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「うわぁ、広ーい!」
ちょっとはしゃいでいる優実。ここは優実と別れてから買ったから、見るのは初めてか。
「じゃあ、さっそく始めよー!」
テンション高いな、優実。
「質問でーす!今回はどんな話がいいと思います?」
「うーん。じゃあ、高校生のラブストーリーで。」
「了解!じゃあ、奏助の部屋見て回っていい?」
ん、どうして小説が僕ん家のルームツアーに繋がるんだ?
?が浮かんだ顔をしていると、
「なるべくあなたに寄せた感じに書きたいでしょ。だから今のあなたをちょっと探ろうと思って。」
にやり、と笑う優実を見て、ああ、変わらないな、なんて思いながら僕はOKした。
「じゃ、僕はお昼ご飯作っておくよ。」
「そ、奏助が料理…??」
優実が大袈裟に驚くフリをする。失礼な奴だ。
「僕だって少しはできるよ。そのくらい。」
「お腹壊したら、訴えるから。」
「怖…。頑張ります…。」
優実め…。僕の料理を食べて驚くがいい。
それにしても、部屋を見て回ると言ったって、そんなに面白いものなんてありはしない。美香の物もいっぱいあるし。…なんかめっちゃ真剣に見てんな。
「ねぇ、この子美香ちゃん、だよね?」
優実が僕と美香の2st写真を見て聞く。
「そうだよ。」
と僕が答えて、美人だろ、と付け加える前に、
「わあー!美人!」
奏助にはもったいなーいと笑うので、
「うっさいなぁ。」
とだけ返しておいた。
しばらくして、ガラッという音とともに優実がタンスの引き出しを開ける。
「え、そこも見るの?」
「服を見ると人柄がわかるし、あと、登場人物のイメージも湧きやすいのよ。」
なるほど。でも、あんまりジロジロ見られるのはちょっと恥ずかしい…。
「あれ、これって…。」
女物の服を手に取って優実が首を傾げる。
「ああ、それ美香のだよ。美香の泊まり用。」
僕が答えると、優実は
「へぇ、お泊まり用か…。恋人なんだもんねぇ…。」
と、しみじみと言った。親戚のおばちゃん感。なんだ、文句でもあるのか。
そして優実の落とした視線の先に、美香が買ってきた雑貨が置いてあった。
「ええっ。奏助こんな感じの雑貨好きだっけ。」
優実が眉間にシワを寄せて言う。
「あー。それも美香の。てか美香の買ってきたヤツ。」
「ふーん。センスいいね…。」
「優実もいいだろ。さ、ご飯できたよ。食べる?」
途端、優実の目が輝く。
「食べる!」
2人揃って席につく。僕はトマトパスタを作った。無難だけど、美味しいやつ。
「うわー。美味しそう!」
いただきまーす!と、優実が元気よく食べ始める。
「おいしーい!」
「ほんと?急いで作ったからあんま自信なかったんだけど。」
「おいしーよ。こんなのどこで覚えたのよ。結婚してる時作ってくれなかったじゃない?」
「美香。美香が教えてくれたんだ。」
優実の目がテンになる。
「料理もできるの、あの子。」
「うん。料理の腕はピカイチ。あと、仕事もできるバリキャリ。」
「仕事もできて、料理もできて、センスいい美人とかもうさ…」
「最高だよな!美香。やっぱりさすが俺の、」
女、まで言おうとしてびっくりした。突然、優実の目から涙が溢れてきたのだ。
「どうした?!」
「ごめ、そんな、つもりじゃ…」
そこまで言って優実はバツが悪そうに顔をしかめると、
「トマトソースが、目に飛んだ。」
と言った。思わず僕がぶはっと吹き出して言った。
「そんなヤツ、初めて見たし、このタイミングで?」
笑う僕に、ちょっと優実は怒った声で、
「あたしだって、人生初!」
と言った。
2人で顔を見合わせて、また笑った。
優実の目は、ほんのり赤かった。