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公女の精霊のこと。

「それで、そちらにいらっしゃるのが、宝石公女、の皆さんですか」


リュシーナ公女の、腕組み、それに冷たい口調と目線。

わざわざ呼んでおいて、どういうことだ……?


「はい。私と協力関係にある、石の精霊達です。パイロペ殿、公女様に、ご挨拶を」

俺は一歩退いて、パイロペが前に出る。


「妾は宝石公女の使節団長、パイロペ。苦礬柘榴石(パイロープガーネット)の精にして、火榴頻伽(かりゅうびんが)の銘を抱いておる。」


艶やかな深紅のローブ、羽根飾りのマント、柘榴色の鳥の頭を彫刻した長い杖。

白磁のような貌に、奔放な瞳と勝気な口元。

五十センチほどの小さな体だが、並の人間相手ならば、息をのませる迫力がある。


リュシーナ公女は、片膝を着き、目線を近づけて挨拶に応じる。

「使節団長の、火榴頻伽、パイロペ殿……。美しいわね。それに、強い」


なんだ? 誉めているようで、顔つきは険しいままだ。

と、公女の胸元から、赤い光が溢れだした。


「す、素晴らしい! 素晴らしいですよ!!」

少年の声で念話を発しながら、赤く輝くペンダントが、服の合間から飛び出してきた。


俺もパイロペも、ギョッとして跳びすさる。

「な、なんです? 魔道具? 公女のお供の、精霊ですか?」


「ああ、えーと、こちらは、コーダと言いまして……」

リュシーナ公女は、苦虫をかみつぶしたような顔になって、鎖につながれたままピンピンと宙を跳ねるペンダントの石を手に取り……捕まえている。


「ツヴァイ殿! 僕はコーダと言います。故あって、このリュシーナと共に旅をしている精霊です。以後お見知りおきを。」


「え、あーっと。」

喋るペンダント……石を目の前に、一瞬戸惑ってしまった。

落ち着け。

カードの宝石公女と、同じようなものではないか。


「どうかお聞かせください! この石の精霊達は、素晴らしい身体を手に入れていますね。」


「あ、はい、ありがとうございます。この宝石公女に身体を提供しているのは、私の特殊な力によるものでして」

どうやら、宝石公女に会いたがっていたのは、こちらのコーダという精霊の方だったようだ。

リュシーナ公女の方は、むしろ迷惑そうな……?


「なんと! これは、生きている身体ですよね。普通、精霊の持つ自分自身の姿かたちに対するイメージはかなり希薄で、魔素でそれを反映させても、ここまで明確で繊細な姿にはならないのですが……」


なるほど、俺が宝石公女に身体を作る場合、札の持つ物語の力を借りているからあまり細かい部分は考えずに済んでいるが、精霊自身の持つイメージだけでは、こうはならないということか。


「ああ、それは、宝石公女の術に用いられる、札の力のおかげもありますね。札の術自体は、帝国から来たものだと聞いていますけど?」


「そうなのですか! 実は僕も付与術は使えないので、どうしてもそちらの知識は限られるんですよね……。リュシーナは、どうですか?」

首を横に振っている。

興味自体、なさそうだ。


「ちょっと待ってください。詳しい精霊に、聞いてみます」

良くしゃべる精霊だ。

しかも、ほかにも色々いるのか?


リュシーナ公女は、心なしか、飽きてきたような目で、もうそれ以上余計なことを言うな、とこちらにアピールしている気がしないでもない。


俺も付与術は使えないし、札の詳しい仕組みは説明できない。

「ミューさん、札の術について、コーダ殿に説明できますか?」


「あ、はい……。ただ、私が説明できるのは、札のことだけですよ。宝石公女のことは、ちょっと」

それは、そうか。


「ドライという帝国の術師が、札の術を作り上げたと聞きましたけど……」

リュシーナ公女に、伝えてみる。

そっちの中で、片付かないか?


「ドライ、ですか。ちょっと、私は思い浮かびませんね……」


確かに、帝国にいた時と違う名前を名乗っている可能性はあるな。

高位の術者が国を棄てたのなら、追手が掛かってもおかしくない。

あるいは、帝国を離れてから、相当な年月が過ぎているのか。


「今は、不死の霊体へ転生しています」


フッと、別の気配が立ち上る。

「む。ドライじゃと。ひょっとして、そやつは、術の研究のために、世界をさすらうのだとか何とか、のたまっておらなんだか」


また別の精霊の声が、聞こえてくる。

今度は少女のような声だ。


いくら術師とはいえ、貴族の一員ともあろうお方が、本当に一人で旅をするわけはないと思っていたが、まさか精霊の一団を連れていたとは。

……って、俺も端から見ればこんな感じだったということか。

出会った人間が、戸惑うわけだ。


「まあ、そんなようなことを言っていた。霊体になったのも、肉体では行けない場所を訪れるためだとか」


「呆れた奴じゃ。百年を経ても、まだそんなことを言って旅をしていたとは」


「百年!? あの男、そんなにも!? 霊体に転生したのはそれほど前ではないようだったが、不死の体を手に入れたのは、ずいぶん過去のことだったのか」


「うむ、あ奴も帝国の勇者の一人だったからの」


「帝国の勇者は、不死者なのか?」


「人間の魂を肉体から分離し、魔道具化するのが、勇者生誕の術。勇者となった者は、歳も取らぬ。死なぬわけではないが、蘇生が可能じゃ」


勇者ね。

吸血鬼のほかに、そういうルートというかクラスもあるってことなんだろうか。

肉体の魔道具化とか、なんか物騒な設定だが、ドライなんて霊体化までしてるし、俺も最初から不死っていうか不定形生命体だしな。


おや?

「ひょっとすると、そちらの赤い石……コーダ殿は、勇者ということですか?」


リュシーナ公女は、唇を尖らせて、眉間にしわを寄せている。

「ちょっと違うんですが、確かに以前は肉体を持った人間でした。強いて言えば、精霊化……なのでしょうか?」


おいおい、霊体化に魔道具化に精霊化か。人間からでも進化の分岐結構あるのな。


ペンダントから離脱、リュシーナ公女の手からも逃げ出して、宝石公女達の周りをピョンピョンと飛び回っていたコーダの石が、上下に震えながら訴えてきた。


「くぅー。これは、もっとちゃんと、研究……いえ、お客様として招かせていただきたいですね。直接引き合わせたい術者もいます。ツヴァイ殿、宝石公女の皆さん。どうか帝国へ、いらしてください」




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