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ケーヴィン寮のこと。

「そういえば、ケーヴィン師はこの工房の主なんですよね。そちらの寮生というのは、どういった方々なんですか」


「ああ、こやつらか」

皆の視線が集まったのを見て、少年たちが、背筋を伸ばす。

先ほどまでは、ケーヴィン師やカイア達の会話に聞き耳を立てつつ、ひそひそと術や宝石公女の話をしていた。


「魔道学院の生徒に、素材やら精霊石で散財して、住むところにも困るようなありさまになっている者達がおった。術や考え方には面白いものがあったからな、ここの一角に住ませてやることにしたのが始まりだ」


「おお、魔道学院の生徒だったのですか。我々も、学院はぜひ訪問したいと思っていたんですよ。にしても、困っている生徒を集めて預かるとは、ずいぶん太っ腹な話ですね」


「む? 別に慈善事業で食住を提供しているつもりはない。初期の支援はしていたが、寮生達は、今ではちゃんと自立しておるぞ」


「精霊術が使えるのなら、何か仕事の斡旋でもしているのですか?」


「学院でも、普通に学費や生活費を賄えるくらいの業務は紹介している。こやつらは、普通の業務だけでは研究の資材を賄えない領域まで至っている連中なのだ」


「ほ、ほう」


「そこで、ここの地下のダンジョンで、資源回収を行ってもらっている」


「ダンジョンで!? さすがに、危険じゃないですか?」


「基本的には、我が広げているダンジョンだ。罠やモンスターなど配置しておらぬ。坑道のようなものだな」


「ああ、危険はないのですか」


「うむ。深くて道に迷うことがあるのと、魔素から湧いて出る魔物がいるくらいだ」

それは普通にダンジョンと言っていいだろう?


「ケーヴィン師が広げているのなら、迷わぬような道を作ってやればよいのでは?」


「穴は大地虫(ランドワーム)に掘らせているから、大まかな命令しか与えられぬ。直接に我が作ると、ここの壁のように魔道具になってしまって、採掘などができないのだ」


俺の先祖にもダンジョンを作っていた人がいたようだが、どんなふうに運営していたのだろうな。

生徒の方にも、話を振ってみる。

「君たちは、その魔物と戦っているのか?」


「そうですね。俺達は、大体パーティーというか群れを作って採掘をしたり狩りを行いますね。寮監が……寮生のリーダーですけど、チームを編成したり役割を指示したりしてます」


「群れで狩りって、また不思議な響きだな。前衛後衛のような、冒険者のパーティーみたいなものとは違うのか」


「ええと、採掘中に湧いていきなり襲われることも多いので、鋭い探知を使える警戒役以外は、接近戦も遠距離戦も両方こなせるようにしてます」


「遠距離は精霊術として、接近戦って何だ? 剣やナイフか?」


「ショベルかツルハシです。防壁の術が得意な奴はツルハシ使いますけど、僕はそこまでじゃないので、飛び道具を防ぎやすいショベルの方が安心感がありますね」


光景を想像する。

暗黒の地下深く、わずかな明かりと共に巨大な蟲が空けた穴をたどり、目ぼしい鉱石などを求めてさまよう多数の少年達。

そこに現れる暗い影。


壁際で作業を行う少年達に影が襲い掛かるや否や、魔道具の光を放つショベルやツルハシで応戦する子供の群れ……


「そのショベルの魔道具は、支給されるのか?」


「いえ、もちろん自分で作りますよ。最初の一本は、ここの恒例の寮生歓迎キャンプで先輩に習いながら作りました」

「集めた素材の売り物にならないような欠片を集めて、少しずつ強化させていくんです」

「時々来てくださるコーダ様が、術で精霊石に変えてくださるので、また次の素材に付与して、一本の道具を鍛え上げるのですよ」


何だか楽しそうだな、ケーヴィン寮。


「あの……」

別の生徒が、おそるおそる手を挙げる。


「ん? なんだ?」


「帝国では、とても失礼な質問に当たるんですが、ツヴァイさんは、人間ではないんですよね……」


「……そうだ。俺にとっては、隠した方が良ければ黙っているという程度のことだから、気にしなくていい。帝国では、人外は下に見られるものかと思っていたが、君たちはそうでもなさそうだな」


「魔道学院に入るまでは、人間以外にしゃべったり術を使う存在なんて、魔道具しか知りませんでしたけどね。学院では、魔道具も好き勝手にふるまっていたり、精霊が授業をしていたり、食堂で働いていたり。ここに住まわせてもらうようになったら、もう普通の同居人が大勢いるような感じですよ」


「なるほどな。その割には、俺達を最初に見た時は、挙動不審だったぞ?」


「ああ……」「ええと……」「その……」

「……そちらの方々が、あまりに綺麗だったので」


まあな、確かに、宝石公女は、物語の妖精や美少女の人形に見えるだろう。


「まとっている波動とか、漂わせている微精霊の輝きとか、ふとした拍子に花が咲くみたいに発動してる小さな術式とか、もう宝石か美術品かって感じで……」


そっちか!


「この師匠ありにして、この弟子ありというところか。カイア、後のことは頼んだからの」

パイロペは、呆れたように手をひらひらと動かしていた。


「ケーヴィン師よ、ここの寮には、こんな生徒が何十人も暮らしているのですか?」


「知らんうちに、だんだん増えてしまってな。一応、魔道学院を卒業したら、出て行けとは言っている」


「ここで二年も暮らせば、術の腕前はそこそこの貴族と張り合えるか、分野によってはずっと上位の術が使えるようになるんです。魔道学院は貴族から敵視されてるところもあるので、勤め先を探すのには、先輩方も苦労しているみたいですけど……」


まあ、半分ダンジョンで暮らしてたような連中が、普通の商会や製造所でおとなしく働くとは思えんからな……


「しかし、それだけの術を使えるなら、他の国でも引っ張りだこなんじゃないか?」


「いえいえ、帝国で付与術を学んだ者は、国の外には出られませんよ。一時出国はできても、かなりの信用の積み重ねと、担保の差し入れが要ります。国家機密が含まれますからね」


なるほどな、その辺りも、リュシーナ師が動く理由の一つになるわけか。


「そうなると、今回の私達の研究は、問題になりませんか?」


ケーヴィン師に訊ねておく。


「術式としては、そちらから持ち込まれたものがベースだからな。押し通せるであろう」


後から思えば、甘い見通しだった。



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