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Me me (ミーム)  作者: 玉鋼打太郎
導入
7/9

+6

時は然るべく刻まれていた。

それはそう聞けば当然そうだろうと思える。

しかし、私だけの宇宙であるはずだったここで、私の知らない内に物事が進んでいる。

それはあたかも自身が設計したこの世界が、その手を離れて独り歩きしていたようだった。


そしてこうして突如として経年の観測を余儀なくされた事で、それに対して生物のみならず、この光景全てを以ってして逆らっているように錯覚した。


この光景の全てが、1つの大きな生き物のように思えたのだ。


今になって、私は今の自身の状況を恐ろしく思えた。

私は神さまでもなんでもなく、そもそも何も見越してなどいなかった。

ただ自分の好き勝手に生んだ想像の産物が実際に顕現(けんげん)してしまって、それが活動を始めたのだとすれば、私に取れる責任は何もない。


あの時慕ってくれていたこの世界の住人が、私の手を離れて時の経った今、私をどう扱うのかさえ、全く予測のつかないものになってしまったのだ。


朝は既に吐息の色を失わせていた。

ぽつりぽつりと、人々が生活をはじめる様子が遠目にも見える。



ふと見ると、猫は変わらず、私の足元で稲穂に鼻をあてがっている。


当然何よりも不思議なのは、急性の腎臓病で死んだばかりのはずの、エルヴィンと名付けたこの猫だ。


2年ほど前、怪我をして動けなくなっているところを会社帰りの私が見つけて、病院に駆け込んだ。


この黒猫はいつも虫を追いかけて窓から飛び出したり、一度何かに興味を持てば延々と執着して追いかけ回したり、飼い主の私に似て熱しやすく、冷めにくい性格だった。


そして今もかれこれ30分、飽きることなく麦の匂いを嗅ぐのに夢中なところを見るに、やはり、見れば見るほど彼は生きていた。


無数の関心事を拠り所にしてまで、その無明には触れるべきでない様に思えていた。


私自身、彼が居なくなってしまった生活をまだ1日しか噛んではいないのだから、

こうして隣に平然といられてしまっては、死んでしまったことの方に現実味がなかった。


これ以上迷っていても仕方がない。


どのみち不可解は尽きないのだ。



猫の鼻がこびりついたままの稲穂を一本拾い上げ、私はゆっくりと歩き始めた。


導入おわり。

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