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能美坂学園超次元脳量子応用技術ダンス同好会  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
11/42

11 新入部員

「ちょっと! そこのあなたたちッ!! いったい今何時だと思っているんですかッ!? 下校時間はとっくに過ぎているんですよッ!!」

 女性特有のカドのある、鋭く尖った感じの声が突如、俺たちの後方からまるで覆い被さるように響いてきた――――――。


「おやおや、これはこれは……生徒会長の霞様と生徒会副会長の円花宮様ではありませんか! ご機嫌麗しうございますかな?」

「小倉くん……あなたねぇ、いっつもいっつも……ふざけるのもいい加減にしなさい!!」

「いやいやいや、心外ですなぁ……霞さん、僕はいつだって真剣そのものですよ」

「なにが真剣そのものよ! ついこの間、ちゃんと言ったわよね? 南校庭であんまり目立ったことはするな! って……」

「そんなことありましたっけ? 僕はよく覚えてないなぁ……」

「とぼけないでッ! 小倉くん、最初に約束したじゃない!? 事情が事情だから多少のことは目をつむるかわりに、上から目を付けられるような事は一切しないって!」

「うむ、だから上から目を付けられるような事は約束通り、一切していないぞッ!!」

「バカな事いわないでッ! 生徒会の方にもすでに何件もの苦情や悪いうわさが入ってきているのよ! もうこれ以上は庇いきれないわよ!!」

「そこをなんとか生徒会長様の御力で……」

「無理ッ!!」

「そこをなんとか………………」

「あのねぇ、小倉くん……、気持ちはわからなくもないのよ……あなたの熱意も素晴らしいものだと思うわ……でもね、下校時間は無視する、中等部の女子も巻き込む、新入生の男子たちを足腰立たない状態まで追いやる、挙句の果てに南校庭を我が物顔で独占する……いいかげん、他の運動部からも苦情が来ているのよ………………」

「失礼な! 我が物顔で校庭を独占などしていないぞッ!」

「陸上部から激しく苦情が来ているのよ……小倉くん、あなた先週、陸上部の南校庭使用申請を妨害したそうね………………」

「………………な、なんのことかな?」

「……目が泳いでいるわよ、小倉くん」

「……そ、それは誤解なんだってば!! 霞くん、きみは僕がそんなことをするような人間だと思っているのかい?」

「えぇ、そうね、あなた以外にそんなことをする人はいないもの」

「な、なんてひどい女だ……鬼! 悪魔! この偽乳ッ!!」

「………………おまえ今、なんつったよ……、偽……なんだって? あ?」

「す、すみません……なんにも言ってないです……パット入れて、寄せて上げまくってるとかまったく思ってません………………」

「全力で思ってるだろうがッ! わかりましたッ! もういいですッ!! もうあなたたちの身勝手な活動を許すことは出来ません! 許容範囲を超えました! 学園の規定通り、クラブや同好会の学園公認団体に最優先で施設の使用許可を下ろすように事務課に進言しておきますからね!! ついでに過去の苦情やトラブル等々も報告書にまとめて事務課に提出しておきますからッ!! 覚悟しておいてくださいッ!!」

「ちょッ、ちょっと!! そんな殺生な!! では、これから僕らはいったいどこで練習をすればいいというんだいッ!?」

「そんなことは知りません! 更衣室もシャワールームもない、そこらの公園や駐車場で勝手にやればッ!!」

 ――詳しい事情はわからないが、生徒会長さんと小倉先輩のやり取りから察するに、おそらくこの南校庭の継続的かつ安定的な使用を実現させていたのは、小倉先輩のかなり強引なやり方のようで……その結果、当然いろんなところにシワ寄せがいってしまっていたようだ。

 確かに、よくよく考えてみればこれだけ運動部がたくさんあるこの能美坂学園で偶然、自分たちだけが南校庭を使いたがっていた、なんてことはありえないだろう。学園公認団体でもない自分たちが練習場所を毎週安定的に確保できていたわけがわかった気がする。あらためて、俺たちは本当に小倉先輩に甘えていたことを痛感させられた。

 このダンス同好会に特別な熱意をもって参加したわけではないが、いくらなんでもこのまま先輩に甘えっぱなしというのも人としてどうかと思った俺は、勇気をふり絞って生徒会長さんに声をかけた。

「あ、あの、生徒会長さん………………」

「……何かしら?」

「もし、俺たちが学園公認団体になれれば、今まで通りにこの南校庭を練習場として使わせていただけるんですか?」

「そういうきみは?」

「え!? あ、すみません、魔法科一年の伊野平優といいます」

「小倉くんのダンス同好会のメンバーの子よね……、まぁいいわ……、とりあえずはそうね、公認団体になってくれればそのへんは事務課が許可することだから、あたしたち生徒会が特に文句をいう事もないわね」

「じゃあ、あと一人メンバーを加えれば高等部の生徒が五人になるので公認団体になれるんですよね? そうすれば今まで通りここで練習してもいいんですよね?」

「そうね……、公認団体になれればこの南校庭だけじゃなく他の体育施設も自由に使えるはずだから、もっと環境の良い、鏡のある地下の体育施設も使えるはずよ」

「では、近いうちに絶対にあと一人、メンバーを探してくるので苦情やトラブル等を事務課に報告するのはいったん待ってください! お願いします! 今後はちゃんとしますから、自分たちの活動を許可してください!!」

「伊野平くん……きみ、そう簡単にいうけどね、この学園で公認を得ることはそんなに簡単なことじゃないのよ……単に規定の人数を満たしているから合格というわけではないの」

「え? 人数を集めればいいんじゃないんですか?」

「そんなわけないじゃない……この能美坂学園でクラブを立ち上げるという事はね、大変な事なのよ……クラブ発足の申請書をみればわかると思うけど、この学園にどういった貢献が出来るのか、具体的に何を目標にするのか、そして結果は出せるのか、それから顧問の先生の選定とかね……、既定の期間内に結果が出せなければ新興のクラブは即座に廃部ということだってザラにあるのよ」

「そんなに厳しいんですか……!?」

「厳しいわよ、うちはスポーツにおいてもすべてが全国上位の常連校なのよ、結果が出せない恥さらしクラブは当然、学園から認めてはもらえないわ……それにね、この学園ではクラブが発足したらすぐにかなりの予算と部室が与えられるの、通常では考えられないくらいの破格な優遇措置をとっているわ……だから、あなた達のようなマイナースポーツの選手たちは学園の公認を得る為に本当に必死よ」

「そうなんですか………………」

「まぁ、でも……それはクラブ発足の話、同好会の発足程度ならハードルはかなり下がるはずだから……そんなに落ち込まないで………………」

 ――俺の認識は相当あまかったようだ。単純に人数さえ集まれば、同好会として学園公認になるのかと勝手に勘違いをしていた……同好会の発足は、クラブ発足ほどではないにしても、それなりにハードルが高いらしく一朝一夕ではとてもどうにかできそうにない……せっかく今まで頑張って練習してきたのに、小倉先輩に対して申し訳ない気持ちと、悔しさと、情けなさと、何とも言えない寂寞感で俺の心の中はいっぱいいっぱいでどうしていいかわからない……そんなある種のパニック状態に陥っていた。そんな時、気位の高そうな、にもかかわらず傲慢さを一切感じさせない清廉で凛とした声が聞こえてきた。

「会長、わたくしダンス同好会に入会しようと思います」

「……ッ!? はい!? 円花宮さん……今、なんて……?」

「ですから……わたくし円花宮風華はダンス同好会に入会いたしますと申し上げたのです」

「………………!? ちょ、副会長……いっている事の意味がよく……」

「会長、何度もおなじ事を言わせないでください! 現生徒会副会長、わたくし円花宮風華はダンス同好会に入会いたしますと申し上げたのですわ!!」

「――!? ちょッ! ちょっと!! いったい何を言っているのよ!? 円花宮さん、正気!? あなた生徒会副会長なのよ!!」

「生徒会とのかけもちでは何か不都合でも?」

「い、いえ……そんなことはないけど………………」

 ――急転直下、誰も予想をしえない突然の事態にダンス同好会メンバー皆、言葉もなくただボー然と事の成り行きを見守っていた。


「――本日付でダンス同好会に入会させていただく、円花宮風華と申します、どうぞよろしくお願いいたします」

 あまりに突拍子もない出来事にみんな面喰っていたのだが、さすが代表者、小倉先輩だけはたじろぐ事もなく、いつものお調子者っぷりを発揮してくれた――。

「ウェルカム! 副会長さん! 僕らダンス同好会一同、みんな大歓迎さ! 一緒に踊ろう! さぁ、僕の胸に飛び込んでおいで!!」

「………………申し訳ありませんが、今、あなたに用はありませんので」

 そういうと、生徒会副会長さんはただ黙ってスタスタと何故か俺の方に向かって歩いてくる。

 相も変わらず、俺は事態が飲み込めない――――――。

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