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―――プロローグ―――
雨が降っている朝。そんなよくある日に、一人の少女がある一つの答えを出しておびえていた。
「ちょうどきっかり1年後に私は・・・」
彼女の体は震え始めた。無理もない。いきなり自分の寿命があと1年だなんて言われて、
驚かない人などいないだろう。そう、彼女も例外ではなかった。「死にたくない」「生きたい」という感情が頭の中を目まぐるしく駆け回る。しかし、無情にも彼女の寿命のカウントダウンが今、始まった。
―寿命 残り 365日―
―――
金曜日の夜。誰もが一番待ち望んでいる時間だろう。早く寝るもよし。夜更かしするもよし。そして、深夜。ある一人の少女が、目を覚ました。
「ふあぁー。」
今大あくびをしている彼女の名前は高城 陽子。普通に高校生活を送っている、普通の高校1年生だ。陽子 は、自分の目をこすりながら、暗い部屋の中をみまわして、普通の人なら見えないはずの、おかしいものが見えてしまった。
深夜0時を指している時計、暗い外、おかしいところは何もない。見知らぬ男が目の前にいる事以外は。
「えー、突然現れてすまないんだが、お前の寿命はあと一年、つまり365日ということだ。」
今目の前にいる男が、いきなりしゃべった。寝ぼけているのだろうか。というか、何を言っているのだろうか。陽子は自分の目を眠たそうにこすった。しかし、目に見えている男は消えない。一応ほっぺたもつねってみた。しかし、夢から醒める気配は一向にない。そして、男をまじまじと見ていた陽子 陽子は、見えてはいけないものが見えてしまった。
・・男の手に鎌が握られている・・
急に怖くなり、その男にとびかかろうとして止めた。もし男が強盗犯で殺意がなくても、人にとびかかられたら怒って殺されてしまうかもしれない。そもそも、「お前の寿命はあと1年だ」というやつが今すぐ殺すようなヤツだろうか。陽子の心の中で導き出した答えは、「ノー」だった。今はその導き出した答えを信じるしかない。
こうして冷静を取り戻した陽子は、とりあえず適当に質問することにした。
「いやいやいや、というかどちら様ですか?」
べつに誰か知りたくて聞いたわけではない。どうせ強盗犯か殺人犯だとは思うが、時間稼ぎをしてここから逃げ出す方法を考えようと思って聞いただけだった。しかし、男の答えは、
「俺か? 俺はだなぁ、まあ、その・・」
男はなぜか自分の事を話そうとしない。殺人犯ならどうせ殺すのだろうから名乗ると思うし、たとえ強盗でもそんなに返事には詰まらないはずなので、疑問がわいた。その疑問は、次の男の発言で少しだけ解決したような気がした。
「俺は死神だ!断じて強盗犯などという汚れて腐りきったものではない!」
第一、死神だって十分汚れて腐っていそうなものだが。というか、なんで強盗犯じゃないなどと言ったんだろう。もしや、心が読まれていたりするのだろうか。
「その通りだ」
「!!!」
・・本当に心を読まれているとは思わなかった。その時になって、陽子は気付いた。家族に助けを求めればいいじゃないか。なんでこんな簡単な事に気付かなかったのだろう。陽子は、とっさに自分の部屋を出ようとする。が、なぜか部屋のドアが開かない。
「どうして!カギはかかっていないのに!」
「大声を出されて周りの人が起きだして来たら面倒だからな。ドアは今は開けれないようにしてある。」
この男、少なくてもバカではないようだ。それに、心を読まれるのなら何をやろうと無駄だ。陽子は覚悟を決めた。
「俺は、お前の残りの寿命を伝えるためにここにいるんだ。決して今殺すために来たわけじゃない。後、本当に死神と信じてもらえるように、予言をしておく。」
「それは一年後に私が死ぬという事以外だよね?」
「そうだ。明日、雨が一日中降る。」
確か夕べみたニュースの天気予報では、降水確率は0パーセントだった。それも、雲一つない快晴。予言なんて当たるはずがない。もし当たったら信じよう。陽子はそう思った。
「あと、寿命の説明だが、明日の0時になったら、寿命が1日減る。寿命が0になったら、俺が迎えに行く。このことを説明しておかないと、「あと1日寿命があったのに!」なんて言う輩がいるからな。」
確かに、寿命のカウントダウンの説明を受けとかないと、あと何日で寿命が来るのかわからないからなぁ、と陽子は死神の説明に納得していた。
「でも、ここまで言っても分からない輩が稀にいるからな。この自分の残り寿命を表示してくれる機能が付いた時計をあげよう。」
なら最初からその時計をくれよ!とツッコミたくなる所だ。さっきの説明の意味は一体何だったんだろうか。それと同時に、一つの疑問が生まれた。
「ほかの人にこの時計のことを聞かれたらどうするの?」
「なんかのサイトの懸賞で当たったとでもいっておけばいいだろ」
「いや、そういうことじゃなくて、寿命が表示されている時に見られたらどうするの?」
「大丈夫だ。時計自体は他の人にも見えるが、残りの寿命の数字は他人には見えないようになっているからな」
本当に、人に見られないなんてあり得るのだろうか。そもそも、陽子は普段は懸賞になど応募しないので、怪しまれるかもしれない。仕方がないので、聞かれたら友達に貰ったということにしておこう。
「ところで、お前、他に腕時計持ってないか?」
「持ってるけど?」
「その腕時計を見せてくれ」
陽子が腕時計を見せると、死神が何やら目を閉じて、超能力者のように腕時計に何かパワーを送っているようなポーズをしていた。死神によると、さっき見せた腕時計をイメージして、例の腕時計もそれと全く同じ形にするという。全くどうすればそんなことができるのかは、陽子には分からなかった。きっと、死神だけが使える技があるのだろう。
そして数分後・・・
「できたぞー」
見ると、陽子が見せた腕時計と全く同じ形の腕時計がそこにあった。
「普通の時計と間違えるなよ」
本当にその通りだ。もし間違えて普通の時計を付けている間に、両親がないとは思うが、寿命が表示される腕時計を見つけて(寿命は他の人には見えないが)、問いただされるかもしれないからだ。もちろん逆(普通の時計が見つかる場合)もあるが、逆の場合と違って致命傷になりかねないのは、その時計を隠されてどこかに行ってしまうことが起こりえるからである。通常はこんな事は起こらないし、そもそも着けていない方の時計を隠せばいい話なのだが、陽子は周りに比べるとかなりの心配性である。万が一の可能性を考えて、普通の時計を死神に預かってもらうことにした。死神も、物は預かってもいいらしい。
その直後、陽子にまた疑問がわいてくる。彼女は、先ほども述べたように心配性で、気になったことは人には聞かずにはいられないタイプだ。もっとも、聞いた相手は人ではないが。
「ところで、なんで手に鎌を持っているの?」
「・・・死神だから。」
あまりにあっさりと答えが返ってきたので、正直びっくりした。でも、今殺さないのなら、鎌を持たないでほしいと心の中で陽子はそう思った。今殺されるとしても、鎌で体を真っ二つにされて死ぬのはいやだ。
「大丈夫だ。鎌で人を切ったことは一回もない。そもそも、この鎌は人を切る為のものではない。死神の象徴だ。」
「なら、その鎌を見てパニックになって、自殺とかしてしまった人はいないんですか?」
「・・・いる」
「なら象徴とかどうでもいいから鎌を持たなくてもいいじゃないですか!」
「実のところ、私もそう思っている。寿命がまだ残っている人に自殺されてはかなわないからな。だが、上のほうの方が、許してくれないのだよ。」
死神の世界にも上下の区別があるらしい。様子から、男は会社でいうと平社員ぐらいなのだろう。人の寿命を決めているのだから同情はできないが、死神も下の方は意外と大変なことを知った。あくまでも、この男が本当に死神だったらという条件ではあるが。
「あなたは死んで死神になったの?あと名前はなんて言うの?」
「そういうことは言ってはいけないルールなんだ。ということで、どうして俺が死神になったのかも言えないし、本名も言えない。それから、時間が無いからもう質問はしないでくれ。もし、質問したいことがあったら、さっきあげた腕時計にメールしとけ。俺が見次第答える。」
さっきもらった時計、そんな機能もついてたんだ。にしても、メールを送れる腕時計って、携帯電話の劣化版じゃないのか。○○陽子 は、そんなことを思った。早速そのことを聞こうとすると、
「さっき言ったばかりだろう!質問をしようとするな!今日の仕事が後4件も残っているのに!」
うっかり死神が心を読めるのを陽子は忘れていた。しかも、死神の仕事って残りの命を言いに行くのと、寿命が来た人の命を迎えに来ることぐらいしかない気がするが。何が忙しいのだろうか。あと4件しかないのに。
その時、死神の男の顔が少し揺れたような気がした。陽子の考えていたことがきっと図星だったのだろう。死神は、「そんなことはない」と言いたそうな顔で、
「死神の仕事はそれだけではない!それ以外にも・・・」
言葉に詰まっている。言い訳する言葉が見つからないのだろう。
「そもそも今死にそうな人がかなり少ないだけで、いつ仕事が入るか分からないからな。この地球には約73億人が住んでいるんだぞ!」
それは正論だが、たとえ過去に死んだ人の3分の1しか死神にならないとしても、数十億人はいるはずなのだ。なので、理論上今地球上の全ての人が死んだとしても、一人3人で済むはずなのである。もちろん、寿命を伝えに行くのもあるが、それを含めても6人ぐらいで済むはずなのだ。それでも4件も仕事があるということは、死神たちはもともと担当する件が決まっているとしか思えない。
陽子が思ったことがまたもや図星を突いていたのか、死神がいきなり、
「ということで、俺はもう行く。他にも仕事があって忙しいからな。1年後に迎えに来る。せいぜい残りの人生を楽しめよ。」
という言葉を言い終わるやいなや、死神は光の粒のようになって、どこかへ飛んで行ってしまった。
図星を突かれて逃げるなんて、悪いことした偉い人と同じだ。むしろ、目の前から消えてどこかへ行ってしまう死神の方がタチが悪い。陽子は、そんなことを思った。そして、頭を整理した。そして分かったことをまとめた。
まず分かる事は、もしも明日の予言が当たって、死神が本当にいるという事になれば、自分はきっちり1年後に死ぬということ。考えただけで、未来が真っ暗になったような気がした。もしも明日の予言が当たったらと思うと、急に怖くなる。恐る恐る窓から外を見ると、雲は少しあったが、天気でいうなら晴れだった。陽子の心は、すこし落ち着いた。
それから・・・。考えているうちに瞼が重くなってきた。なにしろ、今の時刻は深夜0時過ぎである。考えるのは明日にしよう。そう思い、布団に再び入った陽子は、そのまま夢の世界に引き込まれていった。
エタ作品第一弾は、この『Enjoyed!』です。わずか一話書いただけでエタっていました。
本来ならば、陽子が全国大会まで行く設定になっていました。そして、最後に死ぬときに「楽しかった(enjoyed)」というセリフを言って完結する・・・・・・、といった風になればよかったんですけどね・・・・・・。
『未投稿エタ作品・ボツ話大集合SP!』シリーズ、次回は『異世界もの』です!