0,勢いでやった。今は後悔している〜エイプリルフール!〜
俺は全寮制の高校に通っているのだが、春休みということで、今日もまた朝から奴が部屋に遊びに来た。
去年から同じクラスの風木鈴音。
ゲーム、漫画、アニメ大好きのへんてこインドア女である。
「亮太ぁー、今日もゲームしようぜー!」
ちなみに亮太とは俺の名前。羽柴亮太。
大して容量のない脳味噌で、いかに充実した春休みを送るか、奴なりに考えたらしく、この間出たばかりのテルイズシリーズの最新作を買ってきて、半ば強制的な共同プレイの毎日を送っている。
おかげで一日の約半分は二人してテレビ画面に向き合っている計算になるのだが、ここ数日、俺の春休みというか青春、こんなんでいいんだろうか、と思い始めていた。
だって、たった三年間の高校生活だぞ?
冷静に考えて、高校生として送る春休みは二回しかない。
それをこんな非生産的な形で過ごしてしまっていいのか、俺?
隣の女を見てみろ。
ただの馬鹿だぞ、こいつは。上下ジャージで男の部屋に来るか普通? ムードの欠片もない、恋愛に発展するはずがない。
何がいけないかって、高校には制服を着てくるという日本が定めた習慣(?)がいけないのだ。
おかげで入学式の日に変な誤解をしてしまった。
やべぇ、隣の席にめっちゃ美少女がいる!
それが実際、下心を抱きながら友達になってみれば、このジャージ。
お母さん、どうやら俺には女を見る目がないようです。
だから、俺が奴に嘘を付いたのは、今日が四月一日――エイプリルフールであるということと、男の部屋にジャージで上がり込んで来ることに対しての当て付けのようなものだったのだ。
「鈴音」
「ん、何?」
「好きだ。俺と付き合ってくれ」
「ああ、エイプリルフールね」と鈴音は言って、ガハハハと品のない笑い声を上げ、テレビ画面を見たまま俺の脇腹をつついて来る……と予想してた、俺は。
しかし、やけに返答の間が長い。
さらに、テレビ画面では丁度戦闘中だったのだが、敵に呪文を食らわせているヒロイン(プレイヤーは俺)の横で、主人公(鈴音)が棒立ちのまま敵にタコ殴りにされている。
「おい、鈴音。HPがやばいぞ」
俺がヒロインに必死に回復呪文を唱えさせるが、一向に主人公は動かない。
と、画面が真っ黒になった。
「あれ?」
横を見ると、鈴音がboxX306の電源を切っていた。
「……」
「鈴音?」
「……いいよ」
「へ?」
「いいよ、亮太と付き合っても」
とんでもないことになった。
Tellis of Fiction 〜テルイズ オブ フィクション〜
boxX306で発売されたテルイズシリーズ最新作。
マザーシップタイトルの12作目に当たる。
ジャンルは『虚構を打ち崩すRPG』。
従来の戦闘に導入されていたリニアモーションファイトシステムのアクション性がさらに増し、コンボ数により特殊な必殺技が発動し、キャラクターが技名をシャウトする、某パズルゲームのような演出がなされた。
発売からわずか一週間で、20万本売れたとか売れなかったとか。