にやってのけるだけじゃなく、リズムに合わせてジャストのタイミングで生成しているんだぜ……これはもうガチで神業だぞ!!」

「よし!! もっと出力を上げるぞ!!」

 先輩がそう叫び、電力を一気に開放したその刹那、パンッ! っと後方で何か軽い爆発音のようなもの音が聞こえた――。

「………………小倉、てめぇ……!!」

 なんという古典的な展開! 小倉先輩の放った電撃が強すぎたのが原因で、後方のテントの下で新入生の勧誘をしていた茶道部のパソコンがショートしてしまったようだった。

「ま、まて! 僕じゃない!」

「魔法科で電撃使いのおまえ以外に一体誰がいるってんだよぉ!!」

 誰がどうみても、小倉先輩が原因なのは明々白々だ。

「君たちッ! と、とにかくマジカルダンサーになりたければいつでも僕の所に来たまえ! それじゃ!」

 まるで逃げるように………………ではなく、小倉先輩は完全に茶道部から逃げる為、体育館方面へと消えていってしまった――――――。


「マジカルダンサーって……なぁ、優……、あの先輩がすごい人物なのはよくわかったけど、なんだか一瞬ですげぇ疲れたな……」

「あぁ、そうだな………………、大量にマジックポイント……MPを持っていかれた感が半端じゃないな………………」


 確かにひどく倦怠感はあるが、しかしそれは小倉先輩のキャラクターに対してであり、先輩のパフォーマンスに対しては正直もっともっと見続けていたいと思っていた――でも、だからといって小倉先輩と一緒にダンスをやろうとは思えなかったし、ましてやマジカルダンサーになりたいなどとは考えるのも恥ずかしい。

 今日というこの日の出来事は印象的ではあったが、しかしながら、ただそれだけのことで、このハプニングが後の俺たちの学園生活に大きく影響を与える事になろうとは、この時はまだ夢にも思っていない……そんな桜舞う能美坂学園の春だった――――――。

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