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これからの賃金の話をしよう!

作者: 安藤ナツ

 サラリーマンのサラリーとは英語の“salary”が由来であり、その意味はそのまま“給料”である。要するに、サラリーマンとは誤解の余地もなく給料を貰う人を指す言葉で、『どうしてサラリーマンが働くのか』と言う質問に対する完全なる回答だと言えるだろう。


 そんなサラリーマンの存在意義とも言える給料制度が数年前に変更された。


 今までは『完全月給制』だったものを、『月給日給制』に変更すると言うのだ。


 それって何が違うの? と言う労働とは無縁の方にわかりやすく説明すると、『完全月給制』は遅刻や早退、そして欠勤したとしても給料が減らない制度だ。そして『月給日給制』は一日休めば給料から一日分の給料が差し引かれてしまう制度である。


 説明を聴けばサルでもわかると思うが、当然『完全月給制』の方がサラリーマン的には嬉しい。休んでも月給は減らないので収入は安定し、突然の怪我や病気の際も安心だ。


 が、逆に会社側から見れば『月給日給制』の方が有難いだろう。働いていないサラリーマンに払う金なんてない。企業は給料を払っている以上、少しでも社員を働かせたいのだ。その精神はサブスク代がもったいないから、別に見ているわけじゃあないけどAMAZ○Nプライムで映画を垂れ流している会員に似ているかもしれない。


 会社側に立てば、『完全月給制』を『月給日給制』に変えたいと言う気持ちもわからなくはない。


 だが、できれば『完全月給制』であり続けて欲しいと言うのがサラリーマンの本音だ。


 そんなわけで、社員の理解を得ようと会社側の説明会が行わるのだった。


 総務部の説明は『同一労働同一賃金』の考えから給料制度を変えたいと言うことであった。


 実はずっと昔から本社は『完全月給制』であったが、支部は『月給日給制』が敷かれていたようだ。その格差是正の為に、給料制度を統一すると言う。


 私は勿論、最後に手を挙げて訊ねた。


『どうして完全月給制に合わせないのですか?』と。


 小学生だって『完全月給制』と『月給日給制』のどちらが優れているかは簡単に理解できる。格差是正を行いたいのであれば、より優れた制度を取り入れるべきだろう。そうすることで、会社の価値はより高まるはずだ。


 回答は『今は考えていない』だった。


 そんな返事があるか?


 って言うか、質問されたんだから今からでも考えろや。


 それに同一労働同一賃金』の言葉自体が私には理解できない。


 例えば先月に『労働:十九日・欠勤:一日』だった場合『完全月給制』であれば『二十日分』の給料が貰えるのに、『月給日給制』では『十九日分』の給料しか貰えない。同じ労働内容なのに、給料に一日分の差が出てしまっている。これの何処が『同一労働同一』の精神なのだろうか?


 不満を隠し切れない私が以上のことをオブラートに包んで訊ねると――


『そう言った状況を想定しての言葉ではない』


 ――と答えられた。


 じゃあどんな状況を想定しての言葉なんだよ。覚えたばかりの『同一労働同一賃金』って言葉を使いたかっただけでは? と言う疑惑が頭の中を過ぎった。


 そもそも、営業や事務、製造に技術、開発だとか総務だとか部署は無数にある。それらの仕事は当然ながら簡単に比較できるわけではない。部署間の労働の同一性は皆無であり、その給料の格差の是正は行わないのだろうか? 行うとしてどんな基準を設けるのだろうか?


 もっと言えば、個人間の作業量にだって差がある。同じ作業を行って『八時間』で終える人間と、『一〇時間』も必要とする人間がいる。この場合、効率の悪い後者に残業代を支払うことになって、前者は相対的に損をする形になる。これの何処が『同一労働同一』の精神なのだろうか?


「今回の説明会とは趣旨が違います」


 疑問に対する回答はシンプルだった。


 なんの説明にもならない説明会は一時間ほどで終了し、最後に一枚の用紙が配られた。給料制度変更を了承するか否かを名前付きで書いて提出しろとの事だ。別に反対票が多かったからと言って、給料制度変更が白紙に戻るわけではないと言う。


 私はシュレッダーに用紙をぶち込んで定時に帰った。


 その後、給料制度変更を仕切っていた室長に『どうして賛成しないの?』と問い詰められたが、短く『実質的に減給だからです』と答えた。室長は『わかった』とだけ答え、それ以上に何か言われることはなかった。


 ただ、部長に『協調性を持つように』と後で言われたけど、何のことだったろうか?


 私の反抗は無意味に終わり、給料制度は変更された。


 ぶっちゃけた話、欠勤しなければ給料は減らないし、休んでしまっても有休休暇を使えばいいだけなので、労働には何の変化もない。反対して上の覚えが悪くなっただけだとも言えるだろう。


 だが、悪くなったのは会社への信頼も同じだ。


 今までは長期の怪我や入院でも収入を得られたが、それがなくなってしまった。今までも別にそんな恩恵を得ていたわけではないが、少なくとも会社側は弱者となった社員を守る気がないと言うことだけはわかってしまった。


 そして説明になっていない説明会。あれから感じられるのは、『社員に給料を払いたくない』或いは『給料を安くしたい』と言う会社側の思考だ。そして、馬鹿でなければ『会社に金がない』とか『会社は搾取を強めようとしている』と言う動機まで想像できてしまう。


 会社側は実質的に何も変わらない給料制度によって、社員達にかなりネガティブな印象を植え付けてしまったように思う。実際、若い層の離職率は急増した。特に給料制度変更のついでのように営業手当を取り上げられた二〇代営業は全員辞めてしまった。結果、新しい仕事の案件は減っており、その余波を社内全員が痛感している。


 一体、何のための給料制度変更だったのだろうか?


 或いは、誰のための給料制度変更だったのだろうか?


  

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