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女たちの本音 [クララの視点]

「ずいぶんと眠そうねえ。昨夜はお楽しみだったのかしら?」


 あくびを噛み殺したヘザーを見て、王女様がくすくすと笑いながら言った。


 昨日から、ヘザーとローランドは王宮に夫婦の居室を与えられて、そこで寝起きを共にしていた。


「そんないいものじゃありません。貫徹ですよ。過労死寸前です」


 ヘザーはシレっと返答し、王女様は大爆笑されている。


 私は、飲んでいた紅茶を、吹き出しそうになった。なんとかこらえたけれど、気管に入ってしまって、ゴボゴボむせる。


 えーと、つまり、ローランドとヘザーは、昨夜は寝てないということ?つまり朝まで……。

 それって、昨夜は初夜だから?それとも新婚って、毎日そういうものなの?


 今日は王女様の公務がないので、私たちは久々にサロンでお茶を飲んでいた。


「あら、クララには、ちょっと刺激が強すぎたみたいね。そっちの方面はまだなの?」

「王女様、クララは奥手なんですよ。キスまでしか、経験ないみたいですわ」


 ちょっとヘザー、何を言うの!それは事実とは違う。私だって、もっと先まで行ってるよ!


 ただ、最後までは、してないだけで。


 ……なんてことを言ったら、当然に根掘り葉掘りいろいろ聞かれる羽目になる。


 私はぐっと言葉を飲んだ。沈黙は金なり。


「ふうん。男なんてそっちのコトしか興味ないと思ったけど、カイルは違うのかしら?」

「あら、殿下だって、ずいぶん禁欲的な生活をされていると思いますけど?」


 殿下と王女様は、本当の夫婦ではない。偽装……じゃなくて、白い結婚ということは、周知の事実だった。


 もちろん、それは王宮ではタブーな話題になっている。ヘザーはそこを、ズバっとを突いた。


 王女様とヘザーは、上司と部下というだけではなく、まるで姉妹のように仲がいい。

 いや、女子プロレスラーの最強コンビのように……というべきかもしれない。


「アレクは、それなりよ。王族の閨教育には、実技の指南役がつくしね。後継を得るのも王族の大切な仕事だから、様々なケース・スタディを課されるのよ」

「へえ、そうなんですか。王族は大変ですねえ。じゃ、王女様にも、手練なご指南役がいたんですの?」


 ヘザー、それ、単なる興味で聞いてるよね?これは、恋バナじゃないよね。わ、Y談?

 女学生じゃあるまいし。そこは聞いちゃいけないとこでしょ。プライバシー保護的に!


「当たり前よ。王女たるもの、ときには敵国の男を、体を張って籠絡しなくちゃいけないのよ。それこそ、命がけの仕事よ。私の指南役はレイだったの。そりゃあ、激しいレッスンだったわ。何ていうの。スパルタ?本当に、命がすり減るみたいな感じで」


 それ、言っちゃうんですか、王女様。


 私は何も聞かなかった。私は何も聞かなかった。


「あー、なんか想像つきますわ。お疲れ様です……としか、言いようがないですけれど。でも、好いた方が指南役で、よかったのでは?」

「まあね。でも、実際にはあの指南で落とされた、というのが正しいわね。体から始まる恋もあるでしょう」

「それはありますね。体の相性は重要ですし。まあ、馴染むということもありますけど」


 そ、そうなのですか?そういうもの、なのですか?

 どうしよう。話に全くついていけない。私、ここにいて、いいんでしょうか……。


「まあ、そうとばかりも言えないけどね。アレクのご指南役は、必然的に年上の未亡人ばかりになるのだけど、大人の妖艶な色気はすごいらしいわ。なので、彼はお色気ムンムンには、食傷気味みたいね。側室には清楚でおとなしい感じの、年下女性をご所望よ」

「え、殿下が、側室を召されるんですか?」


 黙って聞いていた私も、さすがにこれには驚いた。殿下はそういうタイプではないと、思っていたから。


「まだ、先の話だけど、後宮は必要ね。跡継ぎを誰かに産んでもらわなくちゃ困るもの」

「王女様が産めばいい話でしょ?不妊診断だって、王女さまの魔力量と釣り合う男性がいないからってことだったんだし。殿下の魔力量だったら、ばっちり射程距離内だと思いますけど!」


 ふ、不妊って。ヘザー、そこ、すごくプライベートなエリアじゃない?触れていい場所じゃないよね?ほら、訴えられちゃうよ?

 しかも射程距離って。表現があからさまじゃない?そんなこと言っちゃって大丈夫なの?


 オロオロと心配する私をよそに、二人は平然と会話を続ける。

 この人たち、まさかいつもこういう会話をしているの?


「えー、魔力の釣り合いだけで交配するなんていやよ!家畜じゃないんだから!私はレイ以外の男は受け付けないの。アレクには悪いけど、その気にはなれないわ。あの顔にはときめかないもの」


 国民的アイドルである殿下を捕まえて、その顔にはときめかないと。ありえない!私だって、ドキドキするのに、あの顔には!


 ……なんと言うか、殿下、ご愁傷さまです。


「はあ?それじゃ、レイ様から学んだことは、実生活では、何の役にも立ってないってことじゃないですか!意味ないわー」

「だって、アレクに命を張る必要なんてないじゃないの。あれは非常時の話よ」

「そんなこと言って、どうせ我儘でしょう。そういえば、レイ様には結婚相手を見繕って差し上げたとか。一体、何を企んでいるんです?」

「あら、ローランドに聞いたの?だって、レイは私の専属騎士よ。彼が一生独身だったら、私のスキャンダルになりやすいじゃない。王室はイメージが大事なんだから」

「お相手は、辺境伯令嬢でしょう?結婚後は奥様を領地に追いやって、レイ様を独り占めしようという魂胆がミエミエですが」

「まあ、私、そこまでひどくないわよ。あそこは爵位を継ぐ男子が必要だから、子ができるまでは目をつぶるわ。伯爵とはそういう契約で引き立てることになっているし、特に問題はないのよ」


 王女様、それを問題ないというのでしょうか。私には、問題ばかりのように聞こえますが。


「ああ、なるほど。だから、いきなり辺境の予算が増えていたのですね。北方がまだ油断できない状況だからかと思ってましたが、そういう政治的取引があったなら、納得です」


 それで納得なの?それっていわゆる政治癒着っていうやつでは?

 実はこの国も結構、普通にグレーな政治してるんですね。全く知らなかったけど。


「レイの魔力が消えて、縁談もまとめやすくなったのよ。普通に子ができるから、婿養子にピッタリの優良物件よ。ただ、本人にその自覚がなくて、今まで通りに遊んでるのが問題なのよ。妻をあてがっておかないと、私生児が増えまくってしまうわ」

「ああ、聞いています。ここ一ヶ月で、かなりの数のメイドや侍女たちとお戯れですね。みなメロメロでしたけど、王女様のお話を聞いて理解できましたわ。緊急避妊薬の支給量が増えて、経費の無駄使いになってますよ」


 レイ様、この忙しいときに、どこにそんな暇が?


「するなら私にしておけばいいのに。妊娠の心配もないし」

「今はダメです。殿下が側室を迎えるまでは我慢してください」


 これ、冗談だよね?この二人、冗談言ってるよね?聞かないほうがよかったかもしれない。


「ほんっと男ってダメね。猿だわ、猿」

「ほんとですね。本能に支配されたバカですよ」


 ひ、ひどい言われようですよ、男性のみなさん。


 私には、どうコメントしていいのか……。なんというか、話の難易度が高すぎる。


「アレクも、あの戦いで魔力が下がったらしいの。シャザードは黒魔法に手を染めていて、他人の魔力を吸っていたのよ。でも、一気に許容量を超えれば死に至る。レイはそれを利用したのね。三人分の魔力をつぎ込むなんて」

「お見事ですわ。黒魔法の弱点を突いたんですもの」

「そうね。でも、おかげでアレクも、妊活のハードルは低くなったのよ。それでも、後継を得るには、五人は側室が必要だと思うわ。あのままだったら、女性がよっぽど努力するか、または相当に相性か運がよくなければ、かなり難しかったと思うわ」


 確かに、子宝はご縁だというし、人智を超えたものには違いない。

 子どものことだけは、もしかしたら神様に決められていることなのかなとも思う。


 そのくらい神秘な世界だし、私だってそこの領域まで、この世界から神様を締め出す気はありません。


「そういう意味では、クララはよかったわね。あなた、魔力ないでしょ?カイルもなくなったそうだし、子作りに苦労しなくて済むわ。ああ、でも、まだ働いてもらいたいから、しばらくは避妊してね。ヘザー、クララにも薬を渡しておいて」

「承知しました。でも、今のところ、必要ないように見えますよ。カイルもクララも奥手だし、仕事も忙しすぎますしね」


 確かに、使う機会は全くなさそうだけど、一応、もらっておきたいな、薬。


 それにしても、カイルの赤ちゃんって。え、やだ、そんなのあり?

 ちょっと、恥ずかしいんだけど。うそ、私がママで、カイルがパパ?照れる……!


「このままじゃ、クララが気の毒ね。いいわ、何か方法を考えましょ」

「よろしくお願いしますわ!全く進展ないですから!」


 そのときの私は脳内お花畑で、一人でパパなカイルを想像して悶えていた。

 そのせいで、この王女様とヘザーの企みを聞き流してしまっていたのだ。


 そして、すぐにそれを聞きとがめなかったことを大反省する羽目になるとは、このときは全く気がついていなかった。



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