17 折衝Ⅱ
「――いいかい、佐々祇くん! なにも僕は嫌がらせで食い下がっているわけではないぞ! 僕らダンス同好会はただのダンス集団ではない! 我々はパフォーマンスに超次元脳量子応用技術を取り入れたまったく新しいスタイルのダンサーユニオンなのだ! ただのダンス集団と一緒にされては困るぞ! 少なくとも僕の近くで一緒に練習をするという事は非常に危険を伴なうのだよ! 下手をしたら感電して黒焦げだ! 僕は君たちの身を案じて言ってあげているのだぞ! 誤解しないでくれたまえ!」
「お言葉ですが、小倉さん、超次元脳量子応用技術を取り入れたまったく新しいスタイルって………………なにを今さらって感じなんですが……そんな事くらいなら自分も、もうすでに取り入れてやっていますし、魔法が使えるパフォーマーさん達なら、演出の為にみんないろいろと工夫して、様々な法術を取り入れてますよ? 世界的にはもう常識なんですが………………」
「………………そ、そんな事くらいはわかっているさッ! ぼ、僕が言いたいのはだね、僕らマジカルダンサーはすごいんだぞッ! ということさッ!!」
「小倉さん、それはどういう意味ですか……? 自分らフィジカルアートパフォーマンス部は大したことはないとでもいいたいんですか?」
「そんなことは言っていないさ!? まったく君ってやつは昔っからそうだったね! なにをツンツンしているんだい!?」
「ツンツンさせているのは小倉さんの所為でしょう!? それに、いっておきますけどね……、基礎も出来ていないくせに、なんちゃってダンサーが法術を頼りに演出でごまかしたようなパフォーマンスを披露するヤツなんて、エンターテイナーとしては下の下です! そんなやつはダンスを冒涜していますよ!!」
「聞き捨てならないね! それは誰のことを言っているんだいッ!?」
「別に誰ってことはないですけけどねッ! ただ自分が言いたいのは、法術に頼った演出ばかり考える前に、もっとひとつひとつ丁寧にパフォーマンスの基礎からみっちりやることの方が大事だと言っているんです!」
「佐々祇くんは相変わらず頭が堅いね! 確かにそれは正論だが、そのまえにダンスを楽しむ事こそが本質ではないかと僕は思うねッ!?」
「楽しむ前に、まずは基礎練習からですよッ! それが出来ていなければダンスを楽しむことだって無理ですしねッ!!」
「佐々祇くんの指導する今年のフィジカルアートパフォーマンス部は、その基礎練習の繰り返しがあまりに苛酷だから、男子部員が大幅に減ってしまったのではないのかい!? まずは楽しむことから始めて、もっと間口を大きく広げるべきだと僕は思うね! でなければダンス人口はどんどん減少していってしまうよ!!」
「基礎練習にさえついてこれないようなヤツは、元々の動機が不純なんですよッ! とにかくうちは女子が多いですからね……女子目当てでフィジカルアートパフォーマンス部に入部してくるようなナンパなヤツはさっさと脱落してもらったほうが後々には、やる気のあるダンサーたちの為になるんですよッ!!」
「確かに女目当てだけで入部しようとするようなやつは門前払いで結構だがね、でも多少動機が不純であろうとなんだろうと、ダンスをやりたいという動機が少しでもあれば別によいではないか!? きっかけはなんであれ、ダンスを続けていければ、いずれは過ちに気づき、開眼してくれるかもしれないではないかッ!!」
「開眼なんてするわけないでしょ! ちょっとカッコつけてモテたいとか、動画サイトに投稿してチープな有名人を気取りたいだけならどうぞご勝手にッ!! ……って感じですよッ!! そんな程度の奴等に可能性なんてありませんからねッ!!」
「佐々祇くんッ! いくらなんでも、もう少し後輩たちをあたたかく見守ってやってみてはどうだいッ!? 君の練習が厳しすぎるから、妹の舞衣だって身体を壊してしまったんだぞ!!」
勢いでそう言い放った後、小倉先輩はハッ!? とした表情でまるで風船がしぼむようにトーンダウンしてしまった――――――。
「………………それに関しては小倉さんにも、妹さんにも、大変申し訳なく思っております」
佐々祇さんは一言、そうつぶやくと深く息をつき、瞳を閉じて、黙ってそのまま下を向いしまった――。
「すまんね……少し言い過ぎた……過去のことで僕はいつまでもウジウジしたりはしないよ、気にしないでくれたまえ」
「……ありがとうございます」
場の空気が急激に冷めていく――、先程までの口喧嘩めいた熱い議論がまるで嘘のようだ。小倉先輩の妹さんの名前が出た途端、二人とも同時にテンションが沈んでいくのが俺にもすぐにみてとれた。
過去に小倉先輩と妹さん、それに佐々祇さんとの間にいったい何があったのだろうか……、下衆の勘繰り以外のなにものでもないという事も解ってはいるのだが……なにか、こう……、引っかかる感じがして………………詮索するのはよくない事かもしれないけど、本音をいえば、どうしても気になって仕方がなかったが、あえて俺は、そこに触れないように努める事にした。
「――まぁまぁ、お二人のダンスに対する熱い思いは十分に伝わりましたから……、この辺にしておきましょうよ」
「そうね、伊野平くんのいうとおりですわね……十分過ぎるほど伝わりましたし、それに……お互いにもう子供ではないんですのよ、見るにたえないですわ、お二人とも!」
この円花宮さんの言葉を聞いたふたりは、ちょっと大人気無かったことにでも気がついたのであろうか……少し肩を落としつつも、落ち着きを取り戻したようだった。ありがたいことに、円花宮さんの苛立ちを露わにした発言とも、助け舟ともとれる言動で事態は収束に向かっていってくれた――――――。




