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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
13/42

13 部室Ⅰ

「――――――!?」


 サイレントモードにしておいた俺のケータイがブルブルと震えだす。

「(授業中だってのに……だれだ……)」

 俺は先生に見つからなように、虎視眈々とメールをのぞく隙を見計らっていた。そして先生が再び電子黒板に向かい、背を向けた瞬間、俺は机の下にケータイを忍ばせることに成功する。

「(よしッ! 今のうちにメール、メールっと……ん? 小倉先輩からダンス同好会メンバーへの一斉送信だ……)」

 ついに来た……事の進展をここ2週間程、まったく知らされていなかった俺は、逸る気持ちを抑えきれず、ついタッチパネルに力を込めてメールを開いていた――――――。

『やあやあ、久方ぶりだねぇ諸君! みんな元気にしていたかい? なぁぁぁぁぁぁぁぁぁに案ずることはない、僕はもちろん元気だったさ!』

「(なんだこの書き出し……相変わらずだな……この人は……)」

 まぁ、ほんの二週間ほどで人の性格が変わるはずもない。こういう人なのはもう百も承知だ、とにもかくにも、俺は少しでも早くその後の経過が知りたかったため、駄文はサラッと読み飛ばし、ケータイのパネルを操作し、文面をスクロールさせた。


『………………というわけだ、いやぁ色々あって大変だったよ! しかしだね、諸君! その甲斐あって学園から条件付きではあるのだが、(仮)公認を得る事が出来たよ! し、か、も! 円花宮さんのはからいで地下の練習施設を定期的に使わせてもらう事もできそうだ! 今度はすぐそばに更衣室もあるし、シャワールームもあるし、空調完備で快適だぞ! どうだいッ! すごいだろ! これもひとえに僕の手腕の成すところだよね! 感謝したまえ! まぁ、事のいきさつは大体こんな感じだ! 詳しいことは今日の放課後に話すから授業終了後、地下三階のラウンジに集まってくれたまえ! 以上である!!』


「(す、すげぇ……小倉先輩、本当にがんばっているんだな……)」

 小倉先輩はあんな人ではあるが、やっぱり尊敬できる人でもあることを再確認させられた。今のダンス同好会の中では、やはり一番がんばっているのは小倉先輩だろう……、もっと何か自分も頑張らなきゃいけないと身が引き締まる思いがした――そして、なんだか少しだけ昂揚を感じている最中、再びメールが小倉先輩から送信されてくる――。


『おおっと失礼! いちばん大事なことを連絡し忘れていたよ! とりあえず、暫定的ではあるのだが部室もゲットしておいたぞ! すごいだろ! 感謝したまえ!! では、放課後にまた会おう! 授業がんばってくれたまえ!』


「ぶ、部室!? ほ、ほんとにすげぇぇぇぇぇぇ!!」

 ――!? ハッ!? お、俺としたことが……興奮のあまり、ついつい叫んでしまっていた!? 今が授業中であることをほんの一瞬だが忘れていた……なんという大失態!!

「伊野平くん……なにがほんとにすごいのかね? 先生にも説明してくれないか?」

「す、すみません……ほ、本当に申し訳ありませんでした!」

「メールでもしてたのかい? 授業中はケータイの電源は切っておくこと! わかったね!?」

「はい! 以後、気を付けます!」 

 まったく……最近の若者は…………、などと典型的で最もよくありがちな台詞を吐き捨てて、先生は授業を再開した――。

 ふぅ、不幸中の幸いとはよく言ったものだ……さすが文系人間、現国の先生は温厚な性格の方で、この規律の厳しい能美坂学園の先生の中でもトップクラスで優しい先生だ………………、もしこれが他の厳しい先生だったら、おそらくこの十倍は怒られていたかも知れない……そのことを考えるとさすがに俺もちょっとビビる……本当に以後、気を付けよう――――――。


「優ちゃん……ねぇ、優ちゃんってば……」

 よりにもよって先の尖った方で、俺の後頭部を紗綾河がシャーペンで突いてくる。そして、ヒソヒソと小声で勝手に話しはじめた。

「小倉先輩からのメール見たんでしょう? あの人、本当に見かけによらずやり手よね!!」

「……授業中だぞ」

「知ってる」

「だったら話しかけてくんなよ……」

「んもぅ、いいじゃない……すこしくらい……放課後いっしょにいこうよ」

「どこに?」

「優ちゃんってほんとにバカね……部室に決まってるじゃない」

「そのまえに地下三階のラウンジに集合だろ……それだったら一緒にいってやってもいいぜ」

「そんなことわかってるわよ……放課後が楽しみね」

 なんだか気恥ずかしくて紗綾河にさとられないように努めていたのだが、実は本心では俺も楽しみで仕方がなかった。

 いつもと同じ退屈な授業……単純に現実から逃れたくて授業終了のチャイムを漠然と待つ日々を送っていたが、今日は違う……、今日は逃げたいからチャイムを待っている訳ではない……一秒でも早く地下三階のラウンジへと向かって駆け出したい……そんな前向きな気持ちで授業終了のチャイムを俺は待っていた――。

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