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帝国の中のこと。

「というわけで、この鎖環は外させてもらうわね」


リュシーナ師が指をこすってみせるだけで、宝石公女達の鎖が光を失って地面に落ちていった。


「水精家公女、リュシーナの名において、この者達の身元を保証します。」


主任めいた男は、憎々しげな表情を隠そうともせずに、リュシーナ師に形ばかりの礼をしてみせた。

術師の女は、無表情なまま直立しているのだった。


黒長剣や杖を回収したあと、リュシーナ師の後について、別に作られている特殊な入国用の門に向かう。

例の赤い石のペンダントが、少し光を点滅させている。

念話か?


「ただいま、イジュワール」

そんな声が、聞こえた。


門が、独りでに開いていく。

こんな門の認証や開閉まで、魔道具化されているのか。


列を作っていた大勢の人間の視線を背中に感じながら、俺達は門をくぐって帝国に足を踏み入れた。


「さて、状況は分かっていただけたわね」


アラゴンの言っていた言葉が、頭に浮かぶ。

「リュシーナ師は、精霊のために、人間と争うのか?」


「え? 別に私は、精霊の味方をしてるってわけじゃないけど」


「そうなのか? さっきの様子じゃ、大抵の大貴族は敵に回るんだろう?」


「敵っていうほどの存在でもないのだけれど……」

この人の心臓も、わりかし丈夫だな。


「私は、コーダのやろうとしていることを手伝っているだけよ。」


「それは、精霊の権利とかそういうことではないのか」


「権利……? 結果として、そういうこともあるのかもね。イジュワール魔道学院では、精霊や魔道具が、授業の講師をするの。おかしいでしょう?」


「そうか? 俺の師匠は、精霊達だった」

眷属達のチュートリアルが、思い出される。

「コーダも、リュシーナ師の導き手だったのだろう」


「ふふ。そうね。そういう貴方だから、わざわざここへ招いているんだったわ。

とにかく、この国では、それは普通のことじゃなかった。コーダは、それを普通のことにしようとしてる。貴族以外にも、知識を広めて、精霊と人とでこの国を運営していくの」


「人の手から、精霊の国を取り戻すのか?」

俺達より、過激な活動なのか。


「逆よ。話すと長いけれど、この帝国は、精霊によって運営されているの。人間も、色々と学んで、その運営を担えるようにしたいのよ」


ややこしいな。

「なんだ……? 帝国ってのは、そんなねじれた状態なのか?」


「それを聞くってことは、深入りする気があると思っていいのかしら」


「知らなくていいなら、聞かずにおくさ」


「そうね。今は、あなたみたいな存在が、私達の客人として帝国を訪れている、それだけで十分」


「で。これからどうするんだ。」


「学院の方は、今受け入れの準備をしてもらってる。それまで、ダンジョンに潜るのはどう?」


「ほう。」


「ちょうどそこには、彼女達を会わせたい人もいる。……どちらかというと、私が会わせたいわけではないけれど」


また妙な言い回しだな。

コーダが会わせたい人間、つまり同類、それもコーダ以上の人物ってとこか……


「パイロペ、どうする。俺はダンジョンに潜りたいが、お前達は別行動でも構わんぞ。

お前さんがたに会わせたい人間もいるみたいだが……」


「肉体を持ったコーダか」


「あー、まあ、おそらく、そんなようなものだろう」


「私はツヴァイと一緒に行く」

カイアか。コーダの相手を面倒がっていたが、新しい人物よりはマシと踏んだらしい。


「誰がそいつの相手をするのか決めろって言ってるわけじゃないぞ」

どうもろくでもない戦いが始まりそうなので、リュシーナ師を促して、目的地に向かう。


「あれが、ミドラ村。ダンジョンのある村よ。あなた方は目立つので、しばらくこの村を拠点にしたらいいわ」


「小さな村だが、なんだ? 魔素だまりなのか?」

不思議なほど、魔力にあふれている。


「大きなダンジョンと小さなダンジョンが一つずつ、地下にあるのよ。魔素を汲み上げているから、地上にも魔力が浸み出してくるんでしょうね」


「ダンジョンが、すぐ近くに二つもあるのか? 中でつながっていたり、しないのか」


「元々、別々に作られたもので、片方は少し次元が違うと言っていたから、つながりはしないんじゃないかしら」


次元が違う…… 帝国では、他国よりも色々な要素があるから、術も発展したということだろうか。


「宿泊できる場所も用意できるけど、あなた達には必要?」


「寝床は無くてもいいが、内輪の打ち合わせくらいできる場所があるとありがたいな」


「それじゃ、後は僕が案内します!」

赤い石が宙に浮いて、軽やかに舞っている。

ペンダントから、自力で離れられるのか。


「リュシーナ、体を作ってもらっていいですか」

リュシーナ師が、精霊石を取り出して、何かの術を発動させる。

魔道具でもない精霊石が、術を?

魔素が集まり、固まって、子供くらいの大きさの人形が作られていく。


赤い石が人形の胸元にくっつくと、リュシーナ師が術を発動させる。

これは……付与術か?

にしても、凄まじい早さだ。


人形が姿を変えて、美しい……少年となる。

驚いた。

「いや、これは。精霊に体を作る術を、リュシーナ師も使えるのか 」


「これは、簡略化した勇者蘇生の術。ただの魔素の塊で、宝石公女みたいに生きている体ではないし、そんなに長くは持たないわ」


艶やかな赤い髪の少年は、貴族のような礼を取ってみせる。

「お待たせしました。改めまして、僕がコーダです」


「じゃ、私は色々やらなきゃならないことが溜まっているから、あとは任せるわね。また明日には合流するから」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ。今の術を、このカードにも使ってみてくれないか」


俺は、カンテラのカードを取り出していた。








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