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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
18/42

18 落としどころ

「まぁとにかく、仲良くやりましょうよ……ダンス同好会の方で使わないスペースがある場合は、フィジカルアートパフォーマンス部で使っていただいても結構ですから」

「なッ!? 何を言いだすんだい!? 伊野平くん!? こんな男に騙されてはいけないぞって、さっき僕が……」

「あ~、はいはい、わかっていますよ……ちゃんと騙されないように気をつけます!! というわけで、佐々祇さん……今日はそちらの一年生の方々に場所をお貸ししますが、今後のことについては後でゆっくりお話しませんか? 毎週毎週、揉めるのもどうかと思いますし……」

「ありがとう、伊野平くん……助かるよ」

「というわけで、いったんこの問題はおいといて……練習しましょうよ? ね、小倉先輩」

「いったんだぞ………………いったん貸すだけだぞ! そこのところは勘違いしないでくれたまえよ、佐々祇くん! 大体きみは、いっつも……」

 ボカッ!! ――小倉先輩の頭から鈍い音が響く。

「――!? さ、紗綾河くん!? い、一体なにを……」

「もういい加減にしてください! 言いたいことがあるなら練習後にやってください!!」

 気も短ければ手も早い……良くも悪くも、さすが紗綾河だ。二つ上の先輩に手を上げる勇気は俺にはない……なんとも紗綾河らしく、強引に小倉先輩の腕を引っ張り、壁面の鏡の前まで強制的に連行する……黙ってさえいてくれれば、とにかく愛らしい顔立ちで、ずっとそばで眺めていたいくらいなのだが……この怖いものなし状態の紗綾河の近くには出来る限りいたくはない……、やはり人は見かけによらないものだ――。

「――いくらなんでも、もう少し手加減ってものを覚えてくれたまえよ、紗綾河くん………………、痛たたた………………」

 痛みをこらえ、後頭部をさすりながら、小倉先輩が一言ぼやく――。

「――では、さっそく練習開始といきたいところだが……今日は久しぶりの練習のはずだから、軽いメニューをこなしていければ良しとしようではないか! もし、余裕があるならフィジカルアートパフォーマンス部の練習ものぞいてみれば良い! 他人のパフォーマンスを観察するのも非常に勉強になるぞ!」

 そういうと小倉先輩はちゃっちゃっとウォーミングアップを始め、自分の練習課題を適当に消化しはじめた。それに倣い俺たちもストレッチから基礎練習、そして以前から与えられていた課題にとりかかる――。

 今までとは違いこんなにもダンサーがひしめき合う中での合同練習は初めてで、特別に他人の目を気にする方ではないのだが、まだまだ初心者でヘタッピなのでなんだかちょっと気恥ずかしい……でも小倉先輩のいう通り、周りのダンサーさん達を観るのは凄く勉強になる。

 ちょっとアドリブ練習をしただけで初心者の自分はすぐにネタ切れを起こしてしまうのだが、周囲のダンサーさんを観ながら練習をすると、ベテランダンサーさんのワンムーブワンムーブ、一挙手一投足をどうにか盗んでやろうかと、見よう見まねではあるが技をマネしながら練習をしていると、ネタ切れを起こしている暇もないくらいにがんばれる。そういう意味でも、この第三小体育室でフィジカルアートパフォーマンス部との合同練習は、多少のゴタゴタはあったものの、幸運だったのかもしれない。佐々祇さんをはじめ、その他のベテランダンサーさん達のしなやかな肢体もパフォーマンスも、間近で観るそれは、俺の魂を魅了するに十分な美しさだった――――――。


「――さて、そろそろ休憩にしようではないか! 各自、水分補給はこまめにしたまえよ!!」

「休憩とってもいいんですか?」

「休憩は各自で勝手にとってよいぞ! 僕の許可なんかはいらないよ、自分の身体は自分でしっかり管理したまえ!」

「了解です!」

 肩の関節が少し軋む感じがし始めたので、小倉先輩のお言葉にあまえて俺は、水分を補給し、少し身体を休めることにした。一人が休憩を取るとどういう訳か、また一人、そしてまた一人とみんなが休憩をとりはじめた……日本人らしいというか、なんというか……本当はみんなもそろそろ休憩をとりたかったのだろうが、どうも気を遣ってしまい、なかなか言い出せなかったようだった――――――。


「……なぁ、優」

「なんだよ、鉢助……」

「フィジカルアートパフォーマンス部の連中……ちょっとガラ悪くね?」

「そうか? べつにそんな感じはしないけどな……」

「他の連中は確かにそうでもないんだけど……ブレイキン? の連中? あいつら、オレっちどうかと思うッスわ」

「B―BOYはしょうがねえだろ、それが売りなんだからさ」

「びーぼーい? なにそれ?」

「バッドボーイの略らしい……ブレイクダンスをメインにやっている連中をそう呼ぶらしいぜ」

「バッドボーイねぇ……ネタで悪ぶっているだけならいいんだけど………………」

 休憩中に水分を摂取しながら、俺と鉢助は他愛のない談話をしていた。

 ――するとフィジカルアートパフォーマンス部の連中が大きな輪を形成し、突如、大きな歓声が湧き上がった!


「――!? な、なんだ!? なぁ、鉢助……なんだあれ!?」

「オレっちに聞かれたって知らねッスわ!?」

 大きなサークルを組んで歓声をあげている彼等は音楽のボリュームを上げ、よりいっそうの盛り上がりをみせる――、呆気にとられ、茫然としていると小倉先輩が軽くポンッ……と俺の肩に手を乗せた。

「あれはサークル練習といってね、磨いた技を披露する場でもあれば、ダンスバトルの練習の場でもあり、ひいては人前に出ることに慣れるための練習でもあるのだよ!」

「サークル練習……?」

「そう、サークル練習だッ!! 指定された者は半ば強制的にサークルの中央に押しやられる、そして中央に立ったのならば、なにがなんでもその者は自分のパフォーマンスを全力でやりきらなければならないのだ! 一切の甘えや言い訳は通じない! 衆人観衆のもとで恥をかきたくなければ、そしてバトルに負けたくなければ、己を磨きベストを尽くさねばならないのだよ! どうだい? 苛酷だろう!? フィジカルアートパフォーマンス部伝統の練習方式なのさ!」

 遠巻きに眺めていたサークルであったが、そういわれては中央が気になって仕方がない……凄まじいアウェイ感で挫けそうだが、しかし、それ以上にサークル中央への好奇心が圧倒的に勝っていた俺と鉢助は、敢えて空気を読まずにサークルへと近づき、中央を覗き込んだ――。

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