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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
12/42

12 勢ぞろい

「――伊野平くん……よね?」

「えっ? あ? はい………………?」

「よろしくね……」

 そういって生徒会副会長さんは、握手を求めて俺にスッと右手を差し出した――細くて長い指に透き通るような白い肌、練習後の汚れた俺の手なんかで触れてはいけないような気にさえさせる……そんな形容し難い奇麗な手だった。

「あ、こちらこそ……よろしくお願いします」

 聞きたいことは山ほどあるが、俺は円花宮さんの手を軽く握り、丁寧に挨拶を返した――が、その瞬間、円花宮さんはギュッと俺の手を強く握り、とても女性とは思えない力で強引に俺の腕を引っ張った! おもわず俺は、よろけてしまい倒れ込むように彼女の胸元へ、こころならずも身をあずけてしまっていた!!

「あらあら……大丈夫? うふふ、ちょうどわたくしの胸のあたりに大きいクッションが二つもあってよかったわね」

「や、やわらかい………………!?」

 今まで味わったことのない感触……ただやわらかいだけではなく、優しく包み込んでくれるような……そんな安心感までをも与えてくれるやわらかさだった――――――。


「――優ちゃん……あんたいつまでそうしているつもり………………」

 紗綾河のトゲのある声で、俺はハッとして我に返った。

「え? ……あ!? すみません、副会長さん! なんか……ボーっとしちゃって……」

「ふふふ、いいのよ、別に気にしないで」

「気にしますッ! 優ちゃんに変なことしないでください!!」

「……そういうあなたは?」

「はじめましてッ! 紗綾河絵海と申します!! もうお会いすることもないかと思いますが……よろしくお願いします!!」

「あら、随分と冷たいことをおっしゃるのね……どういう意味ですの?」

「だって、生徒会の副会長さんなんですよね? とても二足のわらじで勤まるようなお仕事とは思えませんから……ダンス同好会の方は自分たちだけでどうにか頑張りますので、どうぞ、お気を遣わずに生徒会のお仕事に専念してくださいな!!」

「あら、お優しい……わたくしのことを心配していってくださっているのね………………でもご安心あそばせ、誰にも迷惑はかけずにちゃんと両立してみせますわよ!!」

「「………………………………」」


 な、なんだか円花宮さんと紗綾河の様子が変だ……顔はお互いに笑っているように見えるのだが、何というか……違和感というか……その雰囲気から何故か女特有の恐怖さえ感じさせる。

 ニコニコしながらも決して二人とも互いに目を逸らさず、沈黙が続いていた――円花宮さんと紗綾河は初対面のはずなのにどうしてこうも仲が悪そうなのだろうか………………。

「オッケーオッケー!! 仲睦まじくてなによりだ! 新生ダンス同好会の発足だ! いやぁ、めでたい!! 非常にめでたい!!」

「ちょっと、小倉先輩! こんな女、同好会に入会させたらダメです!」

「おや、紗綾川くん、これはまたおかしなことをいうね……? どうしてだい?」

「え? だって……それは………………」

 下を向いて紗綾河はそのまましばらく黙り込んでしまった。

「――だって……なんだい?」

「と、とにかく……こんなおっぱいお化けはダメですよ! 生徒会のお仕事と両立なんて……ダンスなめてますよ!」

「お、おっぱいお化けって……、失礼ね! それに、ちゃんと両立してみせますと申し上げたはずですわよ!!」

「ダメッたら、ダメなんです!!」

 こんな紗綾河を見たのは初めてだ。付き合いはまだ短いが、彼女がこんなわけのわからないワガママをいう娘だったとは……正直、驚きだ――――――。


「――紗綾河……何いってるんだよ、貴重な五人目のメンバーなんだぞ、それに先輩に対してそんな言い方……失礼だろ!?」

「優ちゃん、このおっぱいお化けに惑わされてる!」

「なんだよそれ!? 惑わされてねえよ!」

「デレデレしちゃってさ……」

「デレデレもしてねえっての! まったく、なんなんだよ………………」

 相変わらず紗綾河の様子が変だ、まったくもって訳が解からない――。

「犬も食わない喧嘩はその辺までにしてくれたまえ、とにかく円花宮さんにはダンス同好会に入会してもらう! 代表者の僕の権限で勝手にそうさせてもらうよ!」

「ちょッ! 小倉先輩! そんな……」

「紗綾河くん……残念だがね、今の僕たちに選択肢はないよ……もう子供じゃないんだから、円花宮さんとも仲良くしてくれたまえ!」

 小倉先輩からそう言われると、紗綾河はうつむき加減で黙ったまま、シュンとしてしまった。


「――と、いうことですわ……紗綾河さん、魔法科二年の円花宮風華といいます、あらためてよろしくお願いいたしますわね」

「………………よ、よろしくお願い、し、ま、すッ!」

 なんだか釈然としない表情にみえたが、紗綾河はしぶしぶ円花宮さんの入会を認めたようだ――こころなしか彼女たちの眼光が鋭くみえる。

「うむ、では問題解決という事で、新生ダンス同好会を正式に発足しようではないかッ!」

「五人そろいましたからね、これで一応、正式に学園に公認の申請ができますね!」

「そういうことだ! 伊野平くん、察しがいいね! 早速申請といきたいところだが、今日はもう下校時間も過ぎているし、書類の作成やら手続きやらでしばらくはかかるであろうから、再来週の月曜日まで練習はなしという事にする!」

「――!? 本当ですか!? 正直いうと少し休みたかったんですよ!」

「伊野平くんは休みなしだぞ! きみはサボらずにアイソレに勤しんでくれたまえ!」

「あぁ……はい………………」

「そんなわけで、円花宮くん、今日の夜までに学年学科、学籍番号等を僕のケータイに送信してくれたまえ! 早速今夜にでも申請書類の作成準備に取り掛かろうと思う!」

「了解ですわ、小倉代表」

「それと、円花宮くんにはダンス同好会の副会長をやってもらおう! 異論はないね!」

「小倉代表がそうおっしゃるのでしたら……」

「うむ、では幹事三役の要、会計は後で誰かに頼むとして……、一旦はこれにてオッケーだ! 異論反論オブジェクション! 皆それぞれいいたいことや疑問もあるだろうが、それは後日、僕のケータイにでも送ってくれたまえ!! また近々に連絡をする、しばらく待機するように心がけてくれたまえ! というわけで、本日はこれにて解散――!!」


 ――またしても小倉先輩の独断専行で物事が勝手に進んでいくような気がする……がしかし、今回ばかりはおかしな方向にはいかずに済みそうだ。なにしろこれで、学園規定の人数はそろったし、あの円花宮さんもすごくしっかりしてそうに見受けられる。あんな人が副代表として小倉先輩のサポートをしてくれるのなら、きっと変なトラブルに巻き込まれる事もないだろう。しかも、円花宮さんは生徒会の副会長でもある、自分達のような弱小同好会にとっては彼女の存在は非常に強みでもあるように思える。生徒会と直接つながりがあるクラブは少ないだろうし、生徒会とのパイプがあれば諸々においても有利に働きそうだ。

 前途多難なダンス同好会モドキだったが、ここにきて急速に発展できたように思える。最初はまったくノリ気のなかった同好会だったが、今は素直に一歩前に進めた事が嬉しかった。が、それはそれ……一歩前進できたからといって、今後の展開がすべて問題なくスムーズにうまくいく訳ではなかった。

 当たり前のことだが、厳しい学園だからこそ手続きに時間はかかるだろうし、なにしろこの団体を率いているのはあの小倉先輩なのだ……何もないわけがない――。以前にも増して嫌な予感しかしないのだが、でも俺は、ひたすらに小倉先輩からの連絡を待つことにした……少しでも戦力になれるよう、柔軟とアイソレに勤しむ日々を繰り返しながら――――――。

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