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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
16/42

16 折衝Ⅰ

 ――キーンキコーンー、カーンカコーン――。

 ――キーンキコーンー、カーンカコーン――。

 待ちに待った週明けの月曜日、今日も能美坂学園独特のチャイムが鳴り響き、その鐘の音が退屈な授業の終わりを告げる――――――。


「――さてと、今日は記念すべき活動再開初日だ! 気合い入れていくとするか!!」

「優ちゃん、いそぎましょう! 授業が延長戦に入った所為であたしたち大分遅れてるわよ」

「言われなくてもわかってるっての……でもその前に部室に寄って、ダンスシューズとウェアとってからじゃないと……」

「もう部室に靴おいてあるの!? まったく……じゃあ、あたしは先に着替えて第三小体育室で待ってるわね」

「おう!」

「いそいで着替えてさっさと合流するのよ!」

「だから、わかってるっての……、ッたくもぅ!」

 そういうと紗綾河は荷物を持って我先にと速足で更衣室に向かってしまった。俺もいそいで部室に向かい、靴とウェア、それとタオル等の荷物をまとめて更衣室へと向かう……案の定、更衣室にはもう誰もいない。色々と手間取ってしまい、俺は相当遅れてしまっているようだった――速やかに着替えを済ませ、少し焦り気味だった所為か練習前にもかかわらず、もうすでに俺は少し額に汗を滲ませてバッグを抱え、第三小体育室へと向かっていた……、みんなもうアップくらいは終わらせちゃったかなぁ……などと、呑気な事をこの時の俺は考えていた――。


「――遅れてすみません、すぐにアップ終わらせて合流しますね」

 そういった直後、なぜか俺に視線が集まる……明らかにいつもとはみんなの様子が違う……どういうわけか、俺はどことなく張りつめたような奇妙な違和を感じていた――。

「なぁ、紗綾河……なんだか様子が変なんだけど……、みんなどうしたんだ? それに、この大人数は一体何なんだよ……」

「あたしたち以外はみんなフィジカルアートパフォーマンス部の連中よ……、別に悪い人たちじゃないとは思うけど、小倉先輩とは過去に何かあったみたいね……」

「過去に何かって……小倉先輩とフィジカルアートパフォーマンス部の連中って何か確執でもあるのかよ?」

「そんなことあたしに聞かれたって知らないわよ……」

 不安混じりの不機嫌そうな顔で紗綾河はそう答えた……よくよく考えてみると俺たちはまだ何も、小倉先輩のことを解かってはいなかったのかもしれない。

「……とにかく、この雰囲気じゃとても練習どころじゃないぜ……なぁ、鉢助……小倉先輩、いったい何やってるんだよ」

「んにゃ、オレっちにもよくわからんが……どうも向こうの部長さんとなかなか話がつかないみたいだな………………」

「……話ってなんだよ?」

「まぁ、領土問題……? ってやつ?」

「は? なに言ってんの? 大丈夫か……鉢助」

「いや、だから……練習スペースの問題でさ……こっちは少人数で向こうは大人数なんだから、少しスペースを広く使わせてくれっていうのがフィジカルアートパフォーマンス部の部長さんの主張らしい」

「そうなんだ……でもそれってどうなん? 同じ条件で許可申請とってあるんだから半分半分がフェアなんじゃないの?」

「その考え方も一理あるけど……向こうの言い分もわからなくもないし……」

「で? 小倉先輩はなんて?」

「見ての通りっスわ……あの感じだと1ミリも譲るつもりはないみたいだな………………」

「なぁ鉢助、俺たちってさ、そんなに広いスペース使うかな……?」

「ん~? 微妙なところじゃないの……」

 本来ならばほんの一ミリだって譲歩する義務もなければ必要性もまったくない、故に当然、小倉先輩の主張は正しい――が、しかし、ここで俺が参戦して火に油を注ぐようなことをするのもナンセンスだろう。お互いにもう子供ではないのだから、ここは融和政策をとることが最もベターな選択だ。本当はでしゃばったマネはしたくないのだが仕方がない……ここは俺が、熱くなっている小倉先輩とフィジカルアートパフォーマンス部の代表さんの間に入って緩衝役を引き受けることにした――――――。


「――あ、あの……ちょっといいですか………………」

 俺はおそるおそる声をかける。

「………………きみは?」

「お話し中に割って入ってしまってすみません、魔法科一年の伊野平優といいます」

「自分は二年の佐々祇魁斗、フィジカルアートパフォーマンス部の代表です……で、何かな?」

「あ、はい……うかがったところによると、フィジカルアートパフォーマンス部の方が人数が多いから広くスペースを使わせてくれ……という事なんですよね?」

「……いや、正確には少し違うかな、もしダンス同好会の方でスペースをそんなに使わなくて済みそうであるならば、フィジカルアートパフォーマンス部の1年生たちの為に使わない部分を使わせてあげてもいいですか……という話なのだが………………」

「そうなんですか?」

「うん、これだけ大所帯だと練習スペースを確保するのも一苦労でね……二年、三年が練習している間、スペースがないから一年は立ってみていろというのも可哀そうだし……そんな横暴なことをしたくはないなと思ってね」

「そうだったんですか……お優しいんですね」

「いや、そんなことはないさ……一応これでもフィジカルアートパフォーマンス部の代表者だ、部員たちの為に出来る限りのことは立場上、してあげたいと思ってね」

「そういう事でしたらみんなと相談して前向きに検討してさしあげたいとは思うのですが……」

 そういいながら俺は小倉先輩をチラッと一瞥する――。

「なにを言うか、伊野平くん! 断じてこのような男に気を許してはならんぞ!」

「普通にいい人そうじゃないですか……」

「いいや! きみもこの男のルックスに騙されている! 人を外見で判断してはいけないぞ!」

「いやいやいやいや……、小倉先輩? ……どうしちゃったんですか? それに、俺はべつに騙されてなんていませんよ!」

 確かに俺はルックスなどに騙されてはいない――。でも、小倉先輩の気持ちもよくわかる。細身で長身、鋭い目つきの中性的な顔立ちに加えてキメの細かい健康的で美しい肌……、一見すると、とても男性とは思えない容姿を誇り、まるで女性のような妖艶さも同時に持ち合わせている。そのうえフィジカルアートパフォーマンス部の代表という事は当然、ダンスもうまいのだろう……なぜフィジカルアートパフォーマンス部には部員が多く、しかも圧倒的に女子率が高いのか……その答えが一瞬で理解できた。

 天は二物を与えずというが、この人は二物どころか探せばいくらでも天から与えられたものが見つかりそうな雰囲気だ。小倉先輩がどうしてこの人に辛くあたるのか詳しくは知らないが、少なくとも俺は、この佐々祇魁斗さんという方と争いたいとは思わなかった――。

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