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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
19/42

19 サークル練習Ⅰ

「――す、すげえな……フィジカルアートパフォーマンス部!」

「お、おう……オレっち、ちょっとダンスをなめてたかも………………」

「鉢助は元々の動機が不純だったろうが……」

「失礼なッ! そんなことねえッスわ!!」

「紗綾河が入会するから、鉢助も同好会に入ったんだろ?」

「フィジカルアートパフォーマンス部、すげえなぁ………………」

「………………おい」

「さっき小倉先輩が言ってただろ? 動機が不純だろうとなんだろうと別にいいって! 今のオレっちは過ちに気付いて開眼したから気にするな!」

「ほんとにお前ってやつは……まぁ、あんまり調子に乗って変な行動とかするなよ」

「了解だ! もう決して調子には乗らないぜ! ようし! 調子に乗らない開眼したオレっちをみんなにもみせてやるぜッ!!」

「おい!? いってるそばから調子に乗るな!! 落ち着け!!」


 ――いつにもまして、お調子者の鉢助の相手をするのもなかなかに骨が折れる。小倉先輩といい、鉢助といい、ともかくうちのダンス同好会は変わり者が多い。練習で疲れた身体には、この変わり者の相手はさすがにちょっとしんどい……そんな、つい嘆息をもらしてしまいそうな気分になりかけたその時だった。サークルの外側にいる俺たちに気が付いた佐々祇さんが声をかけてきた――――――。


「伊野平くん? どう? 君たちも参加してみるかい?」

「いいえ、そんな……俺たちなんてまだまだ初心者ですから………………」

「もちろんベテランの二年や三年と一緒にバトルをやれなんてことはいわないさ、ただ人前に出ることに慣れるだけでも大事なことだよ」

「そういわれましても……」

「伊野平くんには借りがあるからね、こんなことくらいでしか恩返しは出来ないけど……」

「恩返しだなんて、そんな……」

「別に心配しなくても大丈夫だって、少なくともうちの部の連中はきみに感謝している。特に一年生は伊野平くんのおかげで練習スペースを確保できているようなものなのだから、みんなあたたかい目で見守ってくれるさ」

「そうでしょうか………………」

「問題ないさ……、一部の連中を除いてはね………………」

 やけに含みのある佐々祇さんのひとことだった。たしかにこれだけの大人数ならば、何人かは俺たちみたいな部外者の参入を快く思わない人もいるかも知れない……、単純に俺が勘ぐり過ぎているだけなら別にいいのだが………………。

 それにしても、佐々祇さんのあのひとことが、なにか俺には、意味深なひとことに聞こえてならなかった――――――。


「――よーし、一年だけサークルに残ってくれ!」

 佐々祇さんがフィジカルアートパフォーマンス部の一年生に指示を出す。

「というわけだ、伊野平くん」

「……は?」

「いま現在、サークルに残っているのは一年生だけ……ダンス歴も例外を除いてみな、きみと同じくらいだよ」

「………………? つまり……、それは……?」

「条件はみんな一緒という事さ、どうした? 怖気づいたのかい?」

「ええッ!? 本当にやるんですか!? 俺、バトルとか人前でパフォーマンスを披露する事なんてまだやったことありませんよ!!」

「それならば尚の事、ちょうどいいじゃないか! やってみな! いや、是非やるべきだ!!」

 端整な顔立ちからは想像しにくいが、さすがに部長さんだ……、人を引っ張っていく立場にある人ならではの強引さを垣間見たような気がする。小倉先輩とはまた違った、指導力という意味では甲乙つけがたく、どちらにしても高い指導力を有しているのは間違いないのだろうが、タイプの違う指導力だった――。


「……やべぇ、どうしよう、優」

「どうしようたって……ここまで来たらやるしかないだろ………………」

「優……おまえ自信あるのかよ?」

「あるわけないだろ!? 鉢助こそどうなんだよ?」

「右に同じ!」

「調子に乗らない開眼した鉢助を見せてくれるんじゃなかったのかよ!?」

「むりぃ……オレっち意外と人見知り激しいッスわ………………」

「ほんとに……いざって時に頼りにならねえなぁ……」

 一寸先は闇、ほんの一瞬前まではこんな緊張感は一切なかった……とにかく現場に投げ出す、佐々祇さんの指導方針は意外にもスパルタなのかもしれない――。


「優ちゃん、どうしよう……なんかあたしも一年生だからって無理やり参加させらることになっちゃったんだけど……」

「紗綾河もかよ!? どうすんだよ!?」

「しらないわよ!? あたしだって人前でダンスなんて初めてなのに……」

 そうこうしているうちに佐々祇さんの力のこもったクリアな声が響き渡る――!!


「いいか! 基本的にいつも通りだ! 曲はシャッフルで三十秒づつ流していくから、自分の得意な曲調のものが流れてきたらチャンスだと思ってサークルの中央へ出ろ! 一応、バトル風サークル練習だ! 自分ら二年、三年が勝手にお前らをジャッジしているからな! ただの練習だと思って気を抜くんじゃないぞ!!」

 ジャッジって……バトル風ってなんだよ……、バトルでもないのに審査するのだろうか!? そんな事を言われたらますます緊張してきた……こんなに緊張したのは何年振りだろうか……急転直下、いよいよもって現実味をおびてきたサークル練習デビューに、武者震いなんかではなく、悪い意味で俺の手は震えていた――。

「やべぇ……鉢助、俺……手の震えが止まらない………………」

「お、お、おぉ、おおおおおおぉ、おぉ……お、おちち、おち、落ち着けよ……ゆゆゆ、ゆ、優………………」

「鉢助……おまえ解かりやすいな……、おまえよりは落ち着いてるわ、俺……」

「優ちゃん……優ちゃん……どうしよう……どうしよう……!?」

「紗綾河もかよ……いいから、おまえも落ち着け……なにも取って食われるわけじゃねえさ、とりあえずこうしよう! 一応は簡単なフリといくつかの技は教わって来たんだから、それくらいは覚えてるだろ? それに、ルーティーンも同好会のみんなでやって来たんだから、それも自分たちの持ちネタとしてなんとか曲に合わせてムーブに取り入れていこう……そうすれば三十秒くらいはどうにかできるはず、もっといえば、各自で自分のジャンルやテーマに沿った練習をしてきてるだろ? あとは、それを出し切るだけだ!!」

「そ、そうよね、今までやってきたことをこの三十秒にぶつけるしかないわよね………………やるわ、あたし!」

「ああ! 気合い入れなおして、やるしかないッ!!」

 そうこうしているうちに大音量で音楽が流れだす――。

 サークル周辺の雰囲気もガラリと変わり、心臓の鼓動はさらにスピードを上げて俺の魂を打ち始めた――――――。

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