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とりわけ学生時代。周囲からの無関心に苛まれ、心に死の足音さえ聞こえた夜。
私は持ち前の想像力からなる布団の中の王座で、実体無き友人に助けを求めていた。
私が思えばそこに城は有り、人々は私を尊重してくれる。
初めは心の隅の張りぼての避難所でしかなかったそれは幾度も私が心を壊しかけては逃げ帰り、そこに居場所を見出す度に、生き物の営みように徐々に心に土地を拓いたのだった。
小屋は家に、家は砦に、砦は要塞に、それはいつしか城と城下町にまでなっていた。
それは心に僅かに残った自尊心を掻き集めて創った、卑屈で矮小な私なりの依り代だった。
私はその頃他の大勢が繁華街やカラオケに友人と連れ立って行くように、私は私だけを携えてその城に遊びに出かけた。
他に目移りしようも無いその頃の私といえば、勝手口のドアを開けるように容易く、思春期真っ盛りの若人は余さず皆そうするのが当然です。と言わんばかりのすまし顔で、そんな世界に没入してしまえたのだった。
今になってこう俯瞰してしまえば、友人の1人も出来ないのは当然だったかもしれないと、私にも思える。
今でも思い出すのは黄金色に輝く麦畑と秋茜だった。城壁に屯ろする蔦さえ朱に染まり、それはところどころ苔むした、趣きある白レンガの城壁に良く映えていた。
吹く風さえ美しい秋だった。
城近くの湖畔にはよく鷺が訪れては蛙を取り、いつも気取ったような仏頂面で此方の冬を睨んでいた。
女性は逞ましく謙虚で、男性は慎ましく勤勉だった。
そこの人間に、私のよく知る人間の陰湿さや姑息な猜疑心は欠落していた。
きっとそこはこの世界のどこよりも豊かで、生に気兼ねがなかったのだ。
そして何よりも皆が私を尊重してくれ、私も皆を大切に思っていた。
私は勤めとも言えないこの国の主としての勤めを抽象的に果たし、後はこの街を、この人達を、ただ自由に眺めていた。
そんなことで私は満たされてばかりだった。