帝国への誘いのこと。
「ツヴァイ殿、宝石公女の皆さん。どうか帝国へ、いらしてください」
意外な展開で、帝国に招待されてしまった。
それ自体はありがたい申し出だが、コーダが言っているに過ぎない。
リュシーナ公女は、宙を眺めて口をへの字にしている。
「あの……、帝国では、人間以外の地位は低いと聞きます。我々のような者が訪問して、トラブルになってしまう恐れはありませんか」
リュシーナ公女は、今度は俺を正面から見て、口にした。
「そうですね。確かに帝国には、そういった風土があります。ですが、私や魔道学院は、その価値観を変えていくために動いています。その意味では、精霊の一団と……あなたの様な存在を招くというのは、意味のあることかもしれません。
正直に申し上げれば、貴族達の中には、あなた方のことを厭う者も多いでしょう。しかし、いったん客人となったのならば、我々は、全力を持って安全を保障いたします」
あ、そうですか……。
俺達も、政治的パフォーマンスというか、その背景のドロドロに、巻き込まれるって、ことか……。
公女の目は、澄んで確信に満ちている。
彼女が保障するというのなら、本当に保障されるのだろう。
「ちなみに、敵対的な存在がいたとして、どの程度の危険があるのでしょう?」
俺達にも、覚悟や準備は必要だ。
「今の貴族達で、私と戦陣を構えられるような者は、おりませんね」
さすが災厄の魔女。
というか、こんな存在が何人もいてたまるか。
「なるほど、公女は、帝国で最強の存在ということですね」
「いえいえ、とても最強とは名乗れません」
即答があった。
リュシーナ公女は、真剣な目つきで、いろいろと思い浮かべているようだ。
どういうことだ。
「ほかにも、お強い方が?」
「一対一ならば、私は魔剣の使い手に一瞬で焼かれるでしょう。あとは、霊樹のダンジョンにも、竜や精霊騎士がおりますね……」
やはり帝国、恐ろしいな。
「なんと。やはり、相当に危険を覚悟して行かねばなりませんね」
「ああ、それは大丈夫です。魔剣の使い手は私と意志を共にしておりますし、ダンジョンは、魔物が中から出てくることはありません。竜達のような大物は奥底に居を構えております」
ダンジョン、ダンジョンか。
「そのダンジョンというのは、誰でも入ることができるものでしょうか?」
「制限はしています。管理している村には一部の素材の収集権がありますし、中で事故があった場合も、できれば救助してあげたいですからね」
ダンジョン……? 管理している村? 救助?
俺が思っているのとは、ちょっと違うのか?
「ええと、例えば私共が、そのダンジョンを探索して、修業のようなことができないかと考えたのですが」
「修行! ダンジョンで修業ですか!」
大きな声を上げたのは、リュシーナ公女ではなく、コーダの方だった。
ピョコピョコと跳ねまわっている。
この精霊は、子犬か何かのようなものなのだろうか?
ピタリと止まって、問いかけてくる。
「気になっていたのです。そちらの宝石公女達の間にも、強さに差がありますね。元々の精霊の格、だけでもなさそうです。それに、ツヴァイ殿、ご自身も、どうやって成長するのでしょう?」
いろいろと見ているものだ。
「私自身は、強い魔物と戦っていけば、成長できる。ゆっくりとではあるが。彼女らは、魔石や、同じ鉱石の精霊石があれば強化できる。強い魔物がいて、討伐で石が手に入るなら、そのダンジョンにも、ぜひ行ってみたいと思っている」
「できます。これでも僕は、魔剣の使い手と魔杖の継承者、このリュシーナのことですが、二人の修行の案内人でもあったのですから」
ほう。
変わった精霊だと思っていたが、英雄級の戦士や術師の、チュートリアル担当だったのか。
チュートリアル担当は、大事にしないとな。うんうん。
「なんと、コーダ様は、公女様達の修行を導いた精霊だったのですか。これはこれは、今までの失礼をお許しください」
あれ? リュシーナ公女は、何か承服しかねる顔つきに見える。
「リュシーナさま、何かございましたか? ひょっとして、ダンジョンでの修業は、国外の者には簡単に認められぬものであるとか……」
「……いえ。つらい修行になるかもしれません。ご覚悟はしていただきたい」
厳しい口調だ。
自分の時にも、相当な内容だったということか? ま、なんにしろ、この辺りじゃ討伐の対象も少なくて困ってたところだ。
大物との闘い、大歓迎だ!
と、そうだ。
肝心の用件を、まだ切り出していない。
「すみません、帝国の術師の中には、魔道具の精霊の声を聞ける方がいるそうですね。その方に、お話を聞きたいのですが、紹介していただけないでしょうか」
「ああ、精霊の声ですか。このコーダで良ければ、聞けますよ。あとは、魔道学院の方でも、そのための魔道具を開発しています。これまでは、かなり希少な精霊石を用いたものでしかできなかったのですが、普及レベルのものとする目途は立っていますよ」
簡単に言うじゃないか!
予定と段取りは変わってしまったが、俺達の用件は済んでしまった。
彼女達の帰還に同行して帝国に向かうことにして、オーナーやスティグマ達のところに連れていく。
いつの間にか進入されていたことに顔を引きつらせていたが、もう後のことは俺は知らん。
ミューさんに別れを告げて、宝石公女達と一緒に、拠点に引き上げることにした。




