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札の術のこと。

「カードにした精霊を……?」


リュシーナ師は、少し考えこんでいる。

「勇者の術では、魂の記憶をもとに、魔素から形を呼び戻すのだけれど……。そのカードは、魔道具ではないの? 魔道具を丸ごと魔素体に憑依させる……ってことかしら」


「このカードは、精霊石と特殊な札で作られている。札も、普通の魔道具ではないみたいなんだ。リュシーナ師も会った、ミューというあのサルサリアの術師によれば、もっと大きな魔道具の仕組みがあって、そこへつなぐ為の端末のようなものじゃないかと言っていたんだが」


「その手の大がかりな術式の話となると、私よりもイジュワールね。魔素体への付与自体はケーヴィン師でもできるし、実験や分析なら一緒に工房にこもったらいいんじゃない」


どうも、この手の話になるとリュシーナ師は腰が引けてしまうな。

リュシーナ師は、先ほどの精霊石を収めていた鞄をコーダに押し付けると、じゃ、といって片手を挙げてから、凄い速度で飛んで行ってしまった。

俺達を運んでいた時は、ああ見えて、かなり気を使ってくれていたということか。

感謝の念をこめて、小さくなる後姿を見送る。


「それでは、ケーヴィン師の工房に向かいましょうか」

コーダに従い、村の中へ歩いていく。

村に二か所感じた強い魔力の塊の一つだ。


工房と言っても、地上部には入り口らしきゲートの仕掛けがあるだけだ。

その両隣は小さな商店で、こちらは多少の生活用魔道具が置いてあるくらいで、ほとんど魔力を感じない。


「ここがケーヴィン師達の工房と住まいになってまして、その下にはダンジョンもあります」


「ダンジョンの上に、住んでいるのか。警備もしているということか?」

「あ、ケーヴィン師はダンジョンマスターで、ダンジョンはまだ作ってる最中ですね。ケーヴィン師、入りますよー」


ダンジョンマスター。

「その男も、転生者か何かなのか?」


「いえ、普通の人間でしたよ。付与術を使いまくってスキルの熟練度が変態的なのと、ダンジョンからの力を得てるってところで、今は人間離れした力を持ってますけどね」


コーダがゲートの中に進んでいく。

これだけ魔道具がそこらじゅうにあると、パイロペ達はいい気分がしないだろうか?


「どうする。この先、魔道具も山のように並んでいるだろうし、研究用の工房だ。見たくないようなものもあるかもしれんが……」


「味方にすべき存在かどうか、見極めねばならんのであろ」

「今さら気を遣ってみせても無意味」

まあな。

俺自身、展開についていけてなくてな。


何というのか、サルサリアは、魔道具もあったが、人間の街だった。

だが帝国に来てからは、人間の感覚とは違うところで、色々な仕組みが動いている印象が強い。

現代日本や地球上の世界の歴史という、異世界の知識を持っている俺でさえ戸惑うのだから、この世界の人間にとっては、帝国とサルサリアというのも相当に違う価値観と感じているのだろう。


サルサリアのようなオープンワールドのゲームの中に、また別のクローズドのゲームが作りこまれているような、そんなちぐはぐさが否定できない。


ともあれ、コーダの後を追ってゲートに入っていく。

かすかに、走査されている感触がある。

ゲートはエレベーターのような感覚で、認証の仕組みも兼ねているようだ。

宝石公女達も、問題なく進入できている。


ゲートの先はロビーのようになっており、いくつかのドアと通路が広がっている。

天井も壁も、磁器のような緻密な質感で覆われており、魔力探知の感触からも、相当な硬度や耐久性があるものと見えた。


コーダが、手招きをしている。

「これは、大したものだな」

「工房と言いましたが、ここも構造としては、すでにダンジョンの一部です。ダンジョンコアの力で建築を行いました」


パイロペが、問いかける。

「そこらの部屋から、魔物の気配を感じるの。とらまえておるのか」

「いえ、あれはケーヴィン師を慕ってやってきた魔物や上位精霊ですね。一緒に研究をしたり、中には学院で講師をやっているものもいます。ここにいる魔物達は、みな言葉が通じると思っていいですよ」


パイロアが、少しおびえた様子で俺の腕をつかんでくる。

「ツヴァイ様、あれも、魔物でしょうか……」


その視線をたどると、通路の曲がり角あたりから、隠蔽を使いながらこちらをうかがっている何体かの生物の気配がある。

見たところはローブのようなものをまとっていたり、人間型の存在のようだ。

魔道具や特殊な素材を身にまとっているのか、波動は読みにくいな。


「コーダ、あれは……?」


「えーと、またケーヴィン師が新しく連れて来たんですかね。お話しをしたがってるみたいですけど、どうします?」


「臆病な生き物なのか?」


「単なる人見知りだと思いますけど」


人見知り? 

なら、フィオーラあたりが話しかけた方がよさそうか?

フワフワした薄黄色のボブカットの僧侶で、攻撃的な気配はないし、この中では魔力も低いので警戒させないだろう。拠点の近所の子供にも、慕われていた。


「フィオーラ、ちょっと話しかけて、こちらに誘ってみてくれるか」


「あ、はい」


相手への過剰な警戒感が無いのも、フィオーラの良いところだな。


「こんにちは」

フィオーラの優し気な声が聞こえると、いったん曲がり角の向こうに引っ込んでいたそのローブ姿の連中が、おずおずと姿を現した。

お互いにつつきあって、誰が先に行くかで揉めているようだ。

人間でいえば、十代半ばくらいか?


「大丈夫ですよ。この方達は、サルサリアからのお客様です。そちらの女性は、実体化した石の精霊だそうですよ」


きらりとその少年たちの目が光ったかと思うと、じりじりと近づいてきた。

ちょっと挙動不審な感じではあるが、敵意は無いようだ。


「こんにちは」

フィオーラが二度目の挨拶を繰り返すと、少年たちも何かブツブツと口にしながら、ペコリと頭を下げている。

一応、言葉は通じている様子だ。

それに、なんだ? 目を、キラキラさせてフィオーラやラズのことを見つめている?


そこへ、曲がり角から黒いローブをまとった男が現れた。

「お前達、どうしたんだ?」


「ああ、ケーヴィン師。戻りましたよ」

コーダの呼びかけにも応えず、その黒いローブの男は足を止め、宝石公女のことを、睨みつけていた。




すみません、またタイトル戻してます。


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